普通に名曲。

 
あの過酷かつおバカなサイコロの旅のことを歌った歌だとは思えないくらいにw
わかんない人は水曜どうでしょうを見ましょう。
対決列島ユーコン川、カブの旅はほんとに腹抱えて笑いますから。
 
さーてさて、いよいよなのユー話も大詰めでございます。
あと今回も入れて二話(か三話。収まんなかったら)。プラスエピローグ。
 
……まあ、今回は演出面でちょっと読み返してうーん?な面が多々あったり。
要反省。まだまだ精進が必要です、はい。
ちなみに拍手のお礼ssもちょっと今回の話と被ってる部分ありますが狙ってませんから。
 
てことで、どうぞ
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第十二話 when the sun goes down
 
「祝賀の祭儀へは親交のある部族、及び各世界に散らばる同胞達も遠路より帰還し、出席なさいます」
 
暗い部屋は、青年にとっての今の居場所だった。
そこは彼にとっては自室というよりも、牢獄に思える。
 
「……そう」
「管理局関係でお招きしたいお相手はどなたか、ございますか?」
 
そして自分に煩わしい言葉を投げかけ続けるこの女は、看守だ。
子供の頃憧れた古き伝統も、今となっては自分を束縛する鎖としか思えない。
 
「いや、特に……いないから。いいです、それは」
「そうですか。それではまた後ほど」
 
自ら納得した上でのことなのに、何を勝手なことを。
その自覚があるということが、彼の心を余計に苛立たせる。
 
明確に一人の女性のことを思い浮かべておきながら、彼は尋ねられた質問へ首を横に振った。
 
いつまでも、未練がましい。
鏡の前に立った彼は、己に向かい嘲りの笑みを浮かべる。
 
その右手には、やや大振りの鋏。
装飾もデザインも何もない、金属だけの無骨なそれを、彼は次第に持ち上げていく。
 
──これで、いいんだ。
 
しゃきん、という裁断音。
直後、ばさりといくらかの重量を思わせる音が、足元の。彼の背後に落ちる。
 
たったそれだけで、作業は終わった。
ひどくあっけなく、無論止める者もおらず。
 
「……」
 
青年は鋏を置き、踵を返す。
軽くなった背中と頭に、彼女と過ごした日々との決別を実感しながら。
 
彼が立ち去る床には、長い間伸ばされるがままであった彼のブロンドの髪。
長かったそれが失われた彼の背に、僅かな光のつくる電灯そのものの影が、か細く映り歪んでいた。
 
*   *   *
 
「え?んじゃフリード、まだ帰ってきてないわけ?」
 
機動六課、メンテナンスルーム。
調整の終わったクロスミラージュを受け取りに訪れ、シャーリーと雑談に興じていたティアナは、
同じくケリュケイオンの調整のためにやってきていたキャロの言葉に目を丸くした。
 
スバルから聞いた話ではあのチビ竜がどこかに行ってしまったのは、もう丸三日も前のことだというのに。
 
「ええ。こっちからの呼びかけには応えてくれるから、心配はしてないんですけど」
 
困ったように、キャロは肩を竦める。
応えてはくれても、なかなか戻ってきてはくれないらしい。
 
「一体どうしたのかしらね?あのチビ竜」
「よくはわからないんですけど……かなり遠くまで行ってるみたいです。応答の具合や、発信機の位置からして」
「はーい、キャロ。ケリュケイオンも整備無事終わったよー」
 
腕輪状の待機形態を電子音の鳴ったチェック用機材の中から取り出し、キャロに渡すシャーリー。
機材の電源を落とし、二人に向かい振り返る。
 
「ま、なんにせよ次の任務までに戻ってきてくれればいいんだけどね?」
「はい……」
 
ぽん、と肩を叩かれて、彼女は恐縮しているようだった。
シャーリーのほうではそんな気は全然ないのだろうが、申し訳ないと思ってしまっているのだろう。
真面目な子だ。
 
『シャーリーさん、そっちにキャロいますー?』
「キャロ?」
 
と、三人の会話に割り込んで、内線の通信モニターに明かりが点った。
分隊室に詰めているスバルの顔が、こちらを覗き込んでいる。
 
キャロのことを尋ねながら、あちらでも彼女の姿があることを確認したようだ。
ほっとしたというか、なんというか。
気付いたという様子が、非常にわかりやすい。
年季の入った腐れ縁であるが故に、傍から見ているティアナには特に。
 
「すぐ戻るって言ったでしょーが。一体何よ、急ぎの用?」
『あ、ティア。キャロと代わって』
「あ、じゃないでしょ。外に出てるってんならともかく……」
「なにかあったんですか?スバルさん」
 
手首にケリュケイオンを戻し、呼ばれた当人のキャロが応対する。
スバルからわざわざ内線を使ってまで彼女に通信があるとは、珍しいものだ。
 
『やー、まあ大したことじゃないんだけど。さっき、キャロ宛に郵便が届いてさ』
「郵便ん!?あんた、そんなくっだらないことにわざわざ……」
「はいはい、ストップ。続き最後まで聞いたげようよ」
 
