とらのあなにて

 
夏コミ新刊『the lost encyclopedia〜blades of blaze〜』の取り扱いが始まったようですので、よろしければどうぞ。
会場頒布価格より少々高くなってますがそのへんは委託の関係なので申し訳ない。↓
 
こちらです(虎の穴通販ページ)
 
 
 
んで、カーテンコール更新。前後編で次回に続きます。展開の進行予定順調に遅延中(ぉ
たぶんこのペースだと全30話くらいになるな(汗
とりあえずノーヴェは書いてて楽しいわぁ。
 
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 エースは、満身創痍だった。その身体も、衣も。
 
 本来白を基調としているはずの戦闘服は外套を失い、彼女の肉体よりあふれ出た鮮血により赤に染め上げられそこかしこに損傷を晒し。
 それでもなお、不屈の空戦魔導師の身を包んでいる。いつ、倒れたとして。力尽きようとも、まるで違和感がないほどに彼女は傷つき、肩で呼吸をしながら未だ敵に相対することをやめようとはしない。
 
 だが、同時に。彼女はもう──ひとりではない。
 
 そんな彼女の左右へと舞い降り立ち並んだ二人もまた、無傷ではなかった。
 
 紅の道を駆け抜けた制圧者は、障壁を打ち抜く際の負荷ゆえの火花と硝煙を両足の愛機より散らし。
 蒼き疾き音速の拳闘士も師のもとへ駆けつけるため、まかりとおるための全精力の代償に、脈動する赤き血を拳より滴らせ。その表面にいくつもの焼け焦げた跡を残していた。
 
 二人が、たどり着いたから。だから、もう──ひとりではない。エースは、孤立無援ではない。
 
「なんとか、間に合ってくれたね。ふたりとも」
 
 ダメージの総計は、けっして軽くない。だが、戦力はこれで十分。ひとりの時間は、もう過ぎ去った。
 
 口角を柔らかに歪めて、エースオブエースのうちに算段が組みあがっていく。引き寄せるべき、勝利という二文字に続く道を歩むために。
 
「ノーヴェには、お姉さんたちとの戦いになる。少し……ううん。たくさん、辛い思いさせるかもしれないけど」
 
 敵は、四人。味方は、三人。各々がやらねばならないこと、やってもらわねばならないこと。戦術のすべてが、頭のうちに構築される。
 状況の打開の可否──答えは、可。
 
「でも、ごめん。ナンバーズの、二番と三番──……二人で、彼女たちを抑えて」
 
 達成するため、なのはは命じるではなく依頼する。
 
 左右の耳に、左右の少女たちの放った了解の声が響き渡った。同時に、二人の足元から黒と蒼、ふたつの輝きが視界の片隅へ光を与える。
 彼女たちの破壊した結界の霧散の影響か、その内の空気と魔力とが散り同化した影響か。空にはひとつも、まるで吹いて飛ばしたかのように雲は見えなくなっていた。
 
 なのに、朝の空は真っ青でなかった。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第十六話 星の光 −前編−


 頭では理解していても、感じてしまうものがある。それは、動きづらい自分の立場。そして、自分の無力。
 彼女をただ送り出すだけになって、見守り無事を祈ることが唯一の自分にできることとなって。一体、どれくらいになるだろうか。
 
 たぶんそれはもう、数え切れない。
 
スクライア司書長、もうそろそろ転送ポートの準備が……」
 
 スライドしたドアから姿を見せたのは、管理局の制服を折り目正しく着こなした、無表情な雰囲気の少年。
 本来は後見人を務める教会騎士、カリム・グラシアの聖王教会に籍を置くという顔見知りの彼は、さしあたっての上司であるはやてからの命を受け、ユーノに護衛兼付き添いとして同行してくれている。
 
