色々原稿抱えてるけれど。

 
まあ大丈夫、きっと大丈夫。
落としたらごめん天波さん。多分大丈夫だから。間に合わせますから。
 
てわけでnocturne二期更新っと。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 

「は?ロッサとフェイトちゃんが?」
 
そんな驚きの声をはやてがあげたのは、ちょっとした会合のため訪れた聖王教会の、その中庭でのことである。
彼女の素っ頓狂なトーンの台詞を引き出した原因の事実を伝えたのは、同じレアスキル持ちの騎士。
聖王教会所属にして管理局においても重用される、そんな肩書きはどこへやらといった風情で今現在花壇にのほほんと水をやっている人物──カリム・グラシアの言葉であった。
 
花の世話ぐらい、放っておいてもシャッハや修道女たちがやるだろうに。
……というか、シャッハ以外なら、間違いなく止めに入るだろう。
 
「ええ、今朝車で出て行くときに。フェイト執務官とお出かけだー、っていつもの調子で」
「ふーん……あのロッサが、ねえ」
 
如雨露を置き、水を出して手を洗いつつカリムの言った言葉にはやては首を傾げるような、納得したような微妙な表情を作らざるを得ない。
なんというか、少し──予想外の組み合わせであったから。
 
生真面目・温厚を絵に描いたようなフェイトと。遅刻欠勤なんでもござれのなまぐさ査察官のヴェロッサとか、これいかに。
 
「シャッハも、フェイト執務官が一緒ならお痛はしないだろうって安心していたし。……あら?」
「お?あれは……」
 
それは一体、どんな種類の安心なのだろう。
いや、まあ、聞かなくてもわかるけれども。
蛇口を締めたカリムがふと何かを見つけた様子で視線を移し、はやてもそれにつられる。
 
「れ?ヴィヴィオ?」
「こんにちはー」
 
リュックを背負った小さな姿が、向こうから歩いてきていた。
親友の養女……正式にそうなって、数ヶ月が経とうとしているかわいらしい女の子が、一人。
 
「あら、どうしたの?今日は学校、お休みでしょう?」
「うん、クレアちゃんの家でお泊り会なのー」
 
そういえば、彼女はこの聖王教会運営の学校に通っているのだったか。
カリムと親しげにしている様子に、思い出す。
 
「そうなの?でもそれじゃあママが一人でかわいそうじゃないかしら?」
「大丈夫、今日はゆーのパパが遊びに来てるからなのはママ、一人じゃないよー」
 
子供の、無邪気な言葉だった。
フェイトとヴェロッサが共に出かけたという事実と同じように、耳に入ってきた。
なのはとユーノが同じ時間を過ごしているという、ただそれだけのこと。
 
ほんとうにたった、それだけ。
 
魔法少女リリカルなのはStrikers Nocturne -revision-
 
第三話 群青
 
 
天気は、実に快晴。
ところどころ切れ切れに飛んでいく白い雲のアクセントが、青空に実に鮮やかだった。
 
「すいません。運転までしていただいて」
「ん?」
 
走る車は、フェイトのものではない。乗ってきた自分の愛車は、待ち合わせ場所近くのパーキングに置いてある。
そして彼女が座るのも乗車時の基本的な定位置である運転席ではなく、シートベルトを締めただけの助手席。
 
ハンドルを握るのは彼女と比肩する程度に長い髪の、一人の青年である。
 
「ああ。いいよ、もともとそのつもりだったし。誘ったのはこっちだからね」
 
緑がかった、この次元の人間でも珍しい色味の髪を揺らし、ヴェロッサは応えた。
フェイトの愛車に比べ後部座席分広い彼の車はほどよく乗り回されていて、小気味よいエンジン音を足元から響かせてくる。
 
