一冊ツボった。

 
や、ツボったから買ったんだろ、というつっこみもあるでしょうが。
ツボすぎるんすよ。雰囲気が。
うん、ここのは他の本も買おう。読もうと思った。
 
どこのなんて本かというとサークルO.T.kingdomさんの『indomitable』という本。
普通に有名どころと思われるのでみなさんご存知かもしれませんが(いや、俺普段あまりイラストサイト回んないんですよ。膨大すぎて)。うーん、購入時にきちんと挨拶していかなかったのが悔やまれる・・・。そのくらい、読み返せば読み返すほど好みだわ。
リリマジ3参加されるのかな?参加されるなら新刊買いに行こう。
 
− − − −
 
さて、んでわnocturne(本編購入された方、ありがとうございました。感想などあったら拍手に放り込んでくれちゃっていいんで)新章、第二話です。
部隊長さんいらっしゃい。
 
↓↓↓↓
 
 
 
その人に会うのは、実に数ヶ月ぶりのこと。
機動六課が解散した、あの出発の日以来になる。
 
「おー。お久しぶりやね、ティアナ、シャーリー」
 
小さく手を挙げ、軽く振って見せた彼女はかつての上司だった。

──八神はやて二等陸佐。
小柄な体躯に膨大な魔力量と砲戦能力を内包する、ありし日の機動六課を一年間にわたって束ねた歴戦の魔導師にして指揮官。
クラウディアを訪れた彼女は春先の頃となんら変わることのない朗らかな笑顔で、出迎えに顔を見せた二人との再会を素直に喜んでいるようだった。
 
「ご無沙汰してます、八神部隊ち……あー、二佐」
 
むしろ、ティアナにとっては二等陸佐という肩書きよりも気さくな部隊長という上司のイメージが先に来る人物である。
うっかり今は失効している彼女の立場を口に出しそうになり、慌てて口元を押さえる。
 
顔を見合わせて、はやてはシャーリーと笑いあった。
 
「ええよ、別に。今も部隊……ってほど大きい規模やないけど、別の部署の頭任されてひーひー言っとるわけやし」
「はあ」
「でも、びっくりしました。急にいらっしゃるって連絡がきて。フェイトさん、生憎今は出ちゃってて……一体どういったご用件で?」
「ん? ああ、ええよ。こっちがいきなり来たわけやし、そういうのは織り込み済み。それに用があるのはどっちかいうたらシャーリー、ティアナ、あなたたちなんよ」
 
……自分たちに? 今度はティアナがシャーリーと顔を見合わせる番だった。
佐官ほどの地位にある人間が、知己があるとはいえ階級的には遥かに格下の陸士をわざわざ自分の足を使って訪ねてくるなど、まずないことだ。
てっきり親友であるフェイトか、もしくは艦長のクロノへの面会がこの訪問の目的だとばかり二人は思っていたのである。
 
「ひとつは、仕事──まあ、管理課から頼まれた、ちょっとした六課の感想が聞きたいのと。んでもう一つは、私の個人的な質問をしたくてな」
 
右肩と、左肩。
二等陸佐殿は左右の腕で二人の肩をそれぞれに叩き、艦内へ導くよう促した。
ティアナでもとっさに思いつく、気心の知れた友人二人に対してまるで、そうするように。
よくわかっていない二人は押されるまま、やはりよくわからない理由を言った彼女を先導する形となったのだった。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers Nocturne -revision-
 
第二話 軽い人。そして強引な人。
 
 
ミッド首都というだけはあって、クラナガンの中心部にはいくつもの高層ビルが立ち並ぶ。
もちろんその中には宿泊施設としての性質をもつものも出入りする人間の多量さに比例するように含まれており、地球であれば三ツ星、五ツ星と形容されるような高級ホテルも少なくはない。
 
「……なのは?」
 
そんな夜のクラナガンの、とあるホテルにおいて開かれたこれまたとある大企業主催の新役員就任披露パーティー
有力者の顕示欲・自己満足のためのその茶番の会場に、管理局航行部隊からの招待客の一員としてフェイトはいた。
挨拶回りで気疲れするばかりだし、別に豪華な食事にも釣られるほど飢えてもいないが、同様にこういったくだらない見世物を嫌うクロノに押し付けられた形だ。
窓の外の街並は遥か下方──というほどでもない。ビルの低層階に位置するパーティーホールからは、レースのカーテンをめくれば辛うじて人々の波の中からそれぞれの違いを確認できる。
 
無論、そのような夜空の向こう、外部の世界に意識を向けているのは一面ガラス張りの大通りに面した窓際でドリンク片手にぼんやりと街並を見下ろしていたフェイトくらいのものだが。
他の出席者達は当然の如く、出席した以上はそれが当たり前であるように賑やかなパーティー会場を思い思いに楽しんでいる。
 