 ユーノは、無言に。彼──オットーに対しそっと口元で人差し指を立ててみせる。
 幼子が、今は安息を必要としているから。
 
「あ……すいません。陛下は、眠ってしまわれましたか」
 
 なのはのもとへと、向かうこの旅路。遠い管理外世界へ向かうにあたり、最も手っ取り早い手段である航行艦船には生憎と手空きがなかった。ゆえの、転送ポートの乗り継ぎを繰り返さざるを得ない。
 これで、何度目だったか。五度、六度。おおよそそのくらいは乗り換え、少しずつ牛の歩みを重ね一歩一歩近づいている。
 
 だがその行程は、ユーノの膝の上で寝息を立てる幼い少女にはいささか体力的に疲労の大きなものであったようだ。
 
ヴィヴィオ、ね」
 
 オットーや、彼の姉妹たちが彼女のことを尊称で呼ぶことを知りつつも、ユーノは訂正した。
 
 今は自分の膝に頭を預けて、待合のベンチに寝転がりくぅくぅとかわいらしい寝息を立てる幼い子供。
 その子はユーノにとっては彼女は、聖王でも、なんでもなく。
 ただ、愛する女性の子。血はつながらなくとも、なのはの愛する子。──同時に、もうすぐ自分にとっても正式にわが子となるであろう少女。
 
 聖王の血脈も、地位も関係ない。大切な子。それだけのことでしかない。
 
「代わります」
 
 彼の言葉に、立ち上がり。ヴィヴィオを抱きかかえたユーノへと、オットーが両手を差し出して新たに言を繋ぐ。
 
「陛下を運ばれるのでしたら、自分が」
 
 ユーノの返事は、横に振る首。自分の娘くらい、自分で運べる。引き受けようとしてくれている彼の仕事をとってしまうようで、若干心苦しさを覚えないでもなかったが。
 
 腕の中で、小さく寝返りを打ち。まま、とヴィヴィオが寝言を呟いた。
 
「さあ、行こうか。ポートはどっち?」
 
 その声に少女を見下ろして、また顔をあげて。再び彼のほうを見て問うたときには、戦闘機人の少年は両手を既にひっこめていた。
 
「こちらです」
 
 踵を返した少年のあとに、ユーノは続いた。
 あと、何度だろう。どのくらいだろう。なのはのところにたどり着くには。
 
*   *   *
 
 暴風の剣が、衝撃の刃と交差する。超高速のせめぎあいの中、二度、三度。火花を散らしては離れ、激突してはまた次の一撃同士をたたきこみ離脱を繰り返す。
 ともに、戦闘機人同士。かつては──いや、今なお、姉妹と呼び合う者、二人がその応酬を演じる。
 
「なんであんたらがこんなとこにいるんだよっ!! トーレ姉ッ!!」
 
 魔力と、エネルギーとの干渉。その最中にノーヴェの思考を満たしていくのは、何故。どうして。敵対する、技と技とをぶつけ合わねばならぬ、目の前の相手に対するそんな疑問ばかり。
 
「死んだはずの!! アタシらの会ったこともない二番まで!! どういうことだっ!?」
 
 かつてのままに濃紺の戦闘服へ全身を包み、エネルギーの翼刃で斬撃を重ねる姉──トーレと。
 彼女と轡を並べていたその頃のものでない装備・武装に身を固め、魔力という力を使うことを覚えた自分。
 
 その間にある差は、いったいなんだ。何が敵味方を分ける。何故姉妹同士でこんなことをせねばならない。
 
「セッテは……セッテはあんたやドクターについていく道を選んだんだぞっ!! なのに、なんであんただけ勝手に……!!」
「ノーヴェッ!!」
 
 応酬の中、現在の姉──スバルの声が、かつての姉へと放った自分の言葉に割って入ってくる。
 出すぎだ。冷静になれ。そんなことを言っているのがわかる。あちらはガジェットを一手に引き受けている。そのうえで二番と、戦っている。援護には向かえない。こちらへの援護も望めない。
 