これならもう少し、ちゃんとした格好をしてくればよかったかな。
フェイトは思い、自分の服装に目を落とす。
 
元々は自分で運転してきたし、合流後もそのつもりだったから足元はスニーカー。
ゆったりした黒のミニスカートの下には、履き慣れた同じく黒に近い色のジーンズを履いている。
上もお気に入りのTシャツにキャミソールを組み合わせて、パーカーを羽織っているだけだ。
行き先もわからなかったし、運転が前提として頭にあった以上は多少ラフになってしまうのは仕方なくはあったけれども。
 
なにしろ二人して、それぞれに二人分の弁当を用意してきて苦笑する羽目になるとは思わなかった。
 
「ところで、どこに向かってるんですか?アコース査察官」
「“ヴェロッサ”、だよ」
「──え?」
「休日なんだし堅苦しいのは抜きにしよう、フェイト執務官。お互い、そこまで知らない間柄じゃないだろう?」
  
まあ、言われれば確かにその通りではある。
海鳴で兄や母と一緒に暮らしていた頃、その兄の親友である彼は時折遊びに来ていた。
 
フェイトが一人暮らしをはじめてからも、やはり兄を訪ねて勤務先のアースラやクラウディアに姿を見せることは多かったことだし。
顔を合わせる機会は決して少なくはなかったのである。
 
「……だったらそちらも役職で呼ぶのをやめないと、意味ないと思いますけど?」
「おっと。こりゃ失礼」
 
それに、こうして同じ車でどこかに出かけるというのもはじめてではない。
たしかあれは、クロノとエイミィが結婚する少し前のこと。
今日と同じように、──そのときはもちろんきちんと人数分だったけれど、弁当を持って。
クロノの運転する車で四人、ちょっとしたドライブにでかけたことがあった。
  
はやてやなのはも呼ぼうか、という自分の問いになぜか首を横に振った今現在の兄夫婦のその仕草が印象的で。
  
その疑問は目的地への到着後に瓦解した。
草原に広げたシートの上で食事を終えたタイミングで、二人から結婚の意志を聞かされたのだ。
母にすらまだ伝えていない、彼と彼女の喜ばしい決意を第一に耳にする栄誉に恵まれたわけである。
恋人二人の親友とともに、未来の夫婦二人の妹として。
 
「ま、今日一日頼むよ。フェイトくん」
「はい、ヴェロッサさん」
 
車は、海岸線の道に出た。
水面の照り返す太陽は、まさに今が一番輝く時間。
細めた視線の先に、水平線のまっすぐなラインがどこまでも広がっていた。
少し目を上に向ければ、入道雲が見える。それ以外、空も、海も。ただひたすらに青かった。
 
*   *   *
 
ちょっと意外な反応だなぁ、と返ってきたリアクションに対し、はやては思った。
切り揃えられた前髪を揺らし、そんな質問どうでもいいとばかりに目の前の修道女はばりばりと書類仕事を片付けていく。
 
「別に、あの子が問題さえ起こさなければかまいませんよ。フェイト執務官が一緒ならばその可能性も少ないでしょうし」
「ふうん。そうなん」
「ええ、そうなんです」
 
シャッハ・ヌエラ。ヴェロッサの教育係の彼女が、今回のフェイトとのお出かけに対しどう思っているのか少し気になったのだが。
少々期待はずれというか、拍子抜けというか。シャッハが返したのは意外に理解のある回答であった。
 
「……まあ、出がけに粗相のないよう、強く言っておきましたから」
「どんな風に?」
「クロノ提督の妹君に至らない事をしでかした日には、どうなるかわかってますよね?と」
 
待機状態の愛機──首から提げたヴィンデルシャフトを揺らし、彼女は言った。
 
──前言撤回。ばい、はやて。
 
要は、痛い目見たくなかったら大人しくしていろ、ということか。
なるほど、それはどんな信頼の言葉よりも彼の好きにさせる理由として説得力がある。
それはもう、どうなるかは長年の経験でヴェロッサの身に刻み込まれていることだろう。
 
