と、地味にリリマジ委託情報ー。

 
ナンバーズ合同誌のほうを、少部数(20〜30部程度)ですが
 
配置スペース 『は09』
 
サークル名  『らく書き茶屋』
 
 
さんに委託させてもらうことになりましたー。チャティさんのとこですねー。
価格は即売会価格なんで600円ー。
明日には発送せにゃ(汗
 
>SSXがようやく手に入り、早速拝聴。ノーヴェがスバルと合流したところで思わず「あれ、サイクロンは?」と突っ込んでしまいました。ご気分を害されましたら申し訳ありません。
あー、はは……うん、ええと。サイクロンがらみってーとね。
今朝寝起きのベッドの上でぼへーっとこんな馬鹿設定
 テンペストキャリバー>
 サイクロンキャリバーとほぼ同時期に開発されていた、双子の『妹』。
 バイスの運用や魔力の扱いに不慣れな戦闘機人であるノーヴェとサイクロンのマッチングがうまくいかなかった場合に備え平行して開発が進んでいた。
 ……が、AIの成長がサイクロンに比べて遅れ、また存外にサイクロンとノーヴェが(型にはまれば)高い同調率、親和性(口はもちろん罵りあいだが)を示したためノーヴェにはサイクロンが支給されることになった。
 よって、装着型デバイスとしての機体は現在存在せず、開発者であるマリーのデスクコンピュータにAIのみを搭載している。ただしおかげで実戦投入の必要がなくなったためそれをいいことにマリー(とかシャーリーとかリインとか)の好き放題にカスタマイズが進んでおり、リイン用のプロトタイプボディを改造した肉体を借りて出歩くこともある。戦闘能力は殆どないものの、情緒面は(実戦投入見送りの経緯からすれば皮肉なことに)融合機並みの言語回路を保持している。
 ただし性格は超引っ込み事案であり、超泣き虫。外を出歩くときはマリーの肩に隠れるようにしてかリインに手を引かれて。ノーヴェとサイクロン両方大好きなので二人が喧嘩しだすとあわあわ。ナンバーズのみんなも大好き。
考えたりしてました。うん、痛い子だね俺
 
>此処にまた、引き継がれて行く古代ベルカの名が一つ。
正直、ゆのはとかナーノとかの比較的よく見る名前が個人的にあまりしっくりくるものではなかったので……なのはの子を想像する際に。んでヴィヴィオに妹が出来たらどういう名前がふさわしいだろうか、と考えてみたところ、こういう話になりました。
 
サウンドステージXにサイクロンキャリバーがいないのが大変残念でしたw
多分アストラとノーヴェやらカーテンコールやらで無茶やってダウン中。
 
 
さて、てなわけでここからはカーテンコール最新話。
前回分はこちら。間が開いたんでおいときます。
 
では、どぞー
↓↓↓↓
 
 
 

− − − −
 
 
 
 高く、高く。彼女が舞っている姿が、見えた。スバルには、見えていた。
 
 ディエチにも、ウェンディにも。ギンガにも。──もちろん、ティアナにも。
 自分の意思で、自分の力でなく。空高く舞い上がる、エースオブエースの様を。
 皆が、見た。遠く離れた彼女たちにすら、すべからく見て取ることができたのだ。
 
「……え……」
 
 浮かんだのは、疑問。なぜ、彼女が空にいる。本来であれば空戦魔導師たるエースオブエースに対し、それは持ちえぬ違和感であり、愚問であり。
 当然に彼女の様子を目撃するスバルにとって、やはりそれは当たり前に、知りえぬことではなかった。
 
