今日明日は短編を前後編に分けて。

 
先日ケインさんのmixi日記を覗いてて思いついた話です。
時間軸としては十五話のスバル・ギンガ模擬戦のあと(と十話・十一話の休暇前)。
 
 
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「それもこれも、やっぱりなのはさんのおかげかしら」
「へ」
 
それは隊長たちとの五対四の模擬戦、その終了後のシャワールームでのこと。
 
ギンガの言った言葉に、スバルは髪を拭いていた手を止めてまだブース内の姉を見やった。
ショートヘアーで水切り簡単、手入れも容易なスバルの蒼みがかった髪とは違い、腰まで伸びた姉の長いそれは手入れにも時間がかかる。
まさしく彼女はシャワーを止めて今、ようやくブースの扉にかけてあったタオルに手を伸ばしたところであった。
 
「ほら。今日の私との模擬戦のときに使ってた。密着状態の」
「えと……リボルバーキャノンのこと?」
「そう、それ。あんな魔法、今まで使ってなかったからびっくりしちゃった。この前の地下道でのディバインバスターも」
 
そう実の姉に手放しに褒められて誇らしいような、こそばゆいような感覚に胸がくすぐったい。
お姉ちゃんっ子のスバルとしてはもちろん一番には、うれしいのだけれど。
 
ちょっぴり、気恥ずかしい。
 
「あれも、なのはさんが教えてくれたの?」
「うん。この前送ったメールにも書いてたよね?ちょっとティアがなのはさんと揉めちゃって、和解して──……」
 
それから、少し経ってからのこと。
ヴィヴィオが保護され六課で暮らすようになる、ほんの少しだけ前。
 
「ちょっとだけ、なのはさんのこと独り占めできちゃったんだ」
 
みんなの先生で教官で隊長の、なのはさんのことを。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers  砲と、拳と。
 
−前編 ディバイン・バスター−
 
 
−数日前・機動六課屋外訓練場−
 
「あん?おいスバル、なにやってんだ」
 
その日もまた、いつも通りの訓練がはじまるはずだった。
 
フォワードメンバー四人、訓練場へと揃い、教官たるなのはとヴィータの到着、そして訓練の開始を待つ。
このほんの数ヶ月で見に染み付いた、当たり前の習慣。
けれど筆頭教官にして隊長のなのはに先んじて姿を見せた副隊長・ヴィータは屈伸運動をしてアップをはじめるスバルを見つけるなり、怪訝そうに眉を寄せて。
 
さもお前の居場所はここではないとばかりに、声をかけてきた。
 
「はい?」
「おめーは今日はなのは隊長とタイマンだ。教えたいことがあるんだと。向こうの崩壊都市区画で待ってっからはやく行け」
 
左の親指で森の向こうに聳えるひび割れたビル群を指し示す。
 
そんなことは初耳だった。
ティアナやライトニングの二人に目を向けても、皆肩を竦めるばかり。
いつの間に、そんな事態になっていたのだろう?
 
「教えたいこと?ですか?」
「そーだっつってんだろ。ほら、急げ」
 
じゃきり、と金属音とともにグラーフアイゼンを突きつけられて急かされて、首を傾げながらもスバルは踵を返す。
マッハキャリバーに命じてウイングロード展開。
あまり待たせるわけにもいかないし、不整地の森や瓦礫を迂回したり飛び跳ねるよりはこれで直通にして行ったほうが早い。
 
「なんだろ、一体?」
 
ティアナたちに対して飛び始めたヴィータの怒号を背に、スバルは蒼い空に続く道にローラーを滑らせた。
あまり無用に魔力を使うなと怒られるかもと思ったが、それも杞憂のようだった。
 
*   *   *
 
そして言われていた通り、その人は瓦礫の山の積まれた(戦場と設定されている訓練場の)廃墟の中に立っていた。
 
「あ、来た来た。スバル、こっちこっち」
なのはさん?どうしたんですか、マンツーマンなんて」
 
基本的に訓練中は航空武装隊──本来の所属である教導隊の白い制服を身に着けているはずの彼女は、珍しく訓練をはじめるその前からバリアジャケットに換装済みだった。
しかも、いつも見るミニスカートのそれとは違い、上半身はアグレッシブモードと殆ど変化がないものの、下半身は裾の長いロングスカートである。
 
「まあ、詳しいことはあとで話すけど。スバル」
「はい」
「ディバインバスター、撃ってみてくれる?ためしにあそこの瓦礫に向けて、おもいっきり」
 
けれどそんないつもと違う教官は、スバルにビルの根元に積み上げられた構造材の砕けた山を指示した。
あれに向けて、撃てと。意図も何も、告げぬままに。
 
「発射位置は任せる。自分が一番、バスターの威力を生かせると思った位置から好きなように撃ってくれていいから」
「はぁ」
 
特に、それ以上の説明もなかった。
あとで話すということは、ひとまずこの試技を終わらせろということなのだろう。
黙って後ろに下がったなのはに、彼女はそう判断した。
 
「……わかりました。それじゃあ」
 
ジャケットを展開し、臨戦態勢に。
アブゾーブグリップ使用。反動による射線のブレに備え、身体を固定。
方向はこれでいい。腰を落として、狙うべき瓦礫の位置を見定める。
 
