連載更新。

 
たぶんしばらく、こんくらいのペースだと思いますorz
 
てわけでカーテンコール第六話です。ひとまず導入は大体整った感じ。
今回はちょっとしたゲストキャラが(名前だけ)出てきてたり。
だいじょーぶ、許可はとってある。
てなわけでどぞー
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
遠くのほうで、爆発の音が聞こえた。
 
──外? いや、きっとあの音は、中から聞こえてきた。
 
身に着けた襤褸布同然の服と、全身にくまなくこびりついた埃の汚れとが気持ち悪かった。
あっちにいけば、いいんだ。少女は小さな歩幅を、前へと進めていく。
 
けっして早くもなく、折れそうに細い二本の両足で。
 
「もう、少し」
 
暗がりの細い通路を、誰にも気付かれることなく、邪魔されることもなく。
少女は歩み続ける。
 
三つの星とその道が交差する、その時を待ち望みながら。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第六話 overrun
 
 
左右の拳が、二つの標的を交互に打ち抜く。
次は足。急加速に唸りをあげたホイールが大地へと力を伝導し、回し蹴りの破壊力へと変えていく。
 
また、二つ。
 
「……あいつ、なんかおかしい」
 
こちらが手を出すまでもなかった。その撃破の速度、制圧力は圧倒的。
先頭を突き進む鉢巻の陸戦魔導師は後続二人の手を殆どまったくといっていいほど煩わせることなく、現れる楕円状の球形をした敵機の悉くを打ち倒し破壊していく。
後ろを振り返ることもなく、休むこともなく。力強く、突き進んでいく。
 
『Did you notice, too?』
「ああ。なんか、焦ってるっつーか」
 
だがそれを後方から追いかけるノーヴェは彼女の後ろ姿に、何故だか信頼を置くことができなかった。

その背中が、その速さが。けっして普段のスバル・ナカジマを想起させるものではなかったから。
ノーヴェが日常の中で被害を受けている(多少の誇張表現)性格の強引さがまるで、戦闘のスタイルに伝播したかのようだった。
一心不乱、脇目も振らず。一騎打ちというのならともかく、前方の敵以外には見向きもしないような戦い方を彼女はしただろうか。
 
どんな場所、どんな現場においても周囲に感覚を研ぎ澄ませ、音を聞き分ける──それが救助隊のセオリー。
二次災害を防ぎ、人々を危険から守る。
助けを待つ者たちがいる自分らに求められる前進の方法だと教えてくれたのはほかならぬ、彼女自身であったではないか。
頭を使うのは苦手で、姉貴分の青髪少女からの講義も居眠りがちだったノーヴェだから、覚えている部分だけはより鮮明に覚えている。
 
故に、違和感を覚える。これでいいのだろうかと。
先を行く白鉢巻のたなびく姿に、足元の愛機とともに疑問を感じてしまう。
 
「……救助隊じゃなくて、武装隊の戦い方ってことか?」
『Is that?』
 
さしあたって納得できる方法は、そんなところしかなかった。
それでも不十分、呟いたノーヴェ自身、なにか違うと首を傾げながらではあったけれども。
次々にガジェットを撃破していく姉の姿に、そうやって理由付ける。
 
彼女の目もまた、前方にしか向いていなかった。
同じ戦闘機人の少女のほうにばかり、意識が集中していた。
 
その脇を桜色の光弾が抜け、僅かに先頭の陸戦魔導師が討ち漏らした敵機を粉砕していく。
 
「スバル!! 前に出すぎ!! ……しっかりしなさい!!」
「はい!! 大丈夫です!!」
「ノーヴェも!!きちんとフォロー!!」
「りょ、了解っ!!」
 
後方からの怒声に背筋をぴんと張り、心臓を冷やしながらも加速しスバルを追いかける。
 
その声を放った白衣のエースの表情が、自身の想像よりもはるかに厳しいものであることにも、気付かぬまま。
粉砕の嵐に、彼女は追いすがった。
 
*   *   *
 
『……こちらは、先陣のガレリアン陸曹長が軽傷を負った程度よ。全員戦闘続行可能。そっちは?ディエチ』
 
センターガード……後方からの火砲支援を主な役目とするバックス型センターの自分に必要なものは広い視界。そして情報。
腰だめに構えた巨砲の照準を跋扈するガジェットの群れ、飛行型傀儡兵へとあわせながらモニターに応答する。
 
