確認のほうお願いします、はい。

 
お正月ss書きながらituneで音楽流しっぱなしにしてたんですが、
LUNKHEADの「すべて」がいいですな(またマイナーでごめんよ)。
今までうっかり聞き流し続けてたのが悔やまれる。
 
さて、お正月ss、第三話(最終回)です。
三賀日のあいだにどうにかこうにか完結させることができました。
というわけで、どうぞ。
 
 
 
  
───なんなんだよ、フェイトのやつ。
 
一方的に、怒鳴られて、切られて。
ユーノは、憤懣を隠そうともせず、自身の携帯をみつめていた。
 
ほんの少し遅刻しているだけじゃないか。なにもそんなに怒らなくても。
フェイトの企みなど知らぬ彼は、釈然としない思いでいっぱいであった。
 
「っと?」
 
再び鳴り始めた携帯が、慌てた手の中で跳ねる。
個人的なものではなく、職場の本局、無限書庫からだった。
自分が腹を立てていたことも忘れ、とびつくように通話ボタンを押すユーノ。
 
「はい?」
『あ、司書長!!ご休暇のところ申し訳ありません、実は先日調査以来を受けた案件について不明な点が……』
「ああ、はいはい」
 
ご足労していただくのも悪いので、と恐縮する部下の声に苦笑する。
別にそのくらい、気にすることもないのに。
 
「いえ、今から行きます」
『は?しかし──』
「いいですって。十分後くらいにはそちらに着きますから」
 
そうだ。どうせならおもいっきり待たせてやれ。
勝手に呼び出して、勝手に待ちぼうけ食らって。勝手に怒ってればいいさ。
 
待つのが嫌なら、帰ればいいじゃないか。
怒るくらいなら、帰れ。
寝足りなかったことも、彼の心をやさぐれさせている原因のひとつであろう。
 
彼は、朝から理不尽に怒鳴りつけられ、罵倒された苛立ちから。
待ち合わせよりも仕事へと向かうことを選んだ。
 
 
魔法少女リリカルなのはA’s to strikers
 
〜二人だけの初詣〜
 
第三話 擦れ違い、結果オーライ
 
 
「離して!!離してはやて!!」
「あかん、あかんって!!それ以上はバルディッシュ壊れてまうって!!」
バルディッシュさん、大丈夫ですか?』
『are you all right?』
『thank……you……』
 
フェイトは、後ろからはやてに羽交い絞めにされていた。
携帯とバルディッシュは、没収済み。……救出済みと言ったほうがいいかもしれない。
 
「しかしまた……見事に割れたな、これは」
「フェイトちゃん……すごい力持ちさんなのね」
 
シグナムとシャマルが、ひび割れた携帯を手に、感心したように頷きあう。
それをいったら今彼女を押さえているはやてはどうなるんだ、となる気もするが、そこは無視。
 
とりあえず、ものに当たるのはやめなさい。
執務官ともあろう者が。
 
「あの電話の先にユーノが!!あの淫獣が!!」
「おらへんって!!はいはい落ち着く!!」
 
一方的に通話を切ったのは自分でしょうが、となだめるはやて。
 
「ねーねー」
「なんや?ちいと今取り込み中や!!」
「なんかなのは、電話してるわよ。かかってきたみたい」
 
フェイトのがなり立てる声と、はやてのなだめる声が停止し、二人ともそちらを振り向く。
 
確かになのはは携帯をとりだして、通話中であった。
どこかからかかってきたと思われる電話に、何度か頷いているのがわかる。
 
「あ、切った」
「今度は……メール?」
 
アリサたちのところまで二人もやってきて、彼女のほうを凝視する。
と、シグナムの持っていたフェイトの携帯が、振動した。
 
テスタロッサ?」
「あ、すいません」
「あれ?なのはちゃん、どこか行っちゃうみたいだよ?」
 
同時に携帯をしまい、なのはが歩き出す。
歩くというよりは、振袖で動きにくいにもかかわらず小走りに近い。
 
「行っちゃったわよ?フェイト?」
 
あっという間に、というにはいささか長かったが、
石段の下になのはの姿が見えなくなっていく。
 
「いいの?」
「……そんな」
 
愕然とした表情のフェイトが、ひび割れた携帯の画面を突き出してきた。
すずかやはやてと共に、受け取って肩を寄せ合いそこにあったメールの内容を読むアリサ。
 
「んーと?なんだ、なのはからじゃない。なになに……」
「えと、『ごめんなさい、立て込んでるところに電話して迷惑だったらいけないのでメールにします』」
「『武装隊に出動の呼び出しがかかっちゃいました。災害救助で単純に手が足りない、ということなので。
  どのくらいかかるかわからないので、初詣済ませちゃってください。ほんとにごめんね』……って、これ」
 