 だが、違う。今の彼女は、違うのだ。
 彼女は飛んでいるのではない。ただ──……。
 
「なの……は……さ、ん……?」
 
 ただ、彼女は撃ち抜かれた。全身を。体中を、隙間もないほどに圧倒的な数と威力の、魔力弾の嵐によって。だから、そこにいる。彼女自身の意思と無関係に今は空にいる。
 
 スバルにとって、その破壊の暴風雨による傷痍に満身をとりまいたエースの姿へと重なるのは、既視感だった。
 
 ここまで、本来彼女が指揮すべきだった部隊から引き離された理由。離れざるを得なかった理由。それこそが、その既視感の正体。
 すなわち、彼女を見上げる己の失敗に起因した、直撃弾。そのかつての光景が、実像に重なる虚像を描く。
 自分をかばい傷ついた師の姿が、全身に魔力の光を雨あられと浴び虚空に舞い上がるその光景に等しく映る。虚像が実像と二重に瞳を埋め尽くし、時をスローモーションに感じさせる。

 ──特救がこのくらいで慌てて、どうするの。

 同時に蘇るのは、師の声だった。やはり同じとき、同じ場所で叱るような口調のもとに告げられた、短いあの言葉がスバルを我へと返し突き動かす。
 
「なのは、さ──……!!」
 
 自分の今の肩書きは、目の前で倒れる誰かを救うためのものだ。敬愛する人を、かつて教えを受けた師を助けられずして、特別救助隊だなどと、胸を張って言えるものか。
 
 届かない、距離じゃない。だったら、跳ぶ。手を伸ばす。それ以外の選択肢なんて、ありはしない。
 渾身の力で、身体を空へと運ぶ。
 
「駄目だっ!! 跳ぶなっ!!」
 
 師へと、右手を伸ばした。跳躍の最到達点において、力の限りに。
 あと、ほんの少しだった。ノーヴェの声が遠くで、聞こえていた。そう──警告していた。
 
「悪い子だね、『タイプゼロ・セカンド』。……試作品」
 
 しかし、そのあと僅かの差はけっして縮まることはなかった。
 跳躍が足りないなら、ウイングロードがある。使えばいい。なのに、それすらもできずに。
 
 最初の痛みは、一瞬だった。それが消えうせ、激烈なものとなって再び呼び戻されるには、幾許かのタイムラグがあった。
 
 師の肉体と、まるで同じに。伸ばした己の指先が、舞っていたから。
 右腕──リボルバーナックルを装着した己が片腕が、白い防護服ごと閃光によって貫かれ、五体より離れて、スバル自身とは異なる軌道を描き落ちていく。
 
 スバルの身体と、なのはの身体は重ならなかった。スバルは、届かなかった。
 
 喪われた右腕の、あった場所から流れ散る赤い液体が瞳に入り、闇雲に伸ばしたもう一方の腕がどこを求めているのかさえもを、スバルの視界からかき消していった。
 絶叫が、喉の奥から吐き出される。文字や単語では言い表せぬ、言葉にならないひたすらに叫び荒れ狂うばかりの悲鳴が。
 
 それは届かなかった自分に対する、失意ゆえか。はたまた──切断された右腕の、その激痛によるものであったのか。
 スバルはひとり、五体不満足に落ちていく。やはり変わらず、ウイングロードの展開すらも、できぬまま。
 自分と、なのはと、自分の腕とがそれぞれにゆりかごへ落ちた音を。スバルは、自分の声の向こうにただ聞いた。
 
 スバルの視界の、更にその外で。
 落着したエースオブエースの肉体へと光の鋭槍が、降り注いだ。
 
 
 魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
 第十八話 いつかは花も、枯れるように
 
 
 喉の奥から溢れたのは、『セカンド』でもない。乱暴に呼びかける『お前』や『てめえ』でもない。
 衝動的に。反射的に。
 
「──スバルッ!!」
 
 目の前のことを、忘れた。──忘れてしまった。
 忘れて、叫ばずにはいられなかった。
 
『Nove!!』
 
 戦いの中においてそれはすなわち、取り返しのつかない隙を晒すということ。
 しかもこの場合には、相手はノーヴェ自身よりも格上。一撃で必倒の威力を持ち。音速の機動を備える姉に対しては、当然に致命的なものとなる。
 
