短編とか、リンクとか。

 
短編まとめに未収録だったぶんの話を収録。
あとリンクに一件追加。珍しくなのは系サイトじゃありません。高校時代からの友人さんサイト。
 
んでもって、カーテンコールを更新。
今回は場面転換ほぼまったくなしというのをやってみた。
 
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よく、気配を殺している。相当の訓練を積んでいる、そういっていいだろう。
常人よりも優れた感覚──知覚強化の魔法を使用することもなく、それは息を潜めた不純物を正確にかぎ分ける──を持つ、戦闘機人ゆえに発見できたこと。
けっして、相手の未熟が原因ではない。並外れた鋭敏さを誇るそれによって発見した相手を、チンクはそう評する。
 
「その辺にしておいてもらおうか。生憎と、司書長もご息女も留守でな」
 
散乱した机上、乱雑に開け放たれ、かき回された抽斗。その中心にいる男が、地肌につきつけられた冷たい感触に身を硬くしている。
首筋に小型の投げナイフ、スティンガーを押し当てるのはリインフォース?の役目だ。身動きなどゆるさない。
既にデトネイターの熱エネルギーは仕込み済み。能力限定の身ゆえに全盛の破壊力はなくとも、神経の集中する首筋で起爆・発火させれば十分に相手にとっては致命傷となりうる。
 
気配を隠すのは、うまい。けれど気配を察知するのはまだまだ、といったところか。
銀髪の二人に背後をとられ恐る恐るに両手を上へとあげた招かれざる客は、背中越しにねじった首で、視線をこちらに向けてくる。
 
もっとも、基本的な能力からして相手とチンクとの間には大きな差がある。比べるのも、相手にとって酷だろう。
 
今は前線にいないにせよチンクとて伊達に、戦闘機人はやっていない。
100パーセントのパフォーマンスではないとはいえ、殺気の普段存在しない場所に闖入した異物を即座に探知する程度の感覚はいまだ備わっている。
十分な訓練を受けた諜報員のひとりやふたりが勤務先たる無限書庫に身を潜めていようと、その違和感を見逃しはしない。
 
「さあ、ゆっくりと話を聴こうじゃないか。……八神二佐たちの前で、ゆっくりとな」
 
言葉を継ぐようなタイミングで、スライドドアが開く。三つの影、正確にはひとつの型に座っている小さなそれを合わせれば四つの影が司書長執務室へとカーペットの上を進む。
八神はやて。その守護騎士・ヴィータにシグナム。シグナムが融合騎・アギト。
あちらが尻尾を出すのを待っていた、向こう側からなんらかの人員がなんらかの動きをするのを待ち構えていた彼女らは、今は騎士であると同時に狩人であり、また看守でもあった。
 
この檻の中から、逃げられるものなどいない。あとは、あらいざらい吐いてもらうだけだ。
 
彼女らのあとには、白いスーツ姿の長髪をした尋問官が、ゆるりと続いた。
自白を強要する必要もない。聖王教会からきた彼により、男の記憶、そのものが捜査される。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第十二話 包囲戦
 
 
一対、一。
 
魔力弾の数は──目に見えているだけ、実体として感知できるだけで周囲に五つ。
 
無論、それらが全部でないこともわかった上での計算だ。まだ、ある。ジャミングか、光学迷彩か。
巧妙にこちらの視界や探知能力の枠外でたしかに配置され狙っているものが、無数に存在している。
そこから向けられた殺気・害意だけが明確に、その不可視の罠をこちらに教えているのだ。
 
「──なるほど」
 
こちらもまた、ほぼ同程度の数の魔力弾を用意する。あいにくと幻術の心得はこちらにはない。ゆえに隠しもせずただ自分と背後の男とを取り囲むように配備していく。
 
……もっとも、心得がないのはあちらも同じであったはずだが。魔力弾を完璧に隠す手段など、もっていないはず。
 
「よく、覚えがあります。この魔法……ううん、『能力』の感じには。『彼女』の脱獄を手引きしたのも、あなただったってことですね。……『彼女』はどこです?」
 
同時に、なのはには心当たりがある。このような芸当を可能とし、得意とする人物の存在に。
二年前、幾度も立ち塞がったその相手の名をつい先日はやての口から聞かされたことも、彼女の記憶にはまだ新しい。
 
その刹那、だった。エースは背後の敵に対し行動を起こす。
 
振り向きざま、なのははデバイスを横に薙ぐ。一方の男も、振り遅れることなく縦に掌中の得物を叩きつける。
火花を散らして、鍔迫り合いの引き押しをやりあい。時をさほどに滞らせることなく、後方に飛び退いた二人の間に距離が開く。
 
