オラびっくりしたぞ。

 
えと、ですね。
四月に作品を応募していた第十六回電撃大賞、ひとまず無事に一次選考を通過できたようです。
 
正直送った本人が一番びっくりしてます(汗
 
いやね、だって応募総数見た時点で「あ、無理無理絶対無理」と素で思ったんだもんよ。
だって短編長編あわせて5000近いんだぜ? 去年の倍よ倍。前回に比べてわりとオーソドックスなネタでまとめたから目立つとも考えにくかったし。・・・なんという僥倖!!(ハムかよ
 
とりあえず、昨年に続いて無事一選考は通過できたということで、驚きつつもどこまでいけるかうちの作品にはがんばってほしいなと思いつつ、ご報告。電撃はやっぱあってるのかねぇ。うちの文体に。
 
 
んで。ここからは二次創作についてのお話。
予告していたStrikers −the number of OO−の第一話、その前編をお送りします。
いきなし前編なんてついてるのはふつーに書いてたら一話たり一万字余裕なペースになってたのでそこまで読む側にやさしくないのもまずかろうと、分割した次第。
で、もうひとつweb拍手のお礼ssですが、・・・・これもうちょっと待ってくださいorz
ちと、入れ替わりに原稿をごく短編ですが抱えたのでそっちを優先しますorz
 
 
というわけで第一話、どうぞー。拍手も完成しだい(たぶん一週間以内には)更新しますのでー。
 
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 ──……?
 きいん、と。脳髄に直接訴えかけてくる、実体なき耳鳴りのような音に彼女は作業の手を止めて、顔をあげた。
「また?」
 原因を求めても、それきり音は聞こえない。見回せば見回すほどに定時外の薄暗い、作業室の閑散とした様子が映るばかりだ。
 疲れて、いるのだろうか。着用を義務付けられている制服の、支給されている手袋に包まれた指先で、軽く眉間を揉み解してみる。
 そりゃあ、いるかいないかでいえば疲れていないわけがない。このところ睡眠時間は短くなりがちだし、そのぶん作業にも没頭しがちであったのだから。
 ただ。このところ、こういった不思議な感覚が増えているような気がしないでもない。ふとした瞬間、不思議な音を感じる。そしてその後一瞬、意識が『飛ぶ』。メディカルチェックも一応受けてみたが、異常はなかったはずだが──……。
「いけない、いけない」
 そう、どこも悪くはないのだ。だったら多少疲れがたまっていたとしても、ぼんやりなどしてはいられない。なにしろ地上には自分のこの作業の完遂を心待ちにしている人々がいる。開発チームのチーフであるイアンも、自分と副チーフにして彼の妻であるリンダにならば任せられるといって、『彼ら』と行動をともにしながら、この設計プランを送ってきたのではなかったか。
 地上では、プトレマイオスのメンバーが命のやり取りをやっているのだ。
 四機のガンダムとともに。──不完全な、ダブルオーとともに。
 それに比べればひとときの睡眠不足、疲労の蓄積など比べるべくもない。また、とるにたらない。
「……ん?」
 さあ、作業に戻ろう。軽く頭を振ってモニター画面に視線を戻した彼女は、ふとそこにある文字列の異変に目を瞬かせる。
 開いた覚えのないテキストファイル。そこに打ち込まれた、多くの空白の中に数文字だけ存在するアルファベット。
「──『SUBARU』。『スバル』?」
 覗き込み、首を傾げる。こんなもの、いつの間に。
「やっぱり、疲れてるのかなぁ」
 ひとしきり首を捻って。もう一度見ても、それが作業にとってなにか必要なファイルであるようには思えなくて。彼女はコンソールを操作し、そこにある文字列を映したウインドウを消去する。
 ファイルの名までは、意識になかった。それよりもやっていた作業への復帰が、頭にまずあった。
 ほどなく画面上に広がる一機の開発中の機体の図面、その平面図に──ほっと、アニュー・リターナーは安堵の息をついた。
「『オーライザー』。完成、急がないと」
 自身の、見落としたもの。
 自身の指先が、画面上に表示をさせ、そして消去したそれらの文字。
 ファイルの名前──『X』について、思い至ることもなく、忘却の彼方に取り残したままに。
 彼女は再び、タイピングの指を走らせはじめた。
 
  
 Strikers −the number of OO−
 
 Act.1 daybreak’s bell (上)
 