内部に突入したメンバーとの状況確認も、自分に課せられた重要な使命のひとつだ。
二つ開いたウインドウはひとつが光を放ち、蒼い長髪の陸戦魔導師との交信を繋げている。
 
「こっちもいまのところ異常なし。ただ……っ」
 
──発射。これで何度目だろう。“あの人”の無用心のフォローをする羽目になったのは。
 
「ちょっと期待はずれが、一人……っ!!」
 
空を舞うのもいい。射撃だって平均値の能力はあると見える。だが──……。
 
だが、あれが本当に『エースオブエース』と同期、おまけに主席だった人間のものとしてふさわしいかと訊かれれば、砲撃以外はまだまだ未熟の自分の目からしても否と言わざるをえない。
あれくらいなら、砲撃を使わずとも自分にだっていくらでも墜とせる。同じ副隊長ならば内部に行ったギンガのほうがよほど腕は上だ。
指示もこれといって皆に出すでもない。好き勝手動いて、好き勝手に戦って。こちらがフォローに回される。あれのどこが主席だ。
ディエチのみならず他のメンバーにも負担は大きいし、非効率的だ。
事実、戦闘を続ける部隊の面々に指示を出しているのは半ば以上大半が、支援の役割ゆえに最後方に陣取るディエチなのだから。
 
「セドリック副隊長!! 前に出過ぎないでください!! あなたは指揮官なんですよ!!」
 
艦内での柔らかかった物腰は何処かへ、荒げたディエチの声にも狐目の青年は聞く耳を持たず好き勝手に飛び回るだけだった。
 
自分たちの任務は、ガジェットたちを全滅させることじゃない。
最深部への突入隊……なのはが、スバルが、ノーヴェが駆動炉を押さえるまで戦線を維持することにあるというのに。
ディエチの苛立ちは募る。
 
『空士!! 第三ポイントに炸裂弾支援、頼む!!』
「……了解っ!!」
 
歯を噛み鳴らし、砲口を要請のあった方角に向ける。瞳が、テンプレートが金色に輝き精密照準をポイントに合わせた。
 
落ち着け。冷静になれ。苛立っている場合ではない。自分は空のエースからこの場の留守を、センターガードというポジションを任されたのだ。
今はそれに、全力を傾けるときだ。あてにならないもののことを考えるな。
射線上の味方の退避を確認し、トリガーを引き絞る。
 
言い聞かせても言い聞かせても、苛立ちの中で歯車が噛み合っていかない。
撃ち放った砲撃の轟音も、撃破され落ちてゆくガジェットの爆音も。戦場の喧騒の中でもその不協和音はディエチの心の中で消えず鳴り響き続けていた。
 
なにが、とは言わない。すべてが、ずれていく。
 
そう、すべてが。
 
*   *   *
 
先ほどから、ノーヴェがちらちらとこちらを振り向いている。
当惑したように。困惑の目線で、前方のスバルと後方の自分との間に表情を往復させる。
 
彼女も、おかしいと感じはじめているのだろう──ならばこちらの感じている、スバルに対する違和感も、間違いではない。
救助隊転属後のスバルの姿は、自分よりも彼女のほうがよく知っているはずだから。
違和感は苛立ちに、既に心中で変わりつつある。
 
「……っ」
 
スバルの進撃ペースははやい。その点については彼女の戦闘スタイル、シューティングアーツを基礎とした陸戦技能をフルに活用しているといえる。
 
でも。
 
(……どうしたの、スバル。そんな戦い方、わたしは教えてないはずだよ……?)
 
