辞書下巻の。

あとは書き下ろしと巻末付録やっつければ挿絵表紙待ちでおます。
 
てなわけで今日はカーテンコール24話ー。
web拍手レスのあとにはじめまーす。
 
>もう少しユーノは男臭いイメージだったんですが・・・。
え、あー、うーん。えーと。書いてる人間と読んでる人間が違う以上どうしたってキャラ認識の齟齬というものはでてくるとおもうのですよ? たぶん。
 
>双子が可愛らしすぎて悶絶。数の子のファンになりました。
おお、そう言ってもらえると嬉しいですー。あの二人、かなり好きな上にネタでのいじり甲斐があるので書いててすごく楽しいですし。
 
>初めまして。全話読書させていただきました〜。すっごい泣けました。ぬご!?拍手内の小説もいい話じゃないですか〜。
おお、はじめましてー。拍手もね、きちんと更新しないととは思っているんですが(汗
 
  
  
  

 
てわけで24話スタート。
↓↓↓↓
 
 

 
− − − −
 
 
 自分を、もう一度信じること。果たしてそれは今の自分に、どれほどできるだろうか。
 
 わからない。わからないけれど──できるかどうかでなく。こんな自分を信じてくれた人がいる。今もなお、信じてくれる人たちがいる。ゆえに、やらねば。信じなければならないのだ、きっと。
 
「……って、ことなんですよね。……なのはさん
 今は遥か彼方遠き場所の師へと向けて、ひとりごちる。
「やる、んだ」
 
 目を閉じれば未だ、師を襲った惨劇がそこに蘇ろうとも。
 自分の手が届かなかった結果が、再生されようとも。
 スバルは自身に求める。
 
 目を背けぬこと、諦めぬこと。自身を頼ること。そして再び、立ち向かうこと。三度目の正直を、起こすこと。
 
「……やるんだ」

 自分の見た、師の最後の姿が去来する。それはつまりかの敵の強大さもそのたびに繰り返し、スバルの意識の中にリピート放映されるということでもあり。
 
「やらなくちゃ、いけない」
 
 聖王──ヴィヴィオと同じその血統を、更に正統な形によって受け継ぐ少女。
 起こしていた身を倒し、ベッドから自身の掌を見上げる。
 それは、震えていた。小刻みに、とめどなく。包帯に包まれて、微細に痙攣をしている。
 
「こんな……情けないまんまじゃ、終われないもん、ね」
 
 なのはさんや、ユーノ先生や。ギン姉やノーヴェや、ティアやみんなに、恥ずかしくないように。
 思わず生まれる笑みは、自嘲。肩を竦めて震えるその掌で、スバルは自分の蒼い前髪をかきあげる。
 
 萎縮はすなわち、恐れによるもの。
 聖王の、脅威を。
 自身の、無力を。
 三度目がまたも失敗に終わる可能性を。
 深層意識と肉体とが恐れ、自分自身にも止めようもなく、この身体は震えている。
 
 ああ、ほんとうに。
 自分は────なんて、弱く小さいのだろう。
 
 信じる、そうすることが必要だというのにその実感はあまりに真逆ではあるけれど。
 これが、自分。スバル・ナカジマの身の丈なのだ。
 
「──はい」
 
 枕元に置いていた通信機に呼ばれ、スバルはその小型端末を手にとる。
 普段その役目を兼ねている愛機・マッハキャリバーは主に気を遣っているのだろう、赤毛の妹のもとで彼女と行動を共にしてくれている。
 そう、妹──ノーヴェにも、色々と申し訳のない状況だ。ゆりかごでの二度目の戦闘前から、碌に稽古や組み手の相手もやってやれていない。
 
『ああ、ごめん。スバル、起こしたかな』
「ディエチ。いや、起きてたけど」
 
 そもそも、まだ夕方近い程度の頃合いだ。普通に考えれば寝ているような時間帯じゃない。いくら怪我人だからって体力そのものはもはやほぼすっかり回復し有り余っている以上、そうそう眠くなったりしない。
 
 ……かわりに、どん底まで落ち込んだりはしたけれども。
 
『そっちに、ノーヴェ行ってない?』
 栗毛の姉妹の口が吐き出したのはつい先ほど脳裏に思い描いていた勝気な性格の妹の名だった。
 だが、ここにはいない。きてもいない。ゆえにスバルは空間モニターのむこうに、首を横に振る。
『そう……』
「どうしたの? なにかあった?」
 怪訝に思い、今度はこちらから問い返す。
 
