新刊情報ktkr!!

 
ということでその勢いでなのユー話とweb拍手更新。
 
多分、大方の皆様の予測通りの展開だと思います。
直球しか投げられない男なものでorz
 
web拍手レスは諸事情により夜か明日にでも。
 
 
 
 
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第二話 沈黙思考
 
 
どう考えても、妙だった。
 
たしかに自分も恩師も、相応の立場であるからと言われてしまえばそれまでではある。
けれど、これはいくらなんでも、やりすぎではないだろうか。
なにかあると、勘繰りたくなってくる。
 
「……」
 
広い食堂には、二人だけ。食事の音だけが細く、響き渡る。
その食事も、高々訓練校の食堂で出されるようなものとは思えないような、いささか豪勢な代物であった。
 
こういうものが作れるなら、普段から訓練生たちにも出してあげればいいのに、とも思う。
予算的に不可能なのは、わかっているけれど。
 
「───あの……っ」
「ところで、なのは。あなたは」
 
テーブルの隅に置かれた無地のファイルも気になる。
 
意を決して尋ねてみようとして、会話がかち合った。
柔和な表情の恩師と苦笑しあい、話の優先権をゆずりあう。
 
「お先に、どうぞ」
「いえ、コラード三佐のほうから」
 
年齢も、階級も。
あちらのほうがずっと目上なのだから、こちらが譲るべきだ。
彼女に促され、対面のコラードも軽く頷いた。
 
そして、途切れていた言葉をもう一度最初から言い直す。
 
「あなた、何歳になったといったかしら?」
 
───なんだ、そんなことか。
 
他愛もない質問に、少々拍子抜けする。
話の本題を振られるかと思って、一瞬身構えたのに。
 
気が抜けたような、安堵したような気分で肩から力を抜いて、答える。
 
「今、十九歳です。ここにお世話になったのが十歳のときだから……もう十年近く前になりますね」
 
あのころは、自分も親友も、今よりずっと未熟で幼かった。
もちろん今だって自分が一人前だなんて、思わないけれど。
 
もうそんなになるかと、十年という月日の流れを思い返す。
今までの、十年。やっと十年。まだ十年。言い方は色々あるけれど、長くもあり短かった。
 
「そう……十九……」
 
その歳月を噛み締めるように、しみじみとコラードが言った。
相変わらずの、優しい目をして。
 
彼女にとっての十年間は、多くの生徒達を迎え入れ、送り出していった年月。
その年の数だけ彼女のもとに教え子がやってきて、そして巣立っていく。
そんな日々であったはずだ。そして、これからも。
 
「もう、すっかりお年頃といったところかしらね?」
「いえいえ、そんな」
 
この訓練校の校長という職にある、未だ独身の女性の言葉を、なのはは冗談と受け取った。
たしかに年齢だけでいえばそうなのかもしれないが、まだ自分にはそんな言葉は早いと思う。
 
まだまだ、子供だ。
 
「そんなこと、ないわよ。十九歳といえばもう恋愛のひとつやふたつ、経験していたっておかしくないわ」
「あはは……」
 
そういうことも、残念ながら(?)ない。
今は仕事と、スバルたちを鍛えること。そしてヴィヴィオの世話とに夢中で精一杯だ。
来期には新人がまた六課に入ってくることだろうし。
 
「それとも、もう心に決めた人がいるのかしら?」
「へっ?まさかぁ……」
 
それこそ、ない。
男性局員の知り合いはそこそこにいるが、特に親しいというわけでもない。
そのうちでもプライベートでも交流があるのといえばユーノとクロノくらいだ。
片方は既婚者、しかも親友の兄だし、もう一方は幼馴染みである。
 
そういうのとは、違うと思う。……多分。
 
少々、話に対してのリアクションに困る。一体この女性は、何が言いたいのだろう。
このような世間話をするために二人だけの食事に誘われたわけではないと思うのだが。
 
「……そう。少し意外だったわね」
「えと、申し訳ありません?」
「いや、謝る必要はないのだけれど。でも、そう」
 
なぜだか、なのはにはコラードが意外だと言うのと同時に、ほっとしているように見えた。
相も変わらずの柔和な表情の中に、どこか。
  
それも、なのはを戸惑わせる。
  
「なら、よかった。話というのはね、なのは」
「は、はい」
 
だが、彼女の戸惑いなど関係なしに話は続く。
 
憂いのなくなった初老の女性は、先程からテーブルの上で放置され、出番への待ちぼうけを食らっていた格好の白いファイルへと手を伸ばす。
 
そして、こう言った。
 
「あなた、お見合いしてみる気はないかしら」
 
*   *   *
 
「それで、なんて答えたの?」
 
親友からの電話に、フェイトは内心の動揺を押し隠して尋ねた。
 
夜のオフィスには、スバルとシグナムが他にも詰めている。
シグナムはこっそりと、スバルのほうは興味津々といった様子で聞き耳を立てている。
二人共聴覚に肉体強化魔法をかけているのでバレバレだ。
 