 
 激情。そう、激情。それは怒りと呼ばれるものだ。男は自分の心中にある感情をそのように理解し、そしてわかった上で身を任せる。己にひたすら、従い続ける。
 撃つ。撃つ。撃って撃って、撃ちまくる。
「逃げんなよ……逃げんなっ!!」
 逃げんなよ、アロウズ──!
 狙いなんて、ろくすっぽつけてはいない。兄から受け継いだはずのコードネームのその意味も、自分が乗っている機体、その所属する組織さえ関係ない。
 今ここにあるのは。ロックオン・ストラトスとしての自分じゃない。
 カタロンのジーン1……ライル・ディランディとして。眼下に広がる廃墟を生み出した者たちを、飛び去る赤い機体を、許してはおけない。収まりが、つかない。
『ロックオン、ロックオン』
 もはや、命中など望めなくても。有効射程などとうに離れきっていたとしても。やっとコックピット内から向けられた声を両耳が認識するまで、彼は無為である行為をそうしてやり続けた。
『──ロックオン、』
「くそ……っ」
『ロックオン、ロックオン』
「わーってる。……聞こえてる、心配すんな、ハロ」
 二挺拳銃を保持した機体の両腕が、だらりと力なく下がる。
 じっとりと汗ばんだ、操縦桿を握っていた彼の左右の掌から力が抜け落ちたのと、時を同じくして。
「基地が……あそこにはガキどもだっているんだぞ……っ」
 腕がそうなったように、視線もまた下降する。
 カタロン、中東第二支部
 そこには、今瓦礫と燻る煙とが広がる。一方でつい先刻ほどまでは彼にとっての同志たちの築き上げた砦であった場所が存在していたはずだった。
 その落差が──あまりにも。
 歯痒さを。憤りを。感じずにはおれない。
「!!」
 それでも彼は今度こそ、感情のみに集中してはおれなかった。
 蠢く、影。愛機の持つ高性能メインカメラの捉えたものが、ただ見ているだけを彼に許すものではなかったからには。
「やつら、まだっ!!」
 多脚の虐殺機械。オートマトン。あらかた片付けたと思っていたその看過せざる殺人兵器が、まだ残っている。更にどこに隠れていたか、また二機、三機。瓦礫から現れただけでも、まだ。
 やらせるかよ。感情は再び両腕に力を宿す。 
別に難しい作業ではない。やつらのやったことを──蹂躙を。今度はまたこっちがやるだけのことだ。いかにオートマトンとはいえ、こちらはモビルスーツ。破片すら残してなどやりはしない──……。
「……?」
 指先が、引き金にかかった。そのまま、押し込もうとした。
 瞬間感じたのは──狙い撃とうとした視線が覚えたのは、奇妙な違和感。
「なん、だ? そこだけ空間が?」
 たとえるならば、そこにだけ合わせ鏡を置かれたような、その謎かけの答えに思い至った瞬間のような。そんな風景の奇異さ。
 鏡の四方形ではなく、もっと複雑であれ。狙撃手ゆえの優れた視覚を持つ彼は、やはり高感度の解像能力を持つ機体のカメラの先にそれを敏感に見つけ感じ取った。
 感情も。指先で引き金を引くことも。その特異な幻想に、彼は忘れた。
「人の、形──?」
 違和感が直後驚愕に変わることも、知らず。
 視線に全ての心を、注いでいた。
 引き金のかわりに彼が押し込んだのは、より鮮明な視覚情報を与えるべく機体に搭載された、狙撃用の高感度ガンカメラの展開スイッチであった。
 ほぼそれは、無意識のうちに行われていた。
 歪む透明。透過は影となり。そして、少女となった。
 
