しーあんどみー。

 
なわけです。アフター話。
すんごく久しぶりに書いた気がする。
 
今回、アリシアが中心になってますので
「なんでアリシアが生きてんの?」て人は→のカテゴリーから「she&me」を参照。
she&meそのものを書いたのはもう三年くらい前になるんだなぁ・・・。
加筆加えてここに載せたのはつい最近ですが。
 
 
てわけで、どぞー。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
どうしてここに、彼女がいるんだっけ。
 
ユーノが状況を把握しきれていないのは、深夜まで作業にかかりっきりで
疲れきった身体から疲労の抜け切っていない、寝起きだからというだけではない。
 
むしろ、その顔を見たせいではっきりと目は覚めた。
 
「おはよー♪ユーノ」
「……おはよう」
 
無限書庫の当直室に設けられた仮眠部屋には、ベッドが二つ。
その片方は空いていて、もう一方を自分が占拠しているのだが。
 
「一体、こんな朝早くからどうしたのさ。……アリシア
 
靴を脱いだ金髪の少女が更に、ちょこんと自分の上に覆い被さるようにして朝の挨拶をしてくるのである。
 
もう、驚いたやら、唖然とするやら。
というか、仮にも朝のベッドルームに男女が二人。
しかも体勢的には、非常にのしかかり座り込んだアリシアが非常にアレな姿勢である。
万一人に見られでもしたら、誤解は免れまい。
 
「えへへーっ。実は、お願いがあってきたのですよ」
「お願い?」
 
とりあえず、はやく退いてほしいというのがユーノの心にある第一であった。
しかし彼女は、彼の焦りと動揺の入り混じった思いを察することなく、
満面の笑みで余計、顔を近づけてくる。
 
そして、言った。
 
「魔法、教えてくれない?」
 
 
魔法少女リリカルなのは she&me after
 
アリシアの特訓〜
 
 
「お待たせ」
 
とりあえず、身支度だけはさせてくれと。
彼女への返答を棚上げし後回しにする形で一旦室外に追い出し、
簡単な着替えと洗面所関連の身支度のみを済ませたユーノは、待たせている応接室へと顔を出した。
 
「いえいえ〜♪」
 
外見年齢相応に飽きっぽいところがある彼女だから、てっきり待たせたことで不機嫌になっているのかと思っていた。
しかし、迎えたアリシアはそのような素振りは一切見せず、予想に反してにこやかに返してきた。
 
それはもう、絶対腹に一物、なにか裏があるというのが透けて見えるような満面の100万ドルスマイルである。
 
「……で、何?魔法?」
「そ、教えて。ていうか教えろ」
 
今、はっきり命令したなオイ。
笑顔をつくりかけた頬を引き攣らせながらも、ユーノはつとめて冷静に彼女に問い質す。
別に、教えること自体は吝かではない。
ただそれにはきちんと理由を聞いておかなければ。
 
「一体、なんでまた?それに僕じゃなくても教えてくれる人、いっぱいいるでしょ?」
 
なんのもてなしもできないが、仕方ない。
この時間では生憎、まだ誰も書庫の係官は出勤してきていない。
 
「フェイトやクロノに教えてもらえばいいんじゃ」
「やだ」
 
……これまたきっぱりと。
 
秒で拒絶され、固まるユーノ。
 
「それじゃ、意味ないの。内緒で使えるようにならなくちゃ」
「えと……どうして?」
 
それは非常に、簡単な理由で。
 
彼女が説明するところによるとつまり、
内緒で魔法を練習して使えるようになり、家族を驚かせたいということらしい。
 
「だってうちで魔法使えないの、あたしだけなんだよ?そんなのずるいと思わない」
 
ずるい、ねえ。
用法は間違っている気もするが、言わんとしていることはわかる。
普段魔法を使わないエイミィにしても士官学校を出ているわけだから、
ある程度最小限の魔法は使えることだし。
その他の三人(+使い魔一匹)については、言わずもがな。
 
