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こちらのマリみてイベントになります。
20ページくらいのA5の、乃梨子と瞳子が中心になるライトな感じの話になるかと。
はじめてのマリみて本だよもん。
んで、八神家どうでしょうも今日は更新しときまーす。
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−時空管理局陸上本部前・公園−
そこにいるのは、なんだか、もしも道端であったらけっして係わり合いになりたくないような非常にユニークかつファンシーな姿の人。
「さあ、今夜も始まりました!! ミッドチルダの有名人クイズ!! 私は!! 誰で!! ショーウ!!!」
無論一見すれば誰しもが理解するであろうその正体は──……妙にハイテンションになっているのは、機動六課の首魁、部隊長ことはやてである。
派手なジャケット、ブロンド巻き毛のかつら。胸元の蝶ネクタイに顔にはつけ鼻を装着している上、瞼を白く塗って目を描いている。
いってみればそれは、要は日本人が想像するステレオタイプな外国人のテレビ司会者だった。
……いやいや。そのステレオタイプを真似してコントのネタにする、前座クラスの三流芸人とでもいったほうが正しい。
「今夜も素敵なゲストが来てくれました……それでは!! ヒントです!!」
誰も突っ込まないのは、突っ込んだとしても部隊長が止まることはないから。
こういうことに関しては、言い出したら聞かない。
八神家、家訓。ボケるときは全身全霊で。守護騎士たちに厳命されシャマルあたりは積極的に遂行するそれは彼女の指揮するこの部隊、機動六課の面々に対しても適用される。
画面の隅に、遠くの空に小さく姿を現すのは、白い竜の影。
しかし、それにしても遠い。豆粒のような大きさは徐々に近づいてきてはいるものの、いっこうにはっきりとした輪郭は見えてはこない。
にもかかわらず。残念ながら前枠の時間は彼の到着までの時を待ってはくれない。
「オぉーケぇー!!答えは後枠で!!それでは参りましょう、八神家どうでしょう、ミッド北部横断1200キロカブの旅第四夜!!チャンネルは、そのまま!!」
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜八神家どうでしょう・ミッド北部横断1200キロカブの旅〜
第四夜 そんな風に、そんな風に
「それでは登場していただきましょう……ピンクの身体のにくいあいつ!! ……nanoちゃん(ナノちゃん)です!!」
「いよおーっ!!」
何がいよおー、だ、何が。
ぽってぽってぽって、と。貴様どこのレギュレイテッドなデバイスの足音だと問い質したくならんばかりの、えらくかわいらしい擬音の足音を響かせ、ヴィータが放つ能天気なはやしの掛け声とともに現れたのは、ピンクの丸い物体だった。
ただし、でかい。もうアップのアングルで撮影しようものなら画面全体を埋め尽くしてしまわんほどに、その丸いピンク色のボディは無駄に広い表面積をしている。
傍から見ているだけでも暑苦しいほどにもこもこしたそれは、どう見ても──着ぐるみ。丸々布の詰まり切った、中に人の入った着ぐるみだ。
「こ……こんにちはnano。わたし、nanoちゃんnano」
そして正体は中の人間に言葉をかけて問うまでもなく、秒でわかった。
だって、聞き慣れすぎた声なんだもの。わからないままでいろ、というのが無茶というものだ。
「……仕事はどうした、なのは」
「ふ、ふえっ!? ち、違うの!! nanoちゃんnano!!」
「そや!! 中の人なんておらへん!! nanoちゃんや!!」
本人ややらせている人間からは真っ向から否定されたけれど。
いや……どう見たって(どう声を聞いたって)、中身は……ねえ。
ピンクのもこもこボディに、右目がn、左目がa。水色の帽子にはnanoの文字があっても。答えは口に出すのが憚られるほどに明確だ。
それでいいのか、エースオブエース。それでいいのか、一児の母。それでいいのか、19歳。それでいいのか、高町なのは。