*   *   *
 
 感じた風は、乾いていた。
 なんでだろう、どうして感じているんだろう。そんな疑問は自然発生的で、それでいてとめどがなくて。
 やがて、感じるだけじゃなく。匂いが、そこに生まれて。
 なにも見えなかった、見えていなかった理由がそれに続くように、認識され始める。
 そうだ。簡単な理屈だ。自分が──目を閉じていた。いつからだろう、いつのまにか。
「──……っ?」
 そして、感触。
 足の裏に──いつの間に装備していたのだろう、愛機の縦一直線に並んだ車輪の、その靴底に、大地を感じる。
 ノーヴェが我に返ったのは──その金色の眼差しを光のもとに再び開き晒したのは、夢うつつだった肉体がその感触に、半ば起こされたからだともいえる。
 そうでなくとも、いつかは意を取り戻しただろう。その瞬間が今となった、その理由は。
 瞬間、広がる。飛び込んでくる。
 双眸に、光景が。
 鼻腔に、香りが。
 鼓膜に──爆音が。
「え……?」
 そこは、少なくとも自分が存在する、そういった記憶とはかけ離れたそんな場所だった。
 その中に、更に。そいつは──いた。蠢いて、いた
「なん、だよ」
 直接見るのは、久しぶりだと思う。
 自分以外の誰かが生み出したそれに驚くなんていうのはそれこそ、はじめてかもしれない。
 姉の職場で、現場に出て。そういった存在を救うために立ち働いていた研修期間も随分前で、今は父の部隊での平穏かつあまり得意でない、文武両道にと割り当てられているデスクワークが彼女の主な仕事であったから。
 さながら、「助けてくれ」。そう求めるようにふるふると揺らぎながら差し出される赤黒く染まった腕の持ち主、それは一言で言い表すのであれば、『瀕死』の二文字が相応しく。
 ノーヴェに届くこともなく、揺らぎを落下に変えて、二文字は一文字に減少するのだ。すなわち、死へと。
「どこ、だよ……ここ……っ?」
 おそらく昔の自分なら、顔色ひとつ変えなかったであろう。それをいくつも生み出すこと、もたらすことが己の存在意義であった、その時代には。しかし想いはそのような方向に向くことはなく、動揺へとただ無意識に一歩、片足を退かせて。
 死、そのものとなったそれから視線を移す。浮き上がったといってもいい。
 瓦礫と、硝煙と。そこより立ち上る血と土くれの匂いに、今までは死者に対し注がれるばかりで一点にあった中心が、開放されたために。
「チンク、姉……?」
 彼女の金色の瞳に、敬愛する姉の姿は映らず。
「ギンガ……?」
 らしくなく弱弱しく、呼ぶ声に姉は応えない。
 ディエチも、ウェンディも。姉妹と呼ばれる者たちは、誰一人。
 そうだ、自分たちは確かに一緒に──ともにいた。その、はずなのに。
「スバルッ!!」
 誰も、いない。
 なんだ。どこだ。ここは。どうして、誰も応えてくれない。
 自分が立っているこの場所が──ノーヴェにはわからない。
「──……おいっ!!」
 意識してそうしたわけでなく、今度は足が前に出た。よろよろと、一歩、二歩。
 腰を俄かに、屈めようとしている自分がいた。
 生きている、わけがない。たったいま落ちたばかりの、赤黒く焼け焦げ、乾いた血に煤けた腕が応じてくれるはずがない。
 それでも。小刻みに続く震えが止まらない。その指先を差し出そうとしていた。
 恐怖、ではなく。突然に突然が重なった結果としての理解の超越に脳が悲鳴をあげている、そのための震え。それが被せられたノーヴェの右手は、愛機同様いつの間にそこにあったか装着されたガンナックル越しに──死体へと、届こうとする。
 ぴくりとも動かぬ、助け起こしたところで行為が意味を成さないであろうその相手に、今まさに。
「──ッ!?」
 寸前、吹き飛んだ。
 目と鼻の先で。また、背中で。
 触れかけた、その赤黒かったかつて『生きていた』ものが。
 岩盤か、土壁か。粉砕された無機物の埃っぽい粉が。
 飛び散り、二色の霧を作りノーヴェの周囲に降り注がせる。砂色と、赤色と。それぞれに。
 目の前では、風船が破裂するようにあまりに、あっけなく。
 振り返った背には──『そいつ』が現れる。
「お前、か……? やった、のは……?」
 人ならぬ。生き物ならぬそれはどこか、かつて自分や父なる科学者の尖兵として存在していたかの兵器に、似通った雰囲気を持っていた。
 間違いない。それは、機械。硬質な装甲と、照り返しのする透明なメインカメラ。それらが、証左にほかならない。
 違いは、色と。あちらにはなくこちらにはあるもの。すなわち、幾対もの、足と思しき器官。
 なによりノーヴェは目の前にいる、いや、ある。そいつの名前を、知らない。
 この世界において『オートマトン』と呼ばれているその存在は、ノーヴェの持つ知識の中にはまるで該当するものは、ない──……!!
「て、めええぇぇっ!!」
 急激に、全身に力が漲っていく。原動力となるのは無論、怒りの感情ゆえに。
