ちょいとユニオンはパス。

 
予定を冷静に考えてみたらちょっと無理。
なんで次は五月のリリマジ4ー・・・のはず。
ひとまず今年の上半期は既刊の再版に専念しますわぁ。
喪失辞書最終巻はリリマジ4でだすよー。
 
・・・あー。なんか妙に頭痛い。風邪かのう。Web拍手レスは次回に。
 
− − − −
 
んで、今日はカーテンコール第二回。
なのはさん、出番ですよー。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 
白亜の竜が、じっと遠くを見据えていた。

豪雨が過ぎ去ったあとの、大地から蒸散し立ち込める濃い霧が数メートル先までもを白く埋め尽くす中、ただその向こう側を。
彼の肉体は呼びよせられた竜としての魂を既に飲み込み一体となり、少年少女を遥か眼下に望む巨大な姿へとその形を変貌させている。
 
「ガジェットの反応はいまのところ、ケリュケイオンの探知できる範囲にはないみたいです」
 
──違う。変わったのは、身体だけじゃない。それならばいつもと変わらない。
目が。白竜が霧の先にただ注ぎ続ける視線が、少年の知る若年竜のものとは完全に異なっているのだ。
 
「……近隣の次元に駐留してる部隊の方々と連絡がとれました。五時間後にはこちらに到着すると」
 
かつての上司へと報告を続ける少女──彼、フリードリヒの主たる召喚魔導師の少女は自身の従者の変化に、気付いているのだろうか。
 
今のフリードは、フリードであってフリードでない。そこにいるのは一匹の荒ぶる竜。
名前などなんの意味もなさない、弱肉強食の殺気に満ちた世界に生きる野生の獣そのものだ。
 
『さよか。……ともかく、十分気ぃつけてな。二人になんかあったらフェイトちゃんが死ぬほど心配するからなぁ』
 
冗談交じりの口調に、独特のイントネーションの言葉が終わりに近くなったことを悟り、ちらちらと白い巨体に向けがちであった視線をエリオはショートヘアーの女性の映る空間モニターへと戻す。
 
組んだ両手の上に顎を載せる女性の肩口には、小さな銀色の少女が。
そしてその二人の脇には更に、ショートどころか短髪に近い長さの髪の少年──少女?どっちだろう──が、補佐官として控えているのが見える。
 
『一時間後、本局からも高町教導官指揮の派遣部隊が出発する。明朝にはそっちにつくはずや。急造のよせあつめではあるけど──スバルやギンガ、それにナンバーズのみんなも何人か参加してくれた。その到着まで、警戒だけは怠らんように』
「はい。合流次第指揮下に入ります」
 
三つの、懐かしい名前。それぞれの顔を思い浮かべながら、エリオは話を結びに入った本局の二等陸佐殿へと敬礼を送った。
 
これでティアナさんも揃えば、機動六課フォワード陣再結成か、なんて思ってしまったのは不謹慎だろうか。
キャロの指先が、画面の落ちたモニターを操作し虚空に閉じていく。
フリードは変わることなく、今もなお白みここからでは見えることのない、濁流の満ちたあとぬかるみきった大地の遥か向こうを睨み続けていた。
 
「次の定時連絡は、二時間後に」
 
はやての言葉通りに、というわけではなくとも、警戒しているのだろう。
二週間前から降り続いた記録的な豪雨──それが昨日、小雨に変わり一瞬の晴れ間を覗かせたときから既に、小さい身体のフリードはこの状態だった。
それも無理はない。直接踏み込んだわけではないけれど、あの艦の威容については二年前、エリオ自身この目で見たものを未だはっきりと思い出すことが出来るのだから。
 
思い出す度に、筋肉や精神が緊張を蘇らせていくのがわかる。それほどに、自分の意識の中に鮮明な映像がある。
それは自分も、キャロも。もちろん二人を載せて共に戦ったフリードも、それは同じはずだ。
 
「エリオくん」
 
二度と、あれが空に舞い上がるようなことがあってはならない。
フリードを見上げ、こちらに声をかけてくるパートナーへ、無言の首肯をエリオは返す。
白竜と同じ方角を、知らず知らず視線に射抜く自分がいた。
 
ミラやタントは、監視任務くらい、と協力を申し出てくれた。だが彼らは非戦闘員──頼るわけにはいかない。
実際に相対し、この先にあるものの危険性を知るからこそ、絶対に。
 
