実際書いてて楽しい。

 
てなわけで数の子たちにも色々と働いてもらっております、カーテンコール四話いきます。いやこの子らかわいいよ、うん。すんごい愛着。すんごい和む(?)。
今回はディードが半分主人公みたいになってますが、でわどうぞ。(汗
 
あと整理するって言ってたカテゴリ等、なるべくはやくやりますんで…orz
 
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八神はやては、自分はそれなりに温厚な部類に属する人間であると思っている。
そりゃあもちろん聖人君子でもないのだから機嫌の悪いときだってあるし、部下をどやしつけることもあるけれど。
基本的には自分を律するよう務めているし、指揮官をつとめる人間となるならばそれが当然。
トップにいる者がかっかしてばかりいたのではお話にならない。
 
そういった意識は、しっかり持ってやっているつもりである。
 
「──……っ!!」
 
──そのはやてが、拳を机上へと打ちつけていた。
 
「八神二佐」
 
報告を行ったオットーが、気が差したように声をかける。
脇に控えていたアギトも同様に、困惑気味の表情をこちらに向けていた。
 
「……やられた。よりによってこんな手でくるとは」
 
二年前の、JS事件。かつてのあの事件の最中にジェイル・スカリエッティの一派がルーテシア・アルピーノとその召喚獣たちに対し行ったことを考えれば、その予測は不可能なことではないはずだった。
外部からのコントロール。第三者の手による召喚獣たちの暴走。それらはすべて、資料として残っているのだから。
 
なのに自分は、失念していた。エリオと、キャロ。二人の失踪から導き出されるひとつの危険の、可能性について。
彼ら以上の規模のガジェットドローンを有し、ゆりかごをその目的とする一派ならば同じことが出来たとて、不思議はない。
そのことに思いが至らなかったのだ。幼き二人の安否と、事件そのものの推移にばかりに目を遣るばかりで。
こういった細部を見落としていたことは、失態だ。
 
「フリード……っ」
 
結果が、これだ。
 
机上に散らばるのは、回収された記録装置に映っていた監獄であった場所の風景。
プリントアウトされたそれは瓦礫と化した、見るも無残な構造物の廃墟の1シーンを切り取っている。
 
その中心には、無数のガジェット舞う黒い夜空とは対照的な白亜の物体が捉えられていた。
いや、物体ではない。それが生きている、一体の竜であることをはやては知っている。
野生を宿しながらも澄んだルビー色であった珠の瞳をどす黒く濁らせたその白竜こそ、被写体地点の惨状を引き起こした元凶。
 
「はやてちゃん!! 大変です!!」
 
土埃と爆煙に薄く汚れたフリードの白い巨体を、はやての瞳は見つめていた。
その視線を、慌てた様子でインターホンも鳴らさず、室内へ舞い込んできた小さな影へと移す。
 
「……なんや?どうした、リイン」
「今度は……今度は、ヴォルテールが!!」
「!! ……場所は?」
「それが……っ」
 
こちらは逆に、既に十分予想済みのことではあった。
既に彼女の手持ちの使役竜のうち、一体が確認されている。
遅かれ早かれ、もう一体もいずれ現れる──そのこと自体は、読んでいた。
つい先ほど、各次元世界の支局に向けて警戒を呼びかける通達も出した。
 
だから、安心しきっていたというわけでもないが。
 
「第百十四隔離世界……第八番重犯罪者収容所……」
「って、おい!! それ、まさか!!」
 
しかし、愛機の放った次の一言に自分の行動があと一歩、それでいて決定的に遅かったことをはやては認識した。
よりによって、最も遠い場所を──。確実にまだ情報は彼らのところにまで、伝達されきってはいまい。
それだけではない。その場所にはこれから欠くべからざる人物が、ちょうど滞在している。
 
重犯罪者として収容される、一人の女性との面会のため。そしておそらく漆黒の神竜の目的も彼女である以上、ぶつかることは避けられない。
アギトが顔を青ざめさせたのも当然。まったくもって間違いのない反応だ。
 
「……フェイト執務官が向かった収容所や……。ナンバーズの三番……トーレとの面会のために」
 
視線を再び机上に落とし、拳をきつく握り締めるはやて。
いかなオーバーSランクの魔導師としてもたった一人で補佐官たちや収容所全体を守りながら、真竜クラスの召喚獣とどれほど戦えるものだろう。
施設の警備部隊程度では、何の助けにもならない。むしろ、足手まといにしかなるまい。
今はただ、彼女が無茶をしないよう。無事であるよう祈るより他にない。
 
