てわけでもう少し付き合ってね。

 
 とっととカーテンコール書け? ・・・うん、ごめんorz
 
>クアットロの悪役っぷりがいっそ清清しいwしかしまーた何か企んでやがるなこのメガネ…。RH&スバルも気になるけど…病室抜け出したフェイトそんも気になります。今まで動きがなかったので、今回は大人しくしてるかと思ってたのに!
働いてもらいますよん。もちろん他の面々にも。
 
>最近のパワプロスタッフにはとりあえず試合を見るか、最低でも詳細なデータに目を通して欲しい今日この頃。だって守備固めのはずの辻で守備固められねぇよw あといい加減に虎贔屓はほどほどにして、とも思います。さて、今年の新外国人は2m越えなのにロー、邪魔ーの、やたら名前の長いファルケン、カプセル怪獣アギーラ、とネタ外人ばかりかと思われてましたが、ペドラザ以来の頼れる外人ファルケンの予想外の活躍に満足です。さらにオーティズの加入は松田の離脱というマイナス以上にプラス要素をもたらしてくれたと思います。交流戦は絶好調、でも野手陣はいつ誰が怪我してもおかしくない。投手陣は和田の離脱で大場かジャマーノ、巽、高橋あたりが昇格することが予想されます。或いは神内の起用かもしれません。先発は、藤岡や大隣はまだまだ安定感がない。救援では登板過多で疲労が溜まっている摂津とファルケンが心配。こう考えると薄氷の上で戦っている気もしますが、チームとしての雰囲気が良さそうだし、松田復帰のニュースもそろそろ聞こえるはず。なんとしても交流戦で貯金をつくりCS出場、あわよくば交流戦の連覇とリーグ制覇を祈っている次第です。 さて、カーテンコールは野球で例えるなら天王山。最終決戦ですか。ユニゾンヴォルケンズは本編で見れなかった心残りの一つ。またアニメでは複数対複数の戦闘場面が少なく、一騎打ちか戦隊モノのように複数対一のバトルばかりだったので集団戦は二次創作でしか見れない楽しみだと思ってます。上からの物言いになってしまいましが、640氏はキャラが多かったせいで埋没しかけていた三期キャラの個性を蘇らせて、それぞれを生き生きと動かすことに長けていると思っておりますので、今後の話も楽しみにしています。
まあ、納期の問題とかもあるから仕方ないといえば仕方ないんでしょうけどねー。実際、現実だって選手はシーズンで使ってみないことにはわからないわけですし。っていってたらジャマーノ一軍合流だYO!! そして小説も伽羅は動かしてみないと使いやすいか使いにくいかわからないそんな世界。
 
 
  
 
はい、それでは『sea and dust』、五回目です。前回分はこちら
↓↓↓↓
 
 
 
− − − −
 
 
 
