明日京都に戻ります。

てわけで実家からの更新は今日が最後。
 
なのはssの新スレ立ってますね。はっときます
 
新スレ
 
 
さて。
 
昨日予告しましたが、近日中にこのブログのほうで新作を開始したいと思います。
もちろん、she&meの加筆版も続けていきますが。
 
てなわけで、she&me加筆版の13話。
スレ版の27話、28話にあたるものです。
 
 
  
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第十三話 少女の不在証明、そして出陣
 
 
「これを、預かっていて欲しいんだ」
 
フェイトが差し出したのは、かつてはなのはのものであった、彼女愛用のピンク色のリボン。
 
「これって」
「確か……」
 
すずかとアリサ、二人の表情に戸惑いが浮かぶ。
このリボンが元々なのはのもので、フェイトにとってすごく大切なものであるということは二人も知っている。
それを何故今、なのはを助けに向かおうとするこのときになって二人に預けようというのか。
 
自分達に差し出す意図がわからず、二人は困惑する。
 
「もう一度、約束したいんだ。今度はなのはに言われて気付くんじゃなくて、はじめから自分の意思で」
 
一度、果たすことのできなかった約束を。
奪われた友に言われたからでなく、己の心から。
 
「フェイト」
「なのはを連れて、二人で帰ってくるよ。このリボンを受け取りに。これは私となのはの、大切な思い出だから」
 
私たちの思い出を、預かっていて欲しい。
しっかりとした目で言う彼女に、二人はややあって頷いた。
 
*   *   *
 
──あの、敗北の日から数日。
 
なのはがプレシアの手に落ちたのは大きな痛手であったが、同時にそれは時空管理局にとって好都合でもあった。
 
ジュエルシードをめぐる事件において共に行動したなのはの魔力パターンデータは、
十二分にアースラのデータベース内へと蓄積されている。ちょっとやそっとで見失ったり、見誤ることはない。
それ故プレシア達がなのはを連れ去れば、その軌道。
その目的地をなのはの魔力の波形をトレースすることで容易に特定することが可能である。
 
彼女の魔力の行き着く先が、決戦の地。
黒衣の大魔導士とその使い魔、そして奪われし少女の待つ場所。
 
そして「それ」は、なのはの魔力が途切れたその座標に、かつての威容そのままに存在していた。
 
 
「……これは、まさか……修復されていたとは」
 
───虚数空間からの生還といい、あの人は。一体どこまで底が知れないのだろう。
 
クロノが見上げるモニターに映し出されたのは、見紛うはずもない。
 
「時の庭園」、そう名づけられ呼ばれていた。
この目で確かに崩壊を確認したはずの、次元間航行要塞であった。
 
(これほどのものをこの短期間で修復するとなると、魔導師一人の魔力でどうにかなるもんじゃない。とすれば)
 
やはり、彼女と共に落ちていったジュエルシードか。
あるいは虚数空間内で起こったであろう何かが関係しているのであろう。
 
(おそらくそれはアリシアテスタロッサの復活を可能とするほどのもの。少なくともプレシアがそう感じるほどの)
 
急ぐ必要が、ありそうだ。
 
手元のサブモニターを覗けば、フェイトがアリサ達に出発前の最後の会話をしているのが見えた。
彼女の復活は上官である、執務官としての立場で考えるならば幸いだった。
 
いくらクロノとはいえ、立ちはだかるであろう三人の魔導士及び使い魔、
なのは、リニス、プレシアの3人もの敵を続けて相手にするのは不可能だ。
ユーノやアルフの援護があったとしても厳しいだろう。
全力を注いでようやく、プレシアとやりあえるかどうかというところだろう。
 
そういった点でいえば、フェイトが無事戦列に復帰してくれたことは有難かった。
彼女なら十分、なのはと渡り合えるし、リニスも押さえておける。
その分自分も力を温存しておくことができる。
 
だが、もう一つの。「彼女の兄」としての想いはというとそうではない。
 
今回戦うことになる三人はいずれも、フェイトにとって大切な人たちなのだから。
できることならばフェイトをこの戦いに参加させたくない、というのが正直な気持ちだった。
フェイト本人が平気だと言っていてもやはり、その戦いが辛いものでないわけがない。
 
