部屋に引きこもってssばっか書いてる、そんなお正月。

  
だって面白いと思えるテレビないんだもの。
実家の近くはビデオ屋とかもないしねえ。
ヒマだ。
  
とりあえずお正月話の第二話投下しときますね。
三が日か四日までの間には終わらせるつもりです、はい。
 
 
 

  
「なるほど……それはまた、ユーノの奴」
 
ようやく落ち着いて、はやてから背中をさすられながらフェイトが説明した事態に、アリサは腕組みをして唸った。
 
「でしょ?でしょ?」
 
いや、だからってあんたのその格好もどうかと思うんだけどね。
サングラスにマスクという(ニット帽は動いて暑くなったので脱いだ)不審者ルック全開のフェイトにつっこみつつ、アリサは頷く。
 
はやてやシャマルも、同意見のようであった。
 
「ま、それならすずかにも連絡しとくわ。裏から回ってこっち来なさい、って」
「ありがと、アリサ」
「いやいや、乗りかかった船ですから」
 
 
魔法少女リリカルなのはA’s to strikers
 
〜二人だけの初詣〜
 
第二話 遅刻する少年
 
 
ベッドの布団から、一本の腕がにょきりと伸びていた。
室内には、起床の時間を告げる目覚ましの鳴り響く音がこだまする。
 
「んぁ……」
 
一体どれほどの間鳴り続けていたかもわからない電子音が停止する。
目覚まし上部のボタンを押して騒音の源は断ったものの、目が覚めているわけなどない。
 
しばらく彼の掌は、目覚ましを押しつぶした体勢のままで止まっていた。
 
「ん……」
 
昨日も、残業だった。
今日は休みのはずだ。
 
「……あれ」
 
だったら、なんで目覚ましを自分はセットしていたんだろう?
寝惚けた頭に、ふと疑問が浮かび彼は枕に突っ伏していた顔を持ち上げ時計を見る。
 
九時、四十五分。
今日はたしか、地球時間だと───……。
 
「あーっ!!!」
 
ぼんやりと日付を地球、日本のものに換算してみて、がばりとユーノは勢いよく起き上がった。
 
「やばいっ!!」
 
今日はたしか、フェイトに絶対に遅刻するなと言われて、出かけに誘われていたのではなかったか。
この管理局の寮からはどう急いでも海鳴へは転送だけで十五分近くはかかる。
確実に、遅刻だ。メールでも何度も釘をさされたのに、これはまずい。
 
「……どうしよう」
 
順調にいったとして、二十分ほどは遅れる計算になる。
 
絶対に遅れるなとは言われていたが、これでは遅れないほうが無理だ。
 
「……ま、いいか」
 
とりあえず支度してから、遅れる旨連絡すればいいだろう。
どうせ、休日に遊びに出るだけだ。
多少の遅刻くらい、ああは言っていても大目に見てくれるだろう、フェイトも。
 
たまに遊びに行くとはいっても、生活の拠点をミッドチルダ、それも本局周辺に置くユーノは、初詣という行事の存在をよくは知らなかった。
だからフェイトが彼を誘った意図に気付くことも、まずあり得ない。
 
よって今なにを置いても全力全速で海鳴を目指さなければ自身の身が危ないということも、知る由もなかったのである。
 
*   *   *
 
腕時計は、十時を五分ほど過ぎていた。
神社を行き交う人々に目をやっても、眼鏡の彼の姿は、影も形も見えてこない。
 
「……遅い」
 
遅れたら許さない、って言ったのに。
フェイトの怒りを込められ、掌の中の細い空き缶が、ぐしゃりと潰れる。
 
「十時って言ったのよね?」
「なんの理由もなしにユーノくんが遅刻するとは思えないけど……」
 
彼女同様鳥居の周辺から石段といった場所をを見回していたアリサとすずかが、確認するように振り向く。
 
十時で間違いないはずだ。
元旦、朝十時にここにこい、とはっきりと言ったというのに。
 
「あ、なのはちゃん携帯とりだしたで」
「え」
 
一方で、ヴィータリインフォースとなのはの動向を窺っていたはやてからの報告がくる。
シグナムは楽しそうなシャマルとともに、呆れ顔で石造りの腰掛けに座って傍観に徹していた。
 
「あの感じやと、どっか電話かけるみたいやね」
「ま、まさか」
 
フェイトが呟くと同時に、巾着に入れた携帯電話が振動した。
案の定、彼女からのものであるらしい。
 
*   *   *
 
姿の未だ見えぬ親友は、数回のコールの後に電話口に出た。
 
「もしもし?あ、フェイトちゃん?」
『う、うん。そうだよ。なのは?』
「よかった、つながったー。今どの辺?少し、遅れてる?」
『ああ、ううん。その、えっと。ちょっと……』
 
友の受け答えは、珍しく歯切れが悪かった。
なにか、困った事態でも起こったのだろうか?
 