 でも、退けない。
 
 至近距離での、ガンナックルのフルオート連射。狙い、構えた銃口はしかし、相手の膝によって跳ね上げられ、自分の体勢を大きく崩すだけに終わる。
 
「変節したのはお前たちのほうだろう。セッテとて自分で選択した己の道を行っただけのこと……私がどうこう言う問題ではない!!」
 
 退けず、退かず。さらに、一撃を互いに繰り出す。
 双方の後ろ回し蹴りが、それぞれ同時に相手のガードへと命中する。ダメージが大きいのは、無理な体勢のまま強引に胴回しではなった──ノーヴェの側。
 のけぞり、固めた防御をかき乱され。隙だらけとなった無防備な背部を音速刃のもとに晒す。
 
「こん、のおおぉぉっ!!」
 
 光刃閃く、フック気味の拳が迫る。回避も、防御も間に合わない。
 とっさに、ノーヴェは回し蹴りに際してアブゾーブグリップでエアライナー上に固めていた軸足を、解いた。
 
「サイクロンキャリバーッ!!」
 
 エアライナーの、更なる展開。そして左足のホイールの急発進。ノーヴェの求めた要求に、足元を固める愛機は寸分違うことなく応える。
 強引に強引を重ねたオーバーヘッド気味の蹴りが、当たればほぼ必倒であったろう拳を受け止める。すべてを防ぎきるわけでもなく、相手よりの攻勢の衝撃はそのまま利用し、離脱の慣性としてノーヴェの身体を宙に躍らせる。
 投げ出された身体の描く放物線の到達点に、再び光の道。がくりと痺れる片膝をつきながらも、ノーヴェはその上へと着地に成功した。
 
「それ……っ。本気で、言ってんのかよ……?」
「無論だ。今のお前たちは我々にとって、敵に過ぎん。管理局へと下り、立ちふさがる以上はな」
「てめ……っ!? く……!!」
 
 膝より下の痺れは、ノーヴェの想像していたより遥かに長く、しぶとく骨身に残り彼女をその場へと拘束する。足が、重い。
 立とうという意思に反し、動かぬ膝を折る。鈍い痛みが、足を骨格の髄から駆け抜ける。
 
 けっしてそう長時間打ち合い、組み合ったというわけではない。にもかかわらず身体に残るこのダメージ。
 
 ──間違いない。ホンモノだ。心のどこかに抱いていた希望的観測が否定されるのを実感する。
 
 けっして姿かたちや声色といったものを借りただけの、偽者や紛い物ではない。
 ひょっとすると。まさか。否定された淡い期待は、姉が姉でなかったというその想像のとおりであったほうがありがたかったかもしれない。そう思えるほどに受けた痛みは事実を、ノーヴェへと雄弁に語る。
 目の前にいるのは十のうち八、九どころか十まで違うことなく、ナンバーズ三番目の姉・トーレ。彼女に相違ない。贋作である箇所など、微塵もない。
 
「その拳。技。敵を屠るために鍛えたものではないな」
「るせえっ!!」
「茶番の技だな。だが」
 
 姉は、悠然と。こちらに対し構えている。その余裕が癪に障った。
 両足が動かないなら、腕で。エアライナーを殴りつけ、反動で突進する。縦の円運動を描き──全体重を、踵落としに込める。
 
「お前が選んだ道なら、それもよかろう」
 
 上半身の動き一つで、トーレはそれをかわす。けれど、まだ。ノーヴェの攻勢は終わらない。こんな真正面からの大振りがクリーンヒットを奪えるなどとは、はじめから思ってはいない。あくまでもこれは、フェイント。
 
「キャリバー!!」
『of course(わかっています)』
 
 靴底のローラーが、唸りを上げる。空気を切り裂き、空に吹く風を滑る。得るのは僅かな──ほんの僅かな、微々たる浮揚力。だが、それで十分。それで、ノーヴェの意図は完遂できるから。
 得た揚力を後押しに、ノーヴェは捩る。愛機を履いた足だけでなく、身体全体を。捩ったが故にそのまま下に落ちゆき着するだけであったはずの縦運動は方向を変え、横薙ぎの水面蹴りへと様相を移す。
 
 急所より先に、足をつぶす。身動きさえ、取れなくなれば──……!!
 