「馬鹿をやっていないで仕事しろ」
思わず起動し、鞘に収めたままのレヴァンティンでつい、ぶったたくシグナム。こちとら苦行に等しいアホ企画に付き合わされて苛立っているのだ。おふざけでない。
もちろん、そのスイングスピードは手加減抜きでおもいっきり。帽子の上あたりにばこっとぶつける。
しかし相手が相手、仮にも(こんな格好の相手をそう呼びたくはないが)エースである。完璧なタイミングでオートガード。プロテクションでしっかり受け止める。どうやらこんな格好でもしっかりとレイジングハートは持参しているようだ。
オーバーアクションに衝撃で小走りにあとずさりするなのは……いや、nanoちゃん。
さすがnanoちゃんの鉄壁ガード、なんてはやてたちがはしゃいでいるのを背中で聞いて、シグナムは一層げんなりした。
さっさと、出発してしまおう。あのピンクは放っておこう。心底、そう思った。
* * *
─ミッドチルダ新暦75年・六月六日 午前七時五十分─
再びカメラは、緋色と若草色、二色のツナギをそれぞれに載せたカブの後姿を追う。
はやての運転する大型車の後部座席は、ピンク色の物体が詰め込まれているおかげでぱんぱんである。
「さ、ホテルをnanoちゃんと一緒に出発しました。今日はこれから一日、nanoちゃんには同行してもらう予定でっす」
完全に無理やり押し込まれている、高さいっぱいのサイズの着ぐるみは微動だにしない。
本当に入ってんのか? とヴィータが問うと軽く右手を挙げて見せて、中の人が健在だと知らせてくる程度だ。
いや、実際問題動けないんだろうけども。中は暑かろう、狭かろう。着たままではきつかろう、重かろう。
「あの……はやてちゃん?」
「んー?」
ただ、しゃべることはできるようだ。
「これ、脱いじゃだめ?」
「んー、脱ぐのは別にかまわんけど、脱いだら今月ただ働きな。あと減給」
「ふええっ!?」
でも、ただそれだけ。部隊長命令は絶対。
あくまでnanoちゃんは今日一日、nanoちゃんとしてやっていかねばならないようである。
冷酷非情な親友兼上司の宣告に、おそらくは着ぐるみの中でスターズ1が沈没していることだろう。
「ま、それはおいといて。シグナム」
ああ、置いておかれた。
『なんでしょう』
「なんか後ろに積んどるみたいやけど、それ何なん?」
『……土産屋で見つけるなりとにかく積んで行けとしつこく言い出したのはあなたでしょうに……』
と、様子が変わっているのははやてたちの乗る車内だけではない。
なにやら薄茶色……木製の表面に塗料の砂色をしたやや上に長く伸びる丸みを帯びた物体が、ひた走るシグナムのカブの荷台へとくくりつけられていた。
中心より少し上には、顔のごとき模様。荷台に乗せたまま走るにはそれはちょっとバランスが悪いのでは? という程度には大きいサイズをしている。
先ほど。なのは……もとい、nanoちゃんが合流したホテルの土産もの屋ではやてが見つけ、積み込ませたものである。
『これは“フェレットだるま”というそうです。この地方の特産物……工芸品なんだとか』
「ほーほーほー。フェレットだるまとな」
通称・淫獣だるま。ガイドブックの名産品説明コラムには、そのように書いてあった。
それを背に、シグナムはカブを駆る。
『わざとらしい納得はやめてください、腹立ちますから』
「おい、だるま屋ー」
『ヴィータ、お前はあとで斬る』
* * *
─ミッドチルダ新暦75年・六月六日 午前十時五十分─
そんなこんなから、はやくも三時間。
「えー、走行中のお二人さーん」
『はいはーい』
『なんでしょうか』
八神家一行とnanoちゃんを乗せて追いかける車の前方には、必死こいて走る二台のバイク。
そしてそのバックミラーに映る後部座席には──……。
死屍累々。兵どもが、夢のあと。いや、夢の中。
「こちら、みんな寝ましたー」
『……は!?』
「寝ましたー」
きっと着ぐるみがね、ちょうどいい枕になったんだね。
リインも、ヴィータも、そしてザフィーラさえもが腹を出して着ぐるみに頭を預けてぐっすりこんと眠りこけている。
「わたしは起きてるよー……」