 
『sea and dust』5/ 赤
 
  
 自分は、思い出してほしかったのだろうか。それとも、思い出してほしくなかったのだろうか。幼い日、三人であった自分たちのことを。優しい大樹のように育ってほしいと両親から願い名づけられた、弟の名前を。
 ──だめだ。考えがまとまらないや。
 こみあげてくるのは、何故だかへらへらとした笑いばかり。ぼんやりとした意識はそれでいて、思考を向ける対象に関してはクリアすぎるほどにクリアだ。外界と、自分の意識とが乖離している感覚がはっきりと自覚できる。自覚は出来るけれど、掴み取るにはその存在感はあまりにも希薄。きっと自分は、彼に優樹のことを思い出してほしくなんてなかったのだと思う。ただ、覚えていてほしかった。忘れていてほしくなかった。多分、そういう違いなのだ。
 へたりこむようにして座った足元には、銀色の切片がいくつも散らばる。どれもとっくに開封済み、中身はすべて胃の中。ちょっと量を間違えたかな、多すぎたかな、とも思う。でも平気。このくらいなら、なんてことはない。
 先輩や、若葉や。みんなはもうそろそろ花火をすべて使い果たしてお開きになった頃だろう。自分はその輪にはけっして入っていけない。
 夜の海が、嫌いだから。得手不得手というよりも、嫌悪に近いものさえ、こういう朦朧とした意識のうちにあっては躊躇なくあると言い切れる。
 手首のリストバンドが、眼に入った。うざったい。間髪入れることなく、乱暴にひっぱり取り払う。白が引き剥がされたあとに露出するのは、やはり白。今度はひっぱるというわけにはいかない。剥がして、巻きとって。その辺に放り投げる。
「忘れてたなら、忘れたままでいてほしかった、かな」
 蒼い海の記憶に、自分は少し期待していたのかもしれない。三人で見たあの光景は、三人で見た最後の光景でもあったのだから。三人の思い出が海ならば、三人であることを奪っていったのもやはり、海。……だから、海は嫌いだ。
 ああ、嫌だな。夜の海なんて見たくもない。考えたくもないのに。
 色を変えようと、思った。黒とか、群青とかはもうたくさん。もっと、鮮やかで。自分が『生きている』ことを明確に伝えてくれる色がいい。
 自分の中に、三人が二人となってもなお弟と同じものが流れ続けている、彼が確かに存在したという証になり得る色が、見たい。
 がらがらと、一階のほうから玄関の引き戸を押し開く音が耳に入ってきた。きっと、従兄だろう。ひとりだろうか?最近なんだか、先輩と比較的よくいるように感じられるが。あるいはひょっとすると若葉あたりが一緒にきているかもしれない。
 なんにせよ、今の自分には関係ない。木の床板を踏みしめ階段を上がってくる音も、予測の範疇を超えることなく襖ひとつ隔てた隣の部屋に落ち着いた。もはや、気に留めることでもない。
 黒はいらない。暗い色はいらない。今、自分に必要なのは。
 生命そのものである、温度を帯びた熱さの象徴としての色。鮮やかな──赤。
 大丈夫。私は覚えている。この赤と同じ色をした同じものが身体の中を脈打っていたもう一人の存在が、隣にいたことを。人も、記憶も、忘却も、海も。そのことを包み隠せはしても、完全に消し去ることなんてできやしないのだ。ごみくずのような、人間というちっぽけなものであっても。それでもやっぱり、ごみくずそのものとは根本的に違う。
 自分の覚えている彼は、消え去ったりはしない。自分がこの赤を持ち、生き続けている限りは。これはそのための、生の証明。自分は、実感していなくてはいけないのだ。彼のために、常に。
 ──だから、赤のラインを私は引く。生きていることを実感すること。世界との繋がりを明確化すること。そうすることが、同時に大切な人たちをこの世界と繋げることでもあるのだから。
 一心不乱に、ラインを引く。ほんの数歩分の足音が、襖越しのこちらに近づいてくることなんて、気にならなかった。
 刃が、少しだけいつもよりも深く食い込んだ。いつもより気持ちどす黒い、濃い赤が滲み溢れ出す。
 空気の流れが、部屋の外に吹き抜けた。
 今、押し開かれた。開いた、襖から。青年の左右の目が、蹲るこちらに注がれていた。
 
