めざせ東京。

 
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てわけで出発前にカーテンコール更新していきまーす。
第二部開始的な話。あと軽いインターバル的な話。
 
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ひとりでやる組み手……いわゆるシャドーというやつは、こんなに味気なくつまらないものであっただろうか。
以前はもっと必死で。ただただ没頭できる、そういうものであったように思える。
 
別に、集中できないのは砕けたゆりかごの装甲材がぱっくりと切り裂いていった額の傷が痛むからというわけでもない。
そんなもの、巻かれた包帯に覆われたガーゼの下でとっくにくっつきかかっている。
打ち出すのは左右の拳の、コンビネーション。次に得意の足技の、上中下段に水面の打ち分ける基本動作確認。
ほんの数秒、十数秒やっただけなのに。どれも、単調に思えてくる。つまらない。効果があるように感じられない。

それもこれもいつもとなりにいるはずの、能天気な。それでいてたしかな体さばきを涼しい顔でやってのける、姉貴風を吹かせた彼女の姿がないせいだ。
 
真横で、至近で繰り出される彼女の一打一打の振り抜きの鋭さに、ノーヴェは力の差を見せ付けられながらもそれ以上を目指そうと我武者羅に躍起になり。
そのすぐ隣で彼女はノーヴェの見せる必死な姿に、年長者かつ格闘技の先達としての余裕をたっぷりと顔に浮かべ、こともなげに更に上を行くのだ。
 
毎回、毎回。いつも、いつも。追いついては、突き放され。突き放されては追いかけて。ひたすら、その繰り返し。
 
『Even if you do that it is unmotivated, it is useless.(やる気もないのにやっても無駄ですよ)』
「……るせーよ」
 
レーニングフェアとして着ているタンクトップの首元から、相変わらずの生意気な口調で、愛機が口を挟んでくる。
いわれなくても、わかっている。日課だからという理由でほんの数分前からはじめたとはいえ、自分がまったくこの訓練に身が入っていないということくらい。
 
『Your intelligence is not as high as what trained with mind is acquired. (心ここにあらずでやったものが身につくほど、あなたのおつむは優秀ではないでしょう)』
「やかましいって言ってるだろっ!! 口出しすんなこのポンコツっ!!」
 
わかりきったことを繰り返してくるサイクロンキャリバーに、苛立ちが思わず言葉となって弾けた。
首にかけたタオルを、乱暴に引き抜く。顔を埋めるようにして拭っても、汗など殆どまったく掻いていない。額に巻いた包帯に、皺が寄るだけだ。
自分の意識がどれほどこのひとりきりでの練習に向けられていなかったか、またどれほどたいした動きもしていなかったかの証左だ──故になおさら、苛立ちは募る。
 
『If I am a crap, you are Co. (私がポンコツなら、あなたはさしずめ駄々っ子といったところですね)』
「……悪かったな」
 
そして拭いたあとの、湿ってもいないタオルを右肩に無造作にかけた彼女へとキャリバーズの三番目であるところのインテリジェントデバイスは続ける。
暴風の剣──サイクロンキャリバー。ノーヴェのために生まれた彼女の性格は、定められた使い手である主に対しどこまでも手厳しく、どこまでも皮肉たっぷりだ。
ゆえに吐く言葉も、常に挑発的。赤毛の少女の愛機として生を受けた、その日から。彼女を装着すべき主と顔を合わせた、その瞬間からずっと。
 
『Are it lonely so much for the sister to get depressed and not to care?(姉君が落ち込んでかまってくれないのが、そんなに寂しいのですか?)』
「違うっての。大体、あいつが姉貴だなんてあたしはまだ認めてねー。……ただ」
 
壁のスイッチを操作し、スライドドアを開き。同時に訓練室の電源を落とす。
ぱちん、という消灯音は思ったほど小気味よくも、大きくもなかった。
 
「ただ。姉貴面するんなら、それらしく……ギン姉みたいにどっしり構えてろって思っただけさ、いつでも」
 
それは元気のない顔で訓練への誘いに首を振り、ギンガとの打ち合わせへ行くからと小走りに扉の向こうに消えた相手に向けてのもの。
行方不明となったエースの、その愛弟子たるフォワードトップの少女に対する言葉だった。
 
