水樹のベスト買いました。

 
やっぱりnew sensationが一番好きな感じ。
音源持ってなかったsuddenly〜巡り合えて〜もよいですなあ。
 
んで。
昨日かな?web拍手のほうにこんなコメントが入っておりまして。
 
>『the day』って、どこで読めますか?
 
自分としては過去作の加筆版は、
ここではshe&meまでしか公開しないつもりだったんですが。
 
言われてみれば、the dayについては喪失辞書(そろそろくどいですね)と時間軸
繋げた以上、ここに載せないのも気が利かないよなー、と思いまして。
言われてみて、ちょっとしまったなー、と思った次第です。
(「買い物にいこう」「変わりゆく二人の絆」他に関しては今のところここで公開する予定はありません。あまりこちらに載せてはスレ保管庫に保管していただいている意味がなくなってしまうので。読みたい方は→のリンクからどうぞ)
 
現在まだ保管庫に収録されていないということもあり、
ひとまず加筆した上で、the dayに関してはこちらでも公開することにいたしました。
 
というわけで、よろしければご覧下さい。第一話。
 
↓↓↓↓
 
 

 
 
フェイトの小さな身体が、紙切れのように吹き飛ぶ。
疲労し、魔力を消耗した状態では防ぐことも、避けることもままならず。
遺跡の硬い壁へと激突し、息を詰まらせて口の中に広がる鉄の味を噛み締めるのがやっとだった。
 
詠唱がうまくいったのか、きちんと術式を構築できているのかも、わからない。
ずたずたで両足のニーソックス以外原型を留めていなかったバリアジャケットが、衝撃を殺しきれずに四散した。
 
バルディッシュを抱えたまま、膝を折り壁面へと崩れ落ちる。
 
「っあ……」
 
その敵は、俊敏な動きでフェイト目掛けて止めをささんと向かってくる。
距離が残り数メートルを切ったところで、フェイトは痙攣する右腕を前に掲げた。
 
あと、一撃。この一撃さえ。
 
視界は朦朧。大鼠のようなそれに向かい放つのは、砲撃魔法。
相手の一撃を受ける前に構築を完了していた、渾身の一発。
 
「プラズマ……スマッシャー……」
 
うまく、いっただろうか。
止められたのなら、封印しなくては。
止められなかったなら、戦わなくては。
ああ、だめだ。眠い。苦しい。光が、眩しい。
目が、開けてられない。
 
様々な考えを抱えたままフェイトは、次の行動を起こすことなく首を傾ける。
 
そこまでが、限界だった。
まだ微かに動く大鼠に対し立ちはだかった影に、彼女が気付くことはなかった。
その影は、大きいほうと小さいほう。二種類の姿で、彼女を守るように聳え立った。
 
 
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
 
第一話 そんな気がした、曇りの日
 
 
「あなたはあの子を働かせすぎだ!!クロノ艦長!!今回は私や高町が間に合ったからよかったようなものの……!!」
「わかっている。わかっているよ……シグナム」
 
シグナムは、激していた。
アースラ艦内の艦長室で詰め寄られるクロノは、辟易したように彼女をなだめる。
 
「わかっているが……あの子一人を特別扱いするわけにはいかないんだよ」
 
机に肘をついた両腕の上に顎を乗せ、溜息をつく。
 
深く、深く。
 
その様子にまだ何か言い足りなそうであったシグナムも、言葉を飲み込む。
 
ここ三週間で、18回。アースラとフェイトが出撃した回数である。
いくら執務官が数の限られた人材とはいえ、この回数は異常だ。
 
「丁度、犯罪の多い時期と新しい遺跡の発見が重なっているからな……どこもこんなもんだ、執務官たちは」
「っ……しかし!!あの子はまだ、つい先月執務官試験に合格して資格を得たばかりだろう!!」
「ああ、そうだ。だが新米とはいえ、執務官は執務官だ。───少なくとも上層部はそう考えている」
「大した……平等主義だなっ!!」
 
吐き捨てるシグナムに対して、クロノもいくぶんは同様の気持ちはある。
彼女の──フェイトの兄として、あの子にあまり無理はさせたくない。
この二週間殆ど通えていない学校にも、行かせてやりたい。
 