なにかあれば、なのはやスバルたちがくるまで頼ることのできる人間はいない。
彼女たちが到着するまでは、自分が守るのだ。
キャロを、フリードを。
 
そして、『ゆりかご』を。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第二話 second ship
 
 
次元航行艦の艦内に足を踏み入れるのは、機動六課で二年前に使用していたアースラ以来だ。
 
──というか、他のものにはスバルは乗ったことがない。小さい頃両親の仕事場ということで時折管理局の施設を訪れていたときも、機動六課に配属される前も、その解散後も。
基本的にスバルにとっての管理局員としてのメインフィールドは陸、地上であったから。
航行艦というものは入局以前も含め、十年以上にも及ぶ管理局との繋がりある彼女の人生の中でも、かなり没交渉な存在であったといっていい。
 
六課解散後に一度、ティアナにうちの艦まで遊びに来い、とは言われていたものの、それもこちらに緊急出動が入ったせいで流れてしまった。
 
「ふえー……」
 
だから、どちらかといえば心情的にはぽかんと口を開いてもの珍しそうに辺りを見回し、壁をぺたぺた触ったりなんかしているノーヴェに近いものがあるのだ。
 
彼女に倣わないのは、偏に自分のほうが年長者、保護者であるという意識によるもの。
その意識が慣れぬ環境に対する感覚を責任感の伴った軽い緊張感へと変換しているというだけに過ぎない。
 
現在就役中のL級艦、最後の一隻──『ランバルト』。
 
かつて乗艦したアースラの同型艦では唯一の現役であるというその内装は、確かに記憶にあるアースラのそれとよく似ていた。
緊張が暴発せずに済んでいるのも、そのどこか懐かしさを感じる艦内風景のおかげだろうか。
 
比較的後方の任務に従事することが他の系列艦に比べ多かったという点が、同年代のアースラ寧艦後もこの老体の船を現場に留まらせているのだろう。
 
「ほーら。いくよ、ノーヴェ。子供じゃないんだから、きょろきょろしてないで。指定された時間までに着かないと」
「わーかってるよ!!いちいちうっせーな!!」
 
文句は、聞き流す。聞き流すと余計むきになって更に喚くから、以下その繰り返し。
……いい加減、このループが傍から見ればすごく面白いことになっている上に、それをこちらが楽しんでいるということについて気付かないものだろうか、ノーヴェも。
単純というか、コミュニケーション慣れしていないというか。
 
肩を竦めて苦笑しつつ、スバルはそんなことを考えながら彼女の前に先立つ。
 
「こーら、スバル。あんまりノーヴェに意地悪ばっかりしないの」
 
声をかけられたのは、通路が広くなり、十字の形に交差した分かれ道へとさしかかった時だった。
 
ぶつぶつまだやっているノーヴェを尻目に、さてどちらに行けばよかったかと足を止めたそこに、叱るような口調が飛んできたのである。
声はひとつ、身体を向けた先にあった影は二つ。
異変に気付いたノーヴェもぶつくさ文句を言うのをやめ、スバルの背中からそちらへと顔を覗かせる。
 
「ギン姉?ディエチ?」
 
長髪は一方が流れ、一方が背に一本の筋となって結ばれていた。
二人の色はそれぞれ、陸の茶に空の白。陸曹長と空士の階級章が、それらの制服を飾っている。
ギンガ・ナカジマ──スバルにとっても、ノーヴェにとっても姉であり、武術の師でもある女性。
ディエチ──寡黙な彼女は今は同じ砲撃型であるなのはの直弟子として武装隊に籍を置きつつ、その腕を磨くべく予科生の名目で教導隊に身を預けているのだったか。
 
その二人が、揃って目の前に立っている。
 
「待ってたわ、二人とも」
 
思わず二人して、彼女たちの元に小走りに駆け寄っていた。
自分たちと同じく、召集を受けてこの部隊へとやってきたのだろうが──顔をあわせるタイミングとしては少々、唐突で。
喉より先に、足が動いた。
 
「ギン姉たちも、呼ばれたの?」
 
差し出された両掌に、ぽんと自分の掌を打ち合わせる。ある意味ではお約束──姉妹にとっての挨拶のようなものだ。
微笑を浮かべて、ギンガは頷いた。
 
「ええ、私は辞令を受けて。さっき着いたところよ」
「私、『は』?」
 
彼女の言い回しに、ノーヴェが首を傾げた。その後、ディエチのほうへと目線を注ぐ。
 
「あたしはずっとなのはさんと一緒だったから。辞令は受けてないけど、志願してついてきた」
 
指揮官の名を出して応えたのは、ディエチ。
既に歩き出す体勢に入っている彼女の言葉に、スバルは師の存在がこの先にあるということを単語として実感する。
 
──そうだ。あたしはなのはさんと一緒にまた戦うために、この艦へと呼ばれたんだ。
 
乗艦時とはまた違った意味での緊張感が、三割ほどの期待感を伴って、心へと静かに流れ始める。
 
なのはさんは?」
「こっち。二人が到着したって聞いて、迎えに行くよう私たちに指示を」
 
ディエチの指差した方角に、なのはがいる。一年ぶりに再会する、未だ変わることのない憧れの人にして、敬愛すべき恩師。
六課解散以来再び、彼女の部下として戦うべく自分がここにいる。
ちょうど今朝、彼女からの招待状を受け取ったばかりというのも奇妙な符合で、少し不思議な気分になるけれど。
 