フェイトが見つけたのは、人ごみの中でも目立つ白い上着
そして友のトレードマークとも言える、左サイドで結ばれた長い髪。
 
艦長の名代として盛装──パーティドレスに身を包んでいるものの、こういった成金趣味のイベントにあまり興味を見出せない、暇を持て余していたフェイトにはそれが親友の姿だと容易く判別できたのだ。
ふと見下ろした先に友の後ろ姿を見つけ思わず手を突いたガラスの表面に、指紋がついていた。
気付いているのは言うまでもなくフェイトのほうのみで、見つけられたほうのなのはは頭上を見上げることもなくただゆっくりと人の流れに紛れていく。
 
──大きな影と、小さな影。連れ立って歩く、二人の人間の姿とともに。
 
なのはの名前を呼んでみてから、フェイトもそのことに気付いた。
彼女は、一人ではない。
殆ど頭頂部しか見えない、色素の薄いブラウンの頭が二つ。遠近感で大と小、三人の身長差を感じさせながら並んでいる。
 
男が、一人。そして小さな女の子が彼となのはの間に挟まれるように、一人。
 
ヴィヴィオ……ユーノ……」
 
徐々に三人とフェイトの間が、垂直に近い角度から開いていく。見えるのは頭頂部から、徐々に後頭部、背中へ。
見送られる三人の後姿は、仕事帰りに子連れで食事に出かける家族にしか見えなくて。
聞こえないにもかかわらず、フェイトは言葉に詰まった。
 
何者も、入っていけない。あそこに彼ら以外の人間の居場所はない。
遠ざかっていく彼女たちの背中と、ガラスに隔てられた自分と。あまりに距離が離れているような気がしてならなかった。
 
“──ユーノくん、免許とったんだって。でも理由が酷いんだよ、なんだと思う?『もうなのはの運転は僕もヴィヴィオもこりごりだから』……なんて言うの。ね、酷いと思わない?”
 
先日、たまたま本局の食堂で昼食が一緒になったときの言葉だ。
あのときのなのはは、口を尖らせながらも本当に幸せそうで。
 
いや、あの時だけじゃない。
会うたび、声を聞くたび。思い知らされる。
 
彼女は、彼といて幸福そのものなのだということがわかる。
彼と彼女と、その娘と。三人で歩む家族同然の道を、彼女は心から愛おしいものと感じている。
 
わかってしまうのだ。──それこそ、嫌というほどに。
 
「っ」
 
俯いた拍子に、片手のグラスからウーロン茶が一滴胸元に跳ねた。
素肌の上に落ちたその冷たい感触に、ぞくりと肩を竦め小さく声をあげる。
 
「楽しんでるかい、お嬢さん?」
「ひゃっ」
 
だからある意味、周囲への警戒を欠いたところへの絶妙な不意討ちだった。
首の後ろに突如押し付けられたひんやりとした肌触りに、思わずしゃがみこむフェイト。
押さえた首筋の体温がそこだけ、僅かに下がっている。
 
「やあ。久しぶり、フェイト執務官」
「──っ、あ、アコース査察官……?どうして、ここに……?」
 
見上げると、白いスーツ姿の長髪男が約一名、微笑を浮かべて悪びれもせずそこにいた。
 
「多分君と同じ理由だよ。大方クロノくんの代理だろう?面倒ではあるけど……招待されて誰も出席しないわけにはいかないからね」
「同じ理由? ああ、なるほど。騎士カリムの」
「そういうこと。カリムはこういうこと嫌いだし、教会から動けないしね」
 
お互い、下手に立派過ぎる立場を持っている兄姉を持つと苦労するもんだ。
フェイトに右手を差し出しながら、ヴェロッサは愚痴とも思えぬ口調で肩を竦める。
彼の手をとり、足元に気をつけつつフェイトは立ち上がった。
 
「ま、来た以上は楽しませてもらってるけどね」
 
フェイトを引っ張り上げ、余った左手に持ったグラスの液体は琥珀色だ。
おそらくは水割りだろう、従業員が先ほど大量に盆に載せて薦めて回っていた。
 
「──で?」
「はい?……わっ」
「だーかーら」
 
ドレスのスカートで、少しフロアを擦ってしまった。
軽く見回してみて汚れがないか確認してみたが、ひとまずは大丈夫そうである。
 
最低限の単語しか用いられない問いに聞き返すと、ぽんと頭に手を載せられた。
 
「そんな辛気臭い顔をしてる理由を、聞かせて欲しいってとこかな。パーティの席上で、綺麗に着飾っているのに。せっかくの美人がもったいない」
 
*   *   *
 
「フェイトさん?ですか?」
「そ。なんでもええから気付いたこと、ないか?ここがいつもと違うとか、ここがおかしいとか」
 
質問者は、元機動六課隊員の二人からの聞き取り調査の内容を保存した空間モニターとキーボードを閉じて、正面へと向き直った。
今日、何度目だろうか。そうやってシャーリーとティアナが視線を交わすことになるのは。
実際上司の見せるここ最近の異変を知っているからこそ、一瞬答えに戸惑う。
 
