なんかニアピンげ?

 
ネタバレになる地域の人もいるので詳しくは書きませんが。
しかしアニメディアを立ち読みするのは勇気がいるな・・・。
 
以下、web拍手レスです。
 
>①唐突ですが、質問があります。SSというか文章を早く書き上げるのには、どうすればいいのでしょう?
> ②頭ではイメージ出来てもそれが文章になりません。何かいい練習方法はありますでしょうか?

なんかガチな質問きましたよ(滝汗
いや、別にはやけりゃいいってもんでもないとも思いますよ?
自分の場合脚本家やライター志望ってのもあって執筆速度はやくー、と意識してるのもあるんですが、まあ。無難に中小企業に就職しそうな予感。どーでもいいですね、はい。
といっても自分、家で他にすることないんでとれる時間が多いだけだと思われ。
速度自体はふつーの人とさほど変わらないんじゃないかなぁ。
練習……とにかく読んだり書いたり、としか。他にそれらしいことはしてませんが。
ごめんなえらそうなこと言って。
 
 
さて、ユーなの話更新しますー。
多分次回くらいで複線全部埋まるはず・・・。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第九話 戻れないところまで
 
 
腕時計を確認すると、言い合わせた時間までまだ五分ほどの間があった。
 
二、三度周囲を見回してみて街灯の群れに紛れ立つ背の高い時計に気付き、そちらを見たほうが早かったかとなのはは苦笑する。
 
彼女の心は、弾んでいた。と同時に、緊張していた。
その二つの相反する、共存する思いを本人自身、自覚している。
 
ユーノにもうすぐ会えるという、喜び。
そして彼が本局の職を辞した理由、会ったとき彼がそのことも含めてなにか語ってくれるのだろうかという不安。
同居し交じり合うそれらの歓喜と不安が、なのはの足を彼と待ち合わせたこの場所に急かしたのかもしれない。
 
休日の広い海浜公園には、疎らに人の往来があった。
 
まだ午前中にも関わらず太陽は眩しく、ここからでもよく見える海がその光を反射してきらきらと輝いている。
数組の家族連れが遊戯に興じる芝生の緑も、鮮やかそのもの。
薄いカフェオレ色をしたブラウンのワンピースにサンダルという多少肌寒いかとも思った服装も、
羽織った上着越しや素肌の上から太陽がじっくり、やさしく暖めていく。
 
なのはが腰掛けている以外のベンチは皆、空席ばかり。
つらつらと眺めていく途中で、公園の中央に位置するシンボルとも呼べるタワーが目に留まる。
 
タワーの足元には、大きな荷物を抱えた青年が一人。
真っ黒なギターケースを、男は足元に置く。
ケースの蓋を開きスコアや譜面台のセッティングを始めた様子を見て、
彼はストリートミュージシャンなのだなと思い至った。
 
ギターの小気味良い旋律が、澄んだ声が風に乗り、彼女の耳へと運ばれてくる。
よく通る、悪くない歌声だとなのはは思った。
 
待ち人がくるまで、退屈せずに済みそうだった。
そうして暫しの間彼女は、流れる音楽に気持ちを委ねた。
 
奏でられるゆるやかなメロディーに合わせ紡がれる、別れを詠った詩に。
 
*   *   *
 
「……はぁ」
 
同じ頃盛大なため息の二重奏を奏でたのは、彼女の親友であった。
 
朝食には遅すぎる、かといって昼食にも些か早いと思われる時間帯。
もともとさほど人数の多くない機動六課の隊舎食堂だから、そこはまだ人気も少なく、がらんとしている。
 
会話を交わしながらテーブルに腰を落ち着けて食事を摂っているのは忙しさにかまけて朝食を摂り損ねた、彼女たちくらいのものだ。
他に物音がしない分、余計に溜息の残響が耳に残る。
 
