昼出前に更新。

 
マジアカ、サブカード作りました。
マラリヤで名前はまんま640。
しかしマラリヤの優勝画面のエロさには驚きましたよ(滝汗
 
閑話休題
 
さて、she&me加筆版、第十五話。
スレ投下版では31話と32話にあたる部分です。
 
でわどうぞ。
 
  
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第十五話 深い闇、解き放って
 
 
なのはとフェイトの決着が、ついた頃。
もう一方の戦いも、奇妙な方向へと推移していた。
 
「このぉぉぉっ!!雑魚が邪魔すんじゃないよ!!」
 
気合の雄叫びと共に、アルフは本来の狼の姿となって異形の群れへと突っ込んでいく。
 
───ああ。まただ。
 
牙を剥く紅いその姿に、リニスは。
クロノの放つ攻撃を寸でのところでかわしつつも、不思議な既視感を改めて認識していた。
知らない。知るはずが無いのに、懐かしい。そしてそれは、けっして嫌な感覚ではなく。
むしろ、心地良い。生死のやりとりをしているというのに、何故だか心が鎮まっていくのがわかる。
 
「余所見、するなぁっ!!!」
「っ……!!」
 
───クロノ・ハラオウン。時空管理局執務官にして、AAA+ランクに分類される優秀な魔導士。
 
(そして……フェイトの義兄!!)
 
彼女自身、気付いているだろうか。
 
目の前の少年が、フェイトの兄である。彼女を護る存在である。
 
戦闘を行ううえでどうでもいいはずのその事実に、自分が微かに口元を歪め、微笑んでいたということを。
まるでそれが喜ばしいことであるかのように、彼女は無意識のうちに笑っていた。
 
*   *   *
 
「フェイト!!」
「大丈夫……このくらい、大したことないから……」
 
そう言いながらも、目の前に降り立ったフェイトはなのはを抱え込んだまま苦しげに膝をつく。
 
───しかし、よく成功したものだと思う。
 
フェイトを気遣い治癒魔法を施しながら、ユーノはある意味呆れていた。
彼女が勝利するには、三つの厳しい絶対条件をクリアしなければならなかったからだ。
 
一つはまず、ブレイカーが非殺傷設定、魔力ダメージと衝撃による昏倒を目指したものであるということ。
二番目に、魔力を根こそぎ削りきられない程度にまでその威力を迎撃し、相殺すること。
そして最後に、ブレイカーの破壊力によって意識を失わぬよう耐え切ること。
 
最初の一つは状況からして、元よりその可能性は高かった。
 
だが残りの二つは完全に賭け。
フェイト自身の魔力と意思、そしてブレイカーの威力次第でどう転んでもおかしくはなかったのである。
 
そして彼女は今、賭けに勝った。傷だらけになりながらも、そのすべてをやってのけ、友を取り戻したのだ。
 
「なのはは?」
「うん……手ごたえはあったよ。術式は、ちゃんと破壊できたはず」
 
なのは、なのは。
一応、あまり刺激を与えないよう気をつけながら、フェイトは眠るなのはの名を呼ぶ。
数回呼んだところでなのはの眉が微かに動き、ゆっくりと目蓋を開けていく。
 
「フェ……イト、ちゃん?」
「なのは……!!」
「……そっか。私、フェイトちゃんと戦ったんだね……」
 
互いの状態を見やって、わずかに戸惑いを見せた後。なのはは状況を理解する。
ブレイカーを受けたフェイトほどではないがなのはのバリアジャケットもまた、所々破損していた。
連れ去られた際の破損が修復されておらず、戦闘前から随分と、ボロボロにはなっていたが。
 
「……ありがとう、フェイトちゃん……。ユーノくんも、心配かけちゃって……ごめんなさい」
「いいんだよ。こうして、なのはもフェイトも無事なんだし」
 
そうしてなのはは、フェイトの身体から起き上がろうとする。
だが両腕にはまだうまく力が入らず、足も言うことをきかない。
 
無茶だと思ったのは、フェイトも同じだったのだろう。
心配げに、彼女のその行動を止めに入る。
 
「ん、……く」
「なのは?まだ、支配呪文から開放されたばかりだよ。無理は」
「行くん……でしょ?」
 
けれど、彼女は止めない。
状況を把握し、フェイトの心配に頭を振って。
 
「え?」
「プレシアさんの所に……。行って。私も後から追いつくから」
「なのは、だけど……」
 
それは確かにそのつもりではあるが。
こんな状態のなのはを、なにがあるかもわからないこんな場所に置いていくわけには。
躊躇するフェイトの背中を押したのは、ユーノだった。
 