「……いきます」
 
──あそこだ。
 
ビルの根元をまっすぐ、正面に見据え構えをとる。
足元に、ベルカ式特有の三角魔法陣が煌いた。
スバルの場合は近年急速な発展をみせている、近代ベルカ式と呼ばれる術式。
 
深呼吸をひとつついて、集中力を高めていく。
一体なんのためかはわからずとも、教官がそう言っているのだ。
何かしらの理由はあるはず。
 
だったら自分はそれに従って、期待に応えなくてはならない。
 
カートリッジロード、眼前に魔力の発射台──ディバインスフィアが収束していく。
もう少し。十分に、魔力を集中させて。
 
「一撃、必倒……っ!!」
 
四年前の、あの日。自分が魔導師を目指すきっかけとなった魔法。
どこまでも、力強くて、綺麗な光を放っていて。
彼女の空を舞う姿とともに、自分はその強さに憧れた。
ミッド式の適性がないとわかって、半ば以上諦めかけながらも訓練校、実働部隊で研鑽を積みながらようやくにして覚えた、唯一の使用可能な砲撃魔法だ。
 
「ディバイィンッ!!」
 
本物の威力には、遠く及ばずとも。砲撃などとは呼べぬほど限られた、短い射程であっても。
 
それを今、他でもない自分に見せてくれた人がやってみろと言っている。
彼女の目の前で、自分の努力の成果を見せることが出来る。
 
最高の、一撃を。
今の自分なら、今まで以上に力のこもった一撃を放てるはず。
やってみせる。いや、彼女の教え子としてやらなくてはならない。
 
彼女の技の名前をもらっているからには、絶対に。
落胆させるようなものは、見せられない。
 
「バスタアァァァァッ!!!」
 
渾身の拳が、スフィアを叩く。
引き金は引かれた。溢れんばかりにスフィアへと満ち溢れていた攻撃的な魔力は一気に押し出され、ターゲットの瓦礫めがけ噴出していく。
 
太く、力強い。上にあるもの全てを支える頑強な柱がまるで、ほんの九十度向きを変えたかのようにまっすぐ。
撃ち抜くというよりは、押しつぶす。
見定めた狙いを、寸分違えることなく。
 
「……」
 
師の──なのはの見ている前で、撃ち出された魔力砲は目前の瓦礫、すべてを飲み込んで粉々に消滅させていった。
全力、全開。
すべてを出し切ったスバルのリボルバーナックルから、放熱と排気の蒸気が排出され、バスターの熱気とともに撃ち抜かれた瓦礫の幻影を歪ませていった。
 
*   *   *
 
「……やっぱり」
「?」
 
自分では、出来得る限り最高の一撃を放つことが出来たと思った。
 
けれどその発射の様子を観察していた彼女は、考えるような表情で腕組みをしていて。
なにかまずかっただろうかと、背中を汗が伝っていく。
 
「ああ、いや。全然発射の体系とかに問題があるわけじゃないんだけど。スバル」
「はい」
「今のバスター、ガジェット戦で使ったことは?」
「えと……今のところない、と思います」
 
これまでの出撃をひとつひとつ思い出しながら、スバルは答える。
 
「それはやっぱり、多重弾核みたいなAMF対策ができてないから?」
「はい、そうです。……あと少し、使いどころが難しくて」
 
砲撃、射撃はスバルにとって苦手分野のひとつだ。
どうにかリボルバーシュートについてはマッハキャリバーの補助もありAMF対策をした弾体を形成できるようにはなった。
元々魔力それだけを撃ち出すものではなかったし、スバルにとっては比較的使い慣れている射撃魔法であった点も大きい。
だが無理矢理ミッド式の魔法をベルカの術式で再現したディバインバスターともなると、そうはいかない。
既に割ける能力リソースは一杯一杯、デバイスの補助があっても改良は困難であるように思えた。
 
現に今まで、あの再会の日以来なのはの教導において使用頻度の低いディバインバスターの運用について彼女から何か言われたことはない。
それには個々の魔法よりも土台となる基礎の部分を優先してきた、訓練メニューによるところもあるのだろうが。
 
近接格闘をメインとする接近重視の戦闘スタイルである以上、一定のチャージを必要とする砲撃はなかなか使いどころが難しい。
 
「そっか……。スバル、ちょっとこっちに。ちょっと提案があるんだけど」
 
しかしここにきて、なのははスバルにバスターをやってみせるよう言った。
そしてその様子を確認した後に、空間モニターのパネルを開き手招きしている。
 
「みんな応用に入ってきてるけど、スバルだけにはまだ大技については教えてなかったから」
「え?」
「切り札っていうのはやっぱり、いざっていうときのためにも作っておくものだから。ヴィータ副隊長からもゴーサインが出たことだし」
 
格闘用の短縮術式調整に少し手間取っちゃって。
なのはがキーボードを叩くたびに、術式が画面上に並んでいく。
 
それらは二種類。
二つの術式が、ほどなくして完全にモニターへと並びきった。
モニターの向きをスバルに向けて、なのはは尋ねる。
 
「ディバインバスターの運用バリエーションと、カウンター狙いのリボルバーシュート、一撃必殺バージョン。どう、やってみる?」
 
無論拒否する理由など、あるわけもなかった。
 
“切り札”──……その響きに、どくんと胸が高鳴ったのが自分でもわかった。
 
自分のとっておきとなるべきものを、なのはに直接教えてもらえる。
迷うことなく、スバルは元気のいい返事と共に大きく頷いた。
 
(後編に続く)
 
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