昨日はエース。

メビウスの客演回は毎回、リスペクトに溢れてるなぁ。
エース最終回のセリフをああいう風にアレンジしてくるなんてもう。
 
次回は帰ってきたウルトラマンの客演ですな。
実は二期ウルトラシリーズで1番好きなウルトラマンだったり。
どれも好きだけど、ジャックとレオが双璧。
大体ジャックが1番好きと言うと微妙な表情をされますが(汗
 
 
 
さて、喪失辞書の五話を投下します。
第一ラウンド一区切りってとこです。
 
では、どうぞ。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 
それは、今となっては遠い、過去のことだった。
 
ずっと、ずっと。
 
気の遠くなるような、それがどれくらい前のことだったのか考えるのも億劫になるような、
そんな遥かに遠い、昔のこと。
 
「───そう、そこは全身を使って。周囲にも気を配る」
 
緋色の髪が、木々の間に揺れる。
 
後頭部で括られ、纏められた房がひとつに、自然のまま背に流されたいくつもの筋が、ひとつ。
共に艶やかな女性の髪が、右へ左へ、振れていく。
 
二人の女が、剣を打ち合わせていた。
 
やや比較すると背の低い、髪をひとつに纏めた少女は懸命の様子で鍛錬用の木で出来た刃を振るい。
一方の長髪の女性は、指導の声をかけながらその太刀筋を的確に防ぎ続ける。
 
かつてのシグナムと、その師たる女性の姿であった。
夜天の書が改変を受け闇の書と呼ばれるようになる、さらにその以前。
 
書へと流転の運命が降りかかるより昔の、戦乱とは遠かった時代のこと。
 
「てえええっ!!」
 
シグナムは、ただ純粋に彼女を目指していた。
自分の剣を何の苦もなく捌き教えを授ける、この女性のことを。
いつか自分が越えるべき壁、自分の臨むべき試練であると信じて。
 
害意ではなく、敬意を持って戦うべき存在であると。
自らの進む先へ、彼女の姿をまっすぐにみつめていた。
 
───なのに。
 
悠久の時を経て再会した女性は、師は、姉は。
 
望まぬ戦いに困惑する彼女へと。
明確な敵意をもった刃を向けたのであった。
 
そしてその実力は、シグナムが目標としたかつてのまま。
彼女の力を、あますところなく飲み込んでいった。
 
縮んでいると思った力の差は幾星霜を経てなお、未だあまりに遠い距離だった。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第五話 紅
 
 
「しっかりしてください!!シグナム!!」
「……!?テスタロッサ……?」
 
一瞬、魔力の噴流に飲み込まれ、煽られ。意識が飛んでいた。
身体を揺すってくる少女に気付き、改めて自分が彼女に助けられたのだということを知る。
 
「私は……」
 
身体を覆う騎士甲冑があちこち焼け焦げていた。上半身など、着衣としての原型が残っていない。
よくよく見れば少女のバリアジャケットも、同様のいたるところへの破損が目立つ。
 
むしろ、魔力の残量を除けば、彼女の受けたダメージのほうが自分よりも深いかもしれない。
けっして浅くはない手負いの身で、あの魔力の激流へと飛び込んできたのだから。
 
二人共全身に火傷を負っている。特にシグナムは、右腕の感覚がなかった。
魔力の押し合いに敗れ、その破壊力と火炎によって、表面が焼けただれ酷い有様だ。
あの強力な一撃の最中に、彼女が飛び込んで助けてくれたのだ。
でなければ、今頃はこの右腕の状態が全身にも広がっていたことだろう。
 