はじめての学校。卒業を来年、春に控えた今の時期だからこそ、なおさら。
 
シグナムが憤っているのは、はやてからそういった類の話を聞いているからだろう。
特別捜査官である彼女や、教導隊研修中のなのはだって同様に忙しくはあるはずだが、ここまでの過密さではないであろうから。それほどまでに執務官という役職は、便利屋。
なんでもやらされる使い勝手の良いコマという側面が大きく、忙しい。
昨年までは彼自身もそうであったから、身をもって知っている。
 
せめて、2〜3日、フェイトに休暇を出してやることができれば。
運び込まれた本局の医療施設が、入院が必要というくらいの診断を出してはくれないかとすら思う。
しかし、兄妹ということを傘にフェイトを特別扱いするわけには、いかないのだ。
あくまで局内においてはクロノと彼女とは、上司と部下。
変なやっかみや風説、誹謗中傷を受けないためにも、そう割り切らざるを得ない。
クロノは机上の通話装置を操作して、医務局のシャマルへと繋いだ。
 
シャマル、フェイトの具合は?」
『あ、はい。怪我は軽い打ち身や打撲だけなのですぐ治ります。ただ……』
「ただ?」
疲労と、魔力の消耗が激しいです。完全に回復するにはできれば2,3日はゆっくり休まれたほうが』
「……そう、か……すまない、わかった。目を覚ますまではそっちで休ませてやってくれ。報告書はこちらで書くから」
『はい、わかりました』
 
回線を切って、天を仰ぐ。
 
悪い兄だな、自分は。頭にあるのは自嘲ばかりだった。
整いすぎているほど整っている局の医療設備では、いとも簡単に肉体的ダメージは完治してしまうだろう。
加えてフェイトの魔力回復速度は、常人よりもかなり早い。大して長い時間は休むこともできまい。
 
元はといえば、長い間治安の悪化を放置していたとあるいくつかの次元のことも、政治への介入はご法度と各次元国家の無理かつ急進的なロストロギア発掘方針を咎めなかったことも、全ては管理局そのものに問題があるのだ。
 
そのツケを、まだ12歳の妹に払わせようとしているなんて。
ちらりと目をやると、シグナムが無言のままこちらをきつく睨んでいた。
 
睨まれて当然だと、クロノは思った。
 
*   *   *
 
フェイトは、眠っていた。
少なくとも今自分が見ているのは夢であるという自覚があるのだから、眠っているのは間違いない。
 
自分を、第三者の目で見ていた。
 
そこでの彼女は、バリアジャケットに身を包み、エメラルドのような色のロストロギアと対峙していて。

今まさに、封印しようとしているところだった。
ザンバーフォームに変型させたバルディッシュを天高く、持ち上げ。
振り下ろそうとした彼女の右手を、誰かが止めた。
驚いてその主を見る彼女に、フェイト自身もまた驚いた。
 
アリシアが。
アリシアテスタロッサが。
 
それはやってはいけないとばかりにフェイトの手首を押さえて、悲しげに被りを振っていた。
首を振って、呆然とする彼女を残し消えていった。
 
金髪の幼い少女が消えてからは、夢の続きはなく。
フェイトはそれから、ただ深い眠りを貪った。
 
*   *   *
 
「それじゃあ……フェイトちゃんのこと、お願いしますね」
「ええ、いってらっしゃい」
 
これから研修だというなのはは、そう告げて名残惜しそうに部屋を出て行った。
クロノからの通話が切れて、すぐだった。
あの子もまた、このところ多忙な日々を送っている。
人の上に立つ、人をまとめる立場に就くようになったからだろうか。
 
「……ふう」
 
ぎしり、と椅子の背もたれを軋ませて、シャマルは体重を預ける。
 
部屋の隅に二つ設置されたベッドの片方には、金髪の少女が眠っている。
時空管理局第七医療班・主任───現在のシャマルの持つ肩書きが与えてくれた、シャマルの専用の診察室にして仕事部屋だ。
はやてや守護騎士達に加え、今出て行ったなのはも頻繁に利用するが、このところ群を抜いて利用頻度が高いのは、今まさにベッド上に眠るフェイト、その人である。
 
「治せるものなら、治してあげたいけど……」
 
あくまで自分にできるのは、消耗した魔力と、怪我の治療だけ。
それに後者はともかく前者は、できる限り自然に治癒させたほうが本人の身体にとっても負担が少ない。
だから出来る限りは本人の回復力に任せたいというのが本音で。
 
加えて、魔力が回復すればフェイトは疲労の残る身体を押して、任務に飛び出していってしまうことだろう。
医療に携わる者として、また彼女のことを親しく知る者として、それをさせるわけにはいかない。
 
