んーとね

 
クロフェのえらくてえろい人から
 
リリカル学園っていうカオス企画書くことになったからYOUはナンバーズ編書いてね☆』といわれたので書いてみたよ。
 
ナンバーズ関連の設定とかは読んでみてがんばって察して。
 
・・・こんなんでよかったのかしら。
 
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 私立魔法少女リリカル学園 〜数の子の場合〜
 
 
 あいつだ。あいつが、やったんだ。
 スバル・ナカジマ。一学年上の陸上部の先輩。期待のエース。本人は『ストライカーと呼んで(はあと)』なんて常々、サッカー部じゃあるまいに何をわけのわからんことを、とつっこみたくなるような事を言っているらしいが、そんなことはどうでもいい。
 同じく陸上部に所属するノーヴェにとっては、どうでもいいことなのだ。……あの事件が起こってしまった、今となっては。
 
「いてっ」
 
 しゃりしゃりと剥いていたリンゴの皮ではなく、指先を果物ナイフの先端が切りつけていた。もともと、得意な作業じゃない。膝の上に敷いた新聞紙の上の剥いた後の粕はどれも数センチ以上の長さにはなっていないし、掌で半分ほど皮を剥き終えて握られているリンゴそのものも、お世辞にも球とは言いがたい歪な形をしている。
そのリンゴを保持する指先からじんわりと、赤い血が滲み出てくる。
 
「ノーヴェ」
「あっ……ご、ごめん。チンク姉。たいしたことないから、このくらい」
「そうじゃない。お前、学校はどうした」
 
 消毒代わりにしゃぶると、鉄の味が口の中に広がる。直後かけられた声は、彼女の座るすぐ隣の、ベッドの上からだった。
 その相手は、小さな身体を一見B級ホラー映画なんかにでてくるミイラとでも見まごうほどに全身、包帯でぐるぐる巻きにされていた。露出しているのはわずかに左目だけ、あとはみな包帯。その上からなぜか、右目には黒い眼帯がゴムバンドにて固定されている。
 
「え、だって。チンク姉の世話が」
「いらん。用があれば看護婦がいるんだ。姉として気持ちはありがたいが、学生の本分はあくまでも勉強だ」
 
 よくもまあ、口元すら覆った包帯に声がくぐもってしまわないというのは一体どういう構造なのだろうか。
 全身を埋め尽くす白い色、その小さな姿は──これでもノーヴェにとっては姉である。十二人の姉妹のうちの、五番目の姉。名前はチンクという。現在絶賛、入院中。
「だいたい、ただでさえ勉強が苦手だろう、お前は。せっかくドクターとウーノ姉さまが赴任と同時に姉妹全員の入学を校長に嘆願してくださったのだ、それを無下にする気か?」
 
「だ、だって。学校行くとあいつが……」
「言い訳無用。さあ、行った」
 
 彼女がこのような姿となっているのにはわけがある。そして、ノーヴェが彼女の傍につき学校をサボっていることについても、それは無関係ではない。
 すべては、三日前。そう、三日前のことなのだ。
 
「わ、わかったよ……そんじゃ、行ってくる」
「ああ。ウーノ姉さまに見舞いは週末でいいと伝えてくれ。忙しいだろう、いろいろと」
 
多い姉妹たちのうちで、ノーヴェはチンクのことが大好きだった。お世辞にも裕福といえない家庭だったからよくおやつを我慢してでも、幼い頃からノーヴェに自分の分をくれていたこの小さな姉のことが。
……そのせいで成長が止まっているのだろうかとか、思わなくもないけれど。
とにかく。慕っているぶん、その相手の言葉にはえてして逆らいがたい力が生じるものである。
姉の声に背中を押され、ノーヴェは腰掛けていたパイプ椅子から腰を上げた。足元においていた学校指定の鞄を手に、運動靴や体操着を詰めたスポーツバッグを肩にかける。
一時間から二時間、遅い登校になる。今日は土曜で半ドンだから到着する頃には授業は終わっている。もう一度振り返ると、それでも一分一秒でも早く行け、部活だけでも出てこいとチンクが目で言っていた。
自分たちの、本来いるべき学び舎へ。私立魔法少女リリカル学園にとっとと言ってこいと、告げている。
 

 
「何? ノーヴェのやつが登校してきていない?」
 
 プラ製の巨大な、蓋つきカップの中身はやや濁ったミルク色をしている。ミルクティー?カフェオレ?はたまたバニラシェーク?一見なにかよくわからないその中身を、振り返った柔道着の人物は一気に呷る。
 
