新作の予告です。
とっととカーテンコールかけ? はいすいません、640です(反省しない男)
一次創作も出し終わりまして、カーテンコールもこれから終盤にむけてしっかりやっていかなきゃなわけですけども、七月上旬くらいを目途にはじめたいと思っている新作の予告をばあげてみたりしたりなんかしちゃったりして。
今回のテーマは──・・・『クロス』でございます。
……はいそこ、だったらクロススレに行けとか言わない。
というわけでそんな予告編、続きを読むからどうぞー。
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次元世界は、ただ点在しているだけじゃなくて。
平行な形にも存在していることを、知った。
スバルは。ノーヴェは。
「……なんだ? 女のガキが、オートマトンを──?」
姉妹たち、だけでなく。それは姉妹を出迎えたその世界の──彼らにとっても同じこと。
深碧の狙撃手が出会った紅の疾駆者と。
ともに蒼き、剣士と少女の邂逅と。
少女らの姉妹たちの、天上人との出会いは果たして、偶然や奇跡と呼べる類のものであったのだろうか?
彼ら、彼女らが鳴らすのは──勃発の、鐘。夜明けを告げる響き。
「なんだか、思い出すよ」
青年は少女との語らいに笑う。
けっして朗らかでなく、力なく。……寂しげに。それでもどこか、救われたかのように。
口元を微妙な角度に歪めて、微笑を作り出す。
「ルイスさんのこと?」
問いを口にしてからスバルが思い至るのは、それを訊ねた自分の軽率さ。
訊いてしまってよかったのか。彼を傷つけてはしまわなかったか。出会ったばかりの自分が、なれなれしくも。
スバルたち以上にけっして望んで今ここにいるわけでない彼をより追い込んでしまったりは、していないだろうか。
だが、言ってしまったものはおそい。いくら口元を押さえようと。吐いた言葉は、やった行動は戻らない。思っても、変わらない。
「あ……えっと、訊いても……?」
幸い、だったのだろうか。それが杞憂に終わったということは、果たして。
彼はスバルの付け加える声に頷いた。
ありがとう、そう呟くように言った彼の表情は一層にやさしく、それでもやっぱり、むしろ泣きそうなくらいに微笑んでいた。
「きみとよく似た声をしていて。きみみたいに明るくて、元気な子だったよ」
それが今の──佐慈・クロスロードがスバルに見せてくれる、ただひとつの表情だった。
空には、雲ひとつない蒼穹が広がっていて。
もといた世界にはなかったアーチとそれを支える支柱が、ここからでも見える。そのくらい近くに、今自分達はいる。
軌道エレベータ。それを、見上げている。
「ああいう無表情だけど、刹那も見ててきっと、実は呆れてたんじゃないかな……ってくらいに」
刹那は今、どこにいるのだろう。
世界に、求められるもの。世界が求め続けているもの。それは変革の二文字。少女たちの来訪はたしかにその動きを加速させ、新たな種を巻き飛び散らせていく。
一元的にではなく。多極的に、様々な方向から──……。
イノベイター。彼らは、そう名乗った。
それが正式に、正確にどういった存在・人種を意味する単語であるのかはわからない。脳量子波というそれも、なんとなくしか理解はできない。その概念を知らないオットーには、曖昧すぎる。
ただ。確かなことはある。少なくともオットーにとってはゆるぎなく。はっきりと、たったひとつだけ。
庭園──これもイノベイターたちのために造営されたものなのだろう、噎せ返るほどの芳香を放つ一面の花で埋め尽くされた庭園に出た彼……いや、彼女には。
それは、自分と同じくイノベイターより貸与された衣服に身を包んだ、出迎えてくれた少女を、守ること。
守らなくてはならない。守り通さなくてはならない。この身に、代えても。
「オットー兄さま」
もといた場所に、帰るまで。彼女の傍についているよう言い残し、自身の能力に壁面へと消えていった姉が、連絡をよこすまで。
姉妹たちと合流を果たすためと手駒になった姉らが、目的を成すまで。
「お話……終わられたのですか?」
なにより。彼女の記憶が、戻るまでは。
「……兄さま?」
先が見えないがゆえの陰鬱とした気持ちが、顔に出ていただろうか。
