はじまります。
stsが終わったということで、5〜6話程度の短編ではありますけれども。
なのフェス3でもnocturne本編を出しますし(買ってね)、やっちゃいます。
nocturneアフターに引き続き、主役はあの人です。
ぶっちゃけオチ的にはすんごいマイナー路線行くつもりだからオラどきどきしてるぞ。
大雑把にですがnocturne本編のstsとの矛盾点も修正しときました。
なのフェス3終わったらきっちり修正しますが。
明日、明後日中には羽根の光とWeb拍手(お礼ssもレスも)更新できればいいなぁ。
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※この話は当ブログ過去作『nocturneシリーズ』の続編となります。
読まれる際はそちらを先に読まれてから読むことをお勧めします。
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鼓膜を震わせていくのは、爆音と。
慌しく床を伝い移ろっていく乱雑な足音に、男たちの悲鳴にも似た怒号。
──混乱、しているな。
打ち合わせどおりの展開が繰り広げられている実感が、敵陣内部において単独行動をとっているという緊張感を幾分、和らげてくれる。
(3……2……1……)
フェイトさんが派手に暴れて、守備に当たっている警備兵たちを引き付ける。
その隙に、私は。
角を曲がった先にある一つの大扉と、そこに立つ最後の防衛ライン──射撃型の杖状デバイスを肩に提げた兵士二人を、彼女は確認する。
跳躍を踏み切ったのと、彼女の身を不可視のものとしていた幻術の効果が失われたのはほぼ、同時だった。
監視カメラに左の一撃を発射し、破壊。
襲撃者の姿に気付いた兵士たちには弾丸も、近接用のダガーモードすらも不要。
片方には鳩尾に右膝を叩き込み、うろたえる残りのもう片方にはデバイスの銃床を後頭部へ落として昏倒させる。
「クロスミラージュ、ダガーモード」
『OK』
この任務、早さこそが命。
間を置かず両手の拳銃から出力した魔力刃を交差するように走らせ、正面の大扉に軌跡を描く。
一瞬のタイムラグの後に崩れ落ちた構造材の向こうから、モニターの並ぶ司令室と思しき光景が姿を現す。
「……時空管理局よ。AMF搭載兵器の密輸・密売の容疑であなたたちを拘束します」
リーダー格と思われる男が声に振り返ったときには、全ては終わっていた。
防衛システムの中枢を担っていたメインコンピューターには何発もの魔力弾が吸い込まれ、破壊され。
辛うじて生きているモニターには倒れ伏しバインドに縛り上げられる私兵たちの姿が、光の大鎌を手にした女魔導師とともに映りこんでいる。
そして、眉間にはつきつけられた銃口があった。どうしようもないということは、あちらももうわかっているはずだ。
──任務、完了。
心のうちでその言葉を吐くとともに、少女は若干の安堵に強張っていた肩の力を抜いた。
少女の名は、ティアナ・ランスター。
空を目指しまた、執務官を目指す、Aランクに分類される陸戦魔導師の少女である。
魔法少女リリカルなのはStrikers Nocturne -revision-
第一話 執務官の憂鬱
「うん、いいね。書類関係はもともとよく出来てたけど、随分慣れてきた感じだ」
機動六課と呼ばれた実験的要素の多く詰まった部隊が解散して、早五ヶ月ほども経とうかとしている。
その時代からの上司である金髪の執務官に付き従い任務をこなし、訓練を怠ることなく重ね、報告書を製作する。
陸士部隊から次元航行部隊へと本所属を移したティアナの執務官補佐としての日常はそのように過ぎ去っていく。
つい数時間前完了し、今こうして上司へと報告書を提出し評価を仰いでいるこの事件もまた、そういった日々のほんの一ページ。
「ありがとうございます」
だが彼女にとってのその日常が、この頃少しばかり変化しつつある──というよりも、異変を生じつつある。
「飛行訓練のほうはどう?最近はあまり付き合えなくて悪いんだけど」
「それも、なんとか。なのはさんが立てて送ってくれてるメニューですから」
厳しいし密度の濃いメニューですけど、どうにかこなしてます。