「これでどうだっ!!」
「だが私は──いや、私たちは、容赦せんぞ」
「!?」
 
 だが、攻めるのに夢中になりすぎていた。目の前しか、見えていなかった。背後での金属同士の激突音はつまり、そんな隙だらけのノーヴェを狙う者があったということ。
 
 そして同じく、その刃から自分を守る者がいたということ。
 
「セカンドっ!?」
「……妹を背後から闇討ちしようなんて、姉としてあんまりなんじゃないですか?」
 
 ノーヴェの水面蹴りは、空振り。また、背後より振り下ろされた三条の鉤爪の軌跡は、割って入った鋼のリボルバーナックルによって受け止められ防がれている。ともに、決定打はない。
 一方は無言に、一方は舌打ちひとつ。二人の戦闘機人は背中合わせの赤と蒼の姉妹から、離れていく。
 
「……わりぃ、ガジェットの相手だけでも数が多くて厄介なのに」
「いーのいーの。妹のフォローはお姉ちゃんのお仕事」
 
 ガンナックルとリボルバーナックルを、打ち合わせる。小さくも小気味よい音が耳をついた。
 
なのはさんの準備が、もう少しかかる。まだやれるね、ノーヴェ」
「たりめーだ」
 
 短く応え、ノーヴェは足元を見る。外部装甲を損傷し、僅かに火花を散らすサイクロンキャリバー。
 けっして万全じゃない。ダメージは蓄積している。でもこいつも、自分も。まだ、走れる。
 
「行けるな、サイクロン」
『At least, I will be stronger than you. (少なくとも、あなたよりは頑丈なつもりです、ミス・ノーヴェ)』
「上等」
 
 相棒の皮肉屋な口調が、今は頼もしい。
 
*   *   *
 
 温存を念頭におく必要性がなくなった。それは戦いを構築していくにあたり、非常に大きな変化。
 
 とくに、なのはのような。大火力をおしみなくつぎこむことで真価を発揮する砲撃主体の戦闘スタイルの魔導師にとってはどこまでも、プラスに働く変化だ。
 ブラスターはもう既に、一旦解除している。あとは、一回。──できればヴォルテールへの対処に備え二回、それを無視できるのであればたったもう一度だけ使えれば、それでいい。
 
「ふぅむ……予想外ですねぇ……? これほどまでに余力を残していたとは。やはり、化け物ということですか」
「なんとでも……言っててくださいっ!! 自分の力不足を、そうやって他人に転嫁するなってっ!!」
「教導官として、ゆるせませんか?それはそれは」
 
 だが無論。けっして魔力が有り余っているというわけでもない。
 虚像の混じった判別困難なガジェットの群れを相手にし、撃墜していき。その先に待つ魔導師の浴びせかける魔力弾をかわしては前進する。
 
 さらにその上で、策をひとつひとつ、重ねていく。気取られぬよう、細心の注意を払いながら。
 そのために動きへと生じる微細な緩慢さを、消耗と疲労、負傷によるものと織り交ぜ、誤魔化してみせながら。
 
『Exceed edge』
「自分の力不足を……他人に化け物なんてレッテルを押し付けて、正当化する人には……っ!!」
 
 黄金の穂先が、ガジェットを切り裂く。同時に──設置。これで、十五。あと、二つ。
 戦闘機人と、魔導師と。二人を相手に、突進する。行きがけの駄賃に、立ちはだかる数機のガジェットをACSドライバー、あるいは鋭利な刃と化した黄金の槍それ自体で突破して。道中に、更にもうひとつ。
 
 ストレイトバスターの抜き撃ち。なのはの射程・弾速からすればほぼ必中の距離。
 しかし、その距離でありながらバスターは虚無の空間をまっすぐに貫き通り過ぎていくばかり。直前までそこにあった、二人分の敵影が雲散霧消し、姿をその場から小説させたのを受けて。それも、幻影。
 