『ちょっと、ね。あたしたちが悪いんだと思うんだけど……飛び出していっちゃって』
「ノーヴェが?」
 
 そりゃあ、確かに感情を内々で処理するのが苦手な子ではあるけれど、と。思った瞬間、モニターにノイズが混じる。
 
「あれ? ディエチ?」
 
 混じったかというその次には映像は砂嵐となり。音声も繋がらない。完全に、切れている。
 通信機の故障かとも思った。だけれど、なんの異常もない。
 ならばなんらかの理由による通信障害か。いや、それもない。
 大体通信状態の劣悪な前線などならともかく、小規模とはいえここは観測基地内部だ。通信が繋がらなくなるような状況など、そう滅多に起こるはずもないし、起これば一目でそれとわかる変化が基地全体に生じているはず。
 
 ──変化?
 
「……?」
 
 なんとなく腑に落ちなくて、なんとなく嫌な感覚が胸に漂っている。同時に、奇妙な息苦しさも。
 そして。
 
『Master, please respond.』
その目を次に通信機へと向けさせたのは、愛機よりの電子音声。
 
「マッハキャリバー?」
『It is an emergency. respond please, my master.』
 
 常に一本の通信が要救助者の生死を分ける特別救助隊、その習慣ゆえに開きっぱなしにしていた──そう通常回線とは別にできるよう、届けてくれた技師が調整してくれていた専用周波数にその声を乗せて。
 
 音速の剣が、彼女を呼んでいた。助けを、求めていた。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第二十四話 守るために、できること
 
 
 みんな、みんな。スバルを心配していた。それはわかる、理解できる。
 ディエチも。ウェンディも。相変わらずまだ車椅子のセインに、それを押してやっているディードにしたってそうだ。
 
 姉妹の、一員として。彼女のことを心から案じている。
 
「……っ!!」
『I so thank to your mind, Nove. But,(あなたの気持ちは嬉しく思います、ノーヴェ。しかし)』
 
 でも。──でも。
 
『They worry about my master in their own way, too. I think so. Moreover, anxiously.(彼女らは彼女らで、マスターのことを心配してくれているのです。だから少なくとも、私は気にしていません)』
 
 そう。姉の愛機──マッハキャリバーの言うこともわかる。もっともだと思うけれど。
 だけれども。
 
「そんなこと……わかってる……っ」
 
 それでも、ノーヴェは飛び出してきた。姉妹たちの集まっていた、その場を。
 
「けど!! アイツはまだ、終わってないじゃんかっ!!」
 
 心配、するばかりだったから。
 皆が皆、スバルの再起については触れようとしなかった。
 それが無性に歯痒くて、歯痒くて。自分に色んなことを教えてくれた、自分よりもまだ、ずっと強い『姉』を信じていたくて。
 
 ──なんでもっとみんな、アイツを待ってやらないんだよ。
 
 そう言って、逃げるように駆け出してきた。
 
「アイツがこのままで終わるなんてこと!! あるはず、ないだろっ!?」
 
 今はそして、立ち止まっている。
 勢いのまま、行く当てもなく人ひとりから比較すれば広大な観測基地の中を駆け抜けて、その人気の少ない外れまでやってきて。
 
「なのにみんな、アイツがもう駄目みたいに……!!」
 彼女の苛立ちを。溢れた感情を、耳にするのはその姉自身の愛機、マッハキャリバーのみ。
 あとは遠くに司令部の建物と、前方に敷地の終わりを示す金網が見えるばかりだ。
 うす曇りに変わりつつある空は、時刻ももう午後をとっくにまわっていて。聖王らの出した回答期限まで、着実に時計の針は進んでいる。
 
 それまでには、スバルは。姉は、きっと復活する。
 そう、ノーヴェは信じていた。だから皆にも、そう願っていて欲しかった。
 
『……thanks.』
「……なんでお前が、礼なんか言うんだよ」
『If it was her, it is likely to have done so. Therefore.(マスターであれば、そうしたでしょうから。だからです)』
「なんだよそれ……よく、わかんねえ」
 
 金網の方角から、少し視線を移して。
 おそらくは基地局員たちの普段の憩いの場となっているのだろう、太く大きな木をノーヴェはさほど離れていないところに見つける。
 
 まだ、不満のような感情は燻っている。
 でも、少しくらい腰を下ろして一息ついてみるのも悪くない、と思えた。
 だから、歩き出そうとした。
 
『……?』
「どうした、マッハキャリバー」
『The communication around the base has deteriorated.And, The density of the AMF is rising little by little, too.(基地周辺の通信状態が悪化しています。それに、少しずつですがAMF濃度も上昇中)』
「AMF? ここ、局の施設内だぞ。ガジェットだってそう中途半端な数じゃあ──……」
 
