メガミをぱらぱらめくってたら、スバルとティアナで一個

一話完結の短編思いついちゃったぞなもし。
 
なのフェス用に調整しますかね。
 
さて、このところ結構とんとんと加筆作業が進んでいるshe&me(自分で言うなよ)。
今回は16話です。スレ投下時の33、34話を一本にまとめたもの。
 
でわ、いきまする。
 
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜

第十六話 兄と、妹と

 
少年から受け取った砂色の衣をはためかせ、少女は走る。
行かせてくれた二人の友に感謝し。離れたままの兄と己が従者の身を案じながら。

殆ど明かりのない、暗い回廊を駆けていく。
自分を産み出した、黒き魔導師の下へと向かって。

*   *   *

───まずいな。2,3本、いってるかもしれない。

それとは、意識せずに。
以前フェイトの様子を見になのはの家へ滞在した際、
借りて読んだ漫画本の主人公と全く同じ台詞を、クロノは心の中で吐いていた。
一度読んだだけのものなのだから、覚えてないのもそれはそれで無理もないことだが。

左手で押さえた脇腹が、呼吸をするたびにズキズキと痛む。
どうも、肋骨が折れているらしかった。

「く……」
「まだ、やる気かしら?そろそろ、こちらとしても終わりにしたいのだけれど」
「当たり前だ!!まだ!!」
「ふん……」

クロノとて、この歳で時空管理局の執務官の任につく腕だ。
自分と彼女との力の差が今現在、埋め難い状況にあることくらいわかっている。
しかし、こればかりは退けないのだ。
たとえ、鼻で嗤われる屈辱を受けようとも。

「あなたの目的はわかってるんだ!!これ以上、他人を……フェイトを巻き込むんじゃない!!」
「黙りなさい」
「出来もしないことにこだわるのはもうよせ!!死んだ人間は二度と……ッ」

最後まで、言葉が続かない。

次の瞬間には、クロノの体は瓦礫の中へとつっこんでいたからだ。
意識が一瞬遠のき、遅れて痛みが全身をかけめぐる。

「!!……ぁ……ぐ、ぁ」
「黙りなさいと言っている……聞こえなかったの?」
「ぐ……?」
 
紅き魔力の残滓の迸しる右手を下ろすプレシア。
精一杯の力で身を起こしながらも、クロノはどこかその光景に違和感を感じる。
 
───紅?
 
(何だ……?何か、が?)
 
何かが、おかしい。
 
アリシアは必ず復活させる。私はそれだけの力を手に入れた……そのために帰ってきたのだから」
「っ!?」
 
そしてようやく、クロノは気がついた。
いつから、そこにあったのか。その違和感の正体を。
 
プレシアの発する魔力と同じ輝きを持ち、彼女を護るかのように側に浮かぶ。
 
血のように紅い宝石が、存在しているということに。
それから発せられる魔力の光は、プレシアと同じく赤。
また、かつての彼女の持っていた魔力光は、違う色だった。
 
(あれ、は?)
 
色と大きさは違うが、その宝石の形状は、クロノですら一瞬見間違えるほどかつてのジュエルシードとそっくりだった。
 
ロストロギア……か?)
 
「───本当に、暗かったわ。アリシアの身体を飲み込んでいった、あそこは」
「!!」
 
ジュエルシードを巡る事件。
その終焉において、彼女とその娘、アリシアの亡骸は『虚数空間』と呼ばれる暗闇へと堕ちていった。
彼女だけでも助けようと手を伸ばした、フェイトの手をとることなく。
どこまでも、どこまでも。ただ、堕ちていった。
 
クロノの疑問に答えるでもなく、プレシアは懐かしむかのように語る。
自分の出会った、かつての出来事を。まるで、独り言のごとく。
 
「あの闇の中で、私はこのロストロギアと出会った」
 
そして、気がつけば時の庭園の残骸に、横たわっていた。
右手には紅い宝石が握られていた。
 
いつ、誰が、何の目的で作ったのか。何故そこにあったのかもわからない。
だが、事実として。
自分がこの宝石によって助かったということだけは確かだった。
 
「私は確信したわ……この力ならば、アリシアを蘇らせることができると」
「……く」
虚数空間を……越えてくるだと?あの中にそんな力が……!?)
 
だとしたら。あれが暴走しでもしたら、それこそ未曾有の大惨事が引きおこされてしまう。
ジュエルシードや闇の書の、比ではない。
 
「けれどひとつだけ、足りないものがあった」
「何……?」
 
それは、蘇りし精神を宿らせるべき、肉体。
ロストロギアの力を使い庭園を修復しながら、プレシアは蘇生のための実験を繰り返していった。
小さな昆虫、小鳥、実験動物。かつてアルハザードへの道を欲する以前から、術式だけは既に考案してあった。
 
実現ができなかったのは、出力の問題。
常識では考えられない程の魔力を必要とするその術式が不可能であったからこそ、彼女は失われた都への道を探した。
自身の考えた娘の蘇生方法に、代わるものとして。藁にも縋る思いで。
それももはやそれは昔のこと。
 