再び自分を兄と呼んでくれた少女に辛い思いをさせたくはなかった。
その辺りがクロノのプロでありながら未だ大人になりきれない甘い部分であり、自身よくわかっている欠点でもある。
 
(やれやれ。執務官……失格だな)
 
義妹と事件。二つの天秤が釣合ってしまっていることを、クロノは自覚する。
これが、身内に甘いということなのだろう。母に似てきたのだろうか。
フェイト自身がなのはを助け出す決意を固めているというのに、情けないものだ。
 
自嘲の笑みを浮かべつつ、クロノはモニター越しの妹に無言で詫びた。
 
*   *   *
 
そして今。
フェイトはユーノと共に、プレシアの待つ中央部、玉座の間を目指し
暗い施設内をひたすらに駆けている。
 
──武装局員が陽動をかける間に、アルフは僕と最下層ブロックから。
 
突入を開始する前の兄たちとのやりとりを、思い出しながら。
 
──私は、ユーノと最上部から、だね。
 
それぞれ、二手に分かれて侵入し、プレシアのいると思われる中心部を目指す。
そしてなのはを回収し、プレシアを捕縛する。大まかな作戦の流れはこうだった。
フェイトがアルフと別れユーノと組むなど、編成が変則的なのも、内部の構造を良く知る者が双方に必要であったためだ。
また、彼女たちが構造を知っていたからこそできた作戦とも言える。
何分早急に事を進めなければならなかったため細かい点は煮詰まっていないのが現状だが、
それでも正面からバカ正直につっこんでいくよりは有用な作戦であった。
 
──フェイト、気をつけるんだよ。
 
アルフは、こんな時でもフェイトのことを心配し。
 
──フェイトの足をひっぱるなよ、フェレットもどき。
──なっ!?
 
こんな時でも兄とユーノは、憎まれ口を叩き合っていた。
 
──冗談だ。フェイトの援護、頼むぞ。
──……了解。
 
こんなときにまで、人をからかいやがって。ユーノはそんな顔を浮かべつつも了承した。
いつも通りの二人のやりとりに、フェイトもアルフも苦笑を隠せなかった。
 
──また、玉座の間で。
 
そのように約し、一同は二つの道に別れた。
 
*   *   *
 
「フェイト、前」
「うん」
 
振り向かずユーノに頷き、回想を中断して見えてきた通路の先の光に、意識を傾ける。
 
光の先には、天井の広い、開けた場所が待っていた。
 
「……」
 
いや、待っていたのは場所だけではない。
そこに佇む一人の少女の姿を確認し、フェイトは足を止める。
 
「……なのは」
 
時の庭園へと突入して一時間あまりが経過している。
その間これといってさしたる障害もなく、ユーノとともに中心部へ向けて順調に歩を進めてきた。
そして、中央の間まであとわずか。少し開けた場所へと出たところで、彼女は二人の前へと姿を現したのだ。
 
「捕獲、目……標、フェイト……テスタロッサ
 
虚ろな目をした友がつぶやくのは、何のぬくもりもない、敵としての言葉。
単なる標的としての自分へと向けられた、たった一言の宣戦布告。
 
……それでも。
それでもフェイトは、敵が現れたという緊張と共に、友が無事であったという安堵感を感じる。
 
なのはのこうして立っている姿に、ほっとする。
 
「捕獲する」
「……」
 
だが問答は、無用。
レイジングハートを掲げるなのはにフェイトもまた、己の持つバルディッシュを向ける。
迷いはない。
 
倒さねば助けられない、止められないのならば。
戦うのみ。
 
「ユーノ、お願いがあるの」
「わかってる。手出しはしないよ」
 
なのはとは、一対一でやらせて。背中越しにそう言おうとしたフェイトの意思を、ユーノは聞くまでもなく汲み取っていた。
あたかも自分の心を読んだかのようなユーノの言葉に驚き、振り向くフェイト。
 