ほんの少し、ヴェロッサには同情する。
笑顔を引き攣らせつつはやてが頷いたところで彼女は書類のファイルを閉じ、席から立った。
 
「お?もうお仕事終わりなんか?」
「いえ。ですがこれからクラナガンまでちょっと。使いで買い出しに行かなくてはならないので」
  
まあ、私が行くのが一番手っ取り早いですからね。
 
体よく便利アイテム的に使われている自覚があるのだろう、長距離転移を得意とする戦闘系シスターは肩を落とし、一礼して部屋を出て行った。
部屋に残されたはやてはおつかれさん、とその背中に向けて呟いた。
  
*   *   *
 
「……ごちそうさまでした」
「いーえ、お粗末さまでした。こちらこそ、おいしくいただかせてもらったよ」
 
辿り着いたその場所は、緑豊かな自然公園から海に向かい、二つの岬が突き出た展望台だった。
その西側にあるほうの休憩所で二人はベンチに昼食を広げ、景色を望んでいる。
 
──結局二人で四人分、用意してきた弁当を食べてしまった。
口元を押さえつつ、ついつい食べ過ぎてしまったことを後悔するフェイト。
カロリー、摂りすぎだ。
 
だって、美味しかったんだもの。
前々から料理好きで腕も確かな人だとは知っていたけれど、自分のものと食べ比べてみると正直負けたかもしれない。
それほどに、美味しかったのである。フェイト自身それなりに料理はよくやるし味にもそこそこ自信があったから、ちょっぴりショックだ。
 
料理の量が増えれば、比例して飲み物の消費も激しい──残り少ないペットボトルの中身を呷り、息をつく。
 
「でも、クラナガン近郊にこんなところがあったとは知りませんでした。海も、森もあって」
 
中心部からの距離で言えば、旧六課隊舎までの道のりに少々毛が生えた程度。
良くも悪くも都会としての機能を優先させている首都のごく近いところに、こんなに自然が豊かで長閑な場所があったなんて。
 
予想外であると同時に、驚きだった。
 
「僕も、ついこの間教えてもらったばかりなんだけどね。ほら、あれ」
 
フェイトの反応も、ヴェロッサには納得できるものであったようだ。
自分のボトルを置き、森のほうに木々の間から聳え立つ建物を指差す。
 
「割と大きな、講義堂だろう?つい最近出来たばかりらしいけど、ちょくちょく学会も開かれてる」
「へえ……」
「──って。受け売りだけどね。スクライア先生が言ってたんだ」
「え?」
「この前、一緒に食事した時にね。どこか羽根の伸ばせるいいところはないか、って話になって」
 
スクライア……ユーノの名前が唐突に出たことに、心臓が跳ねた。
音もなく、だがはっきりと。
ユーノのことで、落ち込んで。そのときに誘われて、この場所へとやってきて。
訪れた先が、ユーノの紹介によるものだった。妙な符号に、なんともいえぬ圧迫感が胸を被っていく。
 
「? ……どうかしたかい?」
「あ……いえ」
  
けれど、それを露わにすることはせっかく誘ってくれたヴェロッサに対して失礼極まりない。
曖昧な笑みで気分を表に出さぬよう注意しながら、フェイトは答えをはぐらかした。
 
「そう?……と、しまったな。飲み物……もうなくなったか」
「わ、私買ってきます。くる途中で自販機を見かけたので」
 
そして話題が変わったのを、これ幸いとばかりに腰を上げる。
私もちょうど残り少ないですから、というのは真っ当な理由か、はたまた言い訳か。
 
「あ、お金は──……」
「あとでいいですから!!」
 
足早に、立ち去っていく。
 
*   *   *
 
慌てていることがはっきりとわかるフェイトの後ろ姿に、ヴェロッサが漏らしたのは苦笑だった。
「笑」よりも「苦」のほうが大分に多い、そんな困った笑みの表情。
 
「……手強いなぁ」
 
まいった、とばかりに掌で額を打つ。
そういえば、出会ったばかりの頃のクロノもなかなかフランクには接してくれなくて打ち解けるには時間がかかったものだ。
もちろんあんな不愛想の塊だったものとは比べるべくもないが、それでもやはり義理とはいえ兄妹ということか。
 
