ノーヴェとサイクロンキャリバーの。

 
説明不足かなぁと思ったので(あとケインさんがこの二人について三次的なものを書いてくれるらしいので)、三月に発行した『reborn』からノーヴェの話を一部加筆して載せておきます。
これですっかり説明した気になってました(汗
よくよく考えたら書店委託もしてねーのになにやってたんだ俺(汗
 
 
てわけでどぞー。
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
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<はじめての、相棒。〜疾走〜>

 着弾の軌跡は、問題なく見えている。見えている以上、当たりはしない。それほど、未熟じゃない。
 右。左。軽い足首のスナップで身を捩るまでもなく紙一重でかわし、標的たる射撃手へと距離をつめていく。
 
「ったああありゃああああっ!」
 懐に入りさえすれば、自動制御の射撃スフィアなどただの宙に浮かぶ的に過ぎない。アッパー気味に打ち上げた拳が、脆いその外殻ごと、球体の形状をした小型の機体を砕き散らす。
 
『aimed』
「!」
 
 狙い通りの撃破に快哉をあげる間もなく、足元からの短い声。直後背筋に感じるのは、無数の方向から自分に向けて放たれる、人外の──無機質な機械のもつ殺気。
 誘いこまれたか、と後悔するまでもない。このくらい、避けきれなくてどうする。相手は訓練用の低レベル設定スフィア、弾速もたいしたことはない。
 視界の端に、崩れた壁の織り成す瓦礫が見て取れた。あれでいい。あれに一旦身を隠して直撃を防いで、爆風が相手の視界をつぶしているうちに一気につっこむ──……。
 
『no』
「って、わわっ!」
 
 しかし、その意図を遂げることは成し得なかった。
 後退をかけようとした彼女の意に反し、両足に装備した四輪のインラインローラーが急激に加速をかけ前方へ飛び出していく。
 それはあまりに唐突、あまりに予想外で。降り注ぐ光弾の驟雨に無防備に、少女の身体は晒された。
 ──当然、その全てを避けきることなど、不可能である。
 訓練用の低出力弾が、体勢を崩したおかげでバリアを展開しきれなかった部位へと、見事に命中し。
 それがとどめとなって、もんどりをうって少女は後頭部を埃だらけの硬く暗い床面へとしたたかに打ちつける羽目になったのである。
 
『そこまで。訓練終了』
 
 アナウンスとともに、スフィアたちの行動は停止し、光弾の弾幕も止む。
 そして土埃が少しだけ落ち着き始めた頃、頭を抱えて悶絶する少女の転げまわる様を、蒼い髪の下に白い鉢巻を結った白衣の陸戦魔導師が、呆れ顔で見下ろしていた。
 
*   *   *
 
「あーもう、毎回毎回、なんなんだよお前はっ! ちゃんとアタシの言うこと聞けって、何度言えばわかるんだよ! このポンコツっ!」
『……』
 
 ミッドチルダ南部湾岸地区担当・特別救助隊隊舎、食堂。一般に特別の名が指し示すとおり、救助任務対応の管理局部署のなかにおいても特別救助隊とは、一目置かれる存在である。
 制服はその選ばれた一員であることをはっきりと指し示すように、他の陸士部隊とは異なる目にも強い印象の銀色をしたものだし、入隊にあたっても基本的にはある程度の実績を上げた者でなければ選抜されることも許されることもない。
  
 ゆえに、目立つ。特救と略し呼ばれるその一員となることが、ではない。むしろ逆だ。
 銀色ばかりが日常を送るこの隊舎において、昼時の食堂でデバイスを相手に喚き立てる茶色の一般陸士制服の少女というものは、非常に異彩を放ち目立って見えるのである。
 少女の名前は、ノーヴェ。階級は一等陸士の、特別救助隊においては非常に稀な研修生──いわば、見習いである。
 