ティアナがそう応えると、フェイトは椅子の背にもたれかかりながら微笑んだ。
何故だか、複雑そうに。きっとその表情を、彼女は自覚していない。
──高町なのは。ティアナにとってはかつての上司であり、師。
そして現在の直属の上司たるフェイトの親友である彼女の名前、それこそが変化の原因のようであるように思える。
なにしろ、ここ最近。親友であるはずの彼女の名を聞くたび、フェイトが見せる表情は今ティアナに見せたものと寸分違わぬものばかりなのだから。
「あの……フェイトさん?」
「ん?」
微笑みの中には、寂しげな色が含まれていた。
けれど深くは追及できない。あまりに一瞬のことだから、すぐにその感情は紅の瞳の中に隠されてしまう。
「いえ……なにも。それじゃあ、私はこれで」
「うん。お疲れ様、ゆっくり休んで」
感情を隠すのが、上手いのか下手なんだかよくわからない。
結局、煙に巻かれたような気分のままに彼女の前を辞するのがこのところのお決まりのパターン。
ただこの日は、それも少し違っていて。
「ティーアナっ」
部屋を出たところで、もう一人の執務官補佐と出くわした。
シャリオ・フィニーノ。
上司や同僚たちからシャーリーの愛称で呼ばれるこの眼鏡の先任者は、ティアナにとって六課時代からのよき先輩であるとともに不慣れな航行艦勤務を上司のフェイトとともに一から教え込んでくれた人物である。
ある程度ティアナが仕事をこなせるようになってからは前線での補佐をティアナが、事務面でのサポートを個々の適性どおり分担して行うようになっている。
故に、報告書や書類をフェイトへと提出しにやってくるタイミングもばらばら。
やはりそこはデスクワークのプロ、大体はシャーリーのほうが先に作業を済ませていることのほうが多いのだが。
「シャーリーさん。報告ですか」
「あ、これ?ううん。ちょっとフェイトさんに頼まれてた調べものが、無限書庫からあがってきて」
「無限書庫……ですか」
彼女が両手に抱えているフォルダーから予測してみたのだが、残念ながら違った。
「何、どうかした?フェイトさんに怒られたとか?」
「あ……いえ。まさか」
逆に聞き返され、慌てて首を振った。
無限書庫には、かつての上司に関わりの深い「あの人」がいる。
その連想がついつい、顔に出てしまっていたのかもしれない。
もちろんフェイトがティアナを叱りつけたなんて事実はない。……というか、あの人が他人を叱りつけることなんてあるんだろうか。
執務官というものものしい肩書きとは裏腹に、彼女は甘すぎるくらい他人に甘いし、反比例して自分には非常に厳しい人だからだ。
「ちょっと、変な感じがして」
「変な感じ?」
「ええ。最近──フェイトさん、少し元気がないっていうか」
たまに、そういった表情を見せるというか。
かいつまんでのティアナの言葉ではあったが、シャーリーは思い当たる節があったようで。
「……ああ」
小さく肩を落とし、彼女は扉のほうを見た。
自分の感じていたことは間違いではなかったらしいと、シャーリーの反応にティアナは理解する。
「なにか、心当たりあるんですか?」
「ん?んー……そうだね」
そして釣られて自分の出てきた扉へと目を向けつつ、畳み掛けるように尋ねてみるものの、返ってきた答えは上司の態度と同じくやはり曖昧なものだった。
「フェイトさんもやっぱり、女の子だってこと。友達のこととか、自分の気持ちとか。色々と、ね」
「?」
それじゃ、またあとでね。
シャーリーはインターホンで中のフェイトに確認をとると、自動扉の向こうに消えていった。
これが執務官補佐として接してきた時間の差なのだろうかと、全てを把握している様子の彼女にただ、ティアナは首をかしげた。
* * *
《──mail from Nanoha.T.》
その夜の、ことだ。
机の上にはまだ作成途中の書類のパネルが開かれたままになっている。
カップのコーヒーも飲みかけのまま温くなってしまった。
今日中にまとめてしまわねばならない仕事が、まだ残っている。
きちんと作業に向かえばフェイトのスピードならばそう大した時間がかかるわけでもない。