『うん……。家族や周囲と相談した上で、返事します、って』
 
まあ、無難な返事ではある。
しかし、それではもし家族の反対がなければ、逆に断り辛くなるのではないか?
思い、フェイトは尋ねる。
 
「桃子さんや士郎さんはなんだって?」
『まだ、お母さんだけなんだけど、自分で思うようにしなさい、って。明日、一度実家に帰ってからお父さんやお姉ちゃんたちときちんと話し合うつもり』
「……そう」
『だから、もう二、三日は隊舎のほうには帰れないと思う』
 
放任主義の桃子さんらしいといえば、桃子さんらしい。
桃子さんが了承しているというのなら、士郎さんたちもそこまで激しく反対することはないだろう。
 
「で、なのははどうしたいの?」
 
そうなると、結局一番重点が置かれるのはそこ。
なのはの気持ち、意志次第ということになる。
 
『…………わかんない、まだ』
 
やや返事に間があって、微妙なニュアンスの回答があった。
少し時間があったのは、思考のためのタイムラグといったところか。
 
「お見合いって……いいの?なのはは、それでいいの?そんな急に。ヴィヴィオだって」
テスタロッサ
 
反対に、フェイトは饒舌になっていた。
彼女の様子に、自分の机でデスクワークに勤しんでいたシグナムが席を立つ。
 
それと前後して、電話の向こうでなのはが呟くように言った。
 
『フェイトちゃんは反対なの?』
 
その声によって、フェイトは自分のほうが必死になっていたことに気付かされる。
 
知らず知らず、なのはにこの話を断るよう勧めようとしていた、なのはが断ることを前提に会話をしていた自分に。
 
自分の口調には、なのはを咎めるような響きが加わっていた。
 
『なんだか、反対してる?』
「え?……あ、いや、それはその……」
「失礼」
「えっ?」
 
その事に気付き、更に動揺する。だってユーノが、と思わず本音が口から出そうになってしまう。
彼女自身のことで、彼女に選ぶ権利があるというのに、自分は何をやっているのだろう。
 
とっさの誤魔化しの言葉も思いつかず慌てる彼女の手から、シグナムが携帯電話を抜き取っていった。そして、フェイトに代わり電話口に出る。
 
「ああ、すまない。代わった、シグナムだ」
『あれ、シグナムさん?フェイトちゃんは?』
「ちょ、シグナム?」
 
抗議の声を向けるフェイトに、ちょっと待てとジェスチャーを送り、
悪びれもせずなのはと会話を交わすシグナム。
 
「今、書類の不備があったらしく経理のほうに至急で呼び出されてな。私が代わった」
『はあ』
 
そして、真横にいるフェイトのことをいないとぬけぬけと言ってのける。
二言三言言葉を行き来させて、彼女は通話を切った。
 
ぱたん、と携帯を閉じてフェイトのほうに突き出す。
 
「気持ちはわかるが、お前が慌ててどうする」
「……すいません」
 
つい、気が動転してしまっていた。肩を軽く叩かれて、うな垂れる。
 
なのはがお見合いするかもしれない、たったそれだけだというのに。
まだなにも決まっていない、本人さえ曖昧にしか感覚のないことに対して、聞いたほうが慌てて止めようとしたって、どうするというのだ。
 