「どうして……?」
「なのはもフェイトも、似たもの同士だしね。忘れてるかもしれないけど僕だって、二人との付き合いは長いんだよ?」
「そうだね……。ごめん、ありがとう……」
「ただし、よっぽど危なくなった時は手を出させてもらうよ。クロノから頼まれた以上、ここは譲れない」
「うん、それでいい」
『Haken form set up』
 
(ありがとう……。行こう、バルディッシュ
 
心の中でユーノにもう一度礼を言い、意識を戦闘モードへと切り替える。
バルディッシュもそれに応じ、変形する。
 
あの時は、友達になるための戦いだった。そして今度は、友達を取り戻すための、一対一の決戦。
 
(行くよ、なのは。必ず君を……助け出す!!)
 
『plazma lancer』
『accel shooter』
 
全力全開、最初で最後の一騎打ち。かつてなのはがそう表した戦い。
その望まれぬ第二幕がここに始まった。
 
*   *   *
 
「向こうは、はじまったみたいだな」
 
先程まで、武装局員たちが戦っていたのとは明らかに違う方角で、激しい魔力のぶつかり合いがはじまっていた。
確認するように向けられるクロノの視線に、アルフも頷く。
 
先程からフェイトとの精神リンクは途絶しており、
それはアルフのほうにまで意識を向かわせる余裕がフェイトになくなったことを意味していた。
 
ならばおそらくその相手は──なのはであろう。
 
「そのようですね」
 
相槌を打ったのは、アルフではない。
二人の目の前に立ちはだかる女性、リニスによるものだった。
 
「なら、こちらも始めるとするか」
「ええ」
 
それぞれに構えをとる男女を前に、やはり未だ、アルフの心には躊躇が残る。
 
(リニス、やっぱりあんたと……戦わないとだめなのかい?)
 
二人のやりとりを見て浮かぶ迷いを、とっさに首を振ってふりはらうアルフ。
主の戦いを思い、自身を鼓舞する。
 
(フェイトだって、なのはと戦ってるんだ。使い魔のあたしが迷ってどうするんだよ……!!)
 
顔をあげ、倒すべき敵───リニスを見据えるアルフ。
それは、意図的に。完全に敵として認識する、そうすることでアルフは迷いを断ち切ろうとしていた。
あそこにいるのは、敵なのだ。リニスではない。
 
(アルフ、やれるか?ダメならここは僕一人で……)
(……いや。あれはリニスだけど、リニスじゃない。少なくともあたしの知ってるのとは。だから、割り切るよ)
(そうか……。じゃあ、フォローを頼む。来るぞ!!)
 
二人が交わしたアイコンタクトが、開始の合図だった。
見計らったように、リニスがその力をとき放つ。
 
「はああぁっ!!」
 
気合い一閃、リニスの周囲から出現した四頭の野獣が二人に襲い掛かる。
反撃のブレイズキャノンが火を噴く。
 
*   *   *
 
────二組の戦いを、プレシア・テスタロッサは中央の間から念を介して見つめていた。
 
勝敗など、どちらでもよい。あの小娘──なのはがフェイトに負けようと、リニスがクロノに敗れようと。
最終的にフェイトの肉体さえ無事に手に入ればよい。最悪、十分に消耗さえしてもらえばそれで問題はないのだから。
かつて大魔導師と呼ばれたのこの力、病を克服した今、「儀式」に必要な魔力は温存せなばならなくとも、
消耗した状態の格下魔導師数人程度、容易に屠りさることができる。
 
「もうすぐよ……アリシア。今度こそ、必ず」
 
あなたを必ずこの世界に、呼び戻す。
二人で過ごすべき時間を、取り戻すために。
 
その命を失い、還るべき肉体すら失った愛しき我が子。
もう少し。もう少しで代わりとなる肉体がやってくる。
準備は全て、整った。
 
恍惚なる狂気に微笑むプレシアの傍らで。
 
いつから存在していたのであろうか。
ひとつの紅き宝石が漂うように浮かび上がる。
 
灯りの殆どない、暗い玉座の間を照らし出し、
かつてのジュエルシードへと酷似したその真紅の宝石が、妖しく光を放っていた。