「僕が、連れて行く。フェイトは先に行ってくれ」
「ユーノ」
 
そう言うとユーノはフェイトの肩に手を置き、呪文を唱える。
言葉が紡がれる度に暖かな力が、フェイトの体内へと流れ込んでくる。
 
「…少しだけど、魔力を送ったから。これで幾分かは楽に動けるはず。行くんだ、フェイト……ん?」
 
と。顔をあげたユーノの動きが、固まった。
 
「?」
「……私も……」
 
なのはからも、抱えた腕を通して魔力が送り込まれてくる。
ユーノの魔力で幾分楽になった身体に、更に力が戻ってくるのが感じられる。
 
「なのは、ユーノ……ありがとう」
「そ、それと、フェイト。これ」
「え?」
 
感謝するフェイトへと、赤い顔をしながらユーノが、自身のマントを外して差し出していた。
 
「……?」
「いや、なんてゆーか、見てはないよ?ね?ちょっと目に入ったってだけで。気付いたのも今だから───」
 
明らかに「どうしてこれを?」という顔をしているのを察したのだろう、彼は説明をはじめるが。
なぜか目をつぶり、こちらを見ていない。口調も先程までのような落ち着きがない。
不自然なくらいに慌てている。
 
「ごめん、どういうこと?」
「ユーノくん、落ち着いて」
「いや、だから……そ、その、ほら……ね?」
 
つんつん。
ユーノは自分の胸元とフェイトを、交互に指差す。
どうやらフェイトに、自分の胸元を見てみろ、と言いたいらしい。
 
「へ?───あっ!?」
 
途端、フェイトの顔が真っ赤に染まる。
破れた防護服の胸元から、まだ未発達の小さな丘が片方、露わになっていた。
桜色の可愛らしい控えめな頂まで、完全に。
気付いたフェイトはユーノのマントをひったくるようにして受け取ると、そのまま慌てて羽織る。
前はもちろん、しっかり両手で押さえて。
 
「……見た?」
「……その、ごめん」
 
緊張感など、どこへやら。なのはを抱えたまま、二人揃って真っ赤になる。
 
「???」
「……ごめん、ほんとに」
「う、ううん。えっと……マント、ありがとう」
 
赤くなるフェイト達に対し、まだ若干意識が朦朧としているなのはだけは、
何故二人がそうなっているかが飲み込めず不思議そうに二人を見ていた。
一瞬、三人(約一名、よくわかっていないが)の間に微妙な空気が流れた、直後。
 
「「「!!!」」」
 
壁をぶち抜き、轟音と共に巨大な傀儡兵の群れが現れた。
反応の遅れる三人めがけ、その鋼の腕が振り下ろされ、激しく舞った土煙に彼らの姿は消えた。
 
*   *   *
 
「ぐっ……!!」
 
壁へとしたたかに身体を打ちつけ、クロノは息をつまらせた。
痛む身体を起こしながら、対峙する敵を睨みつける。
 
「入ってくるなり、襲い掛かってくるとはね。あの女も息子の躾がなってないようね」
 
黒衣の魔女が、溜め息交じりにつぶやく。
彼女にとってクロノはもはや、敵として戦うにすら値しない。
連戦で消耗した魔導士など、彼女にとっては虫けらも同然。
 
目障りで、鬱陶しいだけだった。
 
「お前がここにいるというのに、不思議ね?リニスの反応が消えていないのはどういうことかしら?」
 
目の前の小賢しい餓鬼のことだ、無策ではくるまい。
そう予測したプレシアはリニスとなのはを相手の戦闘力を削るためのいわば捨て駒として配置した。
リニスには可能な限り相手の戦力を削って、消えてもらう予定であったのだが。
 
「決まってる!!あの使い魔になにかあったら、妹が……フェイトが悲しむ!!」
『stinger snipe』
「あなたもだ!!止める……そして無事にフェイトのところに連れて行く!!プレシア・テスタロッサ!!」
 
言うが早いか、再びプレシアへ向かってスティンガースナイプを放つクロノ。
だがその必死の攻撃は、プレシアにかすり傷ひとつ負わすことなくシールドにはじかれる。
 
(フェイトを実の親と戦わせるわけにはいかない……!!フェイト達が来る前に!!)
 