「しま……っ」
「余所見をしろなどと、誰が教えたかっ!!」
 
 寸前でのガードが、弾かれる。
 攻撃を通すための一撃でさえ、それほどなのだ。続けての必倒を期した打撃・斬撃はなおのこと強力。
 
「ぐ……っ!!」
 
 それでもどうにか防いだのは、ノーヴェの力によるものではない。一人であったなら、やられていた。
 唸りを上げるホイールを駆動させ、彼女の右足を跳ね上げたのは偏にそこに装着された愛機・サイクロンキャリバーの、とっさの判断によるものにすぎない。
 そして同時に緊急回避というものは、二度は続かない。
 
 頭でわかっているからこそ、攻めに転じる。転じなくては、やられる。押しつぶされる。
 攻撃を受けた右足──愛機を装備したその部位への、びりびりとした痺れを堪え、回し蹴りを繰り出さんと己が肉体に鞭を入れる。
 
「この……!!」
「『その装備で』まだやる気か?」
「っ!?」
「『その身体なら』、私やチンクだったら……ディードとともに一旦下がると思うがなっ!!」
 
 本来であったならば。普段は自分の意志に吸い付くように従う感覚が、重かった。
 足の鈍さが、わかる。そこに走る鈍痛も。痺れはいつしか、痛みへと変わっている。まるでそこだけが数倍の重力をかけられているかのように重く、思ったとおりの動きをさせ難くなった関節が軋み悲鳴を上げている。
 
 ノーヴェはそこに、火花を見た。愛機の散らす、破損の火花を。
 
 愛機に──危うげに点滅する、その中核たる宝石にまで微細に走る亀裂は、先ほどの一撃ゆえ。ノーヴェの対応しきれないそれを、強引に割り込み防ぎきったその代償。
 わかってももう、足は止まらない。重くなった感覚をひたすらに振りぬくべく、全力を傾けてしまっている。
 蹴り足同士の交差。その状態ではたしかにトーレの言うように──最初から、結果は見えている。やれる、わけがない。
 
「う、おおおおぉぉっ!!」
 
 結果から言えば、得意の足技は、まるで通用しなかったということだ。
 
「サイクロンっ!!」
 
 どうにか振り切っただけの右足が、対方向からのトーレの一撃によって押し戻される。中途半端にセーブされてしまった力は、拮抗すら望めない。
 衝撃はもちろん、それだけにとどまらない。ほぼ一方的に、そのダメージはノーヴェたちを襲う。
 運動エネルギーはノーヴェの身体を吹き飛ばし、その破壊力は彼女の足に装着された愛機の亀裂を広げ、無惨にも表面から砕いていく。
 音速で蹴り出された相手の一撃は、それをいとも簡単に成しえていた。
 
 装甲が、散る。六角形の宝石が、砕ける。寡黙な愛機が、破壊へとその機体の全てを苛まれていく。
 
「ノーヴェ姉さまっ!!」
 
 安定には程遠い、無規律な錐揉み運動を重ねノーヴェは飛ばされる。
 砕けた愛機とともに。助けに入るべく、吹き飛ばされる彼女を後ろから支え押し留めようとした、ディードを巻き込んで。
 
「ほう……波状攻撃でなく、ノーヴェの保護を優先するか、ディード」
「随分と下の子たちは甘ちゃんなのねぇ。あなたの指導、行き届いてなかったんじゃなぁい? トーレ」
 
 砲台の一部を巻き込んで、ゆりかごの手薄となった部分の外部装甲を砕き、二人と一機の身体は停止する。
 
「っ……!!」
 
 息が詰まったのは、二人同じであったろう。しかしそのダメージはノーヴェを受け止め衝撃を肩代わりした分、当然にディードのほうが甚大。
 
「馬鹿、ディード……あたしなんてほっといて……っ? おい? ディード?」
 
 どうにか身体を起こしたノーヴェは、自身をとりまく一人と一機からの応答がないことに思わずハッとする。
 
「ディード!! おい、しっかりしろ!! ……サイクロン? サイクロンッ!! そんな、お前まで……!?」
 
 口の中を切っただけか、はたまた内臓か。口角から一筋の血を流す、抱え起こした意識のない妹からも。
 火花と破損音、煙の三重奏を噴き上げる大破した愛機からも、一向に返事が返されることはなかった。
 
