久々に喪失辞書を更新した(する)わけなんですが。

ようやくメガミマガジンを読んだのもあってやっぱりなのフェスで出すのはどっちにしようかと、
また悩みはじめた次第です。
 
てのも、まあなのユー話の場合
 
本編がはじまってすらいないのに本編の後日談出すってのもどうよ?
 
と思ってみたり、お?と思う部分がメガミを読んでてあったりするわけで、
きちんと色々な要素が本編で確定してから反映させた上で本にしたほうがいいのかなぁ、とも思うわけで。
 
表紙を人にお願いする予定であるので、今日・明日中には確定させますが。
どっちも本にするだけの量はたまってるので。
 
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
───これがいわゆる、針の蓆というやつなのだろうか。
 
青年は男達の、ほぼ罵声に近いような怒声を浴びながら、ぼんやりとそんなことを思った。
 
広い会議室には、喧々囂々。
集まった者たちは半数は青年に向かい一方的にまくしたて、
もう半数は彼らの剣幕を止めるでもなく眉を顰め、
呆れたように各々、騒ぎの収まるのを待っている。
 
なんとかこの収拾をつけようとしているのは議場の端に座っているレティ提督、
それにもう一方の隅にいるクロノを含め、ごく一部の者だけだ。
 
リンディ提督がこの場にいればそれに加わるだろうから、人数には心中でプラス1しておく。
 
「きみはわかっているのかね!?アコース査察官!!事の重さが!!」
 
あまりに無意味な説教を繰り返すので聞き流していたが、ばれただろうか。
一応形だけ背筋は伸ばし神妙な顔を返すが、内心は辟易していた。
 
重大さなど、言われるまでもなくわかっているとも。
ヴェロッサはわかりきったことばかり連呼する彼らに、飽き飽きしていた。
 
「三人もの優秀な魔導師を投入し、うち二人が負傷!!特にハラオウン執務官は重傷ときている!!肝心のロストロギアも確保できず!!指揮権のあったきみは、どういう責任をとるつもりかね!!」
「提督、失礼ながらはやてとシグナムは魔導師ではありません。騎士です」
「そういうことを言っているのではない!!反省はないのかと聞いておるのだ!!」
 
少し場を和まそうと気を利かせてみれば、これだ。
これだから頭の固い上層部は困る。
レティ提督やかつてのグレアム提督のような人が、もっと増えてくれればいいのだが。
 
耳がきんきん鳴りそうにわめく提督たちは、実力はあったのだろうが
人の上に立つ者としては資質に問題ありだな。
査察官という職業柄、こういったどうでもいいことにも一々評価をつけてしまうのは我ながら、治すべきだろう。
 
いい加減にうんざりしてきたヴェロッサは、彼らを黙らせるべく口を開いた。
 
「反省して事件が解決するというのなら、いくらでもしますよ。だがそうでない以上、今は解決を最優先に考えるべきではないですか?」
 
もちろんその言葉は逆に、火に油を注ぐこととなったのだが。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第六話 the lost encyclopedia
 
  
「っと」
 
会議室をあとにし、休憩所のベンチに腰をかけるなり、缶コーヒーが飛んでくる。
ブラックの、無糖。これを愛飲するのは───……、
 
「お疲れさん」
「やっぱりクロノくんか」
 
お前か、友よ。案の定というべき相手に、ヴェロッサは苦く笑う。
ブラックは胃に悪いからと、あまり得意ではないのだが。
 
友人は、彼の前の壁によりかかり、同じブラックコーヒーの缶を開け、呷った。
いつもより目が充血していて、寝不足らしい。
そして一息ついてから、呆れたように言った。
 
「きみはどうしてそう、一言多いんだ。特にああいう席では」
「ははっ。まあ、性分でね」
 
せっかくのおごりだ。
ヴェロッサのほうもプルトップを引き、中の黒い液体をすする。
ホットを飲むにはいささか空調が効きすぎているようにも感じられたが、
コーヒーの味そのものはなんの変哲もない。若干、ぬるい程度だ。
 