破壊力も、突破力も。スピードも。
全てが二年前を上回っているにもかかわらず、後方から援護射撃を行うなのはは彼女を見守りながら、まるで時が二年前に戻ってしまったような錯覚を覚える。
当初は気のせいだと思っていた。けれどそれはもう、紛れもなく実感として、一人先行する教え子の背中になのはは感じとってしまうのだ。
 
猪突猛進、全力全開、一撃必殺。そんな四字熟語ばかりが並んでいた、無鉄砲でただ前しか見えていなかった、あの頃の彼女を見ているかのごとく。
周囲を見ること。その場その場で様々な部分に目を配ること。かつて教えたそれらが皆、なかった頃の彼女がそこにいるように、なのはには見えた。
 
一体、どうしたというのだろう。六課での日々を、なのはは思考回路の裏側に呼び戻す。
様々な訓練をした。いろんな言葉を投げかけて、いろんな苦しい鍛錬を課した。
それを彼女は、ティアナとのコンビで乗り越えて成長したはずだ。そしてノーヴェの前ではおそらくそれができていた。
 
救助ではなく戦闘の実戦が久々という、ブランクの面も確かにあるだろう。
だが、最初に見せたあのノーヴェとのコンビを見る限りでは、それはさしたる影響は及ぼしてはいない。
 
(スバル……)
 
ティアナを問答無用で叩き落した、落とさざるを得なかった際の記憶が、苦く蘇る。
自分の教えが、伝わらない苦しさ。自分が教え子たちを導ききれなかったという後悔。
ある意味では、教え子たちが自分に牙を剥いたという落胆。
 
今自分がスバルの強引な戦い方に少しずつ感じ始めている苛立ちは、それらの感情によく似ている。
 
スバルの砕いた敵機の破片が飛び散り、こちらに向かい降り注いでくる。
ノーヴェもなのはも、シールドを展開しそれらを防ぎきった。
本当にもう、前しか見えていない。これでは、あまりに戦闘の姿勢としてはお粗末だ。
 
「スバル。いい加減に──……」
 
そろそろ窘めなくてはと、口を開きかける。だが、同時に。
 
『Master』
レイジングハート?」
『The life reaction was found. It is a child.』
「!!」
 
愛機が、警告した。通路を見回す。
そこかしこに、スバルの破壊したガジェットや傀儡兵の残骸が散らばり、煙が燻り。視界はけっしてよくはない。
 
「!!」
 
それでも、小さな影が動くのが見えた。
スバルが拳を振りかぶり、大型のガジェット3型に今にも叩き込もうとしているその先に。
黒い髪が、戦場の風に揺れている。スバルはすぐそこにいるその存在に気付いてもいない。
目の前の敵にしか、意識が行っていない。
 
まずい。あの位置では──爆発に巻き込まれる。
どうしてこんなところに子供が、などという疑問など、抱く暇もなかった。
なのは同様スバルの向こうにいる小さな子供の姿に気付いたノーヴェが、車輪の唸りを響かせて一気に加速する。
 
レイジングハート!!バレルショット、最小の出力で!!バインド、衝撃どちらもカット忘れずに!!」
『all right.』
「スバルっ!!」
 
今このときだけは、なのはは自分がエクシードモードを使用していない──できない肉体であるということを感謝した。
一振りしたアクセルモードのレイジングハートが、不可視の砲身をノーヴェの通り道に作り上げていく。
辿り着く先は、幼い小さな姿。彼女と、その保護に向かったノーヴェとをガジェットの爆発や破片から守るためそれは防護壁の役割を果たす。
 
アクセルモードの低出力だから、やれた。エクシードモードだったなら多少の調整をしてもその高出力だけで、守るべき対象を傷つけてしまっていただろうから。
 
透明の砲身がノーヴェの行く道を完全に覆い目的の位置まで到達したとき、“救助隊のフォワードトップ”はただ、眼前の敵を討ち滅ぼすべく、その拳を振り上げていた。
 
「スバルぅぅっ!!」
 
師の一声にも、それは止まることはない。
 
*   *   *
 
いける。やれる。一挙手一投足が、思うより先に動いてくれる。
深く考えなくても、久しぶりの実戦は大丈夫。なのはさんの期待に、応えられる。
その自負を、ゆるぎなく感じ取ることができる。
 