こちらからも近寄り、あちらも小走りに寄ってきてくれた少女の怪訝な表情に、いけないと、意識して微笑をつくる。
「なんでもないよ」
そうだ。今、自分は──彼女の『兄』なのだから。
不安にさせてはいけない。余計な心配に、彼女の心を乱すなど、やってはならない。
彼女にとって自分が。『兄』であるその間は、けっして。
「なんでも、ないんだ」
身長の近い彼女をそっと抱き寄せて。目を瞬かせているであろうその相手に、想う。
「僕は、どこにもいかない」
きみが、戻ってくるまでは。
きみにとっての兄ではなく、姉であり双子の『オットー』が、きみの中に帰って来るまで、身体だけはどこにも。心も、たとえ偽りの『兄』としてではあったとしても。
傍にいる。ずっと。ずっと。
声にせず、念話にも送らず。
腕の中のディードにただ、オットーは想った。
栗毛の少女が、束ねた髪を揺らしてふと、なにか見つけたようにとんとん、と指先で肩を叩く。
その指先はそれから、すっと遠慮がちに伸ばされて。まっすぐに一方向へと向けられる。ティエリアの視線も、その先に重なっていく。
「……あの二人が、どうかしたか? ディエチ・ナカジマ」
「いや。ちょっと、羨ましいなって思って」
それは、自分たち二人よりも一足先に、廊下の交差路を通過していったふたつの背中。ティエリアにとっては旧き同僚であるガンダムマイスターと、その彼によってプトレマイオスに乗艦することになった銀髪の女性。
アレルヤ・ハプティズムと、ソーマ・ピーリス……いや、マリー・パーファシー。
寡黙さが特徴であると認識していた少女からそのように二人に対する感情を告げられ、ティエリアの心にはまず意外の二文字が湧き上がる。これがミレイナ・ヴァスティやディエチの妹であるウェンディ・ナカジマ、スバル・ナカジマといった面々ならむしろある程度成る程、と思えたかもしれないが──……。
「ああ、そうじゃないよ。あたしが、じゃなくて」
取り繕うように、温和な表情を湛えた少女は言う。
「よく知ってる人たちに、ね。もう二人の娘っていってもいいくらいの女の子までいるのにどっちも鈍感で。なかなかひとつになってくれない男女が一組いてさ」
「そうなのか……もといた世界に?」
「うん。だからああいう風にはやくなれたらいいのにな、って思ったんだ。その二人も」
ほんとに、見ているこっちがまだかまだか、ってなっちゃうくらいだから。
冗談めかして言う彼女が本来いたという世界のことを、ティエリアはよくは知らない。けれどそこが彼女らにとってあたたかい世界であったのだろうことは、その口調や表情から想像するのにけっして難しいことではなかった。
そのように想像し、彼女の心にあるぬくもりを思うことなど、おそらくは五年前の自分には到底不可能であったに違いないのだけれど。
「戻ったときに、変わっているといいな」
「え?」
「そう──願っているのだろう?」
それもまた、ひとつの変革──そうなにげなく思ってしまった自分に対する、色恋の一組に大袈裟な、という失笑が、ティエリアの唇を柔らかく綻ばせていた。
きょとん、と見られているのがわかる。目線を横にやれば、それに触発されたように隣に立つ少女もまた、口元に微笑を浮かべた。
「……そうだね。うん、そう思う」
ミッションへの協力への感謝と、成功への期待。
らしくないと思いつつ、多少なりと切り出し方・場を整えてからすべきだと考えていたそれらは二人の間に流れていた空気のおかげか存外なほど自然に、ゆるりと。
往還をその後成し遂げたのであった。
『あれは……キュリオス!? それにスローネ!?』
刹那の声が、通信機に割り込んで聞こえてくる。けれどもちろん戦闘の真っ只中にあるサブ・ブリッジはそのようなものに、心をかけている暇もなく。
「頼むぞォ、嬢ちゃん!!」
「はい!! 砲撃は……得意分野です!!」
この状況で、姉となった少女の手が再び血に汚れるであろうこと。それを気にして止められるわけでもないというのもわかっている。
しかし、湧き上がる疚しさはどうしたって多かれ少なかれ、抑えきれるものではない。
砲手席に座ったその背を見つめながら。撃てなかった者──小刻みに震え続ける佐慈・クロスロードという名の青年を両腕に抱きながら。
『敵機が搭載していたコンテナをパージ……オートマトンです!!』
「!!」
取り付かれた!?