紅い宝石によってその問題点はクリアされ、すべての実験は順調に成功を重ねていった。
 
だがいよいよアリシアの復活のための儀式を行おうという段になって、一つの問題が浮かび上がることになる。
それまでの実験は全て、元の肉体に復活した精神を定着させるもの。
しかしアリシアの肉体は虚数空間において失われてしまっており、その方式を使うことはできない。
 
「現に肉体なしの再生は、失敗だったわ。リニスは……あの子は、かつての記憶を『持っていなかった』」
「リニス、だって……?」
 
自身のかつての使い魔すら実験に投入した結果待っていたのは、またしてもの行き止まり。
そんな折思い出したのは、娘と同じ姿の、以前創った人形のことだった。
 
丁度いい、代わりになる身体があるではないか。プレシアは、そう考えた。
 
「それで……?そんなことのためにフェイトを!?」
「そうよ」
「ふざけるなっ!!あの子はあなたの玩具じゃないんだぞっ!!」
 
怒りと共に言葉を吐き出すクロノに対して、あくまでもプレシアの視線は冷ややかだった。
その視線がクロノから外れ、その後方へと向けられる。
 
「!?」
「聞こえたかしら?私のお人形?」
 
小さな足音が聞こえ、クロノは少し離れた、背後の真っ暗な通路を振り返る。
 
「……フェイト」
「お兄ちゃん……プレシア母さん……」
 
出てこようにも、これなかったのだろう。
 
全て、聞いていた。
暗闇の中から歩み出てきた少女は、一目見てそうわかる、沈痛な表情をしていた。
 
*   *   *
 
───それは、小さな異変だった。
 
「あら?」
 
はじめに気がついたのは、艦の各部を再チェックしていたエイミィであった。
 
「どうかした?エイミィ」
「あ、いえ。主砲の駆動系に一部異常が」
「変ね?この間整備が終わったばかりでしょう?」
「ええ、まぁ。使用に問題があるほどではないんですが」
「なら、いいのだけれど……少し気になるわね」
「詳しく調べますか?」
 
その必要も、ヒマもあるまい。
振り向き指示を待つ部下に、リンディはかぶりを振ってみせる。
使えるに越したことはないが、もとより使う気はないのだから。
多少不備があってももっとすべきことがあるはずだ。
 
「いえ。先に優先事項を済ませてしまいましょう。使えるのなら、それが終わってからでいいわ」
「了解です」
 
一応のチェックを入れるにとどめ、作業を再開するエイミィ。そして、我が子達の無事を祈るリンディ。
 
彼女達は知らない。小さな異変が、外部端末からの強引なアクセスによるものだということを。
そして、気付いていない。
 
それが行われたのは他でもない艦内の、フェイトの部屋からであったということに。
 
*   *   *
 
フェイトを先に行かせてから、幾ばくかの時間が経っていた。
 
「ユーノ君!!もうやめて!!私やれるよ!!戦えるから!!」
 
少女の悲痛な叫びの中、少年はたった一人で敵へと立ち向かう。
消耗しきり、未だ立ち上がることさえおぼつかない少女に代わって。
 
「だからこの結界、解いてぇっ!!!」
 
二人の間には、少年自身の手によって造られた、強固な壁が立ち塞がり。
少年と少女の距離を、隔てていた。
 
「お願い……ユーノ君、死んじゃうよ……!!」
 
少年の小柄な身体が弾き飛ばされ、壁に激突する度に、幾度となく。
大切な友達の圧倒的不利な戦いを見ていることしかできない歯痒さに、なのはの声には涙が混じる。
 
手を伸ばせば届きそうな距離なのに、助けに行けない。
助けに行きたい相手から、行くことを許してもらえないなんて。
 
「っか……」
「ユーノくんっ!!」
 
彼女の悲鳴に応じぬまま、彼は戦い続ける。
 
しかしなのはを戦闘から遠ざけ結界を張りつつ、辛うじて多数の傀儡兵との戦いを続けてはいるものの、
殆ど反撃らしい反撃をすることもなく、ただ一方的に攻撃を受け続けているだけの状態に等しい。
 
元々戦闘向きでないのに加え、傀儡兵の最初の一撃からなのはとフェイトを護った際に負った傷の影響が大きい。
ここからでもユーノの防護服の左肩のあたりが赤く血に染まっているのがわかる。けっして軽くはない傷だ。
 
このまま、一人で戦わせるわけにはいかない。はやく、なんとかしなければ。
 
 
───助けなきゃ。
 
その一心で、なのはは掌中の愛機に語りかける。
 
レイジングハート、お願い、力を貸して!!」
 
ブレイカーでこの結界を壊して、ユーノを助けに行く。動けなくても援護射撃くらいなら。
そう思い立ち、自らの愛杖をかかげ命じるなのは。しかし。
 
『……』
 
忠実であるはずの意思持つ愛杖は、腕の中にあるがまま、うんともすんとも返事をしなかった。
 
レイジングハート?」
『……』
レイジングハート!!どうしたの!?スターライトブレイカーの準備を!!」
 
この、言い争う一分一秒が惜しい。苛立ち、声が金切り声に近くなる。
 
『……sorry,I can't obey this instruction』(申し訳ありませんが、その命令はお聞きできません)
「そんな!?どうして!?」
『sorry,my master.I can't』
「なんで!?ユーノ君が危ないんだよ!!あなたならできるでしょ!?わたしの言うこと、聞けないの!?」
 
