だがしかし。

 
なのユー話第十話、今回だけじゃ伏線回収しきれんかったorz
次回〜次々回でいけるか?ってとこですorz
 
以下、Web拍手レスです。
 
>初めましてー。SS読ませて頂きました!ユーなのはガチですよね!!これからの展開が気になります。
ええ、ガチですとも(真顔で)
だからはやく本編でくっついてください(ぉ
 
 
はい、風邪引いた状態で書いたせいか要加筆な気がしてならないなのユー話第十話です。
伏線回収が少々延びてしまった・・・。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第十話 white lie
 
 
約束の一週間が、あのお見合いの日から経過していた。
ユーノとの中途半端に途切れたやりとりからは、丸一日以上。
 
それはもちろんあちらからの一方的な言葉であり、けっして約束などと呼べるような代物ではなかったけれど。
「一週間後に、もう一度」、なのはの元に現れた女性は、確かにそう言っていたのだ。
 
緊張せぬわけがない。
万が一ひょっとすれば、それは長年の相棒との今生の別離になるのかもしれないのだから。
なんとなく落ち着かぬ気分で、なのはは来訪者の再来を待った。
 
自分とパートナーとに別れをもたらす、あまり望ましくはない再会の時を。
 
「ッ」
 
壁の時計が、午前零時を指した。
古い時が過ぎ、新しい日を報せる鐘が薄明かりの部屋を満たす。
 
愛機を手に周囲を見回すも、人どころか生き物の気配ひとつすらない。
同室のフェイトは明朝、キャロと共に朝の便でミッドへと戻ってくる予定になっている。
よってなのはは今、部屋にただ一人。
 
『master……?』
 
約束の期日となる一週間を、越えた。
それでもまだ、そう安心はできなかった。
それはいつやってくるのか。腰掛けたベッドで、緊張の面持ちのままなのははただじっとその時を待つ。
 
けれど、彼女の前には何者も現れずまた、約束も決して果たされることはなかった。
幸か不幸か、取り交わされた約束は、すっきりしない形で反故にされたのだった。
 
*   *   *
 
「やっぱりそろそろ、噂になってるねぇ。なのは君とユーノ君の件」
 
翌日、時空管理局本局内。
それぞれ長髪と黒髪、双方長身の男たちが二人、会話を交わしながら歩いていた。
 
「仕方ないさ。人ってのは……特に女性ってものはこういったゴシップが好物だからな」
「ま、違いない」
 
共に、ただの一介の局員ではない。
クロノ・ハラオウン提督にヴェロッサ・アコース監査官、どちらも有力な立場にあるエリートの青年たちである。
 
良き友である彼らは、自分たちが後見する部隊を中心として局に広がっている瑣末な新しい話題の種について、語らっていた。
 
「有名人ってのは、損だねぇ」
 
ユーノ・スクライア無限書庫司書長が突然その職を辞したという話は、至る所で聞かれるようになっていた。
その前後関係、詳細な理由も明らかでないまま彼が失踪するように本局を去ったという点も無用の憶測を呼ぶ要因として大きい。
 
そして彼の突然の退職、その原因として勝手に有力視されているのが──他でもない、なのはの存在である。
 
「まったくだ。あいつとなのはが親しかったのは確かに事実だが──……」
 
なのはとユーノ。局内で名の知られた二人の仲はほぼ、公然のものだった。
親しい者たちならば彼らにそういった感情が未だ芽生えていなかったことも知っているが、
ゴシップや噂等でしか二人のことを知らない一般局員たちには、そうはいかない。
 
二人の睦まじい関係だけが取り沙汰され、伝えられるのは根も葉もない下らない噂ばかり。
噂には尾ひれがつき、局内でも有名なお似合いのカップルとして祀り上げられていたわけである。
 
破局どころか、それ以前の問題だってのにね」
 
彼女たちの仲が破局し、その結果としてなのははお見合いに向かい、ユーノは局を去った。
もっともらしい語り口で伝えられるそのような内容の誤った情報を、クロノやヴェロッサも既に幾度も耳にしていた。
 
クロノほど二人との付き合いが長くないヴェロッサでも、それは違うとはっきりいえる程度の下らない噂が蔓延しているのだ。
幸いにしてなのはは色恋や噂話などには疎いから、今のところ本人がそのことで心を痛めたり悩んだりするということはないようだが。
 