だが、彼女は仕事に対して動かしていた手を止め、届いた一通のメールに目を走らせていた。
「──ヴィヴィオ、元気そうでよかった」
送受信の時間として記録された時刻は、三時間ほど前。
少々自室を空けていたから、その間にアドレスへと届いたのだろう。
別に珍しいことではない。親友同士とはいえ、互いに忙しい身だ。通信が繋がる状況でなければメールを一通送っておくというのはよくあること。
まして、仕事中の相手に対してプライベートなことを伝えるのならばそれは当然の配慮としてなされるべきだ。
「競走、一等か。ふふっ、すごいな」
友からそうして送られてきた一通の電子文書には、幾枚もの添付画像が添えられていた。
今日はヴィヴィオの、魔法学院の体育祭だと。
もう一人の保護責任者であるフェイトに、彼女が元気に日々を生活している様子を精一杯、伝えられるように。
添えられた写真たちと、なのはの書いた文章とが、モニター内に踊る。
そして、添付されている写真のページを送ったところで、フェイトの目が留まった。
「あ……」
もちろんヴィヴィオの元気な姿を見ることは喜ばしいことだ。
運動着姿の彼女が、他の子供たちに紛れて徒競走の先頭を目指す様子。
なんらかの競技のあとか、一等賞を示す「1」の数字が描かれたフラッグを手にVサインを見せる一枚。
どれもこれも、航行艦勤務という各地を飛び回る仕事故にあまりヴィヴィオと会うこともままならないフェイトにとっては彼女の近況を伝え、安心させてくれるものばかり。
次に会うときは、どのように成長しているだろうかと、期待を膨らませてくれることには間違いない。
ただ。
彼女の目に留まったのは、ヴィヴィオだけが写っている写真ではなかった。
そこには、親子の姿が──いや、家族の姿があった。
三人、身を寄せて朗らかに笑い写りこむ、幼子と男女、三人の情景が。
その一枚が、写真をめくるパネル操作の手を、彼女の視線を釘付けにする。
(──もう、すっかり……家族なんだな)
中心で一番前に立ち満面の笑みの、ヴィヴィオ。
そして両膝をついて彼女の両肩を抱き、愛娘の晴れの姿に誇らしげに微笑む、親友──なのは。
最後に。中腰でヴィヴィオの頭を撫でながら、なんの違和感もなくその風景に一員として溶け込んでいる眼鏡の青年の姿が左にあった。
「……ユーノ」
本来ならばそれは喜ぶべき光景だ。むしろ、喜ばなくてはならない。
二人が結ばれ、睦まじくあることを願っていたのは他でもない、自分なのだから。
なのに……写真の中から微笑みかけてくるユーノの表情を見ているのを、自分は苦痛に感じている。
彼の笑顔と。なのはの髪の、緑色のリボンについ目がいってしまう。そして見るたび、胸に鈍い痛みが去来する。
でも、何故?
やがて注いでいた視線を、逃げるように写真から離して。
それでも耐え切れず、答えが出る前にフェイトはメールを閉じた。
──“無理しとるんと違うか?”
以前、なのはとユーノが結ばれたばかりの頃。
はやてに言われたことに対して、自分はなんと答えただろうか。
(なのはのことが好きなユーノだから、好きになった……か)
そんな大意を返したはずだ。そしてその意志は無論、今も変わったつもりはない。
「駄目だよ、フェイト。そんな風に思っちゃ」
だとすれば、この胸の痛みを作り出しているのは、醜い自分だ。
未練がましい、弱い自分に対し、ぽつりとフェイトは語りかけた。
彼女と彼がこうなることは、はじめからわかりきっていたことで。
自分もそれを心から望み、喜んでいたはずではなかったか。
もしも。
もし万が一、あの写真でユーノの隣にいるのが、なのはではなく自分であったなら。
もうひとつ、別の現実の可能性が、実際のものとなっていたならば。
邪まにもそう思ってしまう、心の中の自分に対して律するように。ゆっくりと、自分に諭していく。
もう、仕事に戻ろう。するべきことを終わらせてしまおうと、フェイトは思った。
……思ったのに、切り替えようと思ったのに。
家族同然に過ごす三人を写したその写真が、その光景が。
脳裏に焼きついて消えなかった。
(つづく)
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