自信喪失気味なのもありまして。

 ラノベよりも一般文芸向きとは前々からよく言われるんだけれども。
 そっちを目指したほうがいいのかなぁ、と悩み中で新人賞の要綱などを色々と物色中。
 そんな中でではありますがカーテンコール更新でございます。
 
 続きを読むからどうぞ。
 
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 両断したガジェットの先に、視界が開けた。
 その先にも、いる。そして、ある。
 斬り捨てても、斬り捨てても。絶えることなく飛び交い襲いくるガジェットの軍勢に向き合うことになる、その戦域という視界が。
「数が……!!」
 数が、多すぎる。それが心に浮かぶ率直な思い。
 無論かつてドクターの下に生まれたディードは知っている。
 ガジェットの量産の容易さを。その生産性の高さを。だからこそ先のJS事件においてかの機体群は大規模な生産設備に乏しい、ジェイル・スカリエッティひとりの束ねる軍勢の尖兵たりえたのだ。
 管理局の魔導師たちと渡り合うことができたのはAMFだけが理由ではない。容易く揃えることの出来た数もまた、その要素のひとつ。
 しかし、だからといって。
「二年前の……!! 私たちの比じゃない……っ!!」
 どれほどの資金と、生産力とを有しているというのだ。いくら相手が元来、聖王教会のスポンサー筆頭である財団であるとはいえ。
 この数──おそらく二年前、全戦域に散ったガジェットの総数にすら肉薄する。たったひとつの戦場ですら、これほど投入できるなんて。
 つい先ほど、戦端が開かれたばかりだとは思えないほどだ。
 それでも。
姉たちを乗せた輸送機を守り、ディードは駆ける。その、夥しい数の敵機に、落とさせぬよう。
「守りきるッスよ!! まずは……ノーヴェの降下ポイントまで!!」
「はいっ!!」
 同じく護衛に回る姉、ウェンディとともに。
「守ります……っ!!」
 彼女の操るライドボードの先端から放たれた光弾に、続く。
 二刀が描く剣の舞のもと、かつては自らも使役していた意思なき機械たちを、屠り去っていく。
 道を、切り開かんと。
 そうすることが、姉たちを止めることだから。
 そしてまた、姉たちを守るということでもあったから。
 
  
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第三十一話 Standoff in the Skies −ノーヴェ出撃−
 
 
 二つの月の力を、受けること。それがゆりかごにとっての──それを操る者にとっての、絶対的な勝利条件のひとつ。
「だからこそ二年前、ゆりかごを目指していた。その軌道上に上がるコースを──……」
 そのことはあの事件に向き合った者ならば、戦線に立った者であれば周知の事実。だからこそ、ヴェロッサも十二分にそれを承知している。
 ならばこそ。なぜ今、ゆりかごは今彼や姉のいるこの場、聖王教会本院へと向かっている。その理由もまた、彼は知っている。
 それを解き明かしたのはなぜならば、彼自身のその能力であったから。彼の力によって内通者たちの頭脳から白昼のものとなった情報と、無限書庫の蔵書の数々による裏づけとが、それを詳らかにしたのだ。
 だから、わかる。予言能力を持つ姉よりも、他の誰よりも、早く。
 少なくともゆりかごを止めんとする立場にあってはおそらく、最も。
「兵器としての運用効率という点では、その『月の力を受ける』ことが必要であるという部分、それ自体がまさにゆりかごにとってのネック。つけいられる隙、最大の弱点でもあったんだ」
 そのための軌道をとり、領土領空を離れねばならない。
 ゆりかごが本来の性能を発揮するための、それは必須条件なのだから。
 しかしたとえ、ゆりかごそれ自体が比類なきほどの強力な兵器であったにせよ、決戦の切り札として──万が一にも使わざるを得ないほどの相手と戦火を交える場合が生じたならば、あまりにも使い勝手が悪すぎる。
 王が乗るべき船としてはあまりに。
 手にしていたはずの領地を離れたがためにすべてを、土地を、民を失い最終的にゆりかごのみが残され最終手段としての眠りにつく以外の道を失った王など、まさしくただの飾り。成り下がる先は王の血を残すための道具でしかない。
「無論彼らも──古代ベルカの王家の者たちや、ゆりかごを生み出した者たちも、そのことに気付いていなかったわけじゃない」
 あれほど巨大にして精密な、戦のための船を造り上げたのだ。欠点も特徴も無論、熟知していたことだろう。
 だから、用意していたのだ。
 基本的には、領土拡大・勢力拡張のための兵器と割り切り、事実それを証明するように、運用されていた記録ばかりが今なお残っていたにせよ。
「ゆりかごが、防衛兵器に。つまり、『自分たちの勢力下にある場所において運用される、せざるを得ない』ケースへの備えを」
 つまりその範囲は現在でいうところの、ベルカ領。更に明確な形でその名を残す場──すなわち聖王教会、その本拠たる広大な自治領が構えられる地。
 ヴェロッサが、カリムが。シャッハが審判の時を待つ、ヴォルテールとゆりかごの襲撃にはやてやシグナム、ヴィータたちが防備を固める、まさに今この地に他ならない。
「月の力を、得る必要があるのなら」
 ならば、という発想にそれは違いなかった。
「それが出来る位置まで、わざわざ行く必要はない。……発想の逆転だよ、まったく」
 力のほうを、引き寄せてやればいい。ゆりかごの、ある場所に。
 だから、造られた。だから、今なお眠っている。
この地に育ったヴェロッサも知らず。騎士であるカリムでさえも知らされていなかった聖王教会のごく一部、最高位の極限ともいうべき最上層部のみが知っていた、それは。
聖王信仰、その祭祀の本殿と呼ぶにふさわしい場所──ベルカ聖王教会、その大聖堂の地下に。
「いわゆる、サテライト送信システム。……二つの月から発せられる力を、ゆりかごに。聖王に送るための」
 そこに、存在する。そのための、中継システムが。
 
