長らくご無沙汰しておりました。

 
色々と作業がひと段落して、戻ってまいりました。
こんなに二次創作から離れてたのってやりはじめてからだと多分はじめてですよ(汗
てゆーかここんとこずっと縦書き原稿ばっかやってたもんだから横書き原稿に時間がかかるかかる&自分でも書き方忘れてるのがわかるわかる。
 
・・・はい。徐々にリハビリしてきます。
 
てわけで前置きはこのくらいにして連載更新。これまでの話のまとめはこちら
 
 
でわ、どうぞ。スバルヘタレモードオン。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
− − − −
 
 
この頬の痛みは、なにかの間違いとか、錯覚とか。そういうものでは絶対にない。
 
三対の注がれた視線が、そのことを明確にスバルへと伝えてくる。
ひとつは、失望。ひとつは、戸惑い。そしてひとつは──恐れを含んで。
 
「こんな戦い方、わたしは教えてない。これじゃ六課にいたころ……ううん。六課に来る前と、同じじゃない」
 
師の言葉が、耳に刺さった。それ以上に、心へと突き刺さった。
その声は悲しげで。怒りに、震えている。
 
周囲には、煙の燻るガジェットたちの残骸が散らばる。
戦闘の爪痕残るゆりかごの通路、その中心で、スバルとなのはは対峙する。
 
「周囲にきちんと意識を向ける。何度も六課にいた頃、教えたよね」
 
彼女の声に、否応なしに苦い記憶が蘇る。
指示を無視し、訓練の際問答無用に撃墜された友。それに歯止めをかけるべきでありながら、友の背中を押し。
墜とされる友を黙ってみているしかできなかった自分。
 
今聞いているのはあのとき自分たちに向けられたものと同質の声だ。
 
「ちゃんと気を配っていれば、あの子がすぐ近くにいたことはわかったはず。もう少しであなたはあの子を爆発に巻き込むところだったんだよ、スバル」
「あ……う……あ……」
 
ノーヴェの腕の中に、頬を煤けさせた少女が抱えられていた。なによりもそれが、スバルの行動の迂闊さの証明。
なのはが気付かなければ。ノーヴェが飛び出して、彼女を救出していてくれなければ。
スバルは自分の攻撃に、幼いその少女を巻き込むところだった。
 
少女の左右の目の色は、スバルの前に立つ戦技教導官の愛娘のものと同じく二つの色にそれぞれ異なっている。
すなわちその持ち主が神聖なる王たりえる資格を持つ者であるということ。だがそんなことは関係ない。
結果論として犠牲にしかけた相手がその爆風に耐えうる肉体を持っていたところで、スバル自身のミス、行動の迂闊さは消えはしないのだから。
なのはの言葉の意味。自分のやったこと。それらを自覚し、思わずスバルはあとずさる。
 
「違うん、です……これは、そのっ、戦闘の実戦に出るのにブランクがあって、あの、それで……っ。救助隊のクセが……」
 
ぱあん、と。頬を張っていった掌の裏側。今度は手の甲が、もう一方の頬を打つ。
 
「救助隊員ならなおのこと、周囲に気を配らなくちゃだめでしょう……? 人の命がかかっている現場であなたはそんな言い訳をするつもりなの!?」
 
一層悲しげに眉を歪め、なのはは吐き捨てた。
 
自分の放った言い訳が、彼女の期待していた『特別救助隊フォワードトップとしてのスバル・ナカジマ』さえも裏切ってしまったことに、スバルは気付く。
救助隊員が自分から被害を広げるような戦い方をして、どうする。
 
「確かに成長を見せてもらうとは言った。けどそれは第一の目的としてじゃない。私たちがこの場所にいるのは、もっと大事な理由があるからでしょう!?」
 
師の剣幕に、スバルは尻餅をついてやわやわとその場にへたりこんだ。
 
スバルを見下ろすなのはの双眸は、ただただ慙愧の念に悲しげだった。
手塩にかけた教え子が成長を見せるどころか、かつて授けた教えを糧とすることなく師である自分に対し己を顕示するために拳を振るい。
自らの元で研磨し鍛え上げていったその技を使い戦っていたという、事実に対して。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第七話 limited her
 