「好きっスねえ、トーレ姉。……うまいっすか?」
「無論だ、これがないと生活が成り立たん。む、すまんなセッテ」
 
 続けて、やはり道着姿のピンク色をした髪の少女が別のカップを差し出す。中身はまったく同じ。……いや、やや茶色のつよい色味がかかっているか。
 同様に、差し出した少女の腕の中には微妙に色合いの違えた数種類の中身のカップが、零れ落ちんばかりに大量に抱えられている。
 再び、ぐいっと一息に。化学合成のものだと一瞬でわかる苺の甘ったるいほのかな匂いが、見ているこちらにも漂ってきた。
 つぎはバナナ味を頼む、と妹に対して言うトーレの姿に、ウェンディは見ているだけで胸やけがするように思えてくる。
 一体何杯プロテイン飲む気だ、この姉は。毎度、毎度のことながら。いくら柔道部の主将だからって、筋肉をつければいいってものではあるまいに。一家の大黒柱たるドクターとウーノが教師の安月給でやりくりしている家計のうち、果たしてどれほどの割合が彼女の筋肉の元へと消えているのだろうか。
 
「おおかたチンク姉のとこ行ってるんだと思うっス。ただ、いいかげん部活でないとまずいって、あっちの部長が」
「だろうな」
 
 だから、話す間くらい飲むピッチを落としなさいって。思いつつも、もはやつっこむ気も湧いてこない。
 
「……まあ、出て行きにくいってのもわかるっスけどねぇ」
 
 華麗にスルーして、肩を竦める。剣道部の妹──ディードが、マネージャーを務める同じく剣道部のオットーとともに竹刀袋を担いで会釈とともに三人の前を横切っていった。
 ウェンディらの姉妹のひとりであるチンクが、不慮の事故に見舞われたのは三日前の昼休みのことだ。
 ちょうどお昼時。前の時間の体育で軽く足を捻ったチンクは、保健医のシャマルが昼食にと勧めてくる異形の料理たちをめいっぱいに断り足首の治療を終えて教室のある三階へとゆっくりと上ってきていた。
 昼休みの開始──すなわち四限の終業ベルが鳴ったのは、彼女が最後の段を踏みしめたその直後であった。
 学校の昼休み、その開始はつまり、戦争の開始を告げるゴングでもある。限られた数、厳しい競争率の先に待つ、購買のパンという名の戦利品を賭けた自分以外のすべてが敵となる、過酷な戦いの。
 苦しい家計ゆえに基本的には弁当持参のスカリエッティ一家の姉妹たちには、無縁のものだった。ゆえに、チンクはそれに対する心構えができていなかった。
 目撃したのは、終業間際にトイレへと教室をあとにしていたノーヴェだけだったろう。
 たとえるなら、それは壁だった。あるいは、川だった。食堂の購買へと続きひたすらに伸びていく、学生たちによる物理的破壊力に満ち溢れた人の波の激流。
 先頭にいたのは、やはり瞬発力と足の速さゆえなのか、陸上部の期待のエースだったという。
 その切っ先が触れれば、小柄なチンクは当然になすすべもなく飲み込まれていくだけだった。飲み込まれ、もみくちゃにされ、時に踏まれ、最終的にきりもみ回転をかけられて吹き飛ばされるのは道理。
 ぼろぼろのぼろ雑巾になったチンクは、喧騒の流れ去ったあとの廊下の隅に転がっているのをノーヴェによって回収され、全治二週間の入院をする羽目となったのだった。
 
「しかし、彼女が原因という確証があるわけではないのだろう?」
 
 もっともな意見を、脳みそまで筋肉の姉はめずらしく言った。両腕にはその柔道着のいったいどこに隠し持っていたのだろう、片方それぞれ二十キロのダンベルが握られているのが激しく違和感を醸し出しているが。どら○もんですか、あなたは。
 あくまで、陸上部の新エース──スバル・ナカジマは激流の先頭にいたというだけだ。どこからどういう経緯を通ってチンクがあのような目にあったかなどは、実際にみていたとて外からの視点でわかるわけがない。
 
「んー。ただ、ノーヴェもわりと思い込み激しいっスからねぇ」
 
 よっこいしょ。鞄を背負い、ウェンディも自分の部活に向かうべくとんとんと上履きの爪先で廊下の床を叩く。
 今回の件について、微妙に彼女が事情通となることのできている理由も、そこにある。
 
「行くのか」
「ええ、まあ。今日は部内ランキング戦なんでウォームアップしっかりやんないと」
 
 同じクレー射撃部に所属するライバルが、陸上部のエースと懇意である、親友であるがゆえに。姉であるノーヴェの話とあわせて、そこそこに詳しくなることができたのだ。
 
「チンク自身は気にしていないのだから、そうつっかかることもあるまいに」
「なんスけどねぇ」
 
 あまり行かない日々が続いても、余計比例して行きにくくなるだけだ。
 ウェンディとて、姉妹のことは大切に思っているし、ウェンディなりに大好きではあるのだけれど。
 融通が利かないというのも考えものである。
                               
 
(つづく……?)
 
 
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