「大事な人の前で失敗して、叱られて。そのままその人がいなくなってショックだ、ってのはわかるけど、な」
 
いつもどおりの年上としての余裕くらい、見せろよ。丸一日近く、経ってるんだから。ぽつりと、ノーヴェは呟いた。
艦のどこかでもうひとりの姉との打ち合わせを進めているはずの、遺伝子上の姉へと。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第九話 途中の行方
 
 
ある程度の人的・物的被害はもとより、覚悟の上だった。質においても、数においても。
 
なにしろ、発見されたのはあのゆりかごの同型機である。
たった一部隊でそれを押さえようというのだから、内容にゴーサインを出した人間として、当然そのくらいの認識はもっていたし、持っていなくてはならないという認識があった。
 
その心構えのもとにつきつけられた結果から言えば失敗に終わった第一次制圧戦における人的損失は、二名。
それは数だけ見るならば、十分に優秀な数字といえるだろう。しかし。
 
「高町隊長……及びセドリック副隊長がシグナルロスト……」
 
質の面では、大いに問題があるというべきだ。
派遣された部隊の要である指揮系統のふたり、おまけにその一方は管理局全体にとってもエースのひとりとして名高い、高町なのはである。損失としてはこれ以上ないくらいに大きいものだ。
 
「はやて。ユーノ先生には?」
『さっき、伝えた。んで相談して……ヴィヴィオにはまだ報せんようにしとこてことでまとまったけど……』
「そう、か」
 
残された戦力だけでは、些か心許ない。ゆりかごの中に残り共に失踪したエースより後事を託されたもうひとりの副隊長格は、魔導師としては優秀であっても部隊の指揮経験など殆どないのだから。
 
「どうする? はやて。こっちからシャッハに多少の人員であれば率いて合流してもらうこともできるけれど」
 
残された、彼女の家族のこと。部隊状況にばかり意識が行っていた自分に比べ、男でありながらそういった細やかな部分に気のつくことのできる弟をカリムは羨ましく感じ、またありがたくも思う。
彼がそうした自分のすべき役割を熟知しているからこそ、自分は管理局の理事のひとりとしての立場に専念することが出来る。
ほんとうは弟だって、こんなところにじっとなどしている余裕はないはずなのだ。彼の職務的にも、精神的にも。
自分と同じように、彼ははやてのことを大切な妹分と認識している。その彼女が責任者となった久々の部隊の運営危機に、すぐにでもうごいてやりたいはずだ。
 
それに、友人であるクロノ提督の指揮下にある面々が襲撃を受けたとも聞く。
フェイト執務官。カリムも顔を幾度か合わせたことのある、その襲撃により負傷したという彼女とも、「よく立場が似てるから」と彼は懇意にしている。
 
知人や友人たちのために、裏側から自在に動ける場所──それが査察官。
そう自らの職務を評していた彼の行動を今縛っているのは、他でもない自分だということが歯痒かった。
 
『ええよ。ギンガはやれる、大丈夫やいうてくれとるし、高町隊長は彼女の補佐体制もしっかりお膳立てしてくれとったし。脇はがっちり固まっとる。できるかぎり、もうちょい自分らでなんとかする』
「そう」
『ところで、そっちはどうなん?』
 
こちらの心配など、している余裕などないだろうに。
問うてくる小柄な少女に、思わず苦笑が漏れる。文字通りの、苦い笑いが。
 
「あいかわらずよ。財団のほうからのヴィヴィオについての要求は」
『さよか。……そっちも大変そうやね』
「表立っての圧力はないけれど……筆頭といっていい多額寄付元のひとつだもの。息のかかった人間も教会上層部には多い。逆に、その要求に反発する人間も」
 
聖王のクローンたる少女は、教会の管理下におくべきだ。徹底した調査を行い、ほんとうに教会が崇めるべき聖王たるに値するかどうかを見極めるべきではないか。
いや、そんなものは必要ない。即刻現代の聖王として迎え入れ、教会において保護すべきだ。
 