 *
 
 あずさは、と帰って訊ねると、部屋にいるという風に叔母は動作で伝えてきた。どこかにひとりで行ってしまうというようなことは別れ際に口を酸っぱくして言ったおかげか、今回についてはなかったようだ。自室に使わせてもらっている客間へと上がり、襖を押し開く。部屋の明かりをつければ、がさごそとなにやらやっている気配が確かに隣の部屋からする。
 若干、部屋の中には人が立ち歩いたような形跡があった。おそらくは廊下をぐるりと廻っていくのを億劫がったあずさが、こちらの部屋から襖を開けて、一直線で自室へと戻るのに通ったのだろう。普段の入り口としている襖はそれぞれ、南と北に向いているけれど。部屋を区切り隔てるものは間の、襖一枚しかない。つっきったほうが早いといえば早い。
 敷きっぱなしの布団。叔母はべつにかまわないようだが、隣部屋のあずさからはこの光景を目にするたび、せめて寝ないときは畳んでおくくらいのことはしたらどうなのと口やかましく言われる。その上に携帯と財布とを投げ出す。ひとくちに布団とはいってもまがりなりにも旅館のものだからふかふかした、それなりに質のいいものだから、弾力性に放った長財布と黒い二つ折りの電話は柔らかくバウンドした。
 自分自身も布団の上に放り出そうと踏みこんだ足が、何かを蹴った。
 かさり、と軽い感触。
 目を下に移すと見えるのは、蛍光灯の明かりを反射する銀色の小さな破片のようなもの。拾い上げたそれは、中身の入った錠剤のシートが二錠ぶんに連なったものだった。銀色のシートに書かれたアルファベットはカタカナ読みでロキソニン──一人暮らしをはじめた当初に環境の変化から体調を崩し風邪を引いた際、守も医者から処方されたことがある鎮痛剤・解熱剤の一種だ。とうの昔に使い切ったし、薬の類を常時携帯しているわけでもない守は持ってきた覚えもない。
 ならば、あずさがここを突っ切っていった際に落としてでもいったのだろう。容易に、想像力は結論へと結びつく。女性の身体には生理だとか、男には一生知りえない苦しみがいろいろあるというのはよくきくことだし、常備薬の処方や携帯くらいはしていてもおかしいことはない。実家にいた頃はその辺にある風邪薬を適当に飲んでいた意識も、一人暮らしを始めてから薬名や用途など細々した部分まで見るようになったあたり、人というのは変わるものだ。
「あずさ、入るぞー」
 落し物だぞ、と襖に手をかけ引く。薬を持参しなければならないくらい気分がよくなかったのなら、はじめから言ってくれればいいのに。そうすれば無理に誘うこともしなかった。海水浴の際の気の乗らない様子と、花火を蹴って途中で帰ってしまった理由を見つけてか、守の気分はいくぶん和らいだものになる。自分の言葉や行動がまずかったわけではけっしてないということがわかり、一安心という気持ちがあった。
「これ、こっちの部屋に落ちてて──……」
 開いた襖の向こうの、赤と銀色を見るまでは。
 ハッとしたように振り返る少女が、いる。へたりこんだ、崩れた正座で畳の上に敷かれたカーペットに座り、周囲に守の持つものと同質の銀色を散らせて。
 その彼女は、赤を刻んでいた。幾筋もの、真っ赤なラインを伸ばしていた。
 手にした銀色は、散らばるものとはまた違う。きらきらとした装飾的な、光の反射は持たず、ただその用途を寡黙に果たす道具としての、鈍い鋼色の銀を蛍光灯に照らしている。
 刃を数センチ出した、カッターナイフ。それもまた、切っ先が赤に染まっている。
「あず……さ……?」
 少女が刻んだラインは、雫を滴らせている。赤く。ひたすらに、そう紅く。守の前からそれを隠そうと一瞬身をよじった少女は、カッターを取り落とす。転がったその切っ先が、薄茶色のカーペットに紅い染みを二つ三つ、こぼしていった。
 落ちた銀のシートたちも、それぞれに書かれている文字は違った。種々雑多、様々なものが混じり合っている。
 そのことごとくが、あるべき中身を失った空のものばかりだった。
「あずさ、お前────」
「なんでもない」
 消えた先など、この状況では明確すぎる。従妹の少女は守へと背を向けたまますぐ手近にあったティッシュペーパーの箱に右手を伸ばし、乱暴に掴み上げる。二枚、三枚、四枚。十枚ほどをごっそりと持っていかれ、箱もまた空になった。
 その、ありったけのティッシュペーパーで少女は自分の手首を押さえつける。染まっていく赤を、白で覆い隠す。白──そう、彼女の手首を常に包み覆っていたリストバンドも、やはり純白だった。日常においてその役目を果たしていた布地は今、解かれた長い包帯とともに打ち捨てられている。