要するに、ドタキャン。
 
顔をあげた三人に、フェイトがかくかくと頷く。
彼女の企んだ計画は、全て水泡に帰したわけである。
 
「……かなり色々、準備したのに」
「諦めろ。出動とあらば仕方ない」
 
今からユーノが来たところで、なのははいない。
これでは、意味がない。
 
「せっかくの計画が…………」
「ほ、ほら!!とりあえず初詣、済ましちゃいましょうか!!」
「そ、そうやね!!そんでなんかみんなで食べいこか!!」
 
生気の抜けたようになったフェイトを押して、シャマルが無理矢理明るい声で言う。
冷や汗をかきながらも、はやてや他のメンバーもうんうんと頷く。
 
「ほらほら、なんか好きなもの驕ったげるから元気出しなさい!!」
「なのはぁ」
 
皆にひきずられるようにして、フェイトが連れて行かれる。
 
「なのはぁー……」
「きりきり歩く!!しゃんとしなさい!!」
 
未練がましい彼女の声を残響させて、一同はようやくの初詣に向かう。
正月の神社は、賑わっている。
その中に、彼女達の姿は溶け込んでいった。
 
*   *   *
 
「……まさか、こんな夕方になるとはなぁ」
 
あの調査以来が、あそこまでややこしいものだったとは。
 
「さすがに、もう帰ってる、か」
 
待たせるにしてもせいぜい、十分、二十分程度のつもりだった彼は頭も冷えて、
これはいくらなんでもフェイトに謝っておかなくちゃな、と申し訳なく思う。
腕時計の針は既に午後四時を回っている。冬ということもあり、日は沈みかけている状態だ。
 
「に、しても」
 
行き交う人々が、やけに目に付く。
 
「珍しいな、神社にこんなに人がいるなんて」
 
これでも、ピーク時に比べればいくぶん疎らにはなっているのだが。
こちらの世界の神社にはなのはと共に数回、しかもこれといって特に行事もない時期に
ふらりと誘われて行った事があるだけのユーノとしては、少々驚きであった。
 
「そんなに有名な神社だったっけ、ここ?」
 
なにやら、露店のようなものまで出ているし。
今日がこの世界、この国では新年初日ということらしいが、なにかそれに際して行事でもやっているのだろうか。
 
「フェイトはこれに連れてきたかったのかな?」
 
そう思うと、少しもったいないことをした。
やっぱりあとで、きちんと謝っておこうと思う。
なんにせよ、遅刻して怒らせた自分のほうが悪いに決まっている。
 
鳥居の前に立って、ユーノは頷いた。
 
頷いて踵を返したとき、石段を駆け足で上がってくる、よく見知った顔を見つけた。
 
*   *   *
 
石段を上りきった鳥居のところに、彼は丁度こちらを向いて立っていた。
 
「なのは?」
「あれ?ユーノくん?」
 
救助任務を、無事終えて。
暗くなる前に初詣を済ませてしまおうと走ってきた彼女の着物は若干、崩れていた。
彼の顔を見て、反射的に襟元を正す。
 
「ユーノくん、どうしてこっちに?」
「あ、うん。仕事が今日、はやく終わったから。そういえばこっちは新年だなって。なのはは?」
「うん、わたしは初詣に」
 
ユーノもまた、なのはから聞かれた問いに、とっさにごまかしの答えを返した。
なぜ素直にありのままを答えなかったのかも、意識せず。
フェイトと出かける予定であったということを知られたくない自分に、気付きもしなかった。
 
「初詣?」
「うん。年のはじめに、今年も一年いいことありますように、って神社にお参りすることだよ」
「へえ」
「……って、知らずに神社きたの?ユーノくん」
 
なのはに怪訝そうに尋ねられて、ユーノは頷いた。
そんなこと、フェイトからはこれっぽっちも教えられていなかった。
真顔で頷く彼に、なのはが吹き出す。
 
「やだ、もう。ユーノくん、色々知ってるのに変なところ、知らないんだからー」
「はは……ごめん」
 
頭を掻いた彼に、なのはは自然に手を伸ばした。
当たり前に、いつも通りに。
 
「じゃあユーノくん、行こ?」
「え?」
 
下ろしかけた途中で止まった彼の右腕をとり、先導してひっぱる。
 
「一緒に、初詣。お参りしよう?」
 
眼鏡の奥のユーノの瞳が、いつもより少しだけ、驚いたように開いて。
なのはの左手を、しっかりと握り返してきてから、言った。
 
「……うん」
 
鳥居の奥に見える本殿を目指して、二人は並び歩き出す。
昔から変わることのない、二人の距離を保ち続けて。
 
──その距離は、この先果たして、変化していくのであろうか?
 
近づくのか、あるいは離れるのか。
それはまだ、彼女達自身にもわからない。
 
「きれいだね、その着物。似合ってるよ」
「そう?ふふっ、ありがとー」
 
少なくとも今確かであるのは、ユーノも、なのはも。
 
二人一緒に歩み、過ごすことができるこの時間が心地よいものであるということ。
つまりはこのひと時を、互いに好ましく感じているということ。
 
彼の隣に自分がいて、彼女の隣に自分がいる。
その事実が、幸福に感じられている。自然に、笑顔がこぼれてくるほどに。
 
そのことだけは、はっきりしていた。