 
「あれ? シグナム姉どっかお出かけっスか?」
 
遅番のシフトに合わせて自分が所属する、陸上本部内の首都防衛隊オフィスに顔を出したウェンディは、入れ替わりにスライドドアをくぐろうとする上司を見て呼び止めた。
 
時空管理局地上本部・首都防衛隊第五小隊付ヘリ輸送隊護衛班。それが今のウェンディの肩書きである。
隊長であるシグナムを除き航空魔導師・空戦騎士の少ない部隊内においてまだ配属間もないながらも、その飛行能力と制圧力においてそれなりに重宝されている身だ。
ウェンディもこの、今の自分の居場所をわりと気に入っている。
施設から出る際局勤めが義務として課せられることを知ったときはあの堅苦しい制服のことを考えて辟易したものだが、ヘリ部隊には幸いにしてよりラフな飛行服での日常勤務が認められているからだ。
式典など改まった席では仕方ないにしても、襟元からなにから息が詰まりそうなカッターシャツの制服から日常生活の際に開放されるというだけでも非常にありがたい。
 
一緒に馬鹿をやってくれるパートナーもいることだし(アルトとか、アルトとか。あと、アルトとか)、ノリのいい同僚たちも相まってその点ではまさに文句のつけようのない職場であった。
まあ、文句があったところで実際問題として配属に拒否権があったといえば疑問ではあるけれども。
 
ウェンディの声と姿に、ちらと長髪を後ろで結んだ上司は顔を向けた。
その隣には普段付き従っているはずの融合騎・アギトの小さな姿はない。
たしか本局のほうまでここ数日、出向いているのだったか。
 
「ウェンディか。いや、少々本局に呼び出されてな」
「本局? アギトさん?」
「いや、八神二佐だ。ヴィータとともに至急来てくれとのことだ。……あとのことは副長たちに任せてある、すまんがもう行くぞ」
「ういっス」
 
制服の背中にポニーテールを揺らして、烈火の将は足早にその場を立ち去っていく。
 
「?」
 
ヴィータとともに、と上司は言っていた。あの見た目小さな子供のAAA+ランクを誇る騎士と、地上本部のストライカーが揃って呼び寄せられるとは穏やかではない。
呼び出された当の本人が行ってしまった以上、もう確認のしようもないけれど。少し、本局のことが気になった。一体何があったというのだろう。
 
「オットーやチンク姉は元気でやってるっスかねえ?」
 
だがとりあえず本局といえば、でウェンディの頭に浮かぶのは、そこで働く姉妹たちのことであった。
 
……思考の幅の狭い単細胞と、笑いたくば笑え。
 
*   *   *
 
その身体を両腕に抱えている自分と、離れた位置にいる二つの影と。
腕の中の少女は、三人分の姿を交互に不安げな目で見比べている。
 
無理もない、と思う。その「三人」のうちのひとりであるノーヴェ自身、この状況と険悪な空気に戸惑っているのだから。
 
相棒であるフォワードトップは地面に膝を折って崩れ落ち。彼女を叱責したエースオブエースは黙って彼女のことを見下ろしている。
ほんの1分か、2分か。その程度のことなのに、随分長い時間がそうして過ぎていったようにすら思える。
重い。重くて、息が詰まりそうだ。
 
「ノーヴェ」
「あ……え? あ、は、はいっ」
 
だから、見入って。その戦技教導官から声をかけられたのが自分だということに気付くのにも、タイムラグを必要とした。
 
彼女はこちらを向いていない。背を向けたまま、苛立ちや怒りを抑えつけた声を投げかけてきている。
 
「その子に怪我は?」
「いや、特には。……大丈夫だよな?」
 
見下ろして訊ねると、腕の中の少女は戸惑いがちに小さく頷く。
ところどころ土埃や煤に汚れていたけれど、その幼い身体に一目見てわかるような大きな負傷は見当たらない。
 
万一の見落としがないよう、念のため瞳の中に装備されたセンサーでもくまなく調べてみる。
今となってはもうあまり使いたくはない、機械によって組まれた己が肉体ゆえの能力だが──その精度の前でも、少女に外傷は確認できなかった。
 
「そう。ならよかった」
 
感慨ない声のうちに、一片の安堵を含みながら白服のエースは背中越しにそう呟く。
そして、ノーヴェへと念話を送ってくる。
 
(ノーヴェ。その子の体内にレリックの反応は?)
(……すんません。あたしの装備じゃそこまでは)
(そう。わかった、ごめん)
 