「どうしました、主はやて」
 
ランチセット……もといこの時間帯ならばブランチのサラダをフォークに刺したまま、シグナムが尋ねた。
 
「んー……なのはちゃん、ちゃんとユーノくんに会えたか思てな」
 
オムレツにナイフを入れつつ、再びはやては深々と。
友人の厄介ごとにお節介ではあると思うが、やはり気にせずにはおれない。
 
「アレも一体何を考えているのか……突然、無限書庫を退職するなど」
「そ。そこなんよね」
 
少年の不可解な行動を肴に、二人の会話は進んでいく。
 
「なのはちゃんのお見合いが原因なんかなぁ、やっぱり」
 
はやてにまず思いつくのは、そのくらいだった。
しかし、それだけではなにか決定的なものが足りない、
ただ理由がその一点だけにあるのではないという気もする。
 
それは彼女の話を聞くシグナムも思ったらしく、はやての論に首を傾げてみせる。
 
「そうでしょうか。たしかにあのお見合いが彼に与えた影響は大きかったでしょうが」
「決め手に欠ける?」
「ええ。そこまで短絡ではないと思います」
 
お見合いの話を聞いた段階では少なくとも、彼のなのはに対する気持ちが固まっていたとは考えにくい。
曖昧な意思を拠り所にして行動を確定させるほど、ユーノという人間は単細胞な性格の持ち主ではない。
 
「なんか……私らの知らん間にきっかけがあったってことか?」
「ええ、おそらくは」
 
この二週間あまりという、ごく短い期間の間に。
 
「……そういえばシグナム、ふと思ったんやけど」
「はい?」
「シグナムもその手の話題興味なさそうなくせして鋭いんやね」
「……はっ?」
 
*   *   *
 
遠くのほうから、先ほどの歌声がまだ響いてくる。
 
持参した弁当を広げ、昼食を済ませてから二人は歩き始めた。
どこにいこうというわけでもない、二人きりでのとめどない散歩。
それなりの距離を歩いてきても、遮蔽物の少ない公園は音楽を風に乗せ、背を向けた二人の耳へと運び届けてくれていた。
 
先を行く彼の横には、並べなかった。
 
いつもはなんでもないようなこと、それまではずっとなんの違和感も疑問もなくそうしてきたことであるというのに、彼の隣に並べない。
到着するなり少し歩こうか、と言って先に立ったユーノの少し後ろを、なのはは何も言えず黙ってついていくだけ。
 
訊きたいことはいっぱいあった。
聞いて欲しい話も、たくさんだったのに。
 
彼との間にはほんの数十センチの距離が広がっていて、声を使ってそれを縮めることも、腕を伸ばして彼を引き止めることもできない。
 
どんなに短くとも、そこに手を伸ばせなければ距離というものは埋まらない。
 
「……あ、……の」
「うん?」
 
決めかねた心で声を出しても、尻すぼみになって消えるだけ。
振り向いたユーノに、なのはは首を振ってぎこちなく誤魔化す。
 
再び前を向いた彼の、歩行に揺れるその右手に、彼女の視線は注がれていた。
手をとって共に歩きたい。この逢瀬の時間をよりよきものにしたいという思いは確かにあるのに、今のなのはにそれを実行に移す勇気は起きない。
 
(なんで……?)
 
どうして自分はほんの目と鼻の先にある彼の手を、とることができないのだろう。
怖いから?もし万一にでも彼の反応が不快の色を含んでいたら、嫌だから?
 
「なのは?」
 
思考が頭の中を埋め尽くしていた間に、彼は歩みを止めてなのはの顔を覗き込んでいた。
自分でも気がつかなかったけれど、なのはも反射的に彼の動きが止まったのに合わせて足を止めていた。
 
間近に、彼の顔がある。
 
「どうしたの?元気ないみたいだけど。体調がどこか……?」
「う、ううん……なんでも、ないから……」
 
ぽうっと顔が火照っていく。彼と目を合わせていられず、なのはは視線を逸らした。
 
「そっか」
 
聡い彼のことだから。自分のこの反応にも気付いているだろう。
そのせいで不愉快にさせてしまっているのではないかと、なのはは恥ずかしさと申し訳なさで更に赤くなっていく。
再び歩み始めた彼の背中に、視線を移しながら。
 