「ま、はやて達にも言えないようなこと……だろうしね、多分」
 
その悩みが、なんなのかはわからないが。言えることならば真っ先にはやてやクロノにも相談がきているはずだ。
だがごく親しい人間にすら相談した様子のないそれを、ただ単に兄の友人で知人というだけの自分にそう易々と言ってくれるとは思えない。
一応、ヴェロッサなりにその内容を推測、予想したりはしているのだけれど──……。
 
見上げた空は、青一色に近かったその様相を少しばかり変化させていた。
 
「……こりゃ、一雨くるかもなぁ」
 
灰白色の雲が、所々姿を見せるようになっていた。
さしあたっては屋根があるから問題はないけれど、フェイトが戻ってき次第、車に戻ったほうがいいかもしれない。
 
簡単にではあるが、ヴェロッサはシートをたたみ、食事の後始末をはじめた。
 
*   *   *
 
たしか、西側のパーキングに辿り着くまでに通った東側の展望台近くに、自販機があったはずだ。
フェイトの記憶どおりに、缶とペットボトルを一定数ずつ陳列したそれはそこまで時間をかけずとも見つかった。
 
コインを一枚、お茶を二つ。
がこん、という音とともに落ちてきた二本のボトルをとりだし、踵を返す。
 
──と、ぽつり、と。頭頂部に一滴、冷たい感触が当たる。

「あっ? ……雨?」
 
続けて、二滴、三滴。雨が、降りだしたのだ。
結構、強い。
 
道は一直線だが、そこそこ距離はある。せっかくの休日に雨くらいで魔法を使うのも馬鹿馬鹿しい。
とっさに急いで戻るよりも、そこに屋根の見えている東の展望台で止むのを待ったほうがいいかもしれない。予報は晴れだったし、通り雨ならすぐ止むはずだ。
ぐずぐずしていてずぶ濡れになるより、フェイトの決断は早かった。
片腕に二本、ボトルを抱え、もう一方の手を頭の上に翳しながら、駆け出す。
ここまでくる途中の東側パーキングに車が停まっていたから、先客がいるところに乱入することになるかもしれないが。
 
「──え?」
 
緩やかなカーブを描いた、雨に打たれる未舗装の道を走り。木々の間を抜けたところに展望台はあった。
 
一組の、男女とともに。
 
どうして、という声にならない声も、雨音にかき消されていく。
雨宿りなんて当初の目的、とうに塗りつぶされていた。
 
きっと彼女が心をいっぱいに込めて作ったのであろう、弁当のバスケットは既に空だった。
中身がそれぞれに減ったボトルが二本、無造作に並んでいて。
雨に慌てたのだろう、ビニールシートはやや乱雑に畳まれて、青年の膝の上に放置されていた。
 
「どう、して」
 
抱えていたペットボトルが、フェイトの脇から滑り落ちていく。
落下音も、転がっていく音も、すべては激しく降り注ぎ始めた雨が包み隠してくれる。
降り注ぐ雨によって視覚と聴覚を外界から遮断された二人が、フェイトに気付くことはなかった。
 
“ユーノくん、免許とったんだって”──。そう、けっして不思議なことではない。
 
休暇が重なったならば、二人がともに彼の運転する車で出かけようと思ったとて、不思議ではないのだ。
 
二人の掌は、ベンチの上で重なり。
二人の唇もまた、深く深く重なっていた。
 
それも、当たり前のこと。なのはとユーノは、恋人同士なのだから。
離れることなく互いを求め合う唇の交歓のどこに、おかしいことがあろうか。
 
滴る雨の中、フェイトは動けなかった。
 
澄みきった青の空は今はもう、夜のように濃密な群青の色に染まりきっている。
落ちてくる雨は、あとからあとからフェイトの身体を打ち。体温を奪い。
 
その肉体以上に、内にある心を冷たく冷やしていった。
 
(つづく)
 
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修羅場ってる640に愛の手を……むしろ蹴落とす感じのコメントでもよし。つWeb拍手