『Your choice was wrong.you are foolish.』
「んだとおっ!」
「あーほらほら、ノーヴェ。そんくらいにしときなよ」
 
 ちっとは落ち着きなって。咆えた後頭部に、チョップ一発。
 中央に山盛りのペペロンチーノパスタが盛られた皿が既に置かれているテーブルへと、湯気を立てて彼女の顔がめり込む。その揺れに、麺の山がわずかに地滑りを起こして、傾斜を変化させた。
 
「〜〜〜〜!!」
「サイクロンキャリバーも。デバイスと魔導師の間の意思疎通は大事なんだから、もっとコミュニケーションしっかりしないと」
『I think so』
 フォークで麺を口に運びつつ、左手のチョップも含めたやりかたで二人(一人と一機)を諌めるのは、ノーヴェそっくりな顔の少女。……いや、生まれの順を考慮するならば、彼女のほうが姉なのだからノーヴェのほうが似ているというべきか。
 咀嚼した口の中身を飲み込んで、スバル・ナカジマ三等陸曹は自身の愛機──マッハキャリバーとともに、テーブルへ突っ伏した妹分へと講釈を続ける。
 一年間、機動六課でヴィータやなのはにみっちりとしごかれ続けたおかげだろうか。スバルの躾の方法はわりとスパルタ気味である。
 
「ってーな! 何すんだよ、セカンド!」
「はいはい、ギン姉からも教わったでしょ。デバイスとの接し方とか」
『Settle down a little.』
 
 あと、その呼び方やめろって言ってるでしょ。後頭部に、チョップ二発目。めりこむのも、二度目。
 
「うー……」
 
 頭を押さえながら、ノーヴェは机上の六角形をした黒色宝石を見つめる。
 それは海上更正施設からの出所にあわせてギンガや、カルタスから贈られたインテリジェントデバイス。スバルやギンガのもつマッハ、ブリッツの第三の姉妹機として開発されたその名は、サイクロンキャリバー。
 受領時その名称を聞かされた際にはこれまたご大層な名前だとは思ったが、開発者のマリエル・アテンザ技官のいうところによれば、
 
“──「や、ほら。やっぱしかっとびぶっとびっていうとマグナムでしょ? トルネードとか、ダイナマイトとか」 ”
 
 ……とのことで。ノーヴェにはよくその説明の意味はわからなかったけれど、キャリバーズの三番機としての出自に恥じない、ふさわしい名前ではあるらしい。
 
 そう。たしかにその名のとおり、性能としては申し分ないのだ、性能としては。
 問題はむしろ、そのAIのもつ性格面のほうだ。
 よくいえば、非常にストレートな直言居士。悪くいえば、はっきりいって──無遠慮で、歯に衣着せた言い方が出来ない頑固者。おまけに無口で、直情型のノーヴェとは正反対の性格の持ち主。
 
 そのシニカルさといい、遠慮のない口調といい。こちらの指示より自身の判断を優先するあたりも含めて、どうにもノーヴェにはこの愛機から、なにかにつけて小馬鹿にされ見下されているように思えてきて仕方ないのである。
 
「こんなことなら、素直にジェットエッジの改修頼むんだった……」
『I hope for your brain to be repaired.(むしろ私は、程度の低いあなたの頭脳が改修されることを願います)』
「なにをっ!」
「だーかーらー。やめなってばー」
 
 故に両者の間は常にこの、一事が万事といった具合であり。
 そのやりとりにため息をつくのは当事者以外の、見守る側に立つ者たちばかりであった。
 
*   *   *
 
 そんなだから、訓練生としてときに同行を命じられる実戦の任務においても、たいした役割はまわってこない。
 もともと訓練生程度の人間に与えられる仕事など低い期待値に比例するように高が知れているのに加えて、その新人である少女がパートナーたるデバイスと衝突しいがみあい、息も合わず使いこなせてもいないなどという状況にあれば、それも当たり前のこと。
 
『聞いたわよ、ノーヴェ。サイクロンとあまりうまくいってないんですって?』
「あんまりっていうか……全然だよ、ギン姉。あたし、こいつとやってく自信ない。つーか、嫌い」
『It is an unexpected meeting. I think so, too(奇遇ですね、私もです)』
「……な?」
『……はぁ』
 