「ちょうどいい。このまま来るか、お前たちも」
「!!」
 
 代わりに。僅かな上空から姉の声が聞こえた。
 
 気を失ったディードを抱え、破損し沈黙したサイクロンキャリバーの残る両足を膝から折って。
 ノーヴェは姉二人の俯瞰してくる様を見上げた。
 この状況にあっては見上げること、それだけが手負いの二人を守らねばならぬ今の彼女に唯一、できることだった。
 
*   *   *
 
「ティアナ!! スバルたちが!!」
「わかってる!! でも数が……っ!?」
 
 無論、そのノーヴェたちや、スバルの様子をティアナたちもただ手をこまねいて見ていたわけではない。
 
 ウェンディのライドボードを足場に、撃つ。撃って、撃って。ガジェットを落とし続ける。
 そうやって少しずつではあってもたしかに距離は詰められていたのだ。ほんの、先ほどまで。
 
「編隊の形が変わった……? しかもこれ……!?」
「こいつら、避けないッスよ!?」
 
 相手が陣形を崩さず、一定の間隔を保った戦術を採っていたからこそ、そこに楔のように打ち込む形での突破は功を奏していた。
 しかし、それも様相が変わった。相手がまるで、陣形もなにもないかのようにただひたすらに、こちらへと追いすがり弾幕を浴びせ始めた。
 
 こちらからの反撃も、避けようとはしない。落とされれば次の機体が前へとでてくる。部隊の損害など二の次とばかりの、いわば特攻編隊がティアナたちを追い立てる。
 
「く……ウェンディ!! しっかり拾いなさいよ!!」
「ウッス!!」
 
 射撃だけでさばききれる数ではない。両脇に備え置いたスフィアから断続的に魔力弾を打ち出し迎撃を続けながら、ティアナはライドボードを蹴る。
 ダガーモードに、クロスミラージュを変形。落としきれない相手は、切り捨てていく。もちろんその間もウェンディはエリアルキャノンで前方の敵の排除を繰り返す。
 
 直撃の心配はない。ただつっこんでくるだけなら、二人で防ぎきれる。だが、これで前進の足はその場から踏み出せない。
 けっして後先のことを考えないのであれば──たった二人を足止めするのには、相手のガジェット群が見せるこの行動はこの上なくティアナたちに対し有効であった。
 短時間ならば確実に一機につきわずかずつ、彼女らの行動を阻害できるのだから。
 