そういったうんざりするような議論をカリムは教会内での議事進行の最中において何度目にしただろうか。
 
むしろ、そのような意見はまだかわいいほうだ。教会に本尊として祀られるもの以外に、現代において生きて歩く聖王がいる。
それは教会の威信を揺らがしかねない危険な要素だ。聖王とははるか昔死せるがゆえ現代においての崇拝の対象となっている。
存在を認めるべきではない。人によって造り出されたまがいものの命ならばいっそ──……そんな、聞くに堪えない、非人道的な意見を恥ずかしげもなく発する者すらいたのだ。
 
聖職者の三文字を背負う人間というのが、聞いて呆れる。
ゆりかごの発見に伴い、聖王教会自体もまた一筋縄では団結が困難な、混沌とした様相を内部には呈している。
 
「もっとも、ブルーバード財団……あそこについては昔から強硬派ではあったけれど」
 
局に対して、あるいはミッドチルダ政府そのものに対して。それこそカリムの生まれるより遥か昔から一貫して自身らの強い主張を続けている。
特に当主の代替わりしたここ数年は、ヴィヴィオの身柄のことのみならずあらゆる面においてよりその主張の攻勢は強くなり続けているが。
あのレジアス・ゲイズともつながりがあったと聞いている──教会にとっての、暗部ともいえる部分だろう。
 
ゆりかご、ヴィヴィオ。それら数々の懸念事項に対し一番の強硬意見をぶつけてくる者の名前を、ぽつりとカリムは紡いだ。
 
負傷前、フェイトがヴェロッサと共同でまとめた調査書にも、その名は載っている。ゆえにはやてもその名は知っている。
──それはJS事件のもうひとつの黒幕として挙げられる者の名前。。すなわち実行の主犯であるジェイル・スカリエッティへの別ルートでの資金援助者である可能性の高いグループの、そのひとつの候補として。
 
『なんにせよ、気ぃつけてな。カリムも、ロッサも。こっちもシグナムとヴィータを呼び寄せた、いざってときはそっちに向かわせる』
「お気遣い、ありがとう。あなたもね、はやて」
 
妹分の心配に感謝しつつ、カリムは通信の電源を落とした。ヴェロッサに目をやる。彼女からの視線を確認し、弟は通信の盗聴を妨害する結界の展開を解いた。
念には念を、というやつだ。このくらいはしないと、万一のときのために。
 
*   *   *
 
「ノーヴェっ」
「わっ!? ……セカンド」
「スーバール。もしくはお姉ちゃん」
「あー、はいはい」
 
そろそろ、打ち合わせも終わる頃かなと思っていた。その矢先に──いつも通りのノリ、声で。後ろから抱きつかれた。
 
振りほどき振り返れば、そこには蒼みがかった髪の少女の笑顔が待っている。
さきほど自分のもとを立ち去ったときの覇気のなさなど、どこかにいってしまったかのように朗らかに、さも日常的に。
少し後ろからこちらへと近づいてくる、もう二人の姉妹を引き連れてそこに立っている。
 
「ノーヴェ」
「……あ。ディエチ、ギン姉」
 
彼女たちも一緒ということは、使いものにならずミーティングから外されたということでもないらしい。

臨時とはいえ部隊の責任者となってしまったギンガは、手にした電子ボード上に忙しなく指先を這わせ打ち込み続けてはいたけれど。
お昼の時間だから、と言ったディエチの言葉通り、各部署間の打ち合わせ作業は一旦の解散、休憩となったようである。

スバルが、先頭に立つ。鼻歌交じりに、軽やかな足取りで。
あんなことのあとだというのに──普段の能天気さを差し引いたとしても、明るすぎて少々気味が悪い。
 
そうであることを自分自身彼女に求めていたはずの余裕だというのに、どこかぎこちなく。また違和感が感じられてしかたがない。

(……首尾は?)
 