「……フェイトくんと、シグナムの容態は?」
 
はやてが目を覚ましたところには立ち会ったが、二人の任務後の様子についてはまだ訊いていなかった。
彼の質問に、クロノは缶を口から離し溜息交じりに応じる。
大分に、安堵の色の加わった口調だった。
 
「幸い、出血以外は大したことはないそうだ。一、二週間は安静が必要らしいが、命には別状はない」
 
傷も、切り口があまりに鋭利で綺麗だったおかげで、まず残ることはないらしい。
それもこれも、不眠不休でシャマルと医療スタッフが頑張ってくれたからなのだが。
命の心配をしなければならないような状況は脱した、と。
 
そこでヴェロッサは彼の目が赤いのが、夜通し妹に付き添っていたからだということに思い至る。
 
「シスコンだねぇ」
「ほっとけ。……で、シグナムだが」
「ん」
「こっちも腕の怪我以外は問題ない。しかし───」
 
クロノが、言葉を濁す。
戸惑っているように、言おうとしている彼自身、信じられないかのように。
代わりに、ヴェロッサのほうで言葉を繋げた。
 
「精神的に、塞いでいる?」
「───ああ。驚いたよ、これでも付き合いはそれなりに長いんだが」
 
あのような憔悴しきったシグナムを見るのははじめてだ、と。
 
「レヴァンティンの修復には時間がかかるだろうし、フェイトのバルディッシュも完全にオーバーホールが明けるのは三日後。どの道、しばらくは動けないだろうが」
「陸士部隊や空隊のほうに人員借りた件、きっちり書類出さないとだろうしねぇ」
「今後……なのはやヴィータの力も借りることになるだろうしな」
 
問題は山積み、というわけだ。
 
「責任をとるのは一向にかまわないけれど、この任務をきっちり終わらせてからだ」
「ああ」
 
だがそれでも、やらねばならない。
責任をとれというのならば、自分たちの手で解決する。それが責任をとるということだろう。
 
散々に非難されながらも、口八丁でヴェロッサはこの件を自分達に任せる旨、
お偉方たちからの言質を会議の席上とっていた。
会議の内容は正式のものであるから録音されているし、万一に備えクロノも
密かに懐中のデュランダルにその瞬間の音声は収めている。
 
「ひとまずは、対策を練らないとな。ユーノからの資料はまだだが……」
「明日までに会議のセッティングと通達、頼めるかい?必要な人材の人選は任せる」
「ああ、もちろん」
 
拳を軽く突き合わせ、責任ある立場にある二人の親友同士は別々の道へと分かれた。
 
*   *   *
 
汚れ一つない白い包帯が、見つめる掌を覆い隠している。
握って、開いて。また握っては開く。
 
業火に焼かれた腕の表面は未だ、赤く焼け爛れていることだろう。
たとえ純白の包帯が包み込み、外見的にそれを確認することは出来なくとも、
『彼女』から受けた傷はこうして確実にシグナムの身体に残っているのだ。
 
「……ザフィーラか」
 
病室の前に止まった気配を察し、彼女はドアが押し開かれる前に声をかける。
引き戸を横に押しやり姿を見せたのはシグナムの読み通り、褐色の肌の屈強な獣人。
 
無言で入ってきた彼は、ベッドサイドに置かれた、彼の体躯からすれば些か頼りない椅子へと腰をおろす。
 
「どうだ、回復の具合は」
 
そして、単刀直入に聞いてきた。
余計な気遣いも婉曲な言い回しもない、彼らしい問いかけだった。
 
シグナムもまた感謝もなにもない、ありのままの現状報告のみを言って返す。
 
「10〜20%といったところか……もっと低いかもしれんな、右腕は」
 
なにしろ、表面が殆ど炭化し、ケロイドのみと化していたものを無理矢理に魔力でここまで回復させたのだ。
痛み止めと感覚麻痺の魔法のおかげで痛みも今はないが、それが切れればほんの少し
風が吹きつけただけでも、切り刻まれるような痛みが駆け巡っていくことだろう。
 