その証拠に、動かそうとする四肢には、力が入らない。
殆どの魔力を、競り負けた一撃によって削り取られている。
たった、一度の攻撃で。
 
「……負けたのか……?」
「そう。負けたのよ、あなたは」
 
声に、二人揃って顔をあげる。
その先には、ゆっくりと歩み寄ってくる二刀流の騎士。
 
そして主の手から離れ地面に突き立つ、レヴァンティンの姿があり。
 
歩みを止めた騎士の手によって、炎の魔剣はゆっくりと引き抜かれる。
 
「レヴァンティン!!」
「……あなたにはがっかりしたわ、シグナム。ここまで腑抜けてしまうなんて」
 
シグナムを庇うように、フェイトが二人の間に割って入る。
残された一機のデバイスバルディッシュ・セカンドを手に。
 
「目覚めたばかりの私に敗れ、その上他人に助けてもらうなんて。騎士、失格ね」
「く!!あなたの相手は私が……!!」
「だめだ!!テスタロッサ!!」
 
鋼の戦斧を振りかぶり、立ち向かうフェイト。
しかし応急処置を受けたとはいえ、もともと深かった傷をその身に負っている。
シグナムを助けた際のダメージも、けっして少ないものではない。
持ち前のスピードも、完全ではなく。戦斧は空を切り、地面を叩く。
 
「そんな三下のデバイスで私とやろうなんて……冗談はやめなさい」
「この!!まだっ!!」
 
背後にまわられた。疾い。
気付いたフェイトは、急ぎ振り向く。
 
疾さならば、自分だって。そういう自負があった。だが。
ダメージの残る身体は、敵の動きについてはいけず。
 
「やめろと言っている」
 
身を翻しても、構える間はなかった。
 
強烈な蹴りが少女の腹に吸い込まれ、デバイスをへし折り、吹き飛ばされ。
金髪の若き執務官の身体は地面を転がっていく。
 
テスタロッサ!!」
 
彼女の激突した壁は崩れ、土埃を巻き上げ。
その中にフェイトの姿は消える。
 
「邪魔」
 
騎士は、シグナムへと向き直り彼女を見下ろした。
 
「レクサス……姉様」
「そういえばこの子も、私があなたに授けたものだったわね」
 
がしゃん、とシグナムの前へと投げ出す。
まるでいらないものを扱うかのように、無造作に。
 
「それもこれも、あなたを騎士として認めたからこそ。なのに」
 
女騎士の手元が、動く。
その右手に保持した剣を、逆手に持ち替えた。
 
「牙の抜けた騎士には……剣は、不要」
 
そして、次の瞬間には、全てが終わっていた。
 
瞬く間もなかった。
 
強大な魔力との激突により破損し、ひび割れたレヴァンティンの刃は、粉々に打ち砕かれ。
中枢とも呼べるカートリッジシステムのコアが、刃に貫通される。
 
シグナムにできたのは、わずかに手を伸ばすことだけ。
拾おうにも、激突に敗れたダメージは大きく、身体は碌に動かず。
 
「ベルカの騎士にとって、得物を砕かれるほどの屈辱はない……そうでしょう?」
 
愛機が貫かれ、打ち砕かれていく様を、見ていることしかできなかった。
 
「さあ。あとはあなたよ、シグナム」
 
時が止まったかのようだった。
シグナムはただ、愛機の残骸、大破した炎の魔剣を、呆然と見つめていた。
自分の魂ともいうべき剣が、あっけなく破壊されたその様を、ひたすらに眺めるばかり。
 