 ──ラスト。
 
「馬鹿の一つ覚えは、よしなさいな。無駄なんですよぉ、むぅ、だ」
 
 何より厄介なのは、相手の戦闘機人が持つIS。シルバーカーテンによる幻影と、大元の戦闘機人自身の隠蔽。
 おかげでガジェットをはじめとする敵影は際限なく増加し、本人たちは姿をくらませられる。こちらからは、叩いてみないかぎりその判別は困難だ。
 現に、今も。ガジェット群を駆け抜け二人組の幻影へと辿り着いたなのはをあざ笑うがごとく、ひとつ。またひとつ。魔導師と戦闘機人とのペアはありもしない無数の姿を、戦域に顕現させている。
 
 安い挑発。こちらに無駄弾を撃たせて、ただでさえ蓄積している疲労に最後の一押しを加えて。そして仕留める気だ。
 
「それは、どうかな」
「……?」
 
 これへの──際限のない幻影による攪乱戦術への最も有効な対抗手段はひとつ。そのための準備はつい先ほど、完了した。
 
「魔力はたっぷり、ばらまかせてもらったよ。──術式もね」
 
 単純かつ、ごくわかりやすいやりかただ。
 倒すたびに、幻影が現れて。倒しても倒しても、本物と判別できぬ偽者であるならば。
 
 “すべてを同時に、真贋関係なく”撃ち落としてしまえばいい。
 
「チェーン、バインドっ!!」
 
 口元に浮かんだ血を拭い、汚れたその右手をなのはは振り下ろす。ばらまき、準備した術式を発動するために。
 
 彼女の命を受け、桜色の鎖が伸びる。敵に対してではなく相互に、伸びる鎖同士を捕まえ、交差し。多数の幻影が舞う空の戦域、そのすべてを覆いつくすように巨大な籠を形成する。
 いわば、相手は籠の鳥。幻影も本体も関係ない。戦闘機人と裏切りの魔導師は揃って、格子状に編まれたチェーンバインドの檻の内側へと捕獲された。
 
「これはっ!?」
 
 答える、義務はない。言葉より、今彼らに与えるべきは砲撃。
 
「……レイジングハート
『All right. Blaster three, limit release』
 
 かつて、JS事件の一連の動きの中でのナンバーズとの初遭遇戦。その際に時の機動六課部隊長・八神はやてがとった戦術と同じく。
 大火力砲撃で、一気に殲滅する。そして、あぶりだす。
 
 ブラスタービットが舞う。形成された牢獄の周囲に、散っていく。それぞれの場所で一斉に、戦域に浮かぶ残留魔力の収束をはじめる。
 
「そんな……っ!! こんなことをしたら、聖王の器まで……」
「生憎、魔力ダメージによる非殺傷設定です。それに全方位からで威力もある程度分散している……このくらいなら、聖王の鎧で致命傷になることはない……!!」
 
 言った戦闘機人──クアットロ自身が一番良くわかっているはずだ。狡猾さと高い知性とを併せ持ち、聖王をその手に抱えている彼女ならば。
 
 聖王の器は、無事。厄介な敵は二人揃って昏倒。問題はクリアされる。
 全力全開、必殺必倒。星さえも砕く、この輝きによって。
 
「スターライトオォッ!!」
 
 逃れられはしない。結界のエキスパートから教わり。学んだ鎖によって組み上げられた閉鎖の檻はなのはと彼との絆と同義。自分は、帰らねばならない。この技を教えてくれた人の下に。わが子とともに待つ、愛する人のもとへ。
 
 ──壊せはしない。逃れられるものか。聖王の器を、取り戻す。そして、一緒に帰るのだ。
 
「ブレイカアアアァァァッ!!」
 
 愛娘との絆を守った一撃を、なのはは撃ち放った。わが子と同じ存在としてこの世に生を受けた幼子、その少女を助け出すために。
 ヴィヴィオに対しても、そうしたように。想うがゆえに、そうせざるを得なかった。
 
(つづく)
 
 
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