「肯定しておきましょう、『天才』どの? 『エースオブエース』さん。もっとも直接動いたのは私ではないですがね」
 
言いながらの、砲撃。抜き打ちのショートバスターでこれを相殺。改めて周囲を取り囲もうとする誘導弾たちにセイクリッドクラスターをばらまき、反応させては自爆させる。
爆煙の間を抜けて誘導弾を飛ばし、あちらの二陣を潰す。
 
「いえ……違いますねぇ。天才とは私のことです、あくまで常識というのが通用するレベルのものを、常識から飛躍的に能力の上乗せされたものを人は天才と呼ぶのだから。あなたやあのハラオウンの娘はさしずめ──……」
「!!」
 
射撃を捨てさせられたあとの男の動きは疾かった。フェイトという神速の使い手を知る、また相手の実力を把握しているはずのなのはからしてみても、予想外なほど。
神速には到底及ばずとも、射撃型には不釣合いなほど十分に高速。距離が、再び急速に狭まる。
 
「規格外、人外の、『化け物』といったところですかっ!!」
 
近い、となのはは判断する。罵倒に応じている余裕はない。チャージは不十分ながら、左拳からのインパクトキャノン。
相手もまったく同じ動作ながら、あちらは既に振るチャージを仕込み済み──とそれとが拮抗し、双方の肉体を弾きあう。
 
「さすが、管理外世界の化け物……これだけ持久戦を強いられてなお、ここまで強力」
「……!!」
「まあ、局や訓練校の衆愚たちはそんなあなたを『英雄』などともてはやしているようですがね」
 
ショートバスターの火線で、敵を追う。大地を舐めた砲撃が、その場の岩をことごとく砕き散らしていく。
 
ヴィヴィオを狙っていたのも、盗聴を行っていたのもあなたなんですか……!?」
 
彼の速度は、射撃の精密さや砲撃の破壊力は。訓練校時代の記憶や、はやてより念のためにと渡されていた模擬戦の記録映像の動きとはまったくの別物だった。
ことごとくが、網膜や脳裏に焼きついているそれらを遥かに凌駕している。なのはの覚えているものと変わらないのは射撃を中心に組み立てられたその戦闘スタイルと、その表情の読み取れぬ狐目のみ。
 
──例えるなら、非常に高い汎用戦闘力を持つクロノから総合的な個人戦技能のレベルを差し引き、代わりにある意味では卑怯とすらよべるほどの狡猾さや非情さを付加した戦術構成。両者を隔てているのはクロノが単騎での戦況制圧が可能な戦闘スキルや魔力を持つのに対し、彼の場合は魔力量や反応速度などに表れる実質戦闘力に乏しく、『人を使う』ことに依存した形の指揮官であるということ。力押しをするタイプではなく、またできるタイプじゃない。良くも悪くも、指揮官型。──もちろん、主席というだけはあって、人並み以上の能力はあるようだけれど。
 
かつて訓練校時代に一度だけ模擬戦を行ったフェイトがそのように表現していた相手と同一人物とは思えないほどの、強靭かつ俊敏な力に満ち満ちた一撃一撃にて正面からの激突に相手は対応してきている。
こちらの消耗や状況の不利を差し引いたにしても……十分に、強い。こんな姿はつい最近記録されたばかりのはずの模擬戦の映像からでさえ、見えてはこなかったというのに。
一体いつの間に、これほどの実力をつけたというのか。録画映像の日付は、ほんのひと月ほども経たぬ時期のものだった。
 
「……ヴィヴィオ? ああ。あの出来損ないの化け物ですか」
「!?」
「あんなモノに用はありません。生み出したうちの技術屋連中にも困ったものですが……スカリエッティ一味の失敗も鑑みず、短絡的にあれを利用しようなどと未だ考えている一部のお偉方もまた、嘆かわしい」
 
だが、そんな思考・分析すらどうでもよくなるような言葉を、相手は吐いて捨てた。
 
「モノ……ですって……?」
「ああ。あなたたちにとってはちょうどよかったでしょうね。管理外世界産の化け物と、出来損ないのクローンと。ふたりでアレと馴れ合うことが出来たんですから。その点においては感謝してもらうべきかもしれませんね」
 
また、吐き出されたまま聞き捨てては、おけなかった。体内の血液が、急激に温度を増していくのを自覚する。
この男の一派が、なのはにとってかけがえのない存在となった少女を現世に蘇らせた。本来、悠久の静かなる眠りのうちにあるべき一人の少女を。
 