なんとなく、彼女の前で事件の推移について話題にしてはいけないような気がした。
だからディエチへと会議の進捗状況については念話で問いただす。
 
手元の作業を続ける姉には、副官役を買って出た陸戦魔導師がひとり。
やや柄の悪い男だが──その人物が部隊の面々をまとめ、ギンガの方針を下達する役割を担い。
さらにもう一人、実務面での補佐役をディエチが自ら申し出て、務めている。
急造過ぎる上に経験不足の感はありありと感じられる首脳陣の編成ではあるが、事態が事態だけにやむを得ない。
 
ただ、忙しそうにしているギンガへと質問を向けて邪魔をする必要がないというのは姉妹が複数会議への参加を許されていることの大きな利点でもある。
 
(しばらくは、なのはさんレイジングハートの反応が見つかるのを待つしかない。ガレリアン曹長も、艦長も同意見だった)
 
消えたエースの居場所。そここそが同時に、転移したゆりかごの落着した位置でもある。
 
(うちの部隊だけじゃない。八神二佐が捜索隊を編成してくれてるらしい。セインやウェンディもそこに)
(セインとウェンディが?)
 
碧がかった、独特の髪色をもつノリの軽い姉の姿。そして自分より濃い赤毛の妹の顔を思い浮かべる。
本所属はたしか、地上本部の首都防衛隊だったか。それぞれ輸送隊と偵察・諜報部隊に各自の技能とISを生かしてまわされていたはず。
 
また同時に、姉妹といえばどうしても今ノーヴェの目に付くのは──……。
 
(あいつはいつからあんな感じに?)
 
小さく、右の親指で指差し目線で示す。前を行く、銀色の制服の後ろ姿。
 
ディエチも彼女へと視線を向け、数秒眼差しを注いだ後──小さな溜め息とともに、言葉を吐いた。
もちろん、彼女自身には聞き取られることがないように。声なき念話のうちにおいて、だが。
 
(空元気だよ。……たぶん、ね。ギン姉は放っておくように言ってたけど)
 
ざっくばらんに後ろで纏めた長い髪の頭を、困惑顔に掻く。
一番スバルをよく知っているギンガがそう言うのならば仕方ない、といった様子だった。
 
(空元気を出せる元気があるなら、きっと大丈夫だから、って。会議の始まったあたりからずっとあんな調子だよ)
(……空元気、ねえ)
 
そうなのだろうか。文字通り、今の彼女が見せている元気はこちらから見ていてもあまりに空回りが過ぎているように思えてならない。
内に秘めた決意とか。言葉だけを聞けば格好の良い単語が強く、彼女自身を無理やりその形に縛り上げる鎖のようにしてその態度の裏側へと包み隠されているようにさえ感じられる。
 
なにしろ、自分の失敗が師の負傷を招き、彼女の行方不明という事態を引き起こしたのだ。
特別救助隊フォワードトップというだけのことはあり、スバルの責任感は強い。
それくらいはたとえギンガほど付き合いは長くはなくとも、ともに任務に当たり人々の救助へと向かう彼女の姿を見てきたノーヴェにだってわかる。
だが、その責任感が強いという彼女の性格を知っているからこそ、思いつめているのではないか。
今ここにおいては信頼していいのだろうかとノーヴェは考えてしまう。ギンガは特別救助隊員としてのスバルのことは、あまりよくは知らないはずだ。
 
ギンガの妹にして自分の姉であるスバルを、信じるべきなのか。
それとも、特別救助隊員としてのフォワードトップ、スバル・ナカジマに対し懐疑的に向かうべきなのか。
 
どちらが正しくて、どちらを選ぶべきなのか。ノーヴェには、わからなかった。
 
「さ!! いっぱい食べて、いつなのはさんが見つかってもいいように力つけとかないとね!!」
 
軽やかなステップのもと、スバルはくるりと綺麗にターンしノーヴェたちへと振り返ってみせる。
 
しかし、その威勢のいい元気な言葉、軽快な動きとは裏腹に。
袖口の中にそっと忍ばされた彼女の拳は、筋がぎりぎりと音を立てて浮き上がるほどに強く握られていた。
 
自分がこの手で、なのはを救い出す。そのたしかな決意が、皆に気取られぬよう。
 
そんなスバルの怪気炎に、ノーヴェもディエチもただ首を曖昧に、傾げるようにして縦に振るのみであった。
ちらと妹へ視線を移したギンガの、その眼光だけが一瞬、ただ鋭く彼女を射抜いていた。
 
 
(つづく)
 
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