電撃二次は落ちたようです。

 
まあ、ある程度予想通りでしたけども。
 
てなわけで今日はダブルオークロスを更新。続きを読むからどうぞー。
 
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「──ここは」
 ここは、どこだろうか。
 見上げた──開いた視線は動かすまでもなく、そうなっていた──先には、電灯の照らす白い天井が広がっている。
「ん…・・・っ」
 身を、起こしてみる。寝かされていたのもまた、白一色のシーツに包まれたベッド。少し頭がふらつくが、幸い他に異状らしいものは感じられない。
 せいぜいが、ほのかな空腹感と。そして、喉の渇きがひどいくらいということだ。
 きょろきょろと、周囲を見回す。壁も、白。扉らしきものもある。
 だが。──本当に、どこなのだろう。その手がかりとなりそうなものは、なにもない。
「あたし、」
 予想も、できない。
「あたし、何してたんだっけ」
 自分が、今までいた場所とはまったく異なる世界にいることなど。
 その世界の。また、ごく特異たる組織の船のなかに、収容されていることなど、想像できるわけもない。
 いかに彼女が。ディエチ・ナカジマが、次元間の行き来を当たり前のものとする世界の出身者であったとしても、だ。
「ここは、一体……?」
 戸惑う彼女の耳に届くのは、呼び鈴というか。ブザーのような電子音。
 そしてそれは実際彼女の受けた印象どおりに、その部屋への来訪者を告げる、そのためのものであり。
 一瞬の緊張と、若干緩和されても続く、やはりの緊張と。
 横にスライドする自動扉の音が、交差する。
「よかった。目、覚めたんですね」
 パンツルックの女性──少女。ちょうど中間圏といっていい風貌の相手の声は、落ち着いていて、そして穏やかだった。
「幸い、体力を消耗しているだけみたいです。医療カプセルに入る必要も、多分ないと思います」
 秘匿義務。本来であればそのようなものがあることなどその彼女はディエチに微塵も感じさせることなく、桜色をした髪と、切れ長の瞳とを包み隠さず、微笑を向けている。
「行き倒れているところを、仲間が見つけてくれたんです」
 桜色の服が、髪と同じ彩をしていて、よく似合っている。
 フェルト・グレイスという彼女とそのとき、ディエチは出会った。
 
 
Strikers −the number of OO−
 
Act.2 来訪者たち (上)
 