*   *   *
 
「まあ、存在自体は二年前にも掴んではいたのだけれど? とりあえず、こっちにもこっちの都合というものがある……あったわけだしぃ?」
 利用するプランも、あった。だが結局は採用されることはなかった。
 そのことを、クアットロは思い出し反芻していく。
「『それ用』の用意もいろいろやらなくちゃ、だったら。直接月まで行ったほうが手っ取り早いですものねぇ」
 聞くのは、背後で腕を組む二番目の姉、彼女自身最も敬愛するその女性ひとり。
 実際に『その設備』の存在を確定情報として彼女たちのもとへ伝え、未だ稼動可能な状態にあると二年前伝えたのは他でもない、No.2の名を持つその姉であった。
「中継されたエネルギーの到達可能範囲と、その中枢回路の問題、ね。たしかにドクターなら魔導師に頼るその選択肢は、選ばなかったでしょうけど」
「──というか選べなかった、といったところですね。なにぶん私たちの側に目ぼしい魔導師の戦力は殆ど皆無でしたから」
 せいぜいが、かつてのストライカー級ではあっても一度死した身のゼスト・グランガイツ。幼く肉体的には未成熟なルーテシア・アルピーノといったものであり。
 その、通常でない身。あるいは幼い肉体が適合するとは限らなかった。
 何に? 無論──中継設備からの力を受信する、その回路に、だ。
「その点、今回は? 例のエースさんがばっちりその役目を果たしてくれるでしょうから?」
「回路のコア……ゆりかごに組み込んだ優秀な魔導師の肉体・神経や魔力の制御能力そのものを制御系として利用する、今じゃとてもご法度のシステム。なかなか面白いとは思うのだけれど」
「ですねぇ。下手な魔導師ではその負荷に耐え切れない……回路に組み込んだだけで苦痛に擦り切れる。なんでまたそんな厄介かつ扱いの面倒な仕様にしたのか。ま、ちょっとそっちのケースも見てみたくはあるんですが。神経系がやられての発狂か、はたまた血でも吹き出して内側から破裂でもするのか。もおっとすごいのかも」
 わざわざ孤立させ。まわりくどい手段を使ってまでただの撃墜ではなく捕獲を狙ったのは、これが目的としてあったからこそ。
 だがそれだけの労力に見合ってはいる。それだけの労力がむしろ、必要だった。
 聖王の頭上。玉座の間が壁面に縫い付けられたエースオブエースの肉体を中枢に今まさにゆりかごは、比類なき力を得ようとしているのだから。
 エースと呼ばれる彼女の能力の高さはつまり、ゆりかごへとよりクリアに力を与えるための部品としての精度に直結する。
 S+ランクに数えられるその資質は、ゆりかごの歯車となるに実に、申し分ない。その上あの憎き悪魔がそれにより耐え難い苦痛をその心身に受けるというのであればまさに一石二鳥ではないか。
「ま、せいぜい長持ちしてもらいましょ。ゆりかごのパーツさんには」
「そうね」
 そろそろ、行くわ。
 クアットロの言葉への相槌のあと、ドゥーエはそう言って、踵を返していった。
 とうに戦は、はじまっているのだから。
 