 守は、傍に転がっていた銀色の包みをいくつか手に取る。アモバンベゲタミングッドミンソラナックスロヒプノール。いずれも、風邪薬やそれらに類型されるものとは思えない漢字ばかりの用途が、簡単に裏面にはそういったけっして普通に生活している上では耳慣れない名前の数々とともに記載されている。更には処方の際ともに渡されたのであろう、それぞれの説明の明記された一枚のペラ紙がくしゃくしゃになりながらも広がりカーペット上に開いている。裏返しのそれをひっくり返し、先頭から読み進める。
 抗鬱、睡眠の二文字がそれぞれに躍り、守は再び口を開く。ピルケースも、底を天井に向けて転がっていた。
「なんでもないわけ」
「なんでもないのっ!」
 ふるふると、首を左右に大きく揺さぶりながら、あずさは床に崩れた正座のまま突っ伏した。なんでもない。ほんとうに、なんでもない。繰り返すのは弱々しく震える声の、その言葉ばかり。
「なんでもっ……ない、からぁっ……!」
 涙声とこちらに向けた背中が、共に守を拒絶していた。同情とか、心配とか。そういったものを一切に拒み、少女は言葉を発声する。
 その単語はなくとも、出て行ってくれと態度が告げていた。
「今、叔母さんに……」
「やめてったらっ!」
 あずさの声が、守のそれを上書きする。ベッド上には、消毒液や新しい包帯やら、薬の紙袋が散らばっている。
 それ以上のことは、守には言えなかった。一歩、二歩。歩み寄る足音のたびにびくりと、あずさの肩が震えた。念のためにカッターナイフだけは手に拾い上げ、刃をしまい没収。離れ際に肩のひとつも叩いていこうかとも思ったけれど──そっとしておこうと、その選択ははずした。
「わかった。外に、いるよ」
「……」
「襖のすぐ、外にいる。だから話したくなったら──開けなくていいから、聞かせてほしい」
 それを意外だ、と感じたのかもしれない。自らの手首を押さえた少女の涙声が刹那、途切れる。
「なにかあったら。体調がおかしくなったりしたら、すぐ言うんだぞ」
 だが、同じく身を起こすというほどまではいかないようであり。突っ伏したままの従妹を残し、守は後ろ手に襖を引く。
 ぴったりと襖の枠同士をあわせて二つの部屋に境界を構築し終えると、どっと力が抜けた。
 心臓が思い出したように、早く大きく、鐘の音を叩いていく。
 妙なところで、妙な経験が生きてくるものだと、心の底から思った。
 友人が、ひとりいた。その関係が生まれたのは大学に入って以降のことだから、知り合ってからはまだほんの数ヶ月程度にしかならないけれど、なんとなくという理由だけで仲良くしていて馬のあう奴だった。
 そいつと親しくするようになって何度目かの、学食での食後のことだ。
恋人──なんて気取った言い方ではなく、ただ簡潔に彼女、としか言わなかったが──が自殺したんだ、と。さもなんでもないことのようにさらりと、笑顔すら浮かべて、そいつは言った。
 地元にいた頃からの、幼馴染みであった恋人。その彼女が、自分が進学のため故郷を離れてほんの一ヶ月もしないうちに麻酔薬の錠剤カプセルを大量に飲んで帰らぬ人となった。彼女の家は病院ゆえに、そういったものの入手経路には困らなかったという。
「『それからだ』、つってたっけ」
 自分も、これに頼らなきゃいけなくなったのは。言ったその同級生は、銀色のピルケースを取り出して、食事のあとで空の皿の載っているトレイ上にそれを開いて見せた。種類が豊富に混じりあった銀色の包みは、あずさの足元へと散らばっていたものと寸分変わらなかった。これは何、これはどういう薬、これはどのくらい強いか。そんなことをざっくばらんに、知り合って数ヶ月の友人は守にひとつひとつ伝えていった。
 なぜ、そのようなことをしたのかはわからない。大学でのはじめての友人に、知っておいてほしかったのかもしれない。
 ただ、言えるのはそれを守に見せた数週間後に、そいつもまた喪ったという恋人のあとを追うようにして、自らの命を断ったという事実が残されているということだ。
 あるいはそいつは、大学で唯一見つけた馬の合う、頼ることの出来そうな相手──つまり守に第一発見者となってほしかったのだろうか。残念ながら冷たくなった彼を見つけたのは守ではなく、彼の住んでいたアパートの管理人であったけれど。同じ授業を受けていたにもかかわらず姿を見せなくなった彼のことが若干気になっていた守は、学科内で小耳に挟むように彼の最期の噂を耳にし、そう思うことがないでもなかった。学校に照会してみると、少なくとも彼が既に鬼籍に入った人間であることは間違いのないことであった。
 自分は依存されたのだろうか?わからない。たった数ヶ月程度前に知り合った知人に、そこまでのものを要求できるものなのだろうか、人は。正直なところを言えば、その想像をしてみた自分は戸惑った。また、友人とはいってもさして濃密な関係性もなかった相手の死に対しては、残酷で非人道的な感想かもしれないが、さしたる悲しみもなにもなかった。