 浅瀬にて座礁した船舶の、その乗員に対する救助活動は初動の沿岸警備部隊によって大半が完了していた。ただ、船の規格がかなり大型のものであるのに加え、積載している積荷が可燃性の強い工業用燃料という事情もあり念のためということで、特別救助隊に出動要請がかかったに過ぎない。派遣人数はごく少数だし、ほぼ完遂したも同然の任務ということで新人の実地にはもってこいとの判断であったのだろう、スバルに連れられ同行したノーヴェは、かといってやることもなく。
 たまたま船の所有会社とのやりとりの経過を報せに通信を入れてきたギンガへ、通信番として着陸した輸送機へとひとり残されているのをいいことに思うさま愚痴をこぼしていた。
 
 火災も既に鎮火に向かっているし、海が荒れているわけでもない。スバルたちもただ最終確認に専門家の目を、ということで船内に残っているだけだ。
 
『前、言わなかった? デバイスを使おうと思っちゃいけないって』
「『術者とデバイスの関係は、ただ単純な主従のものじゃない』ってやつね。そりゃ、覚えてはいるけどさぁ……」
 
 椅子の上で膝を抱える。他の隊員たちの見ている前でこんな恰好でモニターに向かっていればどやされるのが関の山だが、そこは孤独な留守番の利点だ、誰に気兼ねすることもなくのんびりできる。
 と、二人の通信に割り込んで定時連絡コールの着信音。船内のスバルからであることを示す認識番号がサブモニターに表示され、ノーヴェは手を伸ばす。
 
『もう。そんなことでいいの? 大体今だって任務中なんでしょう?』
「いーんだよ。あたしはどうせ留守番だし──……?」
『ノーヴェ?』
 
 直後、彼女の戦闘機人としての優秀な聴覚が捉えたのは、小さくも、それでいてはっきりと二回鳴らされた、輸送機の後部ハッチ装甲を外側から叩く音。
 ノーヴェは、振り返った。そして、腰を上げた。迷わず、歩いていく。
 外部からの金属質な音は、未だ続いている。
  
 ロックを解除し、コックを捻り扉を開いた先に。ずぶぬれの少女を抱えた少年の、蒼白な顔があった。
 
*   *   *
 
『二次被災者?』
「そう! そうだよ! 妹のほうが息してないって……はやく戻ってきてくれよっ!」
 
 任務中の通信は、船内深くに入り込んだ相手に向けてのものということもあり、ざらついた画像をノーヴェの目へと見せている。
 背後には救急キットを広げた医療班員がひとり。濡れ鼠で横たわる少女の胸元に聴診器を当て、いくらかの言葉をすぐそばに立つ少年へと問うている。
 
 少年と少女とは、兄妹らしかった。沖合いにボートで釣りに出たところを、操船不能になり陸地間際に入り込んできた大型船と遭遇、接触し。
 大破・四散した船上から投げ出された少年は動かなくなった妹を抱え、岸までを泳ぎきったのだという。実際、毛布を肩からかけた幼いその身体は水の冷たさに凍え、噛みあわない歯の根をカチカチと鳴らして未だ小刻みに震えている。
 こういうとき、ノーヴェはどうしていいかわからない。いくら敵を叩き潰すことについて威力を発揮する強靭な身体も、何の役にも立ちはしない。ただ切迫した表情の医療班員が施す救命処置を受ける少女と、二つのモニターにそれぞれ映るナカジマ姉妹の顔との間を交互にちらちらと視線を行き来させ、指示を待つだけだ。
 
『ヘリの出動要請は?』
「したさ! でも今からじゃ到着してもとても間に合わないって、医療班が!」
『ノーヴェ、少し落ち着きなさい。……スバル。あなたたちの輸送機の現在位置から、最短での医療施設までの距離はどのくらい?』
 