はっきり言って、当事者や周囲の人間にとってしてみれば迷惑以外のなにものでもない。
 
「…で、肝心の本人たちは一体どうしてるんだっけ」
「さあ、な。特にユーノのやつは何を考えているんだか」
 
問題が問題なだけに、おせっかいをしてどうこうできるという話を超えている。
ひとまずは見守るしかないというのが現状だろう。
 
自分たちだけではなく、同じ職場に働くフェイトやはやてたちにしてもだ。
 
「……情けないやつだ、まったく」
 
色々な面で、本当に。
そう呟いたクロノの肩を、ヴェロッサが苦笑しつつ叩いた。
  
*   *   *
 
右手で、キーボードを。
もう一方では左手がクリップボードにファイルされた報告書類をめくり、
その間を二つの目が忙しなく往復する。
 
「……っちは問題……んで……のほうは……」
 
それは仕事と、ごく私的な目的のために入手した調査結果双方を同時にチェックし、処理していくがため。
どちらか一方を切り捨てるという選択肢は、今のはやてにはない。
 
きりのいいところに左右時を同じくして辿り着き、椅子の背を軋ませてその手を休める。
ただし右の事務仕事はともかく左の調査書のほうはというと、あまり望ましい報告を得られたというわけでもないのだが。
 
未完、そして未だ調査中の事象。
 
「ユーノくん……ほんま、どこ行ってしもたんや?」
 
はやて自身にとってもよき友人であった少年が局に退職願を出して以来、彼女はひたすらに情報を集めていた。
どんな些細なことでもいい、彼がその行動に向かうに至ったその理由として納得すべき解答を得るがために。
なのはが彼に会いに行っていた間も、リインやシャーリーとともにその作業に奔走していたのである。
 
だがしかし、未だ決め手となるようなものはない。
発端があのお見合いだとしても、推移が性急すぎる。
 
行き先もわからない。
所持していた通信端末は解約され、音信も不通。
 
既に若手の学者としても学会で論文を発表している彼のことだ。
局を辞めて、企業や教育機関が放っておく筈がない。
しかしそれも心当たりや大手、有力なところを当たってみてもそれらしき情報は得られなかった。
なのはが会いに行ったというあの日以来、完全にユーノは蒸発してしまっている。
 
「ここまで調べても……ってことは」
 
まさか、ミッドそのものにいないのではないか、とさえ思えてくる。
 
こんなことならば、無粋だからといって日曜の二人の逢瀬をそのままにしておくのではなかった。
合流場所と行き先くらいは聞いていたのだから、サーチャーなりなんなりを忍ばせておくこともできたはずなのに。
 
『八神部隊長、陸士学校のコラード三佐から通信が入っていますが……』
「ん、繋いどくれるか」
 
小さくモニターが開き、副官のグリフィスが告げた。
返事そのものは冷静に、しかし内心ではどきりと鼓動が脈打つ。
コラード三佐……ある意味では二人を巡る今回の騒動の発端となった人だ。
 
その相手からの連絡だ、あまりいい予想はできない。
パネルを操作し、外部からの受信モードへと画面を切り替える。
意識せずとも、顔が僅かに強張っていた。つくった笑顔で、応対に出る。
 
『時空管理局・第四陸士訓練校長、ファーン・コラードです』
「陸士部隊機動六課課長、八神はやてです。その節はどうも」
 
幸いにしてこちらの警戒を読み取られた気配はない。
柔和な笑みを浮かべた女性に、はやても会釈を返す。
 
「今日はどうされました?お忙しい中」
 
我ながら口調が、探るような言い方だ。
動揺しているのが自覚できる。
細かな表情の影などが伝わりにくいのは、この場合においては長距離通信の利点だろう。
 
『いえ。先日の高町一尉のお見合いの件なのですが……今、よろしいかしら?』
「ええ。なんでしょう」
『先方から、二回目はいつ頃にセッティングすればいいのかと、スケジュールについて問い合わせがきたもので』
「っ」
 