今の自分は、きっと変だ。
いや、今だけではない。このところずっと、調子がおかしくて。
彼のことを心の中心でしっかりと捉えることができない。
 
そしてそのぶれた軸によって、心のすべてがどこか歪みを生じ、平衡を失っている。
 
「ねえ、なのは」
 
自分が自分でないようだった。
 
「お見合い……したんだよね」
「……え?」
 
背を向け、歩む歩幅を止めも緩めもせず彼は言った。
 
思わずなのはが驚き、立ち止まったことで数歩分の距離が開き、彼も立ち止まる。
どうして、という思いだけがただ、強くなのはの心にはあった。
 
「どうだった?相手の人は」
 
湾になった海に面する海浜公園の、丁度向こう岸が眺望できる場所に 二人はいた。
海岸線と公園とを隔てる腰ほどの高さの手すりのフェンスに、数歩ほどで近づきユーノは両手を預ける。
 
「え……その……」
 
言葉を、うまくまとめられなかった。
ただ自分の狼狽になのはは、やはり彼にこのことを知って欲しくなかったのだ、と再認識させられる。
どうしてかまでは、わからない。
 
「……いい人……だったと思う、すごく」
 
その程度の感想しか、出てこなかった。
素直に相手に抱いた印象を引っ張り出してきた、ただそれだけのことだった。
 
なのに彼は、安堵したように。
満足したような微笑を、振り向いたその顔に浮かべなのはを見返していて。
 
「……よかった。安心した」
 
その笑顔は常になのはに向けられていたそれと、なんら変わらないもの。
微笑を向けているのはユーノであり、その彼の浮かべる表情が、なのはは大好きだった。
 
だが安心を運んでくるはずのその笑顔が、今は息苦しく、痛い。
胸の鼓動が、嫌な感覚で高鳴っていく。
彼が浮かべる柔らかい笑顔が、何故だか苦痛でしかないのだ。
 
「どうして……?」
「え?」
「どうして、そんな風に喜んでくれるの……?」
 
なのはは、呟くように問うていた。
 
その訊き方はまるで、彼に喜んで欲しくない、と言っているが如く。
自覚できるほど、その声は狼狽し非難めいた響きを含んでいた。
 
「それは──……」
 
一瞬だけ、彼の顔が真顔になる。
表情を隠すように彼は俯いた。
 
刹那、周辺から音が消えた。
 
錯覚ではない。他の音を掻き消していく空気の流れが確かにあった。
変わりに鼓膜を震わせるのは、耳を劈くばかりの爆発音。
後方から猛烈な風が巻き起こり、二人の長い髪と服を大きくはためかせる。
 
鼻腔を、焦げ臭い匂いが潜り抜けていく。
答えを得ることなく、ユーノの見上げた方向へなのはは振り返った。
突風吹き抜けたあとには、人々の悲鳴とけたたましいサイレンの音が遠く離れたこの場所にも木霊する。
 
静かなBGMを奏でていた例のストリートミュージシャンも演奏をやめ、彼女たちと同じ方角に首を向けていた。
 
視線の集まる先は、海浜公園を眼下に望む高層ビル。
なのは達のいる位置からも遮蔽物に遮られることなく見上げることのできるその高い建物は、中層部から煙を噴き上げ。
 
赤々と燃え盛る炎を、砕け割れたその展望ガラスの内側から、覗かせていた。
 
*   *   *
 
「じゃあ、事故なんだね?」
 
通信機で六課隊舎のリインと連絡をとりつつ、なのははユーノの顔と燃え上がる高層ビルとの間に視線を行き来させる。
 
『はい、中層にあるレストランから出火してるみたいです。厨房の燃料に引火したみたいですね。幸い下層部の避難は完了してます』
 
だがつまりそれは、上層階にはまだ取り残された人々がいるということ。
 
「局の航空支援は?災害対応のチームや陸士部隊は?」
『まだ時間がかかってます。今日は南西部でも大きな火災があったらしくて、それで頭数がなかなか揃わないらしく……』
「わかった。わたしも行くから、はやてちゃん経由で派遣チームの担当と連絡をとって話をつけておいて」
『了解です』
 
