加筆変更版買い物に行こう……もとい。
エコロジーな再利用ということで、nocturne対応版買い物に行こうを投下します。
初回は全く別物……ってそりゃそうだ、さっきまで書いてたんだから。
一本新作丸々書くことになるとは思わなんだ。
てことでスレ投下済みの作品を加筆したものは次回以降になります。
大丈夫、もう既にもとになる文章はあるから普通に更新するより楽なはずだ。
あ、あとWeb拍手も更新しました。
んじゃいきまっす。
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魔法少女リリカルなのはstrikers −nocturne−
after.0 かつて抱いた想い
──その夜。フェイトは、ひとりだった。
すべき業務もこれといってなく終わらせてしまい、、暇を持て余しているそんな中。
インターホンが鳴ったのは、早いがもういっそ寝てしまうかなどと考え始めた頃のこと。
夕飯と風呂を済ませているとはいえ、暇だったから就寝を考えただけであって時刻はさほどまだ遅くはない。
けれど不意に鳴ったインターホンのチャイムに対しこの時間、心当たりがあるわけでもなかった。
フォワードメンバーがこの時間に訪ねてくるなんて珍しいし、緊急の捜査報告なら内線で一報あるはずだからだ。
逆にこれくらいの時間なら仕事をしていなければ、フェイトはエリオたちのもとへ行っていることが多い。
そういった意味では、今日はたまたまどこにもいかず一人で手持ち無沙汰に本を読んでいたから偶然が重なったと呼べるのかもしれない。
「はい?」
寝転がっていたベッドから起き上がり、スリッパをひっかけて応対に出る。
返ってきた返事は、予想だにしない人物のもので。
思わずフェイトは慌てて、ドアのロックを外し開閉ボタンを押す。
「フェイトちゃん?今、暇かー?」
「って、はやて?」
おっす。
六課勤務をするようになって以来忙しさ故にめっきり目にする機会の減った、私服──部屋着姿のはやてがそこに立っていた。
右手には、いくらかのスナック菓子の袋を持ち。
左脇に、日光を遮断する赤黒い色に染め上げられた、酒瓶を抱えて。
「よかったら少し、飲まへんか?」
器用に瓶を持ち替えたはやては笑って、開封前の重そうなそれを軽く振って見せた。
* * *
せっかくだしなにか、音楽でもかけよう。
数少ない海鳴からの持ち込み物である、既に数年来愛用しているコンポにCDをフェイトは差し込んだ。
中身はたしか、あちらにいた頃にアリサの影響で借りた(というか聞くようにと押し付けられた)ものが数枚分、ごちゃ混ぜになって入っているはずだ。
そこまで雰囲気にそぐわないような激しい曲は入っていない……多分。
「よっし」
振り返るとはやてがグラスを並べ、スナック菓子の袋を開き終わったところだった。
今はちょうどコルク抜きで瓶を開封しようとしているところだ。
ほどなくして小気味の良い音を立てて栓が引き抜かれ、二つのグラスに濃い赤紫の液体が注がれていく。
いわゆる、赤ワインというやつである。
イタリアか、フランスかはわからないけれど。
なかなかに高級そうな一本である。
葡萄酒の甘い匂いが漂い始めたテーブルの自分の定位置に、フェイトは戻り腰掛けなおした。
「どうしたの?そのお酒」
「んー?ちょっと前にな、すずかちゃんからの荷物に入っとってん。訊いてみたらこっちで18歳以上は飲酒OKゆうんを聞いたファリンさんが入れてくれたらしいんよ」
「いや、そうじゃなくて」
そりゃ、こちらの世界にはワインというアルコールは存在しないのだから、もちろんそれは海鳴から送られてきたものなのだろうけれど。
実際フェイトも仕事上のつきあいで嗜む程度には酒類を口にすることもあるわけだし、はやてが飲もうと言うのもわかる。
だが容易に予測の出来るようなことをわざわざ尋ねるフェイトではない。
自分が問うているのは突然今夜、彼女が自分の部屋に訪ねてきた理由のほうだ。
ただでさえ部隊長は多忙であまり、自分の時間はとれないというのに、貴重な時間をつかってわざわざ。
グラスに顔を近づけて香りを楽しんでいたはやてはしばらくして、その透明な器を置く。
軽く頭を掻いて、こちらに顔をあげる。
「いや、ほら。今日フェイトちゃん一人やろ?」
「え?……まあ、それは。でも今に始まったことじゃないし」
はやての言う通り、普段三人で暮らすこの部屋はがらんとしていた。
今夜、同居人の二人は留守。
ヴィヴィオを連れ、なのははユーノと泊りがけで出かけている。
……ユーノくんにヴィヴィオを、ヴィヴィオにユーノくんを紹介したいんだ。
そういって彼女は幼い少女の手を引き出かけていった。
ヴィヴィオ同伴ということはユーノはきっと今夜、辛い我慢を強いられることになるんだろうなぁ。……なんて思いながら夕方親友を見送ったばかりのフェイトである。
なのはのことだからその辺も気付かないに違いない。
けれど別にどちらか一方だけが部屋に残っているというのは珍しいことではない。
なのはもフェイトもそれぞれにすべきことは多いし、故に片方、あるいは双方が部屋を空けっぱなしにすることなどしょっちゅうだったことであるし。
ヴィヴィオがやってきてからは幼い彼女のためにも最低でもいずれか一方は部屋に戻ることにしていたが。
「なのはちゃんとユーノくんの恋が実ったことについて、祝勝会みたいなもんを、な?」
「……ああ」
「それと、フェイトちゃんの残念会も兼ねて」
それならば。納得しワイングラスに伸ばした手が、ぴたりと止まった。
思わず見返したはやての顔を、ひょっとすると自分は軽く睨んでいたのかもしれないが。
鼓動が大きくひとつ脈打ったのが、自分の中から聞こえてきた。
「……どうして、それを」
「隠さんでもええよ。そんくらい、わかるで」
友達やから。なのはちゃんも、ユーノくんも、フェイトちゃんも。
微笑みながらはやては、ワインの紅を部屋の明かりに透かして、フェイトに視線を投げかけていた。
その視線は、すごく優しげで。けれどそれでいて、隠し事をすることはできそうにない、そんな色をしていた。
「……そう。ばれてた、か」
「やっぱ、あの時か?九年前の」
「……よく憶えてるね、そんなところまで」
「当たり前やん。あのときは楽しかったからなー、見てて」
「もう。でも、どうかな。確かにあれがきっかけだったのかもしれない」
はやてによく憶えている、などと評したところで彼女の言わんとしていることが何なのか判ってしまうあたり、自分も対して変わらない。
「……もっとも、あの一回だけだったんだけどね」
それは本当に一度きりの、淡い記憶。
幼き日に訪れた、つかの間の微笑ましい出来事。
そこから先に続くことはけっしてなかった、過去の一地点を未だにフェイトは鮮明に、その脳裏に思い起こすことが出来る。
「なのはや、アリサも見てたんだよね?」
「せやな。すずかちゃんとシグナムもおったし、ええもん見せてもろたよ、みんなして」
「ふふっ」
なのはのいない今なら、そんな古ぼけた話に花を咲かせてみるのもいいかもしれない。
彼女の隣にいることを選んだ青年が、まだ幼かった日のことを。
その日、その時。その一瞬だけは彼女よりも少年の側にいることのできた、一人の少女の記憶を。
(つづく)
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