従って怪我の手当てをしてしまったあとで彼女がフェイトにしてやれることといえば、部屋のベッドを貸与して休ませてやることくらいである。
 
「あとで、リンディ提督も来てくれるそうですから。ゆっくり休んでくださいね?フェイトちゃん」
 
応えるはずのない相手に対し語りながら、端末から彼女のカルテ、そして個人情報を呼び出す。
ディスプレーのないパソコンのようなそれは、シャマルの前へと入力されたとおりのものを映し出した。
 
「今月だけでもう、10回目だものね……」
 
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。役職は執務官。
病歴なし。怪我による加療歴、多数。
その部分に今回の治療についてキーボードで書き込んでから、何の気なしに
シャマルはフェイトの経歴を見ていく。
 
彼女が執務官となってからのこと。
自分たちが局に出入りするようになってからのこと。
この時代に守護騎士たちが蘇るきっかけとなった、闇の書事件のこと。
 
すべてを、懐かしく思い出しながら。
 
「……え?」
 
そして、ある一点まで遡ったところで、シャマルはふとあることに気付く。
 
「PT事件より以前のことが、全くない……?」
 
どういうことだろう、これは。
 
いつ、どこで生まれたのかも。実の父親の名前も無く。
彼女が現在の家族であるリンディやクロノと出会うきっかけとなったという事件、それ以前のことが一切、フェイトの履歴からは省かれていた。
 
「意図的に、省いた?これを局に提出したのは母親のリンディ提督のはずだから、彼女が?」
 
よっぽど、隠したいことでもあったのだろうか。
実際に事件に立ち会ったことのない自分には、測り得ぬことではあるが。
 
「───あ。そういえば……」
 
この前祝った誕生日のとき、はやてがぼやいていた気がする。
 
他の友人達の話題を振ったヴィータに対し、皆の生年月日を答えながら、フェイトだけは何故だか教えてくれない、と。
 
シャマルもはやても、ハラオウン一家やなのはの教えてくれたこと以外を詮索する気はなかったから、そのままにしていたのだけれど。
何か、過去にあったのかもしれない。悪い癖だと思いつつも、少し興味が湧いた。
 
シャマル主任、リンディ提督がお見えです』
「あ?え?ああ、はい。どうぞ」
 
慌てて端末の電源を落とし、オートロックされていた部屋の鍵を開錠する。
ほどなくして近づいてきた足音が部屋の前で止まり、自動ドアが横にスライドした。
 
「失礼しますね」
「ようこそ、リンディ提督」
 
入ってきたのはいつも通りの、柔らかい笑顔の女性だった。
鮮やかなグリーンの髪を、首の後ろで緩く結っている。
 
「どうです?フェイトの具合は」
「疲れて寝てますけど……大丈夫ですよ。大したことはありません」
 
はて、この説明を彼女にするのは何回目だったかな。
『大丈夫』、『大したことはありません』。
シャマルは既視感を覚える。それほど、彼女とはやりなれたやりとりだ。
 
つまり、それほどフェイトがこの場所を頻繁に利用し、彼女が見にきているということ。
 
「そうですか……じゃあ、目を覚ましたら連れて帰りますね。いいかしら?」
「ええ。どうぞ待っててあげてください」
 
壁に備え付けられたコーヒーサーバーから、紙のコップにコーヒーを入れて差し出す。
彼女が甘党だということは既に知っているので、スティックの砂糖もミルクのポーションも、大量に。受け取ったリンディは迷わず、それらをすべて紙コップの中へと注ぎ込んだ。
 
「休ませてあげられたら、いいと思うのだけれど……ね」
 
椅子に腰掛けたリンディは、独り言のように言った。
 
今は皆、どこも忙しいのだから。
それはまるで、自分に言い聞かせているようであった。
母親でありまた、提督である自分が肉親の情にほだされることのないように律するための、自戒としての。
 
「……あの、リンディ提督?」
「え?……ああ、ごめんなさいね。そうよね、こんなこと言っちゃって……」
「いえ、そんなことはないですよ」
 
お聞きしたいことがあるのですが、とは言えなかった。
 
明かしたくないことがあるのなら、無理に聞く必要もない。
そう、シャマルは自分を納得させた。
何かを、見落としているような気がしながらも。
ふと思いついたフェイトを休ませる手段を彼女に提案する方向へと、シャマルの心はシフトしていった。
 
(つづく)
 
− − − −
 
感想・その他一言ありましたらどうぞ。つweb拍手