 理屈ではない。目の前で引き起こされた光景に、それを行った張本人である無言の機械に、彼女自身の人ならぬその肉体に流れる血液が沸騰していくのがわかる。
 そう、人として。人としてこんな行為──許せるものか。
「当たるかよ!! んなもんっ!!」
 そして次なる標的に自らを選んだ歩行機械に、吐き捨てる。
 その場には留まらず、足裏のローラーによる機動を以って、射撃を完全に見切りかわして。
「う、おおおおぉぉっ!!」
 当たれば即挽肉となるであろう機銃による火線はすべて、見切っている。仮にもナンバーズ一の突破力の持ち主と呼ばれた身に、こんなものが何の役に立つ。おまけに今のノーヴェは。彼女は。
「アタシは……怒ってんだっ!!」
 スタイルを同じくする二人の姉から教わった、人として、魔導師としての技術も秘めている。
 跳躍一番、駆動を戦闘機人モードから魔力に切り替え。この順序を踏んだやり方のほうが身体の感覚や、魔力の流れを掴みやすいのはまだ人としてのノーヴェが未熟であるということでもあったけれど、かといってこの程度の相手に劣るはずもない。
「こいつを、くれてやるっ!!」
 姉が、教えてくれた。伝えてくれた、自らのうちにあった技術。ウイングロード発生、その上を駆ける。もはや避けるまでもない、血筋が与えてくれたこの天の道がそのまま、飛べえぬ機械兵士への防壁となる。
 そこから、飛び出し。落下の運動エネルギーも加え右腕を渾身に、球形をした敵機の瞳──すなわち、メインカメラへと叩きつけた。
 激突の先を、彼女の拳は砕き、砕くだけにはおさめず、圧壊させ。
 ほぼ肘までというほどを、漆黒の多脚機械に埋めてようやく限界となる。
 正拳も。打ち貫かれた虐殺者の機能も。双方ともの意味で、だ。
「あとは……これでも食ってろ!!」
 その状態で、乱射する。めり込んだ右腕の先のガンナックルを。
 内部から、射撃を浴びせかけていく。光弾の一発ごとに大人ほどもある黒いその機体はみすぼらしく、不規則に、内部から形を歪ませていった。
 もう、これで十分。ノーヴェはそう判断すると自身の右腕を引き抜いて、その機体の目の前から離れていった。
 爆散は、直後。耳を劈くその音に表情を歪めながらも、ノーヴェはもう打ち倒したその相手を一瞥もしていなかった。
 それ、どころか。身構える。殺気はまだ、周囲の空気の中から、消えてはいない。
「……でてこいっ!!」
 呼応するように、四方が──瓦礫が、吹き飛び新たな土煙が立ち上る。
「お前らも……そうかよっ!!」」
 四つの機影。たった今打ち倒したそれと寸分たがわず同じ形の機械たちは観察するように、ノーヴェの周囲を囲み駆動音を鳴らしながら、メインカメラの内部メカを絞っている。
 ──ああ、いいさ。好きなだけ、見ろ。かまうもんか。どれだけ、観察したって……!
「全部、ぶっこわすっ!!」
 それで、無意味にしてやるのだから。
 その決意の先に、まず一機。それから一機。そう、思っていた。
 思いは行動へ、繋がっていく。繋がっていこうとした矢先に──その機体が、爆ぜた。
「っ!?」
 前だけじゃない。右。左。後方。それら、すべて。
 天空からの、光によって。
 その降ってきた先を見上げるという行動は彼女ならずとも、ごく自然で当たり前の行為であったにちがいない。
「なん、だ……? あれ……?」
 光を降らせたもの。あれほどの熱量、破壊力を持ちながら至近にあったノーヴェにけっして当てることなく、熱気のみを感じさせるにとどめたその存在は、すぐに見つかった。
「緑の、ロボット……?」
 それは、拳銃を手にしている。そしてヒトに似通った顔や、口や。四肢を持ちながら確実に、人間の持つそれらとは一線を画している。
 光を放ったのは紛れもなく、そいつの向けた銃口、硝煙じみた排気を浮かべる先端部に違いなかった。
 また、そこが光る。今度は、なにもない場所へ。先ほどよりなおノーヴェの付近へ、当たっても構わないという意志を明確に載せて。
 脅している。動くな、と。じっとしていろと、そう。
『……悪いな、嬢ちゃん。けどな』
 モスグリーンの機体から放たれるのは次に、男の声。低く抑えられた、警戒感に満ちたトーンがスピーカーよりノーヴェの耳に届く。
『けどな。お前、何モンだ』
 僅かに、銃口の方向がずれる。いや──ずらされる。
 その先にはもはや大地はない。狙いはもう、ノーヴェ自身に移された。撃たれていないにもかかわらずそれゆえか冷たい声は、自分を狙い撃ち貫き通しているかのような錯覚すら覚える。
 だから、ではない。
 理由は、ある。ゆえに枕を与えるならばその行動にはむしろ、『それでも』といった詞のほうがふさわしい。
 銃口に狙われ。いつ放たれるとも知れない中、だ。
 それでも。
 それでも、ノーヴェは跳んだ。
 閃光が──直後、大地を穿った。彼女を、『狙い撃った』。
 
 
(後編に続く)
 
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