歯噛みし身を震わせるはやての眼下で、白亜の竜へと彼女の影が黒くその色を落としていた。
 
その隣にいるのは、白き暴竜の本来使えるべき主ではない。
キャロがともにあればこそフリードは暴竜たりえず、キャロの制御から離れたが故、彼は暴竜と化したのだ。
 
佇むのは、囚人服に袖を通した一人の女性。
彼女は──流した視線で、こちらを嘲うがごとく見下ろしていた。
ほぼ砕き散らされかけた記録装置のその存在に、最初から気付いていたかのように。
気付いた上で、この映像を見るものを嗤っている。
 
その、眼鏡の奥に湛えた機械の瞳で。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第四話 two, three and four
 
 
「──……ーリー姉様。シャーリー姉様、大丈夫ですか」
 
両肩を、揺すられる感触。この三ヶ月で聞き慣れた少女の声。
それらふたつが、遊離していたシャーリーの意識を、己の視界あるものへと呼び戻す。
 
「あ……ディード?」
 
覗き込む長髪彼女の向こうには、見覚えがありすぎるほどにある濃紺色の天井、壁。
ここは?と訊くまでもなかった。自分が彼女に運ばれ、クラウディアへと戻ってきたということをシャーリーは周囲の状況に自覚する。
 
横たえられていた長椅子から起き上がり周囲を見回すと、頬や着衣を微かに汚した彼女と自分のほかに人影はない。
 
上司である、フェイトも。その補佐官としての後輩、そして執務官候補生でもあるティアナの姿も、まるで見当たらない。
 
「二人は、収容所に残りました」
「!!」
 
シャーリーの疑念の表情に応じるように、抑揚の抑えられた声でディードは告げる。
 
「私には、あなたを連れてここから離れるように、と。自分たちは少しでも長くヴォルテールを食い止めるから……そう言って」
 
非戦闘員であるシャーリーを抱えたまま、戦うわけにはいかない。
 
フェイトが飛行でき迅速に退避ができるディードに自分を連れ立ち去るよう命じたのは、そういう意図があってのことだろう。
しかし補佐官として、彼女の部下として戦いに向かう上官に一手間をとらせてしまったことにシャーリーは、慙愧を感じる心を止められない。
 
「クロノ艦長には既に事の次第は伝達済みです」
「そう……ありがとう」
 
ちょうど身を起こした顔の位置に、丸い船窓があった。
無論そこからでは次元間空間に停泊中のクラウディアの外には何も見えはしない。
だがシャーリーはじっと見据えた。その虚無の空間の向こうに残してきた上司と後輩を。
そして想像し案じた。今彼女たちがどのように戦い、どうなっているのかを。
 
「シャーリー姉様、私も今から現場に戻ろうと思います」
「!! ……ディード。だけど、それは」
「ええ、わかっています。私の武装ヴォルテールのあの巨体を相手とするのに向いていないことは。承知しています」
 
胸ポケットをまさぐり、少女は短くコンパクトに折りたたまれひとつにまとめられた双剣の発振基部となる柄を取り出してみせる。
 
……『ツインブレイズ』。彼女の戦術であり慣れ親しんだ武装であるそれは二刀による近接戦闘術。
 
一対一、あるいは一体多数といった対人戦闘においてその戦いの技は絶大な制圧能力を発揮するが、しかしこの場合にはまったくもって不向きだ。
手数や、技術ではなく。必要とされる単純な火力や破壊力が真竜を相手とするには絶対的に不足しているし、接近戦を挑むにしろ懐に飛び込むことさえ、相手の圧倒的な火力の前には困難だろう。
 
「それでも、条件はティアナ姉様も同じく苦しいはずです。彼女の足になるくらいは、私も」
 
また、相手に強大な破壊力が備わっていれば機動力それこそが重要なものとなる。
まともに食らえばひとたまりもない攻撃。すなわち避けきらねばその時点で終わってしまう。
高威力の砲撃や射撃には、チャージタイムも要る。陸戦魔導師としていくらティアナが優秀であろうとも、ヴォルテールの火力、範囲攻撃力を考えれば平面の回避しか出来ない状態で挑むというのはいかにも苦しい。
 