わずかに、皮のつっぱるようなぴりぴりとした感覚が包帯の内側から伝わってくる。
もっともこれでも、二年前なのはが重傷を受けた事故のときよりは治療は容易だったらしい。
自分の場合は表面と筋肉だけであったが、彼女はそれらへの重度の裂傷・火傷に加え、
骨も砕け折れていたのだから。
 
「……テスタロッサはどうしている」
 
今度はこちらから聞く番だった。
シグナムの腕が今こうしてくっついているのは偏に、彼女のおかげなのだ。
自分を助け、自分の身代わりとなり斬られた少女。
 
彼女がいなければ、今頃自分は。
いたたまれない自責の念が、身を焦がす。
 
「今は小康状態といったところか。母君のリンディ提督に付き添われて眠っている」
 
麻酔が切れれば、自然に目覚めることだろう。
シャマルからの受け売りを、ザフィーラはそのまま伝えた。
 
「クロノ提督とアコース監査官主導で、今回の件に向かうらしい」
 
そして、今後について語る。
 
テスタロッサのかわりには……高町なのはか?」
 
彼女の問いに、無言で頷いた。
 
なのはのアースラへの臨時編入は、本人の希望によるものだった。
正確には彼女の要望をクロノたちが受け、指揮する小隊ごと、航空隊から艦に借り出した形となる。
 
「我々もまわされることになった」
 
更には、ヴォルケンリッターも……療養中のはやてとシグナムの二人を除き徴用される。
 
「大方、ヴィータが自分も加えるよう騒いだのだろう?」
 
最近のなのはの様子を見る限りでは、本調子ではない。
どこか体調でも悪いのか、それとも精神的なものか。
シャマルの診察を受けていることもあった。
 
ヴィータもそのことには気付いているだろうから、なのはが志願したとなれば
当然彼女も続くであろう事は想像に難くない。
 
「すまんな。右腕がこんな状態でなければ、戦線に加わるのだが」
 
言いながらも、シグナムは到底自分が戦えるような状態でないということを自覚していた。
 
たとえ、右腕が無事であっても。
剣を折られ、誇りを砕かれた自分は、戦えない。
 
「……なにがあった」
 
それほどに、今の自分は頼りなく映ったのだろうか。
無口な獣人は、ぼそりと呟くように問うた。
 
お前らしくもない。そう言いたげな目がこちらを見ていた。
むしろ、こちらが本題であったのかもしれない。
 
「明日早朝に会議が開かれるとのことだが、それよりも解せん。お前やテスタロッサをここまで追い詰め、主はやてから殆どの魔力を奪うあいてなど」
 
そうはいるものではない。
 
「……ザフィーラ。それにシャマル
 
彼女の呼びかけに、がたんと扉が揺れた。
一拍の後入ってきたのは、部屋の外で盗み聞きしていたシャマルである。
気付かれていたかと、少々気まずげに頭を掻きつつ。
 
「お前達、昔のことはどれほど憶えている」
 
見上げた天井には、染みがあった。
 
「我々が生み出されてから……どれくらいのことを」
 
あれはきっと、自分の中に残る『彼女』の姿そのものだ。
心という天井に影を落とす、暗い染みなのだ。
 
「我々には、もう一人……志を同じくする仲間がいたはずだ」
 
遠い悠久の時の向こう、夜天の書在りし日々に。
彼女はいたはずだ。
 
「……まさか」
 
ザフィーラの表情が、なにかを思い至った表情になる。
そして、椅子を蹴り倒しながら勢いよく立ち上がった。
僅かながら、彼には残された記憶があったらしい。
 
「ありえん!!『アレ』は主を飲み込んで……融合に失敗してすぐ、破棄されたはずだ!!」
「ザフィーラ」
「……ああ、そのはずだった」
 
彼女との別れに心痛めたのは、誰よりも自分であったのだから。
 
「だが主はやての魔力を得、復活し。あの方は確かに私の前に現れたんだ」
 
夜天の書の前身としてこの世を渡るはずであった、一冊の名もなき魔導書。
その守護騎士として生を受け、書と共に眠りについたはずの彼女は。
 
その復活とともにシグナムに、鮮明なかつての記憶をもたらしていった。
 
「間違いない。あれは……レクサス姉様だった」
 
 
(つづく)
 
 
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