「レヴァン……ティン……」
 
悠久の刻をともに戦い抜いたそれはもはや、相棒というよりも半身に近い存在であった。
 
「く……シグナムッ!!」
 
瓦礫から脇腹を押さえ立ち上がったフェイトが、叫ぶ。
ぎこちなく、シグナムは顔を眼前に聳え立つ女性のほうへと持ち上げて。
 
彼女の、名を呼んだ。
また、騎士も彼女の名を呼んだ。
 
互いに。刃を向ける側と向けられる力なき側、双方が。
 
「レク……サス……」
「さようなら、シグナム。我が弟子にして、最愛の妹よ」
 
*   *   *
 
刃は、届いていなかった。
振り下ろされていながら、シグナムの身体には。
 
「……な」
 
間に入ってきた影によって、寸でのところで、相応の代価を支払いながらも。
 
「ぐ……っ」
 
───少女の胸が、十字に切り裂かれていた。
 
シグナムが受けるはずであった、二刀の刃を、その身に浴びて。
紅い鮮血の迸りを、噴出させていた。
 
「シグ……ム……無事、で……」
テスタロッサッ!!」
 
剣の穂先を伝った血飛沫が宙に散り、シグナムの頬に紅い斑点を刻む。
自らの肉体から溢れ出す生々しい赤の塗料の中に、金髪の少女は崩れ落ちた。
 
己の生み出した、血の海へと。
 
「ちっ」
 
女騎士は、自身の意が遂げられなかったことに舌打ちを鳴らす。
シグナムの呼びかけにも、倒れ伏す血塗れの魔法少女は、ぴくりとも反応を示さなかった。
 
テスタロッサ!!」
「……まあいいわ」
 
しかし、少女が身を呈して防いだのはたった一撃。
女騎士にとってはなんでもない動作の、たった一コマにしか過ぎない動き。
 
二撃目以降を防ぐことは、かなわない。
 
「丁度いいことだしね」
 
フェイトが倒れ、シグナムもまた身動きのほぼとれない消耗状態にある今、
女騎士が彼女たちに敗れる要素は皆無だった。
故にか、騎士は剣を下ろし、懐におさめていた魔導書を引き出す。
 
「まさ、か」
「活用させてもらうわ」
「やめろ……それはっ!!」
「蒐集」
 
瀕死の彼女から、今魔力が奪われ、リンカーコアにダメージを受けたら。
ただでさえ弱っている状態だというのに、どうなるか。
止めようにも、シグナムにその力は今はなく。
 
(く……たった、一撃でこんな……!!)
 
いくら心のうちで叱責し鞭打とうとも、身体は小刻みに痙攣するだけで、前に進んではくれない。
 
開かれた魔導書のページが輝き、騎士の手から離れ宙に浮かぶ。
突っ伏すように倒れるフェイトの背中から露出するのは、
彼女の魔力の源たる、黄金色のリンカーコアであった。
 
「っ……!!……!!」
テスタロッサ!!」
 
ページが少女の魔力により、書き込まれていく。
意識すらない小さな身体は、びくびくと激しく痙攣を繰り返し、地面を舐めのたうつ。
 
黄金色の輝きは、ページの増加に反比例するように急激にその輝きを散らしていく。
小さく、小さく減退していく魔力の灯火が失われていくのだ。
 
「やめて……くれっ!!」
 
光は既に、豆粒ほどの儚いものとなっていた。
シグナムの叫びが懇願となろうとも、騎士は残り少ない少女の力の搾取を止めはしない。
 
「ふうん。魔力だけはあるみたいね───……!?」
 
ぽつりと言い放った女騎士の目に、あるものが映る。
 
少しずつ、ゆっくりと。
ひとつずつ増えていく、桜色の光が。
 
それは疎らに空に、シグナムたちの向こうに浮かぶだけであったのに。
徐々にその数を増していく。
 
そして、次第に接近してくる。
 
「!?」
 
蒐集を、一時中断。魔導書を手に、大きく跳躍する。
 
彼女を追うように飛来した桜色の光は、破壊力を伴って、
大地を割り、砕いていった。
 
彼女と入れ替わるように、三つの影がシグナムたちの前へと降り立った。
 
*   *   *
 
「フェイトちゃん!!」
 
親友が、倒れていた。
奇襲、牽制のアクセルシューターを撃ちこみ、大地へと降りたなのははとるものもとりあえず、
自らの血で赤く染まった地面に突っ伏す友へと駆け寄る。
共に救援に訪れたヴィータ、クロノとともに。
 