「けど……なんでっ!? なんでこんな、ジリ貧になるのが見え見えのやり方を急に!?」
「長期戦を考えてない……? いや、考える必要がない……まさかっ!?」
 
 闇雲に思えるほどに、相手となるガジェットたちの動きは愚直だった。
 倒しても倒しても、一直線に簡易な思考回路しか持たぬそれらはティアナたちへの突進を繰り返す。
 
「ウェンディ!! シールド最大に!! こいつら……!!」
 
 一体、撃ち漏らした。その軌道、その動き。弾薬を満載した改造型でありながら至近弾に誘爆しない様子に、ティアナは気付く。
 
 短時間、こちらを抑えるという目的があるのなら。
 部隊の損耗に対して、考える必要がないのであるなら。
 
 あの弾倉の中身は、おそらく空。ならば特攻がもし成功した場合、体当たりよりなによりそれを有効なものとする手段は、ひとつしかない。
 
「こいつら、自爆する気よっ!! 自爆して、ゆりかごが飛ぶまでの時間を稼ごうとしてる!!」
 
 フローターフィールド……スバルのウイングロードには到底汎用性で及ばない、急ごしらえの足場に着地しながら、ティアナはウェンディへと警告の声を上げる。
 
 だが無規律な襲撃の連鎖に、気をつけてはいてもウェンディとの間には些かの距離が開いてしまっていた。
 飛行中は前方にしか射撃が不可能な彼女は、囲まれつつある。
 
「近づかれる前になるべく……っ!?」
 
 すれ違ったガジェットをダガーの刃が真一文字に切り裂く。しかし、手ごたえが奇妙だった。
 抵抗感が、ない。まるで駆動系を強引に横から断ち切った気がしない。
 
 真横に、ティアナは視線を振り返らせた。そこにある断面からは一片の火花も飛び散ってはおらず。
 
 ただ、機体中心のカメラアイのみが不敵なほどに明々とその輝きを光らせていて。
 
「クロスミラージュ!! 両サイドにラウンドシールド同時展開!!」
 
 この至近で『倒されることを狙っていた』のだと、ティアナは悟った。
 
「これじゃあ……なのはさんっ!! スバルぅっ!!」
 
 閃光が、左右からティアナを包み爆風に覆い尽くす。ほぼ同時に、ウェンディも四方からの爆発に晒される。
 もちろんこの程度で倒されなどしない。それほどにはティアナもウェンディも、防御は柔ではない。
 
 だが──二人の急ぐべき時間は、自爆する機体群によって、無為なる針を刻々と止めようもなく進め続ける。
 
*   *   *
 
 苦痛に、のたうちまわる。そのたったワンフレーズがもしも単なる比喩表現であったならば、どんなにこの状況は救いのあるものであったろう。
 
「あ……っ、あ、あ、か……あぁ……っ」
 
 流血と、機械骨格より滲みでるオイルとに汚れたゆりかごの装甲板を、とめどなく溢れる脂汗を滴らせる額が、身体を支えるその姿勢にあって舐めていく。
 白い鉢巻が汚れようと。バリアジャケットに染みが生まれようと。肩から先を失った右腕の付け根を押さえ、ただスバルは切れ切れの声と息とを、丸く硬直し倒れ伏したまま吐き出すばかり。
 
「く……あぁ、あ、あぁ……」
 
 まさしく、のたうちまわる。その一言がスバルの姿を言い表すには的確この上ない。
 師が、数瞬前までそうしていた同じゆりかごの上で。スバルもまた自分の身体より溢れ出す命の脈流により、己とゆりかごを汚していく。
 
 辛うじて、額とともに身体を支えていた膝が力を失いがくりと折れる。額ではなく、今度は頬が艦の外部装甲の無機質な冷たさを感じ取る。
 
「なの……は、さ……ん……っ」
 
 その温度も、消えうせてしまうほど。傷口が、熱かった。
 だが、身体の表層はバリアジャケットを着用しているにもかかわらず、戦闘機人の肉体の持つ体温調節機能すらなくなってしまったがごとく、寒い。
 震えが、止まらない。一転に集中する熱と、全身から湧き上がる怖気とに。
 
 なのはさんを、助けないといけないのに。この手を、伸ばさないといけないのに。
 
「う……うぁ……あ……?」
 
 そして血と、オイルとに黒ずんでくすんだ視界が、影の黒に染まる。上から、誰かが見下ろしている。
 
 スバルは、発狂しそうな激痛の中、気付いた。ゆっくりと、顔を持ち上げた。
 
「聖王の……器……っ、どう、して……っ」
「ほんとうに、悪い子。たかだか魔導師一匹に懐いて、創造主の軍勢に拳を向けるなんて。あまつさえ、許しも与えていないのに疑問など」
 