「スバルっ!!」
 
成長を、見せるんだ。このくらいの射撃・砲撃なんて避けるまでもない。
強引に突撃して、拳を叩き込んで──……。
心配なんて、いらない。大丈夫。六課にいた頃と違う自分を見せる。ガジェットの弾なんて全部、防ぎきれる。
 
装甲を貫いた拳に、正面からそれを食らったガジェットは既に機能を停止させている。けれど。
 
追い討ちのリボルバーキャノン。四方八方に機体は爆散し、それがさらに他のガジェットを巻き込み、墜としていく。
……期待に応えるには、これくらいやらなくては。強くなったところを、見せなくては。
 
後方の二人にも被害は行くだろうけれど、あの二人がこの程度防ぎきれないわけがない。
爆煙冷めやらぬ中に飛び込めば、視界は不十分でも相手は手負いの雑魚ばかり。
伸ばした腕が、振りぬいた右足が、鉄屑のシャワーに傷ついた機械兵器たちをスクラップに変える。
 
「うおおおっ!!」
 
一筋の射撃が頬を掠めたけれど、それだけのことだ。
ぴりぴりとした火傷の痛みを頬に感じつつも、裏拳でやはりその相手も叩き落す。
 
近くに残る反応は──あと、一機!!
 
「スバル、待ちなさい!! 今は……っ!!」
「大丈夫!!やれますっ!!」
「そうじゃない……っ!!」
 
ガジェット3型の巨体が、煙の向こうから現れた。
あとはこいつだ。こいつも自分ひとりで、やれる。
 
「ディバインんんんんっ!!」
『Buddy!!』
 
正拳突き、一閃。振動拳が装甲を粉々に砕き、その内部に掌中から握り締めていたスフィアを解き放つ。
 
発射の瞬間、何かに気付いたように、マッハキャリバーが宝石の発光とともに声を上げた。
自分より遥か前方へと走り飛び込んでいく、ノーヴェの姿が視界の端に映った。
背後から急速に吹き荒れた風が、戦場の煙を散らしながら駆け抜けていった。
 
「バスタァァァァァッ!!!!」
 
撃ち込んだ零距離の砲撃魔法は、内部で花開き、球形の機体の後部から溢れ出るようにして鋼の装甲を撃ち貫いていった。
大きな爆発のあとには、いくらかの小爆発。
重厚な音とともに3型ガジェットは目に当たるセンサー部分の光を失い、その浮揚力を喪失し。
同じく金属製の床へと、朽ち落ちる。
 
「……ふうっ」
 
拳を引いて、スバルは息をついた。これでしばらくは、敵の攻撃はないはず。
背後からこつこつと、なのはの足音が近づいてくる。
 
そういえば先ほどのノーヴェの動きは、なんだったのだろう。
 
「あ、なのはさん。やりましたよ、ひとまず──……」
 
達成感ともに、スバルは振り返る。再会した師の前で、やりきる姿を見せることができた。
その実感に、満足しつつ。
 
「……え……」
 
だが師のほうへ向き直ったスバルに返ってきたのはひとつ。
黒の指ぬきグローブの掌が打っていった頬の痛み、ただそれだけだった。
何故。どうして。理由が、わからなかった。
 
無言で師が見るよう示したその先には、防御魔法を展開し肩膝をついたノーヴェが、小さな子供をひとり抱えていた。
ノーヴェの腕の中の双眸は、子供らしく、大きく。不安げに見開かれ。
左右異なる色で、スバルを見つめ返していた。
 
「あなたは……救助隊で何をしていたの、スバル」
 
悲しげで、憤りを含んだエースの声が、鼓膜を震わせた。
 
 
(つづく)
 
 
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