 おろおろと、二人のやりとりに口も挟めず狼狽するしかないノーヴェ。しかし対照的に姉二人は、苛立ちを覚えるほどに冷静で。
 
『距離自体はそこまでじゃないけど……輸送手段がない。ヘリの出動は間に合わないし、市街地までの間には瓦礫の積みあがった廃棄区画があるから車も無理。航空魔導師も現場にいないとなると』
「そんな! じゃあ、見捨てるのかよ!」
『そうは言ってないわ。……とすると、とれる手段はひとつか……』
 
 ぴしゃりとしたギンガの口調に、普段ならば反論を即座に返すノーヴェもだまって口を噤まざるを得ない。
 ただ、年上というだけではない。目を移し見たスバルももう一方のモニターの彼女同様、普段の温和さなどどこかに捨て去ったかのような鋭い眼差しで、思索に耽っている。
  
 ──自分などとは違う。映像の向こうにいるのは場数を踏んだ、『人の命を救うこと』のエキスパートとしての少女だ。経験が、違いすぎる。遺伝上の姉の仕草一つ一つに、赤毛の戦闘機人は自身の未熟と彼女との距離を痛感させられる。
 ごくりと、思わずノーヴェは唾液を嚥下し、二人の次の言葉を待った。
 
『スバル、指揮官に許可を』
『うん、そのつもり』
「?」
 
 意見が一致したように、二人は頷きあう。通じ合う彼女らに置いていかれた形のノーヴェへと、四つの視線が同時に向けられる。
 
「な……なんだよ?」
『いい、ノーヴェ。よく聴いて。今から病院に連絡して、廃棄区画の出口まで車を回させる。だから』
 
 口火を切ったのは、ギンガ。言葉を継いだのは、直属の上司の立場でもある、スバルだった。
 
『だから、ノーヴェがそこまでその子を運んで。エアライナーを併用すれば瓦礫も無視できるし、キャリバーで走るのが一番速い』
 
*   *   *
 
 希望通りの救助隊──しかも顔馴染みの、同じ血が流れている人間が勤務する特別救助隊へと配属されたとはいえ、これまでやらされてきたことは殆どが訓練と、雑用ばかり。
 言ってみれば、まともな任務というものはこれがはじめてのこと。いつか自分の力が認められれば任せられるようになるとおぼろげに、多少腐りながらも考えてはいたけれど。
 
 こんなに唐突に、それがやってくるなんて。
 
「そんな……急に云われたって……あたしはまだ正式な隊員ですら……っ」
『でも、他に手がないの。ノーヴェならきっと出来る、お願い』
「だって、あたし……あたしなんかより……っ」
『あたしはまだ戻れない。ノーヴェしか、今は動ける人間がいないんだ』
「けどっ」
 
 こうしている間にも、少女の身体は弱っていく。迷っている暇がないと、ノーヴェも頭では理解しているのだ。
 しかし、いざ自分の双肩に人ひとりの命がのしかかる重圧と。突然訪れたはじめての任務への戸惑いとが、彼女の首を縦に振らせない。
 
『Ms. NOVE』
 
 どうしたものか──表情には出さず、スバルとギンガの心中に微量の焦りが芽生え始めたとき、ノーヴェの胸元の黒い宝石が、輝いた。
 
『Do you run away?(逃げるのですか?)』
「何……?」
『It is regrettable. I wanted to be handled more by the brave soul.(残念です。私ももっと勇気ある人に使ってもらいたかった)』
 
 反りの合わない、気に食わない相棒。サイクロンの物言いは傍から見れば、明らかに見え透いた挑発だった。
 
「お前……っ」
 
 だが、冷静でないノーヴェには、額面どおりの言葉にしか捉えられることはない。首に彼女をかけている細い鎖を乱暴に掴みあげ、眼前へと持ち上げる。
 
『I was born so that you might run on a new road. At least, I hear it so.(私はあなたが新たな道を走ることが出来るよう、生み出されました)』
「……っ?」
 
 その主へと、無口なデバイスは稀な饒舌に語る。どこまでも正論を。彼女には言い返すことの出来ない、あらゆる言葉を。
 
『You may be immature, and say that all the one is insufficient.(あなたは未熟です、なにもかもが足りないと言ってもいい)』
 