どうどう。
シャーリーに抑えられティアナが引き下がると、流れるようにスバルは話を繋いだ。
 
『なーんか、珍しいっていうか。やたらとかしこまった感じがするっていうか、ゴージャスな手紙なんだよねー』
「……は?」
 
手に取った封筒を、モニターに向けてぴらぴらと振ってみせるスバル。
なるほど確かに、内線のクリアな画像のそれは一見して判るくらいには良い紙を使っているようだった。縁取りは、金。品のいい控えめな模様が封筒には描かれている。
となれば随分かしこまった書状がおくられてきたものである。
 
しかしその割には、封書の色自体はひどくくすんだ、砂のような色をしている。
 
「差出人は?」
『書いてないけど……。送られてきたのは第6管理世界、アルザスからになってる。消印にあるから』
アルザスアルザスって……」
 
呟いたシャーリーと同時に、キャロに向かいティアナも振り返る。
第6、そしてアルザスといえば──……。
 
「キャロの出身地だっけ?」
 
二人──いや、モニターの向こうのスバルを合わせれば、三人に見つめられ。
きょとんとしながら、戸惑いがちにちいさくこくんと。
 
やや首を傾げ気味に、己を指差して少女は頷いた。
 
*   *   *
 
新聞記事の日付は、一ヶ月ほど前のものだった。
更にカルテに記された記入日時は、それとおよそ1日ほど前後する。
 
共に、同じ人物に関して作成され、データベース上に残っていたものだ。
 
スクライア一族の長老が……発掘中の落石で……?」
 
それは、興味深い資料だった。
 
自分達の前から、彼女から逃げるように姿を眩ました彼。
不屈の心の名を持つデバイスを取り戻さんと動いた、招かれざる客。
 
それらはどちらも、スクライア族──今彼女達の前に提示される資料に躍るその名を冠する者たちであったのだから。
 
「昨日偶然本局のデータベース整理を手伝ったときに、見つけたの。それで気になって調べてみたらこの記事が出てきて」
 
シャマルが、机上の資料を交互に指し示しながら言った。
長老とは言っても一少数部族の長に過ぎない人間のことである。
そこに置かれた記事そのものには写真もなく、ほんの数行で簡単にまとめられた短い文があるだけだ。
医局に出入りする彼女だからこそ、治療記録という横道を見つけ、そこから到達することができたといっていい。
 
「二週間後に退院……ただし完治については高齢もあり望めない……か」
 
差し出された一枚の出力用紙を、フェイトは手にとった。
 
「なのはちゃんにお見合いの話がきたのと、ちょうど同じくらい。それに退院の時期は、なのはちゃんのお見合い当日」
 
つまり、なのはが襲撃──とは呼べぬほど些細なものではあったけれど、身元不明の女性によって拘束されたあの日ということ。
 
「あの日なのはちゃんを襲ったんは、スクライア族の女性で間違いない。おまけに当日ユーノくんはすぐ近くの会場で学会に出席、そのまま行方をくらましとる」
 
たとえなのはが隠していようとも、このくらいは時間をかければ掴めるのだ。
時間の推移をまとめたデータを、フェイトの隣ではやてが呼び出す。
 
法務捜査のエキスパートとしての能力に、上級キャリア組の権限、情報網。
フェイトとはやての得意な分野を私的なことにという負い目はあるものの、フルに使わせてもらった形だ。
 
「やっぱり……ユーノが局を辞めたのはなのはだけが原因じゃない。この短期間にこれだけの出来事が集中してるんだ、何かある」
レイジングハート、どや?」
『Yes』
 
そして書類と並びデスク上に転がる、紅い宝石。
彼女もまた、フェイトたちの協力者であった。
 
愛する主のため、彼女はその主にすら隠していた当事者としての証言をフェイトたちに打ち明け、協力を申し出、逆に協力を乞うた。
 
「“なのはと君の絆は、きっと僕が守るから”……か。そう言った、間違いないんだね?」
『Of course』
 
あの夜、レイジングハートが受けた通信は、ユーノからの一種の決意表明のようなものだった。
具体的にどうする気であったのか、彼が実際どのようにしてその言葉を実行に移したのかはわからない。
 
だが現実に今、レイジングハートはここにあり。それを求めるスクライア族の女性の姿など、ありはしない。
 
「おそらく、ユーノもスクライアからの使者に接触したんだ。時期的にはきっと、なのはと同じ日に」
「そして、どうやったかはわからんけど、とにかく部族の人たち……この長老さんとかにや。レイジングハートのことを思いとどまらせた」
 