 
 そして。──その、『仲間』は。
「なんという……愚かなことを……っ」
 罵倒していた。吐き捨てていた。そして、頬を張っていた。
 彼にそうされて壁に倒れ、崩れ落ちていく男へと。力なく言い訳がましい呟きを、それでもぽつぽつと漏らし続けるその相手──沙慈・クロスロードの女々しさ、潔いというものとは程遠い姿勢に、苛立ちをなお覚えながら。
 行き倒れていた少女をセラヴィーに拾いあげプトレマイオスへと送り届けたあと、変わらず砂漠に倒れ臥す彼を再び見つけた。
 その彼を、ひとまずティエリア自身向かおうとしていたカタロン基地──既に基地跡、といったほうが正確だが──に半ば無理矢理に連れて行った。
 ひょっとすると、という直感めいたものが働いていたのもある。しかし、刹那が基地に預けたはずの彼が何故あのようなところで呆然としていたか、という不自然さが、ティエリアにその行動をとらせたのに最も大きなウエイトを占めていた。
 死体と、瓦礫と、負傷者と。それらに埋め尽くされたカタロン基地を目の当たりにティエリアよりの詰問を受け、あっけなく彼は白状した。
 基地を、抜け出そうとしたこと。
 その道中、探査中の連邦軍に捕らえられ、潔白への渇望からこの基地の場所を漏らしたこと。
 それをアロウズに知られ、応対した連邦士官の機転に助けられほうほうの体で再び連邦の艦から解放されたということ。
 ──その結果が、今、ここにある。そうだ、この結果は。
「ここで失われた多くの命は……きみが奪った」
「……!!」
 そうだ、きみが奪った。
「きみの愚かで軽率な行動が、そうしたんだ。『自分は関係ない』……そのひたすらに目を背ける行為が無自覚な悪意となり、このような結果を!!」
 遠慮も、思いやりもしない。あくまでも言葉を尖らせ、放つ。
 嗚咽がはじまり、震える声が漏れ聞こえてこようと関係ない。これは彼のしでかしたことに対して向けられるべき、当然の非難。
 民間人。そんなことはわかっている。本来の立場はどうあれ、あまりにも彼の行動は軽率が過ぎ、甚大すぎる結果を招いてしまったのだ。自らの手を汚さずに彼は、望んだかたちでの出会いでもなく、親しかったわけでもないにせよ知り合った、彼に手を差し伸べようとしていた者たちの命を、奪ったのだから。
「ぼく……は……」
 呆然と、するだろう。過ちの大きさに、押し潰されてゆくだろう。しかしすべては因果に対する応報。いたぶるような趣味はティエリアにはなかったが、同情もしない。
「えー、と」
 このまま、時が来るまで──ここを自分たちが離れるまで、彼が沈み込むに任せていようかとすら、ティエリアは思っていた。けれど、終わりは意外にはやく訪れた。
 ひとりの、闖入者によって。
「っ」
「あ、れ? 本当にこっちで──……」
 それは、少女だった。蒼い髪に、蒼い瞳。一風変わったデザインの白い服装に身を包んだ少女が一人、包帯を身体のいたるところに巻いた大柄な男を、その背に乗せて、通路を仕切っていた幌の向こうより、顔を出していた。
しまった、見られた、とティエリアは振り返りながらも、詰問の場所に選んだそこが十分に沙慈を隠せるところでなかったことを後悔する。
 彼はいってみれば、カタロンの面々全員にとっての仇となったのだから。
 そのやった行為が知られれば当然、なにをされるかなどわかったものではない。
 まだ、この状況の不自然さに気付かれてはいないだろうか。話を、聞かれたりは。
 彼が矢面に立てばそれを連れて来た、ともにいたティエリアたちにもその矛先が向くのは必然である。ゆえにティエリアは警戒する。そして、どう動くべきかの算段をはじめるべく、頭を働かせる。
「そこをまっすぐ、それから──……ティエリア? どうした、こんなところに」
「刹那?」
 働かせはじめた直後、今度は知った顔が現れる。仲間のガンダムマイスター。刹那・F・セイエイ。
「それから、どっち?」
「……右だ」
「ありがと。……さ、すぐに横になれるところまで、運びますから」
 少女はすれ違いざまティエリアに、会釈をする。そして背中の男に対してであろう、言葉をかけながらそのまま行ってしまう。
「──彼女は?」
 少女が、離れていく。一定以上の距離を確認してから、改めて口を開く。
 質問の意味はふたつ。何者か、と。少なくとも、カタロン構成員といった風情ではなかった。大体構成員が、知っているとはいえ部外者に基地の構造を訊いてどうする。そしてそれに対する回答次第だが──その彼女を自由にさせていいのか、という。
「……そのことも含めて、話さなければならないことがある。正直俺自身、混乱している」
「きみがか? それはどういう……」
「それに、こちらからも訊かなければならないこともあるしな」
 奇妙な物言いで応じたのち、そう言って刹那は目線をふたつ、動かした。まずは、自分のやってきた方向──瓦礫に埋もれた、戦場の跡へ。それから、自らとティエリアの前に蹲る、沙慈・クロスロードへと。
「あの状況はなんだ? それに、これは」
「……アロウズのしわざだ。そしてその原因が、彼にある」
 震えていたはずの彼は、何かに驚愕したかのように目を見開き、身体をじっと硬直させていた。それがティエリアの言葉に、びくりと反応し、やがてゆるゆると顔を持ち上げる。ティエリアを、刹那を。交互に見上げては弱弱しく首を振る。
「──とにかく。一旦トレミーへ戻ろう。彼女は、あのままで?」
「ああ。用が済み次第、マリナ・イスマイールにこちらの輸送機まで連れてきてくれるよう、頼んである」
 膝を曲げて、刹那は沙慈の前に身を屈める。腕を掴み、肩を貸し。立ち上がらせる。
「……スバル・ナカジマ
「何?」
スバル・ナカジマ、というそうだ。彼女の名前」
 そうやって歩みだす刹那へと訊き返したのはティエリアだったけれど、果たして彼の言葉は誰へと向けられたものであったのか。
 ただひとつ、たしかに言えることは──……。
「……、ス……」
「──ああ。似ていたな」
 聞き取れなかった、沙慈のを掠れ声を受けて。
 続けて刹那の呟いたそれが、そちらは間違いなく、沙慈・クロスロードに対してのものであった、ということだ。
「声が、彼女と」
 ティエリアは、振り返る。
 通路の向こうの曲がり角に、少女の姿がちょうど、消えたところだった。
 
*   *   *
 
 ──そして、『三組は出会う』。
「『捕虜を連れて帰る』たあロックオンのやつ、一体どういうことだ? こっちは今スメラギさんも倒れて大変だってのに……」
 ソレスタルビーイング、その母艦たるプトレマイオス、そのブリーフィングルームにおいて。とりとめのない言葉の応酬を交わすラッセ・アイオンイアン・ヴァスティの、前にて。