ただし、肝心要のnanoちゃん本人、その中の人除く。そりゃあそうだ。寝れるものなら寝てみるがいい。
まず、無理。絶対無理。
「暑いよー……」
「えー、訂正。nanoちゃんの中身が『暑い』言うとります」
『暑い、だと?』
一方でシグナムのわずか十数センチ横を遠慮会釈なく、明らかに法定スピード違反の長距離トラックが追い抜いていく。
いくらオートガードを張っているとはいえ、見ていても本能的なもので一瞬ひやりとする。
なんとも、危なっかしい。
なのはの……nanoちゃんの失言はまさに、そのタイミングだった。寒さと、暑さ。ある意味ではその落差がピークであった、その瞬間。
『こっちは寒いぞ』
『もー、風がびゅんびゅん前から当たってきて……』
「いやでも、暑いものは暑いんですってば。……この中すごく、ゴム臭いし……」
『……何ぃ?』
「あ、いえ……」
シグナムと、シャマル。カブ上の二人はやおらに言葉尻をとらえnanoちゃんへと絡みだす。
いろいろ、辛いらしい。車の中にいられるだけでも恵まれているといいたいらしい。
『こっちは!! 風と、寒さと、匂いと、危険を感じているんだ!! そのくらい我慢しろ!!』
「……はい」
『ていうかヴィータちゃんたちも起きてくださいよ!! こっちだって必死にやってるんですから!! ギャラリーくらいやってください!!』
なんだかもう、少々悲愴である。
でもまだ、日程も行程も半分しかきてないんだけどなぁ。
完全に聞き流しながら、はやては思う。そして、火に油を注ぐ意図でさらに余計なことを言ってみる。
半ば、興味本位に。
「お二人さん、お尻の具合はどないやー?」
『『痛いですよ!!』』
──ま、それもそうか。だが妙な形ではあるが家族や守護騎士の仲間というのとは別な意味で、バイクを駆る二人の結束が深まったようで。
きっと、喜ばしいことなのだろう。うん。
ナイスハモリ、と。相手からはこちらのことが見えていないのをいいことに、遠い目をしてはやては二人にサムズアップを立てた。
カブにカメラのモニターはは搭載していないし、当の本人たちもなのはへと絡みつつ走行を続けるので手一杯である。
「あー、お二人さん。ここ左折すると海岸沿いに出るよー」
そして、妙な絆の生まれつつある二人と、ハンドルを握るはやてたちの前に(約三名爆睡中)。
角を曲がり広い道路に出ると、一面の蒼い水面が広がった。
(第五夜につづく)
* * *
−時空管理局陸上本部前・公園−
「さあそれでは答え合わせに参りましょう、ミッドチルダの有名人!! 私は、誰で!! ショーウ!!!」
やっぱりつけ鼻白塗り瞼のはやて。例によってテンションがおかしい。
「さーて、どのくらいの人がこのネタわかったかなぁ? それでは今夜のゲストさん、いらっしゃーい!!」
あ、三枝。こう、右手をかきあげるようにくいっと。見事に三枝。
「……」
画面左端から現れたのは、真っ白の全身タイツに羽、フリードの頭を模した先端部の帽子を被って顔面を真っ白に塗った烈火の将。
──いや、既に画面外ではヴィータやシャマルが腹抱えて笑ってるのが聞こえてるんですけど。
ばっさ、ばっさ。両腕にはめた発泡スチロールの白い羽で、はばたく。白塗りの顔を真っ赤にして、me
いっぱい。
飛行魔法の使用は禁じられている。その上でこの装備でがんばって飛ぶよう命じられている。
「……セーンキュー!! フリードリヒー!! 次回の機動六課もお楽しみにっ!!」
「なんで私が……」
画面、暗転。
「大体ですよ、このネタならフリード自身を最後にひっぱりだしてくればいいわけでしょうに。 それに実際、面白いんですか、これ」
「いやいや、似合うとるよーフリードリヒシグナム」
「だからやめてくださいって言ってるでしょう!! やるのでしたら主が自分でやってくださいよ!! それになんですか、フリードリヒシグナムって!! プロレスラーみたいな名前で呼ぶのやめてください!!」
シャマルもヴィータも、笑いすぎ。
シグナムのぼやきと馬鹿笑いの声とが、空に木霊する。
(つづく)
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