──危ない。
 
うっかり顔に動揺が出てしまうところだった。
ぎゅっと拳を握り締めて、声を堪える。
 
二度目のお見合い、それは確かに、そろそろ連絡がくるはずのことではあったが。
今、なのははそれに向かっていけるような状況にない。
日曜にユーノと会うことができたおかげで多少安定した状態に持ち直してはいるが、まだ危うさを彼女は持っている。
 
『あの子に聞くより、直属の上司であるあなたのほうが細かいスケジュールの管理についてはよろしいいかと思われたものですから』
「……ええ、まあ」
 
タイミングが悪い。
とてもなのはにお見合いのことなどを切り出せるものではない。
 
「確認後、近日中にこちらから折り返し連絡をします。なにぶん、立て込んでいますので」
 
先延ばしにして誤魔化すしかない、とはやては判断した。
機動課の部隊としての忙しさ──このところはそうでもなかったが、局員たちから持たれているイメージを利用させてもらう。
 
コラードも納得したらしく、深くは追及せず頷いた。
 
嫌な汗が背中に流れていくのを感じつつ、通信を終えるはやて。
 
「……いよいよ、時間ないなぁ」
 
二人の友人、彼と彼女に残された時間は。
 
*   *   *
 
その夜。
 
「どうだった?キャロの里帰りは」
 
部屋着のボタンを留めながら、フェイトへとなのはは尋ねた。
今朝方隊舎に戻ってきたルームメイトの親友に会うのは、今日はこれがはじめて。
フェイトは帰隊後すぐ出勤だったし、なのはも今日は朝から他の部隊との折衝に隊長として外回りに出ていたからだ。
 
広い二人部屋だから、日常通りの人数が揃っていることでようやく満たされた気分になれる。
一人では些か広すぎる、この部屋は。
 
「うん……私はキャロから聞いただけなんだけど」
 
ここに帰ってきて落ち着くのはフェイトも同じらしく、キャミソール姿の部屋着で穏やかに微笑む。
前置きをしてから、簡単に説明してくれた。
 
「なんでも、親交のある部族の族長が交代するかもしれないらしくて。その場合は祭儀に人を送らなきゃいけないらしいからキャロに参加してくれないか、って」
「キャロに?」
「詳しい形式とかはキャロも聞かされてなかったんだけど、神龍使いは連れて行くのがしきたりだとかなんとか」
「ふうん、そっか」
 
まあ、古くから続く部族なんだろうしね。
ベッドの隣に座る親友の隣に腰を下ろすと、羽毛のふかふかとした弾力が返ってくる。
 
「ねえ、なのは」
「ん?」
「その……ユーノとは、どうだったの?途中で流れちゃったとは聞いてるんだけど」
 
一方で、友人から返ってきたのははっきりとしない問いかけ。
どうだったの、とは非常に曖昧だ。
 
「どうって……。詳しい事情は教えてもらえなかったし……あんな事故も起こっちゃったし」
 
なのはは、知らされていないということを知らない。
彼の消息がいよいよもって不明になったということを。
 
連絡すべき先さえ、今はもう存在しないということを。
 
「……そう」
 
フェイトには知らされていることも、はやての判断で止められている。
そのことをなのはは知りえない。
だからこそ、フェイトの俯いた表情を勘違いする。
 
やっぱり、フェイトちゃんは。
ユーノくんのことが心配なんだ、と。
 
誤った認識のもとに、それを肯定する。
 
その勘違いが引き起こす胸の痛みを、なのはは無視する。
親友同士の仲を応援するんだ、そう自身に言い聞かせ、言い張って。
 
「……やっぱり、心配だよね」
「……え?」
 
穏やかな顔であることを、心がけたつもりだった。
彼女がユーノを心配するのは、当たり前のことなのだから。
 
フェイトとユーノ、二人とも、なのはにとっては大切な人たちだ。
あの日のように、二人の関係を目撃した日のような態度をとってはならない。
覚悟を、決めるのだ。彼女たちのことを応援する、と。
 
しかし。
 
彼女たちの関係を認め、受け入れる。
たったそれだけのことなのに、それはひどく難しかった。
 
その認識が、誤解であることも知らず。
また、どうして自分がそれを受け入れ難く思っているかもわからず。
 
なのはは、下手糞な気遣いの笑みをフェイトへと向けた。
それが全く無用のものであることを、知らぬがゆえに。
 
(つづく)
 
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