 点滅とともに吐き出された最後の電子音声が、彼女の心からの言葉を締めくくる。
 息を呑み、苦さと憤懣やる方ない表情の交じり合った顔でデバイスを睨みつける、主に対して。
 
『Are you who doesn't have it at all a nature to deprive even of the reason that arose from me?(何も持たないあなたはこの上、私から生まれた意味まで奪う気ですか?)』
「!」
 
 その顔が、ハッとしたものに変わった。少女は目を逸らし、首を背け、硬く冷たい床に敷かれた毛布の上へと横たわる、幼いひとつの命に視線を落として。
 
 ──生まれてきたことの、意味。
 
 唇を、微かにそう、動かした。声もなく、誰に向けてのものでもなく。
 そして苛立ちによって込められていた、鎖を握る掌の力の性質が別のものへといつしか、より力強く変化し。
 
「……上等だ」
 
 小さく短く、呟いた。じゃらりと、鎖も揺れた。
 
「そこまでいうんなら、一緒に走ってもらうぞ」
『If one that my AI defines and your road is the same, Even to where.(その道が、私の定義するものと同じならどこまでも)』
 
 赤毛の少女は眠る小さな肉体の側に跪き、両手でしっかりと抱えあげる。
 
『ノーヴェ』
「行ってくる。……ギン姉、出迎えよろしく」
 
 抱えた身体を、背中へと背負いなおして。
 その掌はすれ違いざま、毛布に包まり不安げな視線を向ける少年の、塩水にぱさついた頭をそっと撫でていった。
 
『Let's go, “my master”』
 
 絶対に、間に合わせるから。さも、そう言っているかのように。
 
*   *   *
 
明かりを落とした部屋を照らすのは、デスク上のスタンドライトの光と、音量をぎりぎりまで絞った通信モニターの宙に浮き上がるような微細な明度。
 
「そっか、もう大丈夫なんだね。よかった、安心した」
 
けっして夜がそこまで遅いということもない。時間的にはまだまだ、宵の口といったところ、十分に人の活動時間帯といっていい時刻だ。
 
『ええ。数値も安定してきて、親御さんたちも安心されてたわ。ノーヴェは?』
「なんだかんだで緊張してたんだろうね。帰ってきてすぐ、ベッドに倒れるなりぐっすりだよ」
 
 そんな時間帯に暗闇と化した室内において、スバルが潜めた声でひとり通信に向かう理由。それは偏に、睡眠の世界に旅立った妹への気遣いゆえ。
 彼女たちに割り当てられた二人部屋の二段ベッド上段からは、規則的な寝息が時折、寝言とともに漏れ聞こえてくる。
 
 肉体的よりも、精神的に今日は、随分と疲れたのだろう。
 
『それで、スバルの目から見てどう? 救助隊員としてのノーヴェは』
「うーん。ようやく入り口に、たどり着いたって感じかな」
『あら、辛口ね』
「そりゃ、ね。一回任務こなしただけで倒れるようじゃ、まだまだでしょ」
 
 言いつつも、スバルの顔はどこか誇らしげだった。
 口元に浮かんだ微笑。それは初めての任務を完遂し一人の少女の命を救った妹へと向けられたものだ。
 軽く椅子の背をしならせ、スバルはうーんと伸びをした。こちらはまだまだ、元気、元気。
 
「サイクロンキャリバーだって言ってたしね。『まだまだノーヴェが自分の主としてふさわしいだけの人物にはたりえていないという評価は変わっていません』、って」
 
 デバイスに認められていないということはやはり、まだまだ。戦闘者としては十分であっても、一人の人間としては足りない部分が多くあるということだ。
 その愛機の評価が非常に辛いものであるということを、差し引いたとしても。
 
「ま、もっとも主もデバイスも、素直じゃないってところはよく似てるみたいだし。ゆくゆくはいいコンビになると思うよ、あの二人」
『そうね』
 
 机上のデジタル時計の下二桁が二つのゼロを刻み、新たな一時間をスバルに告げる。
 熟睡中の妹を肴に、二人の雑談はもうしばらく続いた。

 
 ……End.
 
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