 それを留め、その場にノーヴェを置かせることになったマッハキャリバーの言葉は、奇妙なものだった。
 通信の悪化? AMF? どこか調整ミスで故障でもしているのではないか、とさえ思う。
 しかし、そうではなく。
 
「ほう、ノーヴェか」
「──え?」
 
 音速の剣が行った報告は、けっして誤りなどではなかった。
 
「クアットロにジャミングを任せていたが……よく、こちら側から潜入すると読んだな。No.13の指導の成果か」
 
 新たな別の声が鼓膜に届いたのは、金網の向こう側から。
 
「トーレ、姉。なんで、ここに……」
 
 黄金の瞳は、自分の持つそれにもよく似ている。
 そしてその脇には、小柄な体躯がある。左右、異なる色の双眸を微笑ませ、こちらに視線を注いでいる。
 
「決まっているだろう。聖王陛下の意志──作戦の一環だ」
「作……戦……?」
「そうだ。本来タイプゼロシリーズの二体は、陛下の軍勢のもとで生み出されたものだからな」
 
 語るのはあくまで、紺の戦闘服に身を包んだ姉のみ。
 その横でただ悠然と構えるばかりの少女は……いや、聖王は、一言も発しない。
 
 姉の発した、その言葉。それらはけっして聞き捨ててはおけない。
 
「それに、聖王が二人というのもなかなかに厄介でな」
 
 タイプゼロ。聖王。それらの単語が意味するところの人物が誰を指すのかが明確に頭に思い描けないほど、ノーヴェは愚かでも薄情でもなかった。
 姉、二人の姿が。自分を王と呼ばれることを嫌う幼子の笑顔が、脳裏を掠めていく。
 
「ギン姉や、スバルや……陛下に、何をする気だ……!! トーレ姉……っ!!」
 
 それは、ある種執着とか。しがらみといった感情とも呼べるもの。
 己の愛する者たちへの確かな思慕の念ゆえに、自然彼女の語気も荒くなる。
 
「決まっていよう」
 しかし、対照的に。
 かつて師事した、頭に思い描いた者たちと等しく今なお敬愛する姉の態度も、言葉も。
 淡々と、冷淡に吐き出されるばかりであり。
 
「タイプゼロシリーズの、奪取。ならびに造られた聖王の抹消。我々はそのためにここにきた」
 
 だからこそ、ノーヴェは目を見開いた。
 自分が、大切な者たちへと迫る危機に今、直面しているということに。
 
*   *   *
 
 二匹の竜が、眠っていた。ひとたびその首を、身体をもたげれば暴虐の化身となるであろう、白と黒の大小がそれぞれに、だ。
 それを男は、直接見ているのではない。モニター越しにこのゆりかごから観察しつつ、手元のコンソールパネルを操作し続けている。
 
「やってるわね。順調?」
「ああ、No.2。ドゥーエ」
 
 手持ち無沙汰の戦闘機人は、作業中の男の背中に声をかけた。
 
 妹たちは生憎と、聖王の供として出払っている。局の出方が判明するまでも、数時間ある。調整と装備のメンテナンスをやってしまえば、特にこれといってやることもなかった。
 
「そうですね。もともと聖王の居城、その庭において飼われ、戦場へと駆り出されていた畜生連中ですから。カイゼル・ファルベ──聖王の力のもとに屈するのは道理でしょう」
 
 現に今も、聖王によって打ち込まれた操作魔法によって二匹の竜は制御されている。あとはせいぜい、簡単な薬物投与程度。
 畜生連中──男の口調に若干ドゥーエは、自分が眉を顰めていたことにその行動ののち気付く。
 
「どうかしましたか? 戦闘機人」
「……いーえ」
 
 このマイアという男を、そもそも当初より彼女は信用しきってはいなかった。尤も、彼女が姉妹たち以外の誰かを信用するなどということのほうが、珍しくはあるのだけれど。
 人を常に欺き続け、利用し続けてきた彼女だ。それなりに人物に対する観察眼というものは持っているつもりだ。その上で──言う。
 