「血統的には十分だと思うの。プレシアお母さんやフェイトと同じ遺伝子なわけだから」
「……ちなみに、今の魔力値は?」
「んと、この前の検査で82」
 
別に、ユーノとしては勤務時間以外という条件でならば、教えるに吝かではない。
魔力値も訓練次第ではある程度伸ばせるだろう。
 
しかし。
 
「目標は?」
「フェイトみたいに、ずばーんってやれて、どかーんってできるの」
「無理」
 
今度は、こちらが即答。
あれはもう、血筋だけでどうにかなるような代物ではない。
その魔力値では……というより、一般的な魔力値のレベルでは不可能。
 
ユーノの返事に、アリシアは口を尖らせる。
 
「なによ、それー。やってみなきゃわかんないじゃない」
「いや、絶対無理」
 
ここだけは自信を持って言うことができる。
なのはのように最初から魔力に恵まれていれば別だが、あれも殆ど奇跡のような確率の産物だ。
そもそも、だからこそ戦闘にあまり向かない自分でもある程度戦闘技術を教えることができたのだ。
土台となる魔力の部分が、しっかりすぎるくらいしっかりしていたからこそ。
 
フェイトのような高速戦闘となると自分の指導は完全に専門外、お話にならない。
 
「……まあ、魔法の基礎的なところとかでよければ、教えるけど?」
 
念話とか、簡単なものにはなるが。
アリシアの今の魔力からして、その辺がいいところだろう。
戦闘魔導師は、諦めろ。
 
「うー……わかった」
 
しぶしぶ、といった様子でアリシアは頷く。
スケジュールを確認してからまた連絡するということで、その場は切り上げた。
確か今週は金曜が暇だったはずだ。
 
「……っと。そうだ、ユーノ」
「うん?」
「絶対、うちのみんなには言っちゃダメだからね」
 
ぼんやりと練習メニューを考え始めていたユーノに言い置いて、彼女は帰っていった。
 
いいのかなぁ。頭をぽりぽりと掻きながら、ユーノは思った。
 
*   *   *
 
で。
 
アリシアったら……もう。道理で」
 
はやくも一週間後、悪いとは思いつつもユーノは早速フェイトに、アリシアの訓練を始めた旨明かしていた。
アリシアにつける訓練の時間を終え、帰っていったあとの無限書庫に彼女を呼んで。
 
いくら初歩の初歩しか教えないとはいっても、魔力を扱うことである。
医者から問題ないと言われているそうだが、なにぶんアリシアの肉体は普通に生まれたものではない。
 
一応、事後承諾でも家族に許可を取る必要があった。
 
「ユーノも、ごめんね?忙しいのに」
 
黒ジャケットの彼女は、申し訳なさそうに頭を下げた。
 
「いや、大して仕事に影響があるわけでもないし。このくらいなら全然問題ないんだけど」
 
魔力の総量が少ない分、練習に使える時間も自然少なくなってくる。
内容も基礎の基礎というところだから、本人の感覚に頼るところが大きい。
 
せいぜい、術式の構築方程式などを教えるのに少々手間を食う程度である。
勉強が苦手だという彼女にしては、しっかり真面目にとりくんでいる。
 
「それで……アリシア、ちゃんとやれてる?迷惑かけたりしてない?」
 
彼女の妹──むしろその心配は姉心のような気もするが──として、やはり心配なようである。
 
その点も問題はない。
素直にこちらの指導には耳を傾けてくれるし、
座学が少々苦手で飲み込みが遅いくらいで、肉体の感覚もさすがフェイトの姉というべきか、
なかなかいいものを持っている。
 
土台無理な戦闘魔導師の分野を早々に諦め、日常生活などでの使用頻度の高い、
念話などといった一般的な魔法を中心としたメニューを組んだことも彼女の飲み込みを早くしている。
 
「……そう」
 
彼女は、意外だという風な顔だった。
 
「あの、アリシアが……」
「?」
「あ、ううん。ちゃんとやれてるならいいの。そっか、アリシアが」
 
でも、それも一瞬のこと。
 
喜ばしげな顔に、すぐに変わり。
小さな姉の頑張りを、素直に応援しているようだった。
 
「あ……これ、アリシアには内緒にね?口止めされてるから」
「もちろん。教えてくれてありがと。アリシアのこと、お願いするね」
 
フェイトに微笑みながら頼まれて、笑い返す。
 
もちろんだ。
最初は不安だったが、アリシアは悪い生徒ではないし、仕事漬けの毎日の気晴らしにもいい。
 
なにより、アリシアがこの世界に『帰ってきた』あの日から、
もう半年にもなる。彼女にも、何かしら集中できるものがあったほうがいいのだろう。
 
「任せてよ」
 
サムズアップの親指を立てる。
ユーノは、真剣にアリシアを教える気になっていた。
 
それから二週間後、アリシアは晴れてデバイスの補助なしに、離れた場所への念話を行うことに成功したのであった。
 
 
(おわり)
 
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