言い忘れていたことがひとつ。

 
今度の新作、時間軸的にはスレに投下した「the day」の
約一年後の話になります。つながっていますので、念のため。
といっても少しにおわせる程度にするつもりではありますが。
 
 
さて、
she&me加筆版、14話うpします。スレ版の29、30話にあたります。
 
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第十四話 フェイト対なのはの死闘
 
 
『そか、フェイトちゃんとなのはちゃんがな……』
 
電話の向こうで、友は唸るように言った。
 
「うん……。全部、聞いちゃった」
『ごめんな、何にも言えへんまんまおって』
「そんなことないよ。こっちこそ、突然電話しちゃって」
『ええんよ。教えてくれてありがとな、二人の事』
「……うん」
 
と、すずかの耳に、電話相手の少女の名を呼ぶ声が聞こえる。
だれかが向こう側で、彼女のことを呼んでいるらしい。
 
すずかは、彼女がいる場所を正確には知らない。
どこか、設備の整った病院としか。
 
『行かな。検査の時間やて。……うちも二人の無事祈っとるから』
「ん、それじゃあ」
『二人が帰ってきたら、五人でまたなんかしよな?私ももうすぐ、戻れるはずやから』
「うん、絶対に」
 
携帯を閉じたすずかは、掌に握ったピンクのリボンを見つめる。
それはアリサと共にフェイトから託された、なのはとの思い出の片割れ。
 
(みんな待ってるよ、フェイトちゃん、なのはちゃん……)
 
*   *   *
 
「は、あぁぁぁっ!!」
「……!!」
 
双方の杖がぶつかり合い、火花を散らす。
 
フェイトは、裂帛の気合いと共に。
一方のなのはは、無言で。
 
互いをよく知る白き魔導師と黒き魔導師の戦いは、かつてそうであったように、互角。
凄まじい衝撃にもお互い、一歩も引くことなく鍔迫り合いを演じている。
 
「!!」
バルディッシュ!!」
『difencer』
 
アクセルシューター。
背後から接近する数発の光弾を防御し、一旦フェイトはなのはと距離を置く。
近いままではダメだ。動き回らなくては。
ハチの巣にされてしまう。
 
そう、戦いは一見互角であるかのように見える。だが。
 
『haken slash』
 
この戦いにおいて互角とは即ち、フェイトの不利を意味する。
 
「っ……!!」
 
なのはの砲撃をかわしつつ、接近戦へと持ち込もうとするフェイトではあるが。
ボロボロの白衣を身にまとった敵──親友は、フェイト本人以外には目もくれず。
その身を襲う幾多の射撃も、意に介する様子もなく強固なシールドによって無効化していく。
 
(く……スマッシャーやレイジが使えれば……!!)
 
牽制に放つプラズマランサーもぎりぎりまで威力を絞った、到底ダメージを与えるには及ばない代物だ。
 
無理もないことであった。
プレシアによって強大な魔力を与えられたなのはのバリアは、あまりに強固。
下手に砲撃したところで弾かれ、スターライトブレイカーの糧とされるだけだ。うかつには使えない。
 
加えてこちらがカートリッジのリロードによってなんとか対向しているのに対し、
なのはは不要。
本来、カートリッジの炸裂によってデバイスと術者に満たされるべき魔力を、
直接プレシアから供給されているのだ。
バイスからの供給と肉体への直接供給では、タイムラグがわずかながら生じる前者のほうが遅れるのは
当然のことであった。
つまり今のフェイトは、ミッド式魔導師の生命線たる、射撃・砲撃をほぼ封じられているのに加え。
ほぼ唯一の有効戦術たる接近戦においても持ち味のスピードも生かしきれず、決着をつけきれずにいるのが現状なのだ。
このままでは先細りに不利になっていくのが、目に見えている。
 
 
「このっ!!」
 
背後に迫っていたシューターの弾を切り裂く。
振り向いた先にはもうなのははいない。
 
(バインドで……動きを止めないと……!!)
 
普通に二人が戦えば、対等の勝負であったろう。
しかし既に、これは立ち向かう者と、押し返す者。
その構図へと親友二人の決戦は変貌してしまっている。
 
(そして、術式を……!!)
 
この手の魔法は、対象を操るための魔力を相手の体のどこかに撃ち込むことで、
言うなれば操るための魔力の受信アンテナとなる術式を体内に構築し、それを介して相手の体を支配する。
 
なのはを開放する手段は、その打ち込まれた大元の魔力に、別の魔力を直接ぶつけて術式を破壊すること。
しかしそれを今のなのはに対して行うことは困難を極める。せめて、動きを止めなければ。
 
近づくことすら、そもそも困難。
近づいても、当てることもままならず後退を余儀なくされる。
 
(どうすれば……?)
 