『ちょっと、出がけに立て込んだことがあって……』
「何?事件でも?」
『ううん、全然そんなんじゃなくって。でももう少し、かかるかも……』
 
心配する彼女に、フェイトは大丈夫だからと慌てたように返答してきた。
そして、もう少しだけ待っていてもらえるか、とも。
 
「うん、慌てなくていいよ。ご用をちゃんと終わらせてからでいいから」
 
外にずっと立っているせいで、少し身体が冷えていたけれど。
用事があるというのにそう急かすというのも酷な話だ。
耐えられなくなったら出店でなにか温かいものでも買えばいい。
 
またあとで、と別れを告げてから通話を切り、
雪でも降ってきそうな空を見上げる。
 
「降るかなぁ?」
 
だとしたら、もっと冷えるだろう。
レイジングハートがいたら、ちょっと自分の周囲の温度だけ高めるという反則技もあったのだけれど。
 
「……そういえば、ユーノくんはなにしてるのかなぁ」
 
局に置いてきた相棒のことを考えて、
やはり局で今忙しく働いているであろう幼馴染の少年の顔が頭をよぎった。
 
「あとで、新年の挨拶にでもいこうかな」
 
向こうはまだ、全然新年とか関係ない時期だけれど。
こういうのは節目節目の、大事な区切りだから。
 
*   *   *
 
ぷつり、と携帯の通話を切ったフェイトは、無言だった。
 
「ふぇ、フェイト……?」
 
その沈黙が、怖い。
はやてやすずか達ともども、後ずさるアリサ。
 
「ユーノの……」
 
そして、その判断は大正解であった。
携帯をしまった彼女は、ゆらりバルディッシュを握った右腕を持ち上げ。
 
「馬鹿あっ!!!!」
『sir!?』
 
起動させた彼を、おもいっきり地面に振り下ろしぶつけていた。
 
「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁっ!!!」
『sir,please!!stop,stop!!ouch!?』
 
がつがつと、もう親の仇とばかりに繰り返し。
 
「なにやってこんなに遅れてるのよ!?なのは、待ってるでしょ!?」
『ま、マイスター、バルディッシュさん、ヒビが入って……』
「ふぇ、フェイトちゃんが……壊れとる……」
 
叩きつけられるバルディッシュのほうはたまったものではない。
怒りによって魔力強化までされた腕力でしつこく地面にぶつけられ続けるのだ。
普段寡黙な彼の悲鳴に、一同表情が引き攣っていた。
 
死ぬ(壊れる)ぞ、バルディッシュが。というか、既に死にかけている。
 
「こんな寒空になのはを一人にしておくなんて、最低!!」
『……』
「……お、静かになった」
「て、テスタロッサ、そのくらいに」
 
自分の悪巧みの結果だということも棚上げしてフェイトは喚く。
その最低な男となのはをくっつけようとしているのはどこのだれですか、と。
つっこみたくなったのは、アリサだけではあるまい。
 
今頃、空の向こうで夜天の書・リインフォースが駄々っ子は嫌われるぞ、
と鋭くつっこみをいれていることだろう。
 
バルディッシュをこのように乱暴に扱って、製作者のリニスもきっと涙しているに違いない。
 
「───……」
「と、止まった?」
 
喚くだけ喚いて、ぴたりとフェイトの動きが止まる。
 
「……電話だ」
 
息も絶え絶えにコアの宝石を点滅させるバルディッシュをスタンバイフォームに戻し、
振動するマナーモードの携帯を巾着から引っ張り出す。
 
「あ」
「なになに、誰よ」
 
引っ張り出して、携帯を開いたはいいが。
そのまま突如として硬直してしまったフェイトの横から覗き込む。
 
すわ誰からだ、と興味津々に。
先程まであれほど騒いでいた彼女を硬直させるとは、一体誰が───……。
 
「あっ!?」
「?」
「誰なん?」
 
彼女が覗き込んだ液晶には、待ち人の名前があった。
通話相手となるべき、金髪の少女が電話口に出るのを待ってコールを続けている。
 
ユーノ・スクライア
 
彼女達一行と、鳥居の前に佇む少女の待っている相手。
 
その名前を表示する携帯の液晶に、ヒビが入った。
持ち主であるフェイトの、それを握りしめる万力のような力によって。
 
それを見た瞬間、アリサは思った。
 
ああ。これはユーノは、死ぬな、と。