*   *   *
 
 たとえ、常人よりもはるかに魔力による負荷の許容量が多い身体であったとしても。
 はたして一体、衛星という巨大すぎる物体からのエネルギーを一点に集められ、その肉体に凝縮されて。どれほど持つというのだろう、人間は──その存在や、精神は。ただでさえ機械の一部となり彼女の肉体は、磨耗を強いられ続けているというのに。
「幸い、いくらゆりかごとはいえそう簡単に聖王教会には近付けない。大聖堂を中心とした自治領の周囲には古代ベルカの時代に建造された守備結界がある以上、ゆりかごと同じくオーバーテクノロジーの部類のそれを、やすやすとは破れはしないはず」
 起動は、既になされた。阻む動きは、教会内部のシスター・シャッハたちによって聖王の手の者たちを未然に防いでいる。
 聖王を敬う民たちのため、造られたこの地に害なそうとする存在を、最新鋭の航行艦の防壁すら優に凌ぐそれが許すはずもない。
 また、許せば──終わる。
 この、戦いが。
 聖王を名乗り平穏に名を優先させようとする者たちの勝利に。
 ゆりかごは不倒の力を得、エースオブエースは完全にその命脈を絶たれるのだ。
「推定時間で、およそ一時間。いくら同系統の技術を使われているとはいっても、外部からの干渉なら、そのくらいの時間稼ぎはできる。解析・解除されるまで、そのくらいは持つ」
 つまり、その一時間が勝負。
 エースオブエースと、世界と。二つの命運の光陰をそれぞれ分ける。
「一時間──……」
 輸送機の揺れは、激しい。
 ディードとウェンディの護衛に、操縦するパイロット二人の技能が十二分に信用できるものであるといえども、大量のガジェット飛び交う戦域を真正面から突っ切っていくのだ。
 至近弾に。流れ弾に。言葉を紡ぐギンガや、聞きそう呟いたスバルたちを乗せたコンテナは否応なしに揺す振られていく。
「たった、一時間……」
 エリオも、キャロも。緊張気味の声を漏らす。
 前回のJS事件でも、たしかに似たような状況ではあった。だけれどただ彼女ら、彼らは戦うことだけを考えていればよかった。
 頼るべき、エースたちが他にいたからこそ。自分たちの向かう敵のことただそれだけに専念できた。
 しかし、今度は違う。
 宙舟を止める星の輝きも、狂科学者に鉄槌を下す雷光の眩しさも。今はなく、すべてがかけられているのはこの場にいる各々の双肩なのだ。
「──やろう」
 至近弾がひときわ近くをかすめていったか、それまでになく大きくコンテナが傾いだとき、スバルは言った。
 両の肩にかかる重みを、熟知しながら。
「あと、一時間。その間に、ゆりかごを止める。聖王の、あの子も止める。なのはさんも、助ける。全部、やろう」
 同じように、事を認識する眼前の面々へと。外で護衛に回る妹二人や──、艦に残ったディエチたちにさえも届くよう、はっきりと。
「やろう、じゃないでしょ。…・・・ったく。やるのよ。やんなくちゃいけないの、あたしたちは。そうでしょ?」
 薄暗いコンテエナの中、こつんと拳骨で彼女の頭を叩いたパートナー……かつての、そして変わることない射撃手は、否定するように、スバルの言葉を肯定する。
 その、星の輝きを受け継ぐ二人と。
「フリードとヴォルテールも取り戻す……だよね? キャロ」
 雷光に導かれ成長した二人。
「うん……わたしたちが」
 かつての奇跡の部隊、そこに名を連ねた四人は重みにけっして押しつぶされることなく。
 誰からともなく、互いが互いを、周囲を高めあい鼓舞する。
 そうすることによって、乗り越えてきたものがあるから。ひとつひとつの星は小さくとも、集まれば、どのような形でも力となりあえることができるならば、雷光のごとき輝きを放つことができる。それを知っているから。
 