気安く訊きすぎた、と陳謝するなのは。スバルやディエチの師でもある彼女もまた、戦闘機人の肉体がどういうものであるかをよく知っている。
 
「──さて」
 
そんなことはおくびにも出さず、彼女は踵を返しこちらに身体を向ける。
自分で考えて、これから動けとでも言わんばかりにへたりこんだままのスバルをその場に残して。
 
少し、距離があった。けれど外周の密閉された通路においてその声はよく通り、ノーヴェの耳には十分に聞こえてくる。
おそらく、腕の中から彼女のほうに目線を注いでいる少女についても同様だろう。
 
「お名前は? 痛いところとか、なかったかな?」
「……っ」
 
びくり、と警戒した少女が抱える腕へとしがみついてくる。
だがなのはは穏やかに、あくまで穏やかに語りかけ、少しずつこちらへと足を踏み出す。
 
──その、歩み始めた戦技教導官の身体が影になり、それ故死角が生まれていたことも確かにある。
 
けれど。何故気付かなかったのだろう。
自分も。もっと間近にいたはずの、二人も。
 
「!? ……セカンド!! 後ろっ!!」
 
蒼髪の陸戦魔導師のもとを離れたエースオブエース。彼女もまた異変を察知し振り返った。
一歩、二歩、三歩。四歩目を踏み出そうとした、その瞬間に。
 
「スバルっ!! そこから離れなさい!! はやく!!」
「──え?」
 
込められているのは、紛うことなき圧倒的な破壊の力。一目に見、その存在を認識するだけで明確にそれがわかる。
加速する飛翔のスピードは照準の先に間違いなく、崩れ落ちた白服の陸戦魔導師を捉え彼女の身体そのすべてを焼き尽くさんと迫っている。
 
黄金の光が、そこには浮いている。……いや。ただ鈍重に、浮いているように見えるほどぶれることなく一直線に寸分違わず、獲物めがけ飛来している。
二人から発せられた警告の声に振り向きながらも、スバルはとっさには動けない。
自分の過ちと師とのやりとりとに放心していたスバルは目を見開き、自分に迫る危機へとただ身を怯ませる。
 
だめだ、はやい。そして、対応が遅い。あれでは着弾までに、防御も回避も間に合わない。
自失のあまりにぼうっとしているスバルに苛立ちを覚えつつ、ノーヴェは少女を抱えたまま立ち上がる。
 
「スバルっ!!」
 
だが一足先に、ノーヴェよりはやく。着弾よりもはやく。彼女と光の噴流の間に、なのはが身を滑り込ませた。
 
『Round Shield』
 
最も強固な、前方特化型の防御魔法。
膨大な破壊の力と、その頑健なる障壁とが接触し、激しく強く光を放った。
 
「ぐううううううぅっ!?」
 
エースの表情が、圧迫感と苦痛に歪んだ。
 
*   *   *
 
かたん、と触れ合った音がしたのは束の間。
色鉛筆を画用紙上に走らせていた肘は脇に置いていたマグカップを押し出して、小さなその陶器は中身を散らし円運動を繰り返して床面にまっすぐ落ちていく。
 
「あっ」
 
釉薬を塗って焼かれたそれの破砕音は、甲高い。
耳障りなほどに、透き通っている。
 
赤みがかった茶色のカーペット上に、カップに残っていた水分が濁った色の島を描いた。
 
「っと。ヴィヴィオ。割っちゃったか」
「ごめんなさい……ユーノパパ」
 
破片で怪我などしては大変だ。ユーノは拾おうとしたヴィヴィオを制しながら、しゃがみこみ砕けたマグカップの残骸を集めていく。
白や、緑や、ピンクや。カラフルなそれは真新しく、拾うのもなんだか少々名残惜しい。
 
「残念だったね、お気に入りのカップだったのに」
「うん……」
 
まだ無限書庫の給湯室の食器棚に並ぶようになって間もないそのカップは、三人で選び、そして購入したものだ。
似通ったデザインの、それぞれ色違い。ひとまわり大きな緑色と桜色のものがひとつずつ、やはり流しの上に伏せられている。
仕事柄、スケジュールの都合上桜色のカップだけは乾きがちで、そこに置かれたままであることのほうが多いけれど。
 