「フェイトちゃん、しっかりして!!」
 
抱え起こした友は胸を真っ赤に染めながら、ひゅうひゅうと掠れた音を立てて
ひどく荒い呼吸を繰り返し、蒼白な顔で意識を失っていた。
あっという間に、身に纏う白いバリアジャケットが友の血で紅く塗り替えられていく。
 
「フェイト!!……く、なのは、そのまま押さえていてくれ」
 
なのはの膝の上で眠るフェイトは、素人目に見ても危険な状態だとわかる。
クロノがデュランダルを彼女へと向け、大きく口を開けた傷口への応急処置を施す。
 
一瞬にして傷口と周辺の水分が凍りつき、止血が完了する。
この場ではこれが限界、クロノやなのはの使用できる治癒魔法程度では、
焼け石に水にもなりはしない。それほど、傷は深い。
はやく局の医療施設に運ばなければ。
 
「くそ!!あいつ!!」
 
シグナムを助け起こしたヴィータが、激昂したように立ち上がる。
 
「よくもシグナムとテスタロッサを!!」
「よせ!!」
 
だが、その彼女を止めたのは、他でもないシグナム自身。
碌に動かぬ焼け爛れた右腕で彼女の着衣を掴み、引き止める。
 
「シグナム……?」
「闇雲につっこむな……それでは、やられるだけだ」
「なに言ってんだよ!?らしくねーぞ!!」
「聞け!!あれは……あの人は……」
「『あの人』?」
 
シグナムの言い回しは、奇妙だった。
ひっかかる彼女の物言いに、クロノが怪訝な表情を向ける。
 
「ふうん、増援が三人。しかもひとりは、紅の鉄騎ヴィータか」
「なんだと!?」
 
名前を呼ばれ、ヴィータが女騎士を睨む。
 
「あら、私のこと、覚えてない?」
「んだと!?てめー、なにもんだ!?」
「まあ、無理もないか。私自身、いったいどのくらい前か覚えてないんだものね」
 
そして女騎士は、シグナムのほうに目を移した。
複雑な表情で彼女を見つめ返す、傷ついた烈火の将へと。
 
わずかな時間、二人の視線は重なり、交差する。
 
「さすがに退いたほうが無難かしらね、これは」
「く……待て」
「命拾いしたじゃない、シグナム。シャマルたちによろしく言っておきなさい!!」
 
剣の切っ先に、炎が灯る。
その色は今までのそれとは違い、紅というよりも橙。
 
明々としたその色の中に、小さくも濃密な魔力が密集していく。
 
「行かせるか!!ヴィータ!!」
 
クロノの声にあわせ、ラケーテンハンマーの加速を利し
ヴィータが突撃する。そして女騎士めがけハンマーを振り下ろす。
 
「残念、またね」
 
だがそれでも、その加速よりも騎士のほうがはやかった。
 
騎士は切っ先の魔力を、地面へと叩きつけ。
巻き上がる土埃と、噴煙。魔力によるジャミングに、その姿が包み込まれていく。
 
「待て……待ってくれ!!」
「くそ!?外した!!」
 
グラーフアイゼンが、空を切る。
既にヴィータの狙ったその場所に騎士の肉体はなく。
 
「アースラ、追尾は!?」
『ダメです!!ジャミングがかかっている上に、術式が変則的で……』
 
エイミィの不在が祟った。
せめて通信のエキスパートたる彼女がいれば、もうすこしどうにかなったかもしれないというのに。
 
「次は、もう少し昔のようなあなたに戻っておきなさい……シグナム!!」
 
騎士は、シグナムへの言葉を残して煙の中に消えた。
煙が晴れたそこに、なにも彼女の痕跡を置き去りにすることなしに。
 
救援に訪れた三人と、重傷者二人。
そして魔力を吸われシャッハの腕の中眠り続けるはやてだけが、その場にあったすべてであった。
 
 
 
(つづく)
 
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