相変わらず、対応が後手に回っている。
四年前の空港火災となにも変わっていない。
通信を切って一度ビルのほうを見据え、なのははユーノへと振り返る。
 
どうやら二人で過ごすことが出来るのはここまでらしい。
現場に真っ先に駆けつけることのできるこの場所にいて、放っておくわけにはいかない。
 
「ユーノくん、ごめん」
「いや、行って。なのはの力が必要なんでしょ?」
「……うん」
 
ユーノもまた、頷いた。気にせずに行け、と。
 
話も途中になってしまったし、訊けなかったことばかりではあるが止むを得ない。
今は、急を要することを優先するしかない。
彼と会える機会は、きっとある。
 
「またあとで……ううん、今度だね」
「……」
「ユーノくん?」
 
あの火災の規模、航空隊の出動が遅れていることからして、おそらくは手伝うにしても一日がかりの大仕事になるはずだ。
いつ終わるとも知れぬその作業のために待たせるのも悪い。
なのはなりに、ユーノへと気を遣っての言だった。
 
だがその言葉に彼は、困ったような表情を一瞬だけ見せる。
答えが返ってこない彼の様子に、なのはは訝しげに眉を顰めた。
 
「……いや、なんでもない。気をつけて、なのは」
「うん、ありがと。……レイジングハート!!」
『all right』
 
しかし、深く追及するような余裕は時間的に、存在しなかった。
 
目の前の災害へと意識を切り替え、空に飛び立つ。
ちらりと遠ざかりゆくユーノへ視線を落とし、彼がそこにいることを確認してからなのはは急いだ。
 
個人的なこの話の続きは、またいずれ。
今は、助けるべき人々を助けなければならないのだから。
 
*   *   *
 
「……また今度、か」
 
そこから見えるなのはの後姿が殆ど豆粒ほどの大きさに小さくなった頃、ユーノは呟いた。
次に会えるのは、一体いつになることだろう。
 
「ごめん、約束できなくて」
 
それでも嘘をつくよりは、いい。
結果が同じならば、少しでも正直であるべきだ。
彼女に対して、嘘をつきたくはない。
 
軽く右手を振り下ろし、翡翠色の円形魔法陣を発動させる。
 
術式は、長距離転移。
 
「幸せになりなよ、なのは」
 
次はいつになるかわからない。そのいつかが本当にやってくるかもわからない。
それでも、もう会えなくてもいいと思った。
 
行き先はスクライアの集落。
辺境の地にいる同族たちが、自分の帰りを待っているのだ。
 
「僕も、頑張るから」
 
大丈夫。
もうすぐなのはには背中を支えてくれる人間ができる。
フェイトやはやてたちもいる。実の妹のように可愛がる部下だっているのだから。
自分ひとりいなくなったところで、彼女は揺るがない。
 
光を強める転移魔法陣の中で、ユーノは思う。
 
「うまくいくことを祈ってる。きみとレイジングハートの絆は、僕が守るから」
 
見守っているから、幸せに。
聞く者のいない呟きごと、少年の身を光が包み込む。
 
「だから、心配しないで」
 
これでいい。
考えに考えて自分の出した結論に、彼は従う。
 
「多分……僕は」
 
側にいて守るだけが、守ることの形じゃない。
従者として大切な人をずっと守り続けてきたアルフが、いつか自分に言った言葉を胸に浮かべながら。
 
少年は今日、少女のもとを去る。
そうすることで大切な存在を守れるというのなら、自分はそれでいい。
 
彼女に、笑顔でいてほしい。幸せでいてもらいたいから。
自分にとってだれよりも彼女は、大切な女性だから。
 
誰よりも、彼女の笑顔を自分は守りたい。
 
「僕は、きみのことが好きだったんだと思う」
 
それはただ、高町なのはという一人の少女のために。
ようやくに気付き悟った想いを、彼女との最後の逢瀬に向き合って確認した自分の気持ちを、強く噛み締めて。
今まで守ることが出来なかった分、これからは守り続ける。
遠く離れた場所で彼女のことを想いながら、ずっと。
 
少年の消え失せたそこに、風が吹いた。
去り際に解かれた緑色のリボンが、天高く煽られ遠く舞っていった。 
 
(つづく)
 
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