あるいは、ザンバーフォームで。
自身にもデバイスにも負担の大きい、なるべくなら温存しておきたかった最後の手段が、
頭に浮かぶ。あちらは既にエクセリオンモード。ハーケンフォームのままでは……。
 
「!!」
 
──危なかった。
 
思考が隙となり、なのはの接近を許す。
至近距離で振り下ろされるレイジングハートに、背中を冷や汗が伝う。
バルディッシュで受けるのは間に合わない、そう判断し左手の手甲でそれをガードするフェイト。
 
「ぐうぅぅっ!!」
 
手甲の亀裂に構わず反撃のバルディッシュを一閃するも、既になのははそこから消えていた。
 
「っ……どこに!?」
 
なのはの戦闘スタイルからすれば、らしくない一撃離脱の高速接近打撃。
あそこで織り交ぜて、くるものだろうか?
不審に思いながらも白い友の姿を探すが。
 
「だめだ、フェイト!!そこから離れて!!」
「あっ!?」
 
ユーノの叫びに、ハっとする。
 
しまった、と思ったときにはもう、遅かった。
 
フェイトの両腕、両足を、桜色のバインドが次々に拘束していき。
先程の接近はこれを仕掛けるための陽動だったのだと気付かされる。
 
なのはの得意とする拘束魔法───レストリクトロック。
 
「この!!」
 
必死でもがくも、四肢を束縛する光の輪はびくともしない。
やられた。こちらがバインドで動きを止めようとした矢先に、先を越された。
 
レイジングハート
『starlight breaker』
 
(まずい……!!)
 
そして、これが。拘束魔法がくるということは。
後に続く、大出力の砲撃魔法があるということに、他ならない。
 
彼女の用意したそれは、フェイトの予測通り、白衣の少女のもつ最大のものであった。
 
「く……この、この!!」
 
魔力を注ぎ込んでの強制破壊は、すぐに諦めた。
構築に使用されている魔力は、かつての……いや、今までのなのはの比ではない。
術式解析と解除を急ぐも、おそらく間に合うまい。
 
「なの、はぁっ!!」
 
フェイトの見上げた先。
 
かつて二人の戦いの明暗を分けた、星の光が。
彼女を、フェイトのもとから奪っていった煌きが。
 
三度フェイトに牙を剥くべく、集まり輝いていた。
 
*   *   *
 
───まずい。このままじゃフェイトが。
 
なのはの仕掛けたバインドに捕らえられたフェイトの姿に、ユーノは支援へと向かうべく身構える。
あちらはもう、スターライトブレイカーの発射体勢に入っている。こうしてはいられない。
 
(待って!!ユーノ!!)
 
だが戦闘の渦中へと飛び込もうとする彼を押し留めたのは、他でもない、そのフェイトであった。
彼女は振り向きもせず、バインドに囚われた不自由な体勢のまま、ユーノへと懇願する。
 
(フェイト!?)
(まだ……まだやれる!!だから、手は!!)
 
正気で言っているのか。
今にもなのはは、身動きの取れぬフェイトをその光り輝く砲撃の餌食としようとしているのに。
行動を決めかねるユーノに、フェイトは必死に言葉を繋ぐ。
 
(大丈夫!!大丈夫だから!!)
 
なんという無茶を言うのだろう。スターライトブレイカーの威力はフェイトだって知っているはず。
まして今のなのはの魔力は、以前や普段とは比べ物にならない。ブレイカーの破壊力もかつてのものとは桁違いだろう。
このままでは間違いなくフェイトはその直撃を食らうというのに。
 
(けど!!)
(お願い!!耐えてみせるから!!)
 
スピードローダーで、カートリッジを補充した形跡はない。
とすれば、先程までの戦闘の激しさからいって、バルディッシュに残っているのはせいぜい1発、あるかないか。
たったそれだけで、普段以上の威力のブレイカーを、どうやって耐えるというのか。
ザンバーフォームを起動、迎撃することすら、その残弾ではままなるまい。
 
(ユーノ!!)
 
バインドから逃れようともがき続けるフェイトを見上げ、すぐに苦渋の表情で顔を逸らすユーノ。
訴えかけてくるように、フェイトが首を精一杯捻ってこちらを見ていて。
 
(……わかった)
 
数瞬の後、折れるユーノ。上げかけていた手を、下ろす。
なのはといい、フェイトといい。どうして自分の周りの女の子は言い出すとこうも聞かないのだろう。
こうなっては、見守ることしか残されていないではないか。
 
歯痒く思いながらも、彼は二人の戦いを見守り続ける。
 
*   *   *
 
(ありがとう、ユーノ)
 
───よし、あとは、耐え切るだけ。
 
ユーノは、信じてくれた。自分はそれに、応えなくてはならない。
 
バルディッシュ!!」
『phalanx shift』
ファランクスシフト!?フェイト、まさか!?」
 
先程、思いついたばかりの手だった。残っていた最後のカートリッジを、新たにロード。
 
(防御しても無駄……だったら!!)
 