だが、ディードが合流すれば。ディードが彼女の足となり翼となり回避に専念すれば、彼女は十二分に戦うことが出来る。
距離さえあればティアナは射撃型、いくらでも戦いようはある。
 
「……わかった、お願い。でも、気をつけて。フェイトさんたち共々、無理はしないように。私はブリッジに戻って更に詳細な情報をクロノ艦長に伝えてくる」
「はい」
 
二人は別れも告げず、それぞれに別れた。
もと来た道を戻る者と、行くべき場所へと急ぐ者に。
 
*   *   *
 
“──やあ、きみですか。今度ハラオウンの令嬢とともに短期コースでうちの訓練校に入ってきた子というのは”
 
なのはは、整列した隊員たちへの訓示を続ける副官のひとりの横顔を眺めながら、そんな風に彼からはじめて言葉をかけられた日のことを思い出していた。
ほぼ、十年前。まだ自分ががむしゃらにただ前に進むだけしか出来なかった、ほんの子供であった頃のことだ。
 
その第一印象は物腰の柔らかさと、男とは思えないほど白い──なのは自身の恋人であるユーノのそれとは違う、一種病的と思えるほどの青白い──肌で。
かけられる言葉ひとつひとつが、どこか感情がこもっていないように感じられたことを覚えている。
肉付きの薄い顔に細く造形された目の奥の瞳も、こちらにその色を読み取らせはしなかった。……その三ヶ月間、けっして。
 
続けて、ギンガの訓示が始まる。彼女の雰囲気に重なる父親の三頭陸佐の老けた顔が、更になのはに別の人物の、別の言葉を呼び起こす。
 
“──マイア・セドリック准尉。二年前、JS事件の際には陸上本部の守備に参加していた……あのレジアス・ゲイズ中将の腹心だった男や”
 
それは、親友の声。
逼迫した状況の中辛うじて部隊編成について直接話すことの出来た僅かな時間に、彼女の告げた情報だ。
 
“状況が状況やし、優秀な人材、対AMF戦闘を満足にこなせる人間はただでさえまだ少ない。部隊指揮をとれるとなるとなおさらや、選り好みはしとれん。けどなのはちゃん、万一ってこともある。十分に気ぃつけてな”
 
友の気遣いをありがたく思いながらも、なのはは若干の当惑を覚えざるを得なかった。
自分はこの部隊の指揮を任された。臨時の寄せ集めとはいえ、ひとつの部隊を。
ならば隊長として、部下のことは信頼してやらねばならない。少なくともなのはの中では指揮官とはそういうものだと定義づけられている。
 
だが、今の自分は彼に対し大なり小なり、疑惑を含んだ視線を向けている。
その矛盾に、戸惑いを覚えている。これでいいのか、とも思う。
しかし指揮官として不安要素があるならばそれは十分に気を配っておかねばならないということも、経験上理解している。
 
「高町隊長、お願いします」
 
やはりわたしは指揮官には向かないな。せいぜいが少人数をまとめて先陣を切っていくくらいが、性にあっている。
──はやてちゃんはすごいな。そう、なのはは心中でひそかに自嘲し嗤った。
 
ギンガに促され、前に歩み出る。任務開始に備えた、最後の訓示だ。
既に敵がガジェットを展開しゆりかごを占拠している以上、到着すれば悠長に構えている暇もあるまい。すぐ出撃になる。
 
「本局航空武装隊・戦技教導隊所属、高町なのは一等空尉です。このたび編成された第二十五特別派遣部隊の指揮を執らせていただきます──……」
 
……演説も、苦手だ。教導のときのように、脳裏から言葉がきれいに出てこない。
 
壇上から俯瞰する隊員たちの中で見知った顔三つが並び、彼らに混じり真剣にこちらの話を聞いていた。
苦手でも、任された以上はやらねばならない。あの子らの、力を借りて。
 
彼女らに笑われないような言葉を、自分は吐けているだろうか。
 
*   *   *
 
転送先は万一の遭遇戦のことを考えた通信士がそう設定してくれたのか、襲撃を受けた収容施設から距離を置いた位置に固定された。
 
煙を噴き上げて燃え盛る施設の、はるか上空。雲の合間を貫いて、ディードはフェイトたちとわかれた場所に急ぐ。
見るも無残に崩れ落ちた施設の建物が、眼下に広がっていた。
黒い巨体は少なくとも、発見できない。──ということは、既に目的を遂げた後ということなのだろうか。
 