手探り状態で、仮説を立てていく。
今手元にある情報と、頭の中で組み立てた論をもとにして。
 
「その結果として、局をやめざるを得なくなった?もしくは、それが条件だった?」
「……多分、そんなところだと思う。今まで何も言ってこなかったのに突然レイジングハートの返還を求めてきたのも、トップの突然の再起不能が契機だとすれば説明はつく。けど」
 
なにか、もう一押し足りない気がする。
パズルの、決定的な最後の1ピースが抜け落ちているようなもどかしい感覚が、離れない。
 
そんな歯痒さ、もどかしさを感じるのはフェイトだけではない。
顎に手を当て思案するはやてや、シャマルも同じようにすっきりしない気分で思索を続ける。
 
「……でも」
 
心にかかった靄に耐え切れなくなったか、シャマルの漏らした声に二人の視線が集まる。
 
「私たちがどれだけ原因や理由を探しても、なのはちゃんやユーノくんの意志は……」
「「……」」
 
フェイトもはやても、そのことについては何も言えない。
二人の意志だけでどうにかなるレベルを、事態は大きく超えてしまっている。
またこちらがいくら外堀を埋めようと、本人たちの意志がなくては結局最終的には乗り越えられない。
 
「……私は、信じてる。なのはと、ユーノのこと」
「フェイトちゃん」
「ユーノにはなのはの側に。なのはには、ユーノの側にいてほしいから」
 
それがきっと、一番二人が二人らしくあれる居場所だと思うから。
 
はやてもシャマルも、彼女の言に頷いた。
 
そして、来客を告げるインターフォンの音に、三人は現実に引き戻される。
 
「はい、どうぞー」
 
万一、ということもある。
来訪者がなのはであったときのことも考え、デスク上を一旦片付ける。
プリントアウトしたそれらを入れてきた茶封筒にシャマルが書類を戻したのを確認し、はやては扉を開いた。
 
「フェイト隊長!!」
「わっ」
 
だが、部屋を訪れた当の来訪者はというと、彼女達の遣った神経などおかまいなしに駆け込んできて。
室内にフェイトの姿を確認するなり、敬礼もなしに掴みかからんばかりの勢いでとびついてくる。
 
「ティアナ?それにキャロも、どないしたん?そんなに慌てて。それに前も似たようなことあったような……」
「これっ……これを!!」
「?」
 
ティアナが突き出してくるのは、一通の封書。
それはたった一枚の中身も、既に開かれている金の縁取りのされた封筒のほうも、正式な書状などに使われる羊皮紙のような質感の上質の紙でできていた。
今どき通信による文書の伝達ではなく、しかもこのような形式ばった書面が送られてくるとは珍しい。
フェイトもよほど畏まった式典などの招待状くらいでしか、お目にかかったことはない。
普通は書面であってももっと簡易なものであることが圧倒的に多いものだ。
薄汚れたような色をしているのは汚れたりくすんだりしているのではなく、もとからこういう色なのだろう。
 
「宛……キャロ・ル・ルシ……って、キャロ宛じゃない。これがどうかした?」
「そうじゃなくて、中!!中身です!!招待状が……っ」
「招待状?」
 
というと、やはりフェイトの想像通りこれは何かしらの式典の招待状だというわけだ。
だがしかし、キャロに?幼い彼女宛に、出席のためにわざわざ?
 
「……ああ。例の部族間での繋がりか。正式に要請がきたんだ」
「いいから、はやく!!」
 
合点が行ったと、肩をまだ上下させているキャロのほうを見るも、案に相違して彼女の顔は不安げだった。
別に、不安がることなんてないのに。
追放された部族の言い草は自分も勝手だと思うが、フェイト自身保護者としてついていくつもりだったから、余計に。
 
苛立たしげに急かすティアナに言われるがまま、フェイトは二つ折りにされ入っていた書状を開く。
 
「……え?」
 
手筆で記された文字は、些か時代がかった筆跡をしていた。
だが、読める。嫌というほど、その筆跡は文章の基本にも忠実であった。
 
──我らが部族が新たなる後継者、選定祝賀の祭儀。
 
たった数行の文面の先頭は、そのように始まっていて。
 
「フェイトちゃん?どないしたん?」
 
紙片を握る手に、自然力がこもっていく。
 
「……そういう、ことだったんだ」
 
フェイトの手は、わなわなと震えていた。
 
部族の長と呼ばれる人物、その入院記録。
狙われたなのはと、レイジングハート
ユーノの言葉と、その失踪。
現れなかった使者も、なにもかも。
 
全て、フェイトの中で繋がった。辻褄が、噛み合った。
ひとつのパズルが、完成した。
 
「フェイトちゃん?」
 
彼女の庇護すべき少女を招いた、祭儀の執行者。
その部族の名は、スクライア
 
そして、彼らの次代を担うべく選定された、次なる長として記されたその名前は。
フェイトたちの追い求めていたものと同じものだった。
 
ユーノ・スクライア
 
見紛うことなどできるはずもない、明確な筆跡で、探していた彼の名ははっきりと紙面へと刻まれていた。
 
(つづく)
 
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