ブレイカーには至近距離ならば、結界ごと打ち抜く付加効果がある。
距離をとろうにも、四肢はバインドされている。
されていなくとも、この広間の大きさでは目一杯距離をとろうとたかが知れている。
 
「アルカス……クルタス……エイギアス……」
 
ならば、真っ向から迎え撃ち、相殺するしかない。
己の、最大の一撃を以って。
そしてザンバーフォームが……プラズマザンバーが使えない今、それを可能とするのはただひとつ。
 
かつて、なのはに通用しなかった必殺の技。その名も───……。
 
「プラズマランサー・ファランクスシフト!!」
 
強化された、この魔法で。
押し返すしかない。
 
*   *   *
 
(本気なのか!?これで……!?)
 
スターライトブレイカーとて、一撃に込めることのできる魔力に限界はある。
その限界まで耐え切ることができればあるいは、フェイトにも勝機はあるかもしれない。
ただ防御に徹するよりもその可能性は高いだろう。
 
(けど……こんな賭け……!!)
 
分が悪すぎる。1%の確率が2%になったところで、ほとんど望みが無いのと一緒だ。
ぶつかり合いを選ぶには、魔力の差が大きすぎる。
 
「来る!!」
 
フェイトを屠り去るべく、ついに閃光が放たれる。
迫り来る壁のような魔力の噴流をじっと見据え、フェイトも組み上げた魔法を発動させた。
 
「ファイアッ!!」
 
一撃の破壊力と、手数。方法は違えど目指すところは同じ、一撃必殺の魔法。
二人の戦闘スタイルのように対照的な二つの魔法が、ユーノの見上げる先にぶつかり合う。
 
──その瞬間を狙って。
 
「ここ!!バルディッシュ!!」
『yes,sir』
「!!」
「なっ!?」
 
セイバーブラストの応用───ブレイカーへの接触と同時に、ランサーが爆発する。
ユーノさえも驚いたそれは、フェイトの策の一つ。
化け物じみた今のなのはの魔力に、ただ闇雲に真っ向からぶつかっていこうというわけではない。
ランサーそのものの威力と、爆発の威力。その両方をもってブレイカーを相殺する、二段構えの作戦だった。
 
「は、あああああああっ!!!」
「!!!」
 
だが。
それでもブレイカーを止めるには、とても足りない。
ランサーが、その爆発が、次々に光の柱に飲み込まれていく。
 
そして、拘束され身動きのとれないフェイトもまた、ブレイカーの光の中へと消えていく。
 
「フェイトォッ!!」
 
完全に、直撃コースだった。
 
自陣要塞内部での戦いであり、目的が捕獲である以上魔力流と衝撃による昏倒を狙った非殺傷設定にはしてあるだろう。
しかしこれほどの威力、無事で済むはずがない。
力尽き落下してくるであろうフェイトを受け止めるべく、ユーノは眩い光の中必死でその姿を探した。
 
(どこだ……どこに!?)
 
ようやく、ブレイカーの光が消える。
視界が晴れたその先。フェイトの捕らえられていたその位置には。
 
ボロ布同然と化した、彼女の黒いマントが漂っているだけだった。
 
「「!?」」
 
───どこに!?
 
なのはもユーノも、見失ったフェイトの姿を探し辺りを見回す。
一体、どこに。
 
 
『photon lancer』
「!!」
上空を見上げたなのはの頬を、光の槍が掠める。
プラズマランサーですらない。弱々しくも掻き消えそうなそれは、
少女の顔にわずかな焦げ目をつけるだけに終わり。
 
 
そして時が、止まった。
 
 
ほんの数秒間の沈黙が、見ているユーノには異様なほど長く感じられた。
 
なのはは、その姿勢のまま。
一方ボロボロのフェイトは、その拳をなのはの胸の中心──丁度心臓の辺りに叩きつけた状態で。
二人とも、微動だにしなかった。
 
そしてゆっくりと、二人の間に流れる時が動き出す。
ぐらりと揺れたなのはの体が、前のめりに傾いて。
 
離さぬように、二度と奪われないように。勝者となった少女は、それを抱き締めるように受け止めた。
 
「フェイト……!!」
 
───そう。
 
なのはが囮のフォトンランサーに気をとられた瞬間。
ブリッツラッシュで近づいたフェイトの一撃が、彼女を操る術式を完全に撃ち抜いていたのであった。