三人で選んだそれらは──ひとつは今、既に割れてしまったが──互いが互いのために選んだ、大切なものだ。
 
「また、買いに行こうか」
「いいの?」
「もちろん。なのはが休みがとれたら、また一緒に行こう」
 
ぱっと、暗くなっていた幼子の顔に明かりが戻る。子供は反応が素直だ。
めぼしい大きな破片を拾いきり、ユーノは膝を起こして立ち上がる。
 
そんな、恋人の愛娘が見せた笑顔に、見とれてしまったというわけではないけれど。
 
「痛っ」
 
──そのはずみに、うっかりやってしまった。
左手の指先を陶器の滑らかに尖った破片が傷つけ、紅い雫が肌を伝い滴り落ちる。
 
「大丈夫?」
 
思ったより、切っ先はざっくりと、深く指を切り裂いていた。
だからといってもちろん、ヴィヴィオのような小さな子に心配されるほど大袈裟に構える怪我でもないが。
 
ユーノはハンカチで、傷口を押さえた。こうしておけばじきに止まる。
このくらい舐めれば十分とも思ったが、ヴィヴィオへの教育上のことを考えてやめた。
影響そのものよりも、知られたときのなのはの反応が怖い。
 
「司書長」
 
なにを間抜けなことをやっているんだと、チンクがこちらに隻眼のジト目を向けていた。
彼女のすぐ側に浮遊し塵取りを重そうに抱えた、リインも然り。
 
彼らの足元には、見落とした破片が未だ転がっている。
その殆どは、焼かれた土の粉同然の微細なものであったけれど、しかし。
たったひとつだけ大きなものも、なかには残っていた。
 
ピンク色の部分が欠けて床面へと取り残されたそれは、寂しくそこに佇んでいる。
直上から滴り、白の部分も桜の部分も等しく赤に塗りつぶす血液を表面に頂いて。
 
*   *   *
 
一体、どこから。いつの間に。AMFだけとも思えない、あるいはジャミングか。
 
そんな疑念はもはやどこかに行ってしまった。
守る──ただその一点に、意識を集中せざるをえなくなったがために。
 
「ぐ……!?」
 
受け止める光の柱は、ただただ重かった。
 
そして強固たる自負のあった防護壁は、あまりに脆く儚いものでしかなかった。
 
「!?」
 
食われる。噛み砕かれていく。なのはの魔力、そのものが。
突き刺さる光の噴流に、前面へと展開した桜色の魔力障壁が。
まるで砲撃それ自体が強力なAMFに包まれているとでもいうかのように、いとも容易く。
 
込める魔力はその先から、直射弾の対防御に特化された特性の前に自身の持つ頑健さを奪われていく。
 
しまった、これは“防御させるための”──防御してはいけない、弾だ。
気付いたところで、もう遅い。防がなければ後ろにはスバルがいる。
スバルの防御とて十分に強固ではあるけれど、今の混乱した彼女の精神状態では、オートガード程度では……抜かれる。
 
「こ、のおおぉぉっ!!」
 
ありったけの魔力を、込めた。押し返す、それほどの覚悟で全力を以って。
だが込めれば込めるほどに、何処からか放たれる光の洪水は容赦なくその盾へと突き刺さり。
 
やがて、ひとつの音が鼓膜を打った。
 
ぴしり、という耳障りな、それでいてほんの小さな音。
 
「二人ともっ!!」
 
ノーヴェの声にかき消されるほど、小さな音。
彼女にもきっとその光景が、見えていた。
 
消えそうな音は次第に大きく、早く。障壁の表面を走っていく。蜘蛛の巣が、そこには生まれる。
その瞬間、なのはは悟った。自身大火力砲撃を得意とする、砲撃魔導師として。
 
この砲撃は、自分の全力を込めた一撃に匹敵する、と。
そして、対する今の自分に──“全力を出すことの出来ない”自分に、止められはしないと。
リミッター制限……AA相当の魔力・出力しか発揮できない、限定を受けた自分には。
 
光の柱。噴流。如何様にも形容できる黄金色の竜の顎に、遂に二人を前面で守っていた防護壁が噛みつぶされ砕け散る。
 
「エクシ──……!!」
 
すべての責任を負う立場にある友の顔を、着弾の瞬間なのはは思い浮かべた。
ごめん、はやてちゃん。いきなりルール違反、してしまって。
間に合うか、間に合わないかはわからない。けれど身体は、動いた。スバルのもとへと、自らを投げ出しながら叫んでいた。
 
この子は。自分の教え子は自分が守らなければならない。ただ、それだけのために。
 
だがその思考も、その声も。その背後にいた守るべき愛弟子さえも。
容赦なくひたすらに光は飲み込み、破壊力の巻き起こす爆発の閃光に覆い包み隠していった。
 
それを見ていたのは、後方のノーヴェと。その腕の中の幼い少女、たった二人だけであった。
 
 
(つづく)
 
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