兄として。時空管理局執務官として。彼女はこの手で止めなければならない。
 
「無駄よ」
「このおぉっ!!!」
 
可能とか、不可能じゃない。やらなければならないのだ。
気合もろとも、ブレイズキャノンをフルパワーでぶっぱなす。
魔力の温存など、考えていられない。

 
プレシアを、この手で止める。
 
それは、赤毛の使い魔に抱かれ苦しげに言った彼女との約束でもあった。
 
*   *   *
 
終わってみれば、その結末は急にやってきた、あっけないもの。
 
アルフの、バリアブレイク。
ありったけの魔力の篭ったその拳を前に、彼女はその身を護っていたシールドを、突如として解除した。
 
バリアを破壊するために強化された拳。そんなものを生身で受ければどうなるかは、わかっているはずなのに。
彼女の力量なら、防ぐこともかわすことも、どちらもできたはずなのに。
 
対応一つせず、彼女はその肉体でアルフの一撃を受けることを選んだ。
 
「一体、どういうつもりだ?」
 
泣きそうな顔のアルフが抱え起こしたリニスへと、クロノは率直に疑問をぶつける。
むしろそれは疑問というよりも、困惑。そのほうが表現としては近いかもしれない。
 
「……」
「どうして、シールドを解いたんだ」
「どうし、て、でしょう、ね……ははっ」
「リニス、君はまさか」
 
薄々、勘付いてはいた。
 
リニスの動きが戦闘の途中から、おかしかったことに。
 
「あの、フォトンランサーか?」
 
それまでの彼女であれば、容易くかわせていたであろう攻撃。
フェイトのそれとは違い、牽制に数をばらまくだけのアルフのフォトンランサーが、命中したときに。
おかしい、奇妙だとは思っていた。
彼女ほどの実力者が、「当てる気のない」攻撃に当たるなど、考えにくいことであったから。
 
「……ずっと、不思議に思っていました。時折感じる奇妙な感覚が、何なのか」
 
クロノへと答える代わりに、リニスは語る。
否定しないということは、イエスと言ったにも等しい。
 
「それはとても、心地よいものでした……っく」
 
それが、何なのかわからないけれど。
フェイトやアルフと接触して以来感じるようになったその感覚は、やすらぎを覚えるものだった、と。
彼女は苦しげな表情の中にも目を細める。
 
懐かしく、また暖かい。それでいてどこか悲しさの混じりあった、かつての記憶。
何故自分には存在しないはずの記憶がこうまで心地よいのか。戦いの中リニスは戸惑い、その思いは次第に大きくなっていく。
気付かぬふりをしていても、アルフやフェイトの傷ついていく様子に心を痛めている自分がいるのも事実だった。
 
「まだ、それが何であるかはわかっていません。ただ」
 
アルフの放った光の槍。そこに込められた魔力を感じ、戸惑い。
かわせなかったそれを受けた時、リニスの中の迷いは確信に変わった。
 
自分はこの子達と、戦ってはならない。
例え、自分にそうであった記憶がなくても。
目の前の使い魔と、その主が自分にとって戦うべきではない、どうしようもなく愛おしい存在であるという確信に。
 
頭でも、心でもなく、存在によって。
「リニス」としてそう理解したとき、リニスは自らを護るバリアを解いていた。
 
「きっと、プレシアにとっても……それは、同じこと、でしょう……から」
「リニス、違う。それは、あの女は!!」
「アルフ」
 
それ以上は、言うな。首を横に振って見せるクロノ。
リニスのことを思うなら、今プレシアとフェイトの本当の関係を言うべきではない。
彼女の、主を思う気持ちを尊重するならば。
クロノの目がそう言っていた。
 
「っ……」
クロノ・ハラオウン
「何だ?」
「貴方に一つ、頼みがあります」
 
幸い、アルフの一撃は急所からは外れていた。
 
リニスのことを彼女の元に残るというアルフに任せ、クロノは今こうしてプレシアと対峙している。
 
──主を。プレシアを頼みます。
 
約束を、果たすために。
妹も、妹の大切な人も、どちらの悲しむ顔も、見たくないから。
 
──どうか、彼女を止めてください。
 
この身に代えても、彼女を止めてみせる。
そしてクロノは再び、その両足で立ち上がった。