 この男は、歪んでいる。
 
 たとえば、『化け物』。『畜生』。そして今自分を呼んだ、『戦闘機人』。彼の言い放つそれらに含まれるのはことごとくほぼ、嘲りとか、侮蔑とかいった感情でしかない。
 自分より強大なもの。自分では太刀打ちできないものをそうやって記号化し、己を正当なものとするやり方が歪んでいないわけがない。
 なにか過去に、大きな挫折でもあったのだろうか、ここまでの徹底ぶりから推察するに。件のエースオブエースに昔、自信でも砕かれたか。いや、もっと根が深いようにも感じられる。
 おそらくは彼のその思考は己が妹──聖王・ノアについても同様だろう。慇懃な臣下としての態度は決して崩さず、それでいてほぼ間違いなく。
 
 ある意味では、自分と同じ人種だ。他の人間を、利用対象として見ている、敬意がそこに存在しないという点においては。
 
「『妹たち』の様子を見てくるわ」
 
 まあ、いい。彼もまたその、利用対象の一人でしかないのだから。
 ガジェットや傀儡兵に続く、次の戦力。クアットロが最終調整途中で一旦留守にしたそれを口実に、ドゥーエは踵を返す。
 
 目的が同じようで異なっているということは、利用し、されあう。つまりは、そういうことだ。
 
*   *   *
 
 そう。聞き捨ててはおけない、ことばかりだった。
 
「陛下や……アイツらを……!?」
「そうだ。ここにいるということは、お前は我々を止めるのではないのか?」
 とんとん、と。向き合う姉は爪先で地面を叩く。
 さも、これ以上の問答が必要か? とでも訊ねるがごとく。
 
「……!!」
『It is rash, Nove. You who doesn't have Cyclone Calibur together do not have arms. You should withdraw once, and impart information to everyone.(無謀です、ノーヴェ。サイクロンのいないあなた一人では、武装がない。ここは退いて皆に状況を伝えるべきです)』
 
 と。背後の。遠くにある観測基地隊舎より、爆音がノーヴェの鼓膜を強く、激しくこの距離にあって揺らしていく。
 とっさに振り返れば、いつの間にであろう空に飛来する敵機の姿が無数に存在し。実弾、エネルギーを問わず小規模ゆえ対応能力に乏しい基地へと爆撃を敢行するのが確認できる。
 
「ガジェット……!!」
「なに、時間稼ぎと囮にすぎん。いくらなんでも、あの程度で制圧できるほどお前たちは甘くはあるまい」
 
 だが、確かに対応のための戦力・労力はそこに割かれることになる。ギンガや、ディエチや。姉妹たち。ティアナたちだってそうだろう。
 
『Nove』
 
 自分の名を呼ぶ胸元の蒼い宝石の電子音声は、戒めるような口調だった。
 ノーヴェにだってわかっている。愛機と武装を欠いた自分ひとりで、この姉と聖王二人に勝ち目などないであろうことを。
 音速の剣が提示する選択肢が正解、なによりそうして合流するのが、最もリスクの少ないやりかただと、頭ではわかっている。
 
 けれど、ここで退けば彼女らはより近付く。歩を進めてゆく。
 危機の二文字となって、ギンガと、スバルと。そしてもうひとりの聖王たる、ヴィヴィオへと。
 
「……新しいジャケットの構築データは既にもらってる。知ってる」
『Nove?』
 
 だから。その選択肢は絶対に、NOだ。
 
「少しでも、時間を稼ぐ。だからフォロー、頼むな」
 
 戦闘機人としてのエネルギーが、一瞬。続いて、人としての魔力が全身に漲り発光する。
 着ていた制服が、砕け散っていくのを認識する。
 
 戦わなくては、ならないから。守らなくてはいけないから。
 
 今は自分が、姉たちを。
 
『……all right.』
 
 代わりに袖を通すのは、濃紺色の戦装束。姉妹たちと同じデザインで作られ、同じように渡されて。近接格闘を得意とするノーヴェのための性能調整が施された身体にぴったりと吸い付く防護服だ。
 本来は暴風の剣とともに身を包むはずのそれにただ一人、ノーヴェは己が身体を預ける。
「……ふむ」
 
 蒼きデバイスを、胸元に揺らしたまま。
 換装の終了した徒手空拳のその四肢を、彼女は身構える。
 
 倒すことや、勝利することはできなくとも。
 ただただ、自分にとって大切な人々を、危機から守るために立ち向かう。
 自分以外に、今そうできる者がいないからこそ。
 
 
(つづく)
 
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