 ただだからこそ、そういう経験があったからこそ免疫に似たものが生まれ、あずさに対しても落ち着いていることができたのかもしれない。きっと今頃襖の向こうでは、多少なりと自分の見せた態度に従妹は驚いているだろうと守は思う。
「……そういえば、あいつも海のこと話してた……か」
 高校の卒業記念に恋人と二人で行った海外の海が、あまりに真っ青でびっくりした、だとか。それが最後の思い出になってしまったと、自嘲気味に笑っていたっけ。アフリカだったか、ヨーロッパだったか、うろ覚えの言葉は明確にそれを思い出させてはくれなかったけれど。
 ……ここでも、蒼い海。なんなのだろう、この妙な符合は。後頭部を襖の紙に預け、守は思索に耽る。
 その際の記憶が、心の奥底にあった蒼い海の光景に知らず知らず重なっていたのだろうか。それが無意識に自分をこの島へと向かわせ、そしてあずさの行為に立ち合わせることとなったのであればうすら寒い感覚さえ感じられる。人の巡り会わせというのは──実に、複雑怪奇なものだ。
「……マモル、くん……? まだそこ……いる……?」
「ん。いるよ」
 五分ほどは、たっぷり思考に費やすことが出来ていたはずだ。軽い重みが反対側からのしかかり、襖の木枠が軋む。直後に、か細い声が続き守は応答を返す。
「お話……いい? このままでできたら、だけど……」
「どうぞ」
 襖の板を挟み、背中合わせ。彼女の声が和紙を張った板を媒介に伝導し、臓腑の内側へ聞えてくる。
「驚いて……ないよね。あんまり」
「いや、そうでもない。わりと、その。面食らった」
 偽ったり、気休めを言っても仕方がない。会話の出だしは、守が受け手に回る。
「いつ頃から、かな。こんな風になっちゃったの。夏になると……こうなんだ」
「なんで、また」
「……優樹のこと」
 今、一体どこでなにをしているのか。守はその人物の名前に対しては、幼少時のおぼろげな、危ういほど脆い記憶しか残ってはいないし、知らない。背中の先にいる少女と同じく、血の繋がりを持つ従兄弟同士であるはずなのに。
「お母さんとお父さんが、離婚したんだ。十二年前」
 あずさは、言う。原因を一応に求めるのならば、父であったと。ただし、その原因を受け入れてしまったのは父も母も、同じであったと。
「お父さんが勤めてた病院で、どんどんえらくなって、忙しくなっちゃって」
 多忙であったがために、単身赴任から帰ることの出来ない日々がひたすらに続く。双方がそれを維持しながら「家族」であり続けるということに耐え切れなくなった。故の、離婚。
 あずさは、母に。弟の優樹は父に引き取られ、それぞれに別れて暮らすようになった。
「……それで、か」
 十二年前──守もまだ、小学生であった時分だ。その頃から島への訪問が不規則になったこと。あの、父の不機嫌そうな電話。理由はそこにあったということか。だれも身内の離婚なぞ、いい顔をするわけがない。心情的にも、世間体を憚るという点においても。
「お父さんもお母さんも、嫌いあってたわけじゃない。けど、だからこそそうする選択肢を選んだんだと思う」
 ただ、いくら互いが互いにとっての大事な存在であるままであったとしても。そうやすやすと会うわけにはいかなくなった。小さな島。古きよき──だがそれでいてある種偏狭な凝り固まった価値観は、そこには残りやすい。その重んじられる価値の風潮が、一家の再会を長きに渡って邪魔をし続ける。本土と、島にそれぞれに二人ずつ、別れて。
「それじゃあ、それから会ってないのか。優樹とは」
「……」
 あずさは、沈黙した。訊いて、まずかったのか。守のほうも重苦しい心境でただ、再び彼女が口を開くのを待つのは、いささかに苦しく息が詰まりそうにすら感じられた。
「……一度」
 襖の向こうに蘇った声は、震えを増し、搾り出すような必死さで発声されていた。
 一度、だけ。そう言うことそれ自体が、彼女にとってはひどく重いことであるかのようで。
「中学の……夏に。二人で、この島にきてくれた」
 お母さんはときどき、島の外に会いに行っていたみたいだけれど。私が会ったのはそれっきり。その前にも、あとにも。
 そのときに、伝えられた。お父さんが再婚するつもりだということを。
 別に、悲しいとかそういうことがあったわけじゃない。変わらず愛してくれているのはわかったし、優樹もそれを受け入れているようだったし。二人がそれで幸せになれるならそれで、いいと思ったんだ。
 ──そう、好転した事態を伝えているにもかかわらず、あずさの声は低い調子を保ち続けている。なるほど、とか。ならよかったな、とか。迂闊に言えるような雰囲気を、彼女はしていない。