利用するため、ただそれだけのために手前勝手に復活をさせて──彼女を傷つけた。
 
「そんな目で睨みつけられても困ります。アレは私の感知の外だった。聖王の世を復古させるのに、あんなもの不要です」
 
その上でなお、侮蔑を繰り返す。なのはのいとし子を……たったひとりの、守るべき幼い存在を。聖王王家の復活。当の本人すら望んでいないその目的がために、勝手に生み出し放棄する。
 
生命すら、道具とする。利用する。切り捨てる。この男も、あのジェイル・スカリエッティと同じだ。
いや。スカリエッティのほうがまだましだ。彼は自らの生み出した十二人の少女たちのことを少なくとも、彼なりに愛していた。家族として扱っていた。
自らの生み出した存在に、彼なりの責任をもって接していたのだから。
 
「あなたはっ!!」
「……『あなた』? 私のことですか?」
 
激昂が、言葉となった。怒りのこもった声となって、ぎりぎりと憤激に震える握り拳とともに空気を揺らしていく。
だがそれは、男を射抜かない。男の身体が、向かうその先にないがゆえに。不可視の高速だとか、幻影による消失ではなく。男がただ、そこにいない。
 
「はて。果たして……どちらの『私』をご所望でしょうか?」
 
かわりに、左右ふたつ同じ顔が並んでいる。声の切り裂いていった空白の空間を、両側から挟みこむようにして。
先ほどまで、目を離しようもなかったたった一人の相手が今は──まったく等しい仕草、等しい外見で、同じ存在が二人いる。
 
「……!?」
「失敬、それと」
 
そうして生まれた動揺と、綻びとはごくごく一瞬、とるにたらないものだった。
少なくとも敵が目の前にいるだけの数、あるいは確認できているものだけであったならばなんらそれは影響を及ぼさないものであったに違いない。
 
エースオブエース。なのは自身けっして驕ったことのないその称号に違うことなく、伊達ではない実力を彼女は持っているのだから。
毛筋ほどの綻びただ一点に転がされきってしまうことなど、よほどの拮抗状態でないかぎりはありえない。
一対一を演じるに当たってその動揺が重要なファクターとなってしまうには、相手の実力は予想を凌駕していたとはいえ、まだ不足。
 
「私たちばかりに見とれていて、よろしいのですか?」
「!!」
 
そうだ、自分はこの戦闘のうちに、かつて捕縛した厄介な相手の匂いを嗅ぎ取っていたはずだ。
魔力弾を虚空に紛れ込ませたように、今こうやって、男の姿を増やして見せたように。
 
レイジングハートが、危機の接近を告げる。熱量が、迫っている。
 
「く……っ!!」
 
側面からの一射が到達し、なのはの身体を飲み込んでいく。右腕に展開したラウンドシールドが、防御体勢の身体を必死に支える。
 
「この……っ、熱量、はぁ……っ!!」
 
ただの魔力砲撃などではない。強大な熱量を伴った、炎熱砲撃。堪えながら、なのははそれを自分めがけて放射し続けるその大元、現れた次なる敵の姿を両目に追う。
 
「フリー、ド……っ!! やっぱり、あなたなの……!?」
 
自分へと仇なす者。それは天に滞空する白き巨躯の竜。本来彼を制御し従えるべき桜色の法衣の少女も、彼を駆り大空を翔るはずの若き槍騎士の姿もその傍にはなかった。
彼らが白亜の竜と引き離され、ウェンディたちの手によってギンガのもとへと保護されたことなど今のなのはには、知る由もない。
 
召喚師によって与えられるべき理性のない竜はただ、己の野生に従い。なのはへと飽くことなく繰り返し、炎熱の吐息を浴びせかける。
 
これで、一対二。
 
「そしてぇ──……今度はこっちがお留守ですよぉぉっ!!」
 
ラウンドシールドに集中するなのはへと、周囲のガジェットたちからの射撃が殺到する。
オートのプロテクションが作動し、防ぐ中──嘲るような叫びとともに、二つの相似な姿の男が、なのはへと迫る。
 
──どっちだ。片方は幻影のはず。どちらを防げばいい。
 
フリードの放つブラストレイの威力は、暴走状態ゆえかかつてのそれの比ではない。強固なシールドとはいえ、展開したまま動けなかった。
行動できぬなら、代わりに考える。それが戦闘の鉄則。二手三手先を思考し、パターンを構築して備える。しかし──、
 