けれど、もしなのはがこの話を受けるとしたら。
 
「もしなのはが受けたら……ユーノは」
 
ユーノは、どうするのだろうか。また、なのははそれでいいのだろうか。
 
そう思うと、気持ちが落ち着かない。
おせっかいや余計なお世話、こちらの勝手な思いだとはわかっていても、どうしても気になってしまう。
 
彼女とユーノとの関係がどうなってしまうのか。
 
「ひとまずは、なるようにしかならないだろうな。見守るしかあるまい」
「……はい」
「これはあくまで、あの子の問題なのだからな。親友だろう、信じてやれ」
 
そして彼女が納得して選ぶのなら、お前も納得してやれ。
 
二人が顔を向けると、スバルがきらきらした目でこちらを見ていた。
なにがあったのか好奇心に満ちた、わくわく感が溢れ出る目だ。
 
やっぱり、この子にもまだ早いみたいだ。
状況のわかっていない彼女の様子に、フェイトは溜息をついた。
 
*   *   *
 
シャワーを浴びている間も、ずっと考えていた。
 
コラード三佐から言われたこと。勧められたこの縁のことを。
熱いお湯を身体に受けながら、じっと思考していた。
 
「ふうっ」
 
自身の宿泊する、教官用の宿泊部屋は一人で泊まるには少々広い。
彼女が身を投げ出したベッドも、ダブルサイズのものが二つ並んでいる。
 
頭にゆるく巻きつけていたタオルが解け、濡れた髪がベッド上に散らばっていた。
程よい空調が効いていて、空気が流れ髪の隙間をゆっくりと抜けていくのが心地よい。
 
「お見合い、かぁ」
 
正直言って、実感が湧かない。
自分にそんな話が舞い込んでくるなんて、思ってもみなかった。
 
せいぜい、なのはにとってお見合いなんて、TVドラマや物語の中の話で。
現実に己が受けることになるなんて、考えたこともなかったのである。
 
そんな話を申し込まれるほど、自分が大層な人間であるという気もしない。
 
「どうしたらいいんだろう」
 
もちろん、そういう風に言ってくれる人がいるというのはありがたいことだとは思う。
話を持ってきてくれたコラード三佐の顔も、立てるべきなのだろう。しかし。
 
自分には、まだ早いのではないかという気もする。
しなければならない、意識を傾けねばならないことも多い。
特に機動六課にはまだレリック事件の事後処理という大きな課題が残され、フェイトやはやてが必死に頑張っているというのに、
自分ひとりがそういったことに現を抜かしていていいのだろうか。
 
スバルたちにも、残された僅かな時間でまだ教えなければならないこと、伝えなければならない技術が山積みなのだ。
 
「……フェイトちゃんも、なんだか反対みたいだったし」
 
思い返してみれば、妙な反応だった。
ただ単純に反対しているというよりもどこか、なのはが男の人とお見合いをするということ、そのものに対して反発を抱いているような。それが何故だかはわからないけれど。
 
お見合いをすること自体に、彼女は反対しているようだった。
 
「なんでだろ」
 
なのは自身、今まで会ったこともない男性と顔を合わせ、予め交際することを前提に話をするというのは不安がないわけではない。少々、怖くもある。
 
渡されたファイルの写真やプロフィールを見るに悪い人ではなさそうだったが、それでも人というものは実際に会ってみないとわからないものだ。
現実のそういった事象を抜きにして、お見合いという様々な題目の詰まったイベントを振られることに違和感だってある。
 
不確定要素が多い一方で、確定していることも多い。
 
彼女も、そのことに対し不安に思ったのではあるまいか。きっと、心配してくれたのだろう。
自分がいまいちお見合いというものにぴんとこないのも、そのせいかもしれない。
 
「誰かに、相談してみようかな」
 
枕元の携帯電話をとり、開く。
電話帳をつらつらと眺めていって、これだと思える人物を探すが、なかなかいない。
 
「と……ここと海鳴の時差は三時間だから……」
 
その線は、ペケ。
もう深夜でみんな、寝てしまっているだろう。
となると、局関係の人間ということになるが───……。
 
仕事のみのつきあいの人には、話せる問題ではないし。
六課のメンバーも、夜勤グループ以外はだめだろう。明日の仕事に響く。
クラウディアも、今電波の届くところにいるかどうかもわからないから除外。
というよりも、クロノたちは仕事と子育てとでそれどころではないだろう。
 
適任者は思っていたよりも見つからなかった。
 
「……あ」
 
と、そこで。一人の名前に行き着く。
 
連絡するのに不都合がなくて、それでいて親しくて、なのはの相談に乗ってくれそうな人物。
 
「ユーノ君」
 
ユーノ・スクライアというカタカナ文字が液晶に浮かぶ。
彼ならば相談に乗ってくれるだろうし、的確なアドバイスをくれるかもしれない。
 
なのはの信頼する、彼ならば。
 
「……」
 
彼に、このお見合いの話を相談すれば。指先が通話ボタンにかかる。しかし。
 
「……やめとこ」
 
なのはは、そうしなかった。
 
明確にこうだ、という理由があったわけではない。
なんとなく気が乗らなかっただけだ……と、自分では思う。
 
そのなんとなくで、なのははユーノへの連絡を避けた。
彼に自分の受けた話を、聞いてほしい。相談に乗ってほしいという気が、
不思議なほどに湧いてこなかった。
 
むしろ、彼にはこのことを、知ってほしくなかったのかもしれない。
 
(つづく)
 
 
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