色々なことを、教わった。叱責を受けることも、一度や二度ではなかった。
機動六課で彼女に師事した日々があったからこそ、今の自分がある。特別救助隊スバル・ナカジマがいる。
空のあの人が、陸戦魔導師としての自分を組み立ててくれた。
 
自分はあれからどのくらい、成長できているだろうか。
あの人の背中に、少しでも近付けているだろうか。
 
「そっか」
 
確かな高揚感が、胸にある。
ディエチに先導され、一歩一歩近付くたびに、とくん、とくんと鼓動が胸の内側に音を高鳴らせていくのが聞こえる。
そして。
 
「失礼します。最後の二人が到着しました」
 
スライドした自動ドアからはじめに見えたのは、白いジャケットの背中だった。
かつて乗船したアースラと同じ構造のミーティングルームで、茶や紺の制服の士官たちと打ち合わせを交わすその肩に、サイドで結われた茶色の髪が揺れている。
 
両手には、チェックボード。ディエチからの呼びかけにワンテンポ遅れ振り返ったその左手の薬指に、銀色の指輪が輝いている。
 
「──ああ。いらっしゃい。久しぶりだね、スバル。ノーヴェ」
 
同じくらい、柔らかく光る微笑みを湛えたその表情は。
スバルの記憶するそれと何ら変わらない、高町なのはその人のものであった。
 
*   *   *
 
陸士制服の男が打ち合わせを終え退出すると、なのはは改めてスバルたちのほうへと向き直る。
少し待っててね、と云われていたから、別にこちらとしても自分たちが部屋にはいったきり触れられずにいたことに対して不満はない。
 
「彼は、マイア准尉って言ってね。今回の先遣隊の副隊長格をギンガと一緒に務めてもらう手はずになってるんだ。わたしと訓練校の同期で、普段は陸上本部勤務。対AMF戦闘も問題なくこなせる」
 
すれ違いざまスバルたちに会釈を残していった男性局員について、軽く触れる。
デスク上の紙コップに手を伸ばし、残りを一気に呷った。
 
「──で。ごめんね、突然呼び出して。スバルも、ノーヴェも。とにかく、すぐに戦力になる人材が必要だったから」
「ああ、いえ。そんなことないです」
 
眉根を僅かに、困ったように寄せて、空になった紙コップを置く。
言葉も雰囲気も、部屋に足を踏み入れた際抱いた第一印象どおり、機動六課にいた頃とまったく同じ人柄の上司がそこにいた。
副隊長、といわれたギンガに目を遣ると、気付いたのかなのはは補足説明──正確にはそこへと導入するための問いを、スバルとノーヴェに向け口にする。
 
「さて、二人とも。今回召集を受けた理由、もう聞いてる?」
「いえ、とある次元への派遣部隊に出向しろ、としか」
 
だよね。首を捻じって隣のノーヴェに確認する。
一瞬、「またこいつは……」というようなジト目を向けられるが、姉貴分というものは妹に対しては図太く出来ているものである。
その視線に含まれるものには気にも留めず、頷いた彼女を確認しなのはへ目を戻す。
 
スバルたちが返答に等しい態度を見せたというのに、どこか目の前に立つ師の表情は、複雑そうだった。
そして再び、彼女は繰り返す。──二人へと向けた、謝罪の言葉を。
 
「……ごめんね。本当はね、呼びたくはなかったんだ」
「え?」
「スバルは夢を叶えて、その夢の中を走っている真っ最中だし。ノーヴェはノーヴェで、自分で選んだ場所──もう戦いをしなくていい場所にいたっていうのに」
なのはさん……」
「どうしても、対AMF戦闘のエキスパートが必要だったんだ。だから」
 
心底すまなそうな色へと変化する教導官の顔を、並んだ二人はただ見つめていた。
 
「だから本当に、ごめん」
 
そこまでが、前置き。
三秒ほどの瞑目とともについた浅い溜息が、一人の先輩局員、あるいは教え子に向かう師という姿から一部隊の現場指揮をあずかる指揮官へと切り替わる合図だったのだろう。
 