「優樹から言われたのも、そのときだよ。またマモルくんと三人であんな蒼い海、見にいけたらいいね、って」
「そう……か。優樹が」
「それが私の聞いた、優樹の最後の言葉」
「え?」
 俯いていた頭を、再び背もたれにしている襖に預けたのだろう。背後が、向こう側からの振動に揺れる。
「三日後、未明──らしいよ。優樹とお父さんが、夜の海から見つかったのは」
「なっ」
 微妙に、早口にまくしたてられる言葉が鼓膜を通り過ぎていった。きっと声にする彼女自身、そこで立ち止まりたくなかった。じっとその記憶へとスポットライトを当て続けていたくはなかったのだろう。
「お父さんの再婚する予定だった、女の人と一緒に。車の中にいたのを港の人が見つけたんだって」
 いた、と今彼女は言った。けれどそのときにはもう、三人は人間ではなく、ただのモノとしてしかそこにはなかったはずだ。
「私、新聞で読むまではそのこと知らなかった。優樹が真っ暗な海の中に行ってしまったなんてこと、お母さんはなにも言ってくれなかった」
「あずさ」
 鼻をすする音が、聞えた。背中を持ち上げて塞がれた向こう側を振り返る。弱々しい声に、涙が帰ってきている。
「私……なんにも知らなかったんだよ? お墓も、あっちの親戚が全部済ませたあとで、お葬式にももちろん行けなくて……家族、なのに……」
「あずさ。もういい」
「この島に、優樹やお父さんのものは何も残ってない。私が覚えてることが、あるくらいで」
「もういいから」
 襖を、左右に開け放った。手首に、雑に巻かれた包帯。膝を抱えて、少女は顔を自分の体に埋めていた。
「お母さんに何度も言ったよ、私。優樹たちのお墓参りに行こう、こっちにも分骨してもらおう、って。だけどいつだってお母さん、あきらめなさいとごめんねばっかりで……っ」
 頭を、くしゃくしゃと撫でる。シャンプーの匂いが、柔らかい髪の間から漂った。Tシャツの上から背中をさすってやると、嗚咽が漏れ聞えてくる。弱々しかったものは、声を上げた大きなものとなって。肩の震えも、痙攣じみたものではなくなっていった。
「だから、この島を離れたくなかったんだ?」
 顔を見せぬまま、あずさは首だけをぶんぶんと上下させ頷いた。自分がいるから、弟たちがこの島にいた証が残る。弟と一緒に海の蒼さを胸に刻んだ、自分がいるから。彼が存在したことを島に保ち証明し続けることが出来る。そのために、あずさはこの島を離れることを拒み続ける。
「とき、どき……。わからなく、なりそうで……私ひとりで、ほんとうにあの子が生きてたこと、証明、できてるのか……っ」
 それ以上の言葉は、かけられなかった。守はただひたすら背中を労わってやりながら、聞き手に徹する。
 島に一軒だけの心療内科に、密かに通い続けていたこと。夏が来るたびに弟の残り香を思い出し、同じものを求めカッターナイフへと手が伸びるようになっていったこと。ゆっくりと、従妹は語る。
「いいって。な」
 弟が、いた証。この島に存在した証明。生まれ育ったここには墓すらない彼を保ち続けるべく、少女はあがいていた。自分を傷つけるようになったのも、きっとそのためなのだろう。血の赤、それは同じものを弟も、体内に脈動させていたはずのものだから。自分が赤い血を流して、生きている。それは即ち、弟もそうして生きていたことの証になるのだから。頭を、背中を交互にさすってやる。少しずつ──ほんの少しずつ、嗚咽に乱れていた従妹の吐息が穏やかさを取り戻していく。
「私も……もう一度、見たかったよ。マモルくん」
 優樹と、三人で一緒に。あの日の、蒼い海をまた、みんなで。
 呟くような従妹の声が、耳を打った。直後に、人の気配が背中のほうに感じられた。
 叔母があずさと、彼女を労わる守のほうを無言に見つめていた。手には洗濯物を満載にした洗濯籠。立ち上がりかけた守を目線で制し、会釈気味に小さく頭を下げ、足音もなく彼女は階段を下りていった。
 寂しげな背中だった。普段なら感じていたであろう煮え切らなさへの苛立ちや反発も、今このときばかりはそこには向かわなかった。ただ落ち込んでいる娘を甥の青年が慰めているように見えたのかもしれないけれど、事情を知らないとはいえ親として無責任で、随分ドライな人物だったんだなと彼女に対し無感動に感じただけだ。
 守は後ろから、そっとあずさを抱きしめた。びくりと一瞬、従妹の身体は強張り、背中を張り詰めさせて。落ち着くまで、一緒にこうしているからと、告げる。
 ありがとう、と。
 あずさが短く言ったのは、その緊張が抜けていった、それからのことだった。
 
(つづく)
 
− − − −