 自分よりも遥かに小柄な、幼い少女がそこには立っている。
 師が守り。師が救い。──師を撃ち抜いたその張本人たる、聖王の器。
 
「ぐ、あああぁぁっ!!」
 
 何故、撃った。何故、助けようとした彼女を。疑問に対し与えられたのは答えではなく、稲妻のごとく全身を駆け巡る、地獄の責め苦に等しい激痛だった。
 
 聖王自身が撃ち放った閃光に切り落とされた右腕、その傷口へと、少女の右足が振り抜かれ、吸い込まれる。
 爪先が、肉を。剥き出しになった肉体の内側を抉り、突き刺していく生々しい感触にスバルは目を見開き、掠れ声の限りに叫びを上げ転げまわる。
 
「悪い子にはおしおきが必要でしょう。ちょうど今のあなたのように、タイプゼロ・セカンド」
「あ……あ……」
「聖王を倒し。ゆりかごを落とした大罪人なのだから、あの魔導師は。……たとえその相手がクローン、所詮は紛い物であったとしても」
 
 身体はその苦痛に、痙攣を繰り返す。指先が、ゆりかごの輪郭を這う。
 開いたままの口からは、吸えぬ唾液が滴り落ちるばかり。
 
 思考はもう、痛みのみに塗りつぶされる。涙と血で、視界もままならない。
 
 耳だけは唯一、理解の追いつかぬ中にあって少女の吐く言葉を聴いていた。己が肌に触れるゆりかごが一瞬、ひときわ大きく脈打つ駆動音を嗅ぎ取った。
 
「やはり、正解だった。戦闘機人はあくまで駒。他で替えが利く。あなたとゼロ・ファーストのみで実験を終了させたこの王の判断に間違いはない」
「ギン……姉、と……あた、しが……なん、だ、って……?」
「発言は、許していないと言った」
「……っっ!!」
 
 再び、爪先が肩へとねじ込まれた。わずかな時とともに若干落ち着きかけた息が、思考が、拡散させられる。
 
「まだ、わからないのですか。タイプゼロ・セカンド」
 
 風が、吹き上がった。大地から、空に向かって。
 浮揚感とともに、スバルはその風を感じた。
 
 その風が現実なのか、麻痺しだした感覚による錯覚なのか。スバルにはわからない。
 なぜ自分がそのような『浮く感覚』を得ているのか、思考が理解も納得もしてくれない。
 
「あなたとタイプゼロ・ファースト。あの研究所であなたたち二人を生み出したのは他でもない、我々ということです」
 
 あてもなくゆりかごをなぞっているばかりだった指先が、何かに当たった。
 殆ど本能ばかりが、苦痛の涙にぼやけた視線をそちらへと向けた。
 
 黄金の長槍を、自分の左手が握っている──いや、指先にひっかけているのが、漫然と瞳の中に映り込んだ。
 エースオブエースの愛機は本来の持ち主の手を離れ、その身体より流れ出た血潮にまみれ、無造作にそこに転がっていた。
 まるで打ち捨てられた、玩具のように。
 
 ……レイジングハート。よく知っているはずのその名を思い出すのに、スバルはひどく長い時間を必要としたように思えた。
 
「……あ」
 
 その先にも、なにかが見えた。同時に、スバルはおぼろげに、自分の意識が身体を離れつつあることをおぼろげに自覚する。
 
 血を。オイルを。人としても、戦闘機人としても、体内にあるべきものを多く、失いすぎた。
 
高町なのは──エースオブエース。その魔力は、回収した上で有効に使わせてもらいます」
 
 ゆりかごでのスバルの最後の記憶は、その光景だった。
 
 男が、二人の戦闘機人とともに並び立ち。背後の声の主と等しく、自分を見下ろしている。
 その手には、微動だにせぬ白く、また不規則に赤い『何か』が頭部を掴まれ、引き摺られるような形で崩れ倒れていて。
 
 光がきらめき始めたそこにある『何か』が一体誰であり。その『誰か』が自分にとって誰であるのかを、スバルは認識しきることはできなかった。
 
 意識が、途切れてしまったから。
 
 
<つづく>
 
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