二人の困惑を察したはやては、一拍置いて来客用の長いソファに完全に背中を預け口を開く。
 
「やー、別にそんな大それたことやなくて。ただこの前ちぃと話したらなーんか、元気ないみたいやったからな」
「……」
 
微妙に、そのフォローは二人が発言を躊躇した理由からはずれていたけれど。
ぼんやりと部屋の明かりを見上げるその顔は、かつて六課のメンバーと共に故郷の管理外世界へと赴いた際に彼女が見せていた、そんな表情に似ている。
そうティアナは感じた。士官としてではなく、一人の人間としてこの場にいる。そんな表情。
 
「なんとなく、理由はわかる気がするんやけど。せやけど、あくまで推測や。やから少しでも情報が欲しい思ってな」
 
フェイトちゃんと一番身近にいて、一番一緒に行動する時間が長い二人に聞いてみようと思った。
ミッドでは珍しい、あいかわらずの独特のイントネーションではやてが言ったのは、そのような意味のことだった。
 
*   *   *
 
「なにか、悩み事?」
「──え?」
 
料理は?と訊かれ皿のほうを示されたものの、生憎とそういう気分でもなかった。
だが、他の部分で言えばひとまずは流されるまま。
フェイトはパーティ会場のホールをあとに、フロアに休憩所として並べられている椅子へと、ヴェロッサと二人仲良く今現在座っているわけである。
 
そして隣の長髪長身の男性が口を開いた、第一声がこれである。
 
悩み事。確かに、あるにはある。
いきなり事実をつく質問を向けられ、どきりとすると同時にフェイトは探るような視線をヴェロッサへとつい向ける。
 
「っと、おいおい。そんな不審人物を見るような目で見るのはやめてくれよ」
「あ……す、すいません」
 
自分が失礼なことをしたと気付き、平謝り。
足元に移った目線には、自分のつま先が、ハイヒールのサンダルを履いた自分の両足が捉えられる。
 
「でも、図星みたいだね。よかったら、話してみないかい?少しは楽になるかもしれないよ?」
「……」
 
尤もそれが、なによりも雄弁な回答となってしまったようだ。
 
話してみないか。そう云われ、フェイトは悩む。
人に、言うべきことなのか。そもそも、どう言うべきなのか。
 
言葉にして。人に言うことで。自分が今持っている感情を肯定してしまうのではないか。
それが、怖い。結論は出たはずなのに。納得も、同意も。理解もしたはずの、しまい込んだ感情の紐を解くべきではない。解いてはならないと思う。
 
“今更”。その一言に尽きる。
 
「……ま、そうなるか」
「え?」
 
当然だ。一人納得した様子でヴェロッサは頭を掻く。
 
「こんな場所で突然、話してみるかなんて言われても、そりゃあ無理ってものだ」
 
こちらの沈黙を彼はどうやら黙秘と捉えたようだ。
あながち、間違いでもないので訂正はしないけれど。
 
「はやてやクロノくんにも言えないことを、そう言えるわけないだろうし……ね。いや、悪かった。忘れてくれ」
 
──はやて?クロノ?
 
フェイトは兄の親友から、その兄と自分の親友の名が出たことに若干の違和感を覚えた。
けれど言った本人はといえばほんの些細な、話の中の流れで自然に出ただけのことのようで特に意識している気配もない。
今度は逆にこちらが深く追及することもできず、ヴェロッサに謝られるのにあわせて頭を下げるに留まる。
 
「すまなかったね」
「いえ、こちらこそ」
 
こういうとき、けっして悪いことをしたわけでもないのになんとなく恐縮した気持ちになるのは何故だろうか。
一瞬感じた疑問も、別の思考でうやむやに消えていく。
 
「でもそうすると、悩みか……。何か力になってあげたいところだけど……」
「あの、アコース査察官?そんな、別に」
「そうだ。今度の休暇、いつだい?」
「……はい?」
 
主に、話が急激に方向性を変えたことによる戸惑いとか。驚きとか、そんな感情によって。
こちらの遠慮なぞ、聞いちゃいないものだから。
 
「査察部は割と休暇に融通が利いてね。よかったら、ドライブにでもいかないかい?僕でよければお供するよ」
 
思わず身体の末端まで神経がゆきとどかなくなって、取り落としそうになったウーロン茶のグラスをフェイトは慌てて掴み直した。
 
それはまた、突然すぎる誘いだった。
 
(つづく)
 
− − − −
 
連載物も発行物も、感想意見批判その他諸々ばっちこい。つWeb拍手