なによりも、二人の安否が気がかりだった。
崩壊した建造物の様子からして、やはり腕利きの魔導師とはいえたった空戦一、陸戦一の二人という脆弱な布陣では止めきるに至らなかったのだ。
それを認識した以上、ディードの思考は施設そのものよりも二人の女性の姿を探すことへと集中する。
 
「無用心だな。戦場にそのような散漫な意識で赴くなど。私はそのようにお前を完成させた記憶はないぞ、ディード」
「!?」
 
声が。知っている声が、聞こえた。彼女が高速での機動を止めたのは、その聞こえた声によってであった。
 
前方。厚くかかった灰色の雲の向こうから、それは響いてきた。そして──……。
 
「センサー感度の調整が甘いのではないか、メンテナンス不足だな」
 
突風が吹き荒れ、雲が散る。
暗色の空に、溶けるようにして消えていったそれらの奥から現れたのは、濃紺色のボディスーツ。
 
かつて、ディードも袖を通していたそれを、女性は身に纏っていた。
金色の瞳に、青い髪。『力』そのものを体現しているかのような、はちきれんばかりの筋肉質な肢体を青の戦闘服は包み込んでいる。
 
「──IS」
「っ!!」
 
その姿が、一瞬の閃光とともに消えた。
 
「“ライドインパルス”」
 
いや、消えたのではなく──“見えなくなった”。
不意を衝かれた肉眼では到底捉えきれぬほどの、猛然たるスピードによって、少女の反応限界を超えていったのだ。
 
「あ……あああああぁぁっ!!」
 
腹部に激しく鈍い痛みを覚えたのは、それと同時か。僅かにおそいくらいのタイミングであった。
 
ヒットの瞬間だけは、ディードにも捉えることができた。
“インパルスブレード”、そう呼ばれる二対の光翼羽ばたく長い鞭のような足が、自分の鳩尾に吸い込まれゆくその様を。
フレームも何本かやったかもしれない。そう粛々と脳髄が考えてしまえるほどの、問答無用にただ襲い来る暴力の衝撃であった。
 
悲鳴と共に少女は大地に向かって急速落下をしていき、吸っても吐いても楽にならない呼吸は僅か数秒間にすぎないその落下までの時間を、彼女にひどく長いものと感じさせた。
 
受身を取るように体勢を強引に立て直し、無理やり制動をかけることができたのは、半ば無意識に行った本能的な行動に過ぎない。
浮遊を維持することも出来ず、直撃を受けた腹部を押さえながらディードはふらふらと地面に両膝をついた。
 
「いい恰好だな。それは……魔導師の装束か。戦闘機人らしからんな、無駄な装飾が多い」
 
数拍後の、大地を踏みしめる靴音。
頬を流れる苦痛の脂汗が、瞼のすぐ脇を通っていく。ツインブレイズを抜く余裕もなく、ただ苦悶の表情をディードは荒い息と共に持ち上げた。
 
「トーレ……姉様……っ」
 
口の中に、血の味がした。ようやく吐き出した姉の名と同時に、唇から一筋の赤が零れ線を引いた。
 
金色の瞳は、膝を折った少女を無感動に見据えている。
透き通ったその色に映る自分は、妹か、それとも敵か。それはディードの知るところではなかった。
 
鉤爪状の装備を左腕にその背後で酷薄に笑う、長髪の女の存在に彼女が未だ気付いていないのと同じように。
彼女は、姉と相対しているのではない。
自覚せぬまま二人の敵に、前後から袋の鼠として挟まれているに過ぎないのだ。
 
女の鉤爪からは、紅い雫が滴り落ち。
女の顔にもまた、彼女自身のものとは違う返り血が、ひとつの文様を描くようにこびりついていた。
 
実体であったならばそれらはおそらく、トーレのインパルスブレードにも紅く付着し、残っていたことだろう。
 
土埃と血に塗れた金髪の執務官と、彼女の鮮血に衣を紅く染めながらも呼びかけ続ける補佐官と。
墓標のように大地へと突き立った閃光の大剣が少女の背のはるか先に、待っているように。
 
衝撃が音速を切り裂きかつての借りを返したことの、その揺るぎのない証明として。
 
 
(つづく)
 
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いや生きてるよ?生きてますよ?多分。 つweb拍手