闇の書事件のときだって。あんなにボロボロになっても、信頼に応えてくれたじゃない。
 
なのに、どうして。
友の危機と、信じてきた杖の反乱。二つの緊急事態が、半ばヒステリックになのはを叫ばせる。
 
『……Is he an important person for you, my master?』(あなたにとって彼は大切な人ですか、マスター?)
「え?」
『Please answer』
 
そんな、こと。
 
「当たり前じゃない!!ユーノ君は私の大切な友達だよ!!だからこうやって!!」
 
こうやって助けようとしてるのではないか。
 
『……』
「時間がないの!!レイジングハート!!何が言いたいの!?」
『Then, I cannot obey the instruction all the more』(ならばなおさら従うことはできません)
 
声を荒げるなのはに対し、レイジングハートの言葉はどこか、諭すようでもあり。
 
「どう、して!?どうしてなの!?答えて!!」
『If you think of him,please endure it.My master』
 
彼のことを想うのであれば、ここは耐えて下さい。彼女は静かにそう告げる。
 
傀儡兵達からあなたを護り、無事仲間達の下へ送り届けるのが、彼の願い。
自分の意志で彼は主を残し、一人戦いを挑んでいるのだから。彼の意志を尊重すべきだ。
 
ただの従者としてではなく。レイジングハートは、経験豊富な思考型デバイスとしての意見をなのはへと語る。
 
───あなたの知る彼は、ただ闇雲に戦力差も考えずにつっこんでいくほど愚かな男ではないはずです。
 
レイジングハートの言葉に、結界の中一人戦うユーノを見上げるなのは。
 
「でも……っ!!」
 
見つめた先のユーノが、一瞬こちらを向いて笑った気がした。
 
(大丈夫だよ、なのは。レイジングハートの言うとおりだ、今は休んでおいて)
(ユーノ君……だけど……)
(フェイトとの約束が残ってる。なのはを連れて行くって。だから、やられたりしない)
(ユーノ、君)
(それにもう、準備は済んだ)
 
それは、虚勢などではない。
確信に満ちた笑みであった。
 
*   *   *
 
なのはやフェイトのようにはいかないけれど、結界魔導師にはそれに見合った戦い方がある。
ユーノは傷つき、幾度となく叩きつけられながらも、それを実践していた。
 
「ここだ!!捕縛!!」
 
少年が着地し右手を挙げると同時に、翡翠色の鎖が傀儡兵達を捕獲する。
 
設置型の、捕縛魔法。ユーノの使える魔法の中でも、最上位に位置するもののひとつだった。
発動に時間がかかる分、その捕獲力は絶大。足りない魔力を複雑な魔法技術で補った大技だ。
それを示すかのように普段ユーノの用いるバインドの鎖に比べこの魔法のそれははるかに太く、また強い光を放つ。
実際、20体を超える数の傀儡兵の一隊を難なく抑え込んでいるのだから、その威力がわかろうというもの。
 
(これを外したら、後がない!!やってしまわないと……!!)
 
開いた右掌を、ゆっくりと閉じていく。
少しずつ軋むような音を立てて巨人達を捕らえる鎖が締まり、一筋、また一筋と鋼の巨体へとヒビが刻まれていく。
 
「砕けろおっ!!」
 
そして、ユーノがその拳を握り締めたとき。
全身ヒビだらけとなった生なき兵士達は圧力に負け、煙をあげる粉々の破片へと姿を変えていた。
 
重力に引かれ降り注ぐ傀儡兵の残骸の雨の中、尻餅をつくように座り込んだユーノはなのはのほうを向き。
少し照れながら、右手の親指を立てて笑って見せた。
 
*   *   *
 
「フェイト……」
「大丈夫、お兄ちゃん」
 
クロノが上半身を起こそうとするのを手伝いながらフェイトが言った「大丈夫」は二つの意味で。
兄の身体に対する気遣いと、全てを聞き、再び人形と呼ばれた自分への心配に対する返答だった。
 
「なのはは、無事に助けたよ。今ユーノとこっちに向かってる」
「そうか……こっちもなんとか、やれた。あの使い魔も無事だ」
「よかった」
 
フェイトは、平静だった。
いや、つとめてそう振る舞っているだけなのかもしれない。
 
「フェイト、よく来たわね」
「……母さん」
「さあ、こっちにいらっしゃい。私のアリシアのために」
「……」
「あなたは!!まだそんなことをっ!!」
 
辛そうに顔を背けるフェイトに耐えかねたクロノが、叫ぶと同時に。
 
「……ごめん、お兄ちゃん」
 
少女は小さく、兄に対して謝罪した。
 
その言葉に反応する間もなく。
クロノの身体から、急激に力が抜け出ていった。