スバル・ナカジマ一等陸曹、ノーヴェ一等陸士」
 
声からは柔らかさが抜け、部屋の空気を切り裂いていく張りつめた雰囲気がその代わりに、内側へと含まれていた。
上官から部下に対する上意下達──局員として幾度となく経験したことがはじまろうとしていることを肌で察し、反射的に二人は背筋を伸ばす。
 
ただの優しい「なのはさん」ではなく「高町なのは一等空尉」並びに「隊長」へと変化した彼女の顔に微笑は既にない。
眼前に立つ女性はさほど身長も変わらない筈なのに、あまりに高く、大きく感じられる。
二年の時を経てもなお、届かないことを実感させられる──いや、自分も成長している。しているからこそ、余計にこの人の力が身体で分かる。
分かるから自然、それに呑まれた全身の筋肉が硬く硬直する。これが、百戦錬磨のエースの威圧感──……。
 
「あなたたち両名はこれより私、高町なのは一等空尉指揮下の臨時派遣部隊へと編入され、第61管理世界『スプールス』へと向かってもらいます。部隊責任者は本局特別捜査官・八神はやて二佐。目的は現地の観測隊、並びに近辺の駐留部隊と合流・連携してのロストロギアの護衛、回収」
「……ロストロギア?」
 
彼女が言葉を切った合間に、スバルは思わず呟いていた。
自分たちを含む大勢の魔導師がかき集めるようにして呼ばれた理由。わざわざ本局戦技教導隊のなのはが隊長を任せられた派遣部隊の意味。
それがたったひとつのロストロギアを護送するためのただそれだけのもの。だとすれば、そのロストロギアとは一体。
 
口をついて疑問が出て、ある意味当然だった。
ただロストロギアを護送するだけならば適切な封印処理を施しさえすれば、艦船一隻をまわせば常時配備されているだけの戦力でも十分なのだ、普通ならば。
例えばそう、二年前機動六課が立ち向かったゆりかごや、その起動キーのひとつであったレリックのような第一級の危険物として認識されているものでもない限り。
裏を返せばこれだけの戦力を無理矢理にでもかき集めたということは、それらに等しい危険性をそのロストロギアが孕んでいるということだ。
 
その「例えば」が的を射ていたことをスバルが理解するまで、大した時間はかからなかった。
すぐ側のディエチやギンガが苦い顔をしていたところで、もっと早く気付こうと思えば気付けたのかもしれない。
 
「そう。二年前、JS事件において姿を現したロストロギア──通称『ゆりかご』。かつてそう呼ばれたその艦が、これから向かう次元において再び発見されました」
 
自分の内側から。そして自分の隣から、息を呑む声が聞こえた。
同時に、二年前のあの戦いが脳裏にあるスクリーンへと連鎖的にフレームインしては消えていく。
そのうちには敬愛する姉との一騎討ちや、魔力の一切はたらかない世界への強行突入といったものもあった。
どれもこの目で見、この身体で感じ。経験してきたまぎれもない現実の出来事ばかり。
 
「二隻目のゆりかごを、犯罪者の手にわたることのないよう守り通す。それが今回、私たちに課せられた任務です」
 
なのはから放たれる威圧感の理由がもうひとつ、スバルにはわかった気がした。
自分が感じ取ることが可能になったというだけが、その原因ではない。
彼女のほうにも、自分を抑えていることに回していられるだけの精神的な余裕がないのだ。
 
己が身を削り、わが子と矛を交えた忌まわしき場所。
エースオブエースにとって、ゆりかごの四文字を持つロストロギアとの因縁はけっして、浅からぬものなのだから。
 
*   *   *
 
──そして、二時間後。
 
木々の緑に覆われた次元から、本局のはやてへと向けて送られるはずだった定時連絡が届くことはなかった。
監視行動にあたっていた二名の年若い局員たちと、その従者である一頭の白竜の消息は、わからない。
 
待てど、暮らせど。
受信を告げる電子音が響くこともなければ、こちらからの通信に応答する声もなく。
スピーカーが拾うのは、ぬかるみに再び降り注ぎ始めた霧雨、小雨のしとしととした音のみ。
 
途絶した交信が回復することは、遂になかったのだ。
 
既に本局を発っていた派遣部隊指揮官・高町なのはへとすぐにはやてが連絡をとったことについては、言うまでもない。
 
(つづく)
 
− − − −
 
今週中にこれのまとめカテゴリーもつくっときます。つWeb拍手