*   *   *
 
「大丈夫だよ、ギン姉」
 だからノーヴェは、それを羨ましく思う。同時にまた、頼もしくも思う。
 第一降下ポイント到達──すなわち、自分の出番を告げるアルトの声を、聞きながら。
「ビビッてなんて、ないもんな」
 発する言葉は、独言ではなく。
 装備したガンナックルの具合を確かめながらの、自分の抱える緊張の中でなお、その『四人』の中のたった一人に向けられた明確なもの。
 返事は、訊かない。問うのは愛機に対する準備完了の有無、それだけ。
「いくぞ、サイクロンキャリバー」
『Ok,Nove』
 ずっと向けていた背中の反対側にいるのは、自分よりもずっとずっと強い存在なんだから。同じ顔でも、同じ声でも。同じ戦闘スタイルでも──きっと全然、まだかなわない。
 両目を閉じて、皆との会話を遮断して。ようやくであったけれど、ノーヴェにだって覚悟はできたのだから。
 かつて破られたスリーマンセル。強大な、姉という名の敵。管制もなにもなく、三人のチームワーク、その指揮をするのが自分であるという現実。
 彼女の感じているものにくらべたら遥かにちっぽけなものかもしれない。けれど少なくともそれは、言葉としては同じ『重圧』。
 自分にだって、向き合えた。だから、彼女ならなおさらだ。
 徐々に開き始めた後部ハッチへと、踵を返す。
 コンテナに、光が差し込んでくる。それが逆光となって、姉と。彼女の仲間達と。長姉の姿を照らし出す。
 踏み出す歩みは、確固として刻まれる。
「ノーヴェ」
 一歩。二歩。三歩。四歩。
 ──七歩目で、蒼い髪の彼女の横に、並んだ。そこで一旦、立ち止まった。
「信じてる。──『スバル』」
「あ……」
 直接、彼女に対して呼ぶのははじめての、その名前だった。
 けれどセカンドとか、ゼロセカンドとか。照れ隠しに言っては文句を返されていたそんな呼称より、もっとずっとしっくりくる。そう思えるたった三文字。
 スバル。呼ばれた自身の名に、蒼の陸戦魔導師は目を見開き、息を呑んでいる。
「ティアナ。借りてた、こいつのパートナーの座。返しとく」
 そして、はじめての呼び名はもうひとつ。
「あたしなんか、いなくても大丈夫だって。そう思うから信じてるし、返すんだ。……裏切んなよ、『姉貴』」
 戸籍上はそうであり、心の中ではそう認めていたとしてもけっして呼ばなかった、家族内の年長者としての立場。それを呼ぶ。
「行ってくる」
 ちらと目線を向けると、ギンガが頷いた。ハッチはもう、十分すぎるくらいにその口を開けてノーヴェが躍り出るのを待っている。
『降下予測ポイント上に敵戦闘機人を確認! No.3です!』
 上等。
「ノーヴェっ」
 大きく、息を吸った。もう一歩、前へ出た。
 隣にあった姿は既に後ろ。そちらから、声が聞こえた。
「……任せて」
 これもまた、上等。
ああ、任せるとも。囚われのエースを助けるのも、ゆりかごを止めるのも。
 だから、自分は。自分は──自分の任された、自分のすべきことをやる。
「サイクロン!!」
Air liner』
 姉を──抑えきる。抑えきってみせる。そのためにもまだ、魔力は温存する。
「いくぞ……ウェンディ!! ディード!!」
 天空を走る道の輝きに、ノーヴェはそうやって身を委ねた。
 戦の場となった空に、彼女は躍った。
 
(つづく)
 
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