「残ぁん、念。あいにくどっちも実体よ。彼も……私もねぇっ!!」
「!!」
 
どちらか一方ではなく、襲い掛かる双方がなのはに対し害する力を秘めていたとすれば。予想の前提そのものが違っていたとするならば、それはこの上ない奇襲となる。
右の男が、姿をノイズの中に青いボディスーツの女へと変化させ、武装隊の法衣の裾の代わりに長いまっすぐな髪を振り乱す。得物もまた、それまで手にしていた射撃デバイスではなく、右手そのものに装備した鋭利な鉤爪。
男の射撃が。女の斬撃が。避けようのないタイミングで二方向から直撃しようとする。
 
一対三……現在の、戦力比。烏合の衆と切って捨てられるガジェットたちのことは、頭数として数えずに、だ。
 
「リアクター、パージッ!!」
 
奇策を前に、なのはもまた極力使用を避けるべき奇策の投入を余儀なくされる。
損傷の大きい装甲、バリアジャケットの上着を廃棄、爆散。相手の視界を塞ぎ、標的を見失わせると同時に更にもう一枚のカードを切る。
 
「ブラスター1!! 急速離脱!!」
『Axel fin』
 
ブラスターシステム、第一段階発動。全身にかかる重圧のごとき負担が、急激に増す。
直後より、負傷した左肩の鈍痛が身体を切り盛んばかりに激しいものへと表情を変える。
引き換えに得るのは絶大な魔力の噴出。強化されたシールドがブラストレイを水滴のように弾き散らし、加えて得た急加速の機動を以って、刃と光弾の狙う先から離れる。
 
「いかなエースといえども、やはりこの戦力差ではさばききれませぬか」
「……っ!?」
 
──その回避の先に、斬撃が待っていた。
 
一対、四。
 
とっさ、というほどの反応もできない。間に合わない。首や腕を泣き別れにされないよう、持っていかれないようにするのがやっと。
 
待ち構えていたのは短く乱雑な髪型の、やはり青いボディスーツの女。
その四肢に、四つの光り輝く翼があった。
傷ついたなのはの身体を、破損し装甲厚を減退させたバリアジャケットを切り裂いていったのはそれら、インパルスブレードと呼ばれる四枚の光の刃だった。
 
どこも、切り落とされてはいない。五体満足であるということだけを、なのはは確認した。
痛みの中それを認識しながら、浮揚感に包まれてゆりかごの上部甲板へと、ゆるやかな下降線を描いていく。
 
裏切った男の分身として現れた女も、たった今なのはを切りつけていった相手も。いずれもその出現は唐突かつ、虚空からさも最初の段階よりそこにいたかのような参戦であった。
 
かつての教え子が本来の使役者たる、理性を失った暴竜へとなのはは目を向ける。
額より流れ落ちた鮮血が入り込み赤く滲んだ視線の先に、白竜はいた。──その背中に、ひとりの女を乗せて。
 
先の二人に続くボディスーツは同じ形状、やはり青。その上から裾の長いコートを肩にかけている姿は、二年前のものと時間を巻き戻したかのようになんら変化をなのはに認識させない。
眼鏡の奥で、女の目が酷薄に嗤う。彼女の腕の中に抱えあげられた、ここで自分の守らねばならなかった少女の姿に、なのはは気付く。
 
「おひさしぶりねぇ、悪魔さぁん」
 
ナンバーズ、四番。クアットロ。彼女の手にはかつてと同じく、聖王の器が握られている。
戦況は、徐々に戦力差が開いていったのではなく。あくまでも隠されていただけにすぎない。
 
戦闘機人、三人。魔導師一人に、召喚竜一頭。疲労と消耗のあとには、それだけの相手が待っていた。
最初から、一対五だった。それはまさしく、エースを墜とすためのジョーカーとして用意され組み上げられた、何重もの包囲網であった。
 
そして、五が六になるとき──エース撃墜という至上命題を達成するために押される、念の念。
その要素として加わるのは白竜と同様に理性という名の鎖をひきちぎられた、黒き巨魁なる竜神の姿であった。
 
辛うじてゆりかご上部へと着地に成功したなのはの白いバリアジャケットは、血の赤と巨大な影の黒とに、染め上げられる。着地の衝撃にめり込んだ、硬い鋼の装甲の床面へ、ぽつぽつと赤い斑点が滴り落ちる。
 
ここから先は、一対六の戦闘だ。
 
(つづく)
 
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