どうする。オートマトンの名で呼称される兵器のことは、ノーヴェやこの艦の人々からも聞き及んでいる。生身の彼ら、しかも残っているのが非戦闘員ばかりでは──……!!
「ごめん、佐慈っ!!」
抱きかかえていた彼の身体を、弾かれるようにして脇の壁によりかからせた。それが、スバルの瞬時に出した結論。
「ナカジマ、さん……?」
「ブリッジの人たちに伝えて!! オートマトンってのは、あたしが迎撃に回る!!」
「ああ? おい、何言ってんだ嬢ちゃん、連中は──……」
「お願いします!!」
「って、おい!! 話をっ!!」
ディエチと反対の砲手席に座る整備士、イアン・ヴァスティの言葉もそこそこに、スバルの身体は既に翻っていた。
「……大丈夫です、イアンさん」
「何?」
フォローを入れるディエチの声も、もう届いてはいない。
スライド式の自動ドアをくぐり、長く続く廊下を駆け抜けて。
「スバルは、強いです。心配、いりません」
曲がり角のその先に見た──待っていた赤毛の姉妹に一瞬スピードを落としかけて、でも止めなくて。
頷きあい、並び立ち、ともに走る。
「いくよ!! 相棒!!」
『All right,buddy』
この世界でもまた音速の剣とともに、空を駆け飛翔するために。
『……ドッキングする!!』
「えっ!?」
多少なりと航空機などといった類のものについて、操縦法を知っていてよかったと思う。──機体の操作がほぼ「向こう」と同じで。ゆえにとっさに動かすことのできる、そのやり方を特救で学んだ自分がこのファイターに、同乗していたことも。
機体を掠めていく至近弾。シートの後ろに陣取るスバルの手が青年の握る操縦桿をとっさに倒していなければ、直撃コースだった。
「佐ー慈ー!! あたしも乗ってるんだから、前ちゃんと見て!!」
「ご、ごめん」
ドッキング、といった刹那の声に、戦場の空気に彼が動揺してしまうのは仕方がない。彼は刹那とも、自分とも違い。戦いのそこに赴く人間では本来、ないのだから。
当然願わくば、自分も。できることなら人の命を救うだけでいられたらいいと、心から思ってはいるけれども。
「ドッキング……って」
飲み込みの速さが違うのは、そういった差があるからだ。
彼と、スバルの間に。ひたすら動揺するより、論理立てて考えられる余裕のある者のほうが状況を把握しやすいのはまったくもって道理以外のなにものでもない。
この機体を、刹那に届けるようイアンは言った。
佐慈はその意を受け取り、出たこともない、出るはずもなかった戦場に身を躍らせた。
その彼に、スバルは同道した。──そして向かう先には、刹那がいる。彼の駆る、ダブルオーが。
『オーライザー、ドッキングモード。オーライザー、ドッキングモード』
刹那が、言っているのだ。ドッキングすると。ならばその対象はふたつしかない。つまり、この機体と。ダブルオーと。
二機がひとつになる──なることが、できる。
それまでの至近弾とは異なる、不快でない振動が、傾きが二人の周囲にあるコックピットを揺らす。ドッキングのための作業がはじまったのだということを、サポートメカニック端末であるハロの言葉以上に、それによりスバルは理解する。
「!!」
とっさに、プロテクションを発動する。この世界に来て使うことのけっして多くはない、魔法の力。それによる盾を。やや深めながら掠る程度ではあったけれども、迫る光弾を防ぐために、機体内部ではなくその外に。
直後、佐慈の前にあるコンソールパネルが光り輝いた。やがて、揺れがひとつ大きなものを刻み、そして静かにそれを停止した。
──『OO‐riser』。パネルに灯った文字はひとつとなった機体に与えられた名か、スバルにはそう読むことが出来た。
彼女たちは今たしかに、刹那とともに。
光り輝く粒子を、まるで強き猛き魔力光のごとく放出し周囲に満たしていく蒼き機体に乗っていた。
「……っ」
そして、彼は見る。
痛みの中、それによって覚醒のなされたおぼろげな意識の中に。
『──刹那ッ!!』
聞こえてくる自分の名前。呼びかける少女の声の向こう側。
その、機体を。
──『Strikers』 the number of OO ……近日開始予定
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やろうと思ったきっかけですか?
そりゃあ、中の人ネタに決まってるじゃないですか(ぉ