「ロックオン。これは少し、あんまりじゃあ……」
 ガンダムマイスター、二人。新生ソレスタルビーイングにおいては後発の参加者となった、アレルヤ・ハプティズムの苦言と、それに応じ言い返す、ライル・ディランディ……ロックオン・ストラトスのふつふつと煮えている感情と。
「相手は女の子だ、ロックオン」
「いいから、黙って見てろ。こいつにはいろいろ、聞かなきゃならねえかもしれねえんだ。……こいつは、不審すぎる。ほら、とっとと歩け!!」
 彼の向ける銃口に追い立てられる、後頭部に両腕を組んで持ち上げさせられた赤毛の少女とが、まずいる。
「……っ」
 ──つまるところ、五女。ノーヴェ・ナカジマと。
 
 三女であるディエチ・ナカジマもまた、別の通路からそこへと、向かっている。
「身体の具合は、大丈夫ですか?」
「……ええ、なんとか」
 にこやかに、落ち着いた声を投げてきてくれる少女、フェルト・グレイスとともに。
 彼女の場合は、銃による威嚇も無く。ただ、やはりノーヴェ同様の不安は間違いなく内在していて。
 同時に、妹に比べ彼女にはいくぶん、落ち着いて周囲の状況に意識を巡らす余裕があった。例えば──、
「すいません、監視するみたいで。なにぶん、私たちの置かれている状況が特殊なもので」
 例えば、彼女。フェルトが先導してくれ、ともについているというのは自分に対する警戒なのだろうか、くらいにおぼろげに感じていたことを、当の相手に言葉として伝えられたり。
 自分が今いるここは。この『場』ではなく、この『世界』は。一体、どこなのだろう。少なくともミッドチルダではなさそうであるということを思いながら、ノーヴェの混乱や戸惑い、危機感といった類のものをより、彼女の心は冷静に、かつ精錬した状態で、自身の現況を探ろうとしていた。
 
 そして、出会いは再会で。
 まず行われたのは、五女と四女の、間においてだった。
「アザディスタンが……? 赤いMS、だと……?」
 前を行く刹那と、ティエリアと名乗った少年の話す言葉の端々には、わからない単語ばかりが満ち並んでいる。
 ──やっぱり、ここは別次元の管理外世界、ということなのだろうか。
 なんで、また。一体、どうして。
 自分がそこにいる理由を測りかねて、スバル・ナカジマは心中で自問する。
 気がついたらいた、というのはまさにそう。ただ、考えていられる状況がようやくここにきて、生まれたということだ。
 目を開いたら、赤く燃え上がる町並みと、砕けた建物とが広がっていて。
 パニックのあとには、考えるより先に身体が動いていた。泣き叫ぶ子供たちを、落ちてくる瓦礫から救い出している自分がいた。ある意味、ディエチより肝の据わった対応で、ノーヴェより落ち着いていない感情任せ。
 ただそれだけに、一生懸命になった。そして──空を見上げると、赤い巨人に襲われる飛行機が、見えていたのだ。
 そうして出会った刹那には、一応の説明はした。けれど無論、まったく完全に理解された、納得してもらえたとは到底思えない。次元世界なんて概念、そもそもこの世界にはないのかもしれないのだから。
 ちらり、と眼鏡の少年の視線が、射抜くようにこちらに流された。瞬間、スバルの身体はびくりと硬直し、足踏みをしかかる。
「──彼女とは、アザディスタンで?」
「ああ」
 そんな、やりとりだった。
 幸いというべきなのだろうか、それ以上はない。スバルへと話が振られることもない。
 ただ、進んでいく。……たぶん、話をするための場所へ。
「ついたぞ。あそこだ」
 そして。歩みは止まった。
 通路が、あちら側からこちらに延びてきている、ちょうど中間点にあるスライドドア。少年と青年の二人組が、再び軽く振り向いて、そちらを顎で示している。
「あ……えっと」
 ついた、といわれても。こういうとき、なんと返せばいいんだっけ。
 逡巡し、戸惑う。戸惑っているうちに、目の前の通路の突き当りを曲がってくる、三つの影が視界に入る。
「──え?」
 なにも、驚いたのはただ他の誰かが、自分たち以外にいたから、というわけではない。
「ロックオン、アレルヤ……?」
「なんだ。一体、どうした。その少女は」
 間違いなく。ティエリア・アーデのいったところの『その少女』もまた、スバルとい同じ表情をしていたのだから。
彼女と同じ表情を、自分はしている。そう、スバルは容易に感じ取ることができた。
「スバル」
「……ノー、ヴェ。どう、して」
 同じ姓と、遺伝子を持った自分たちは、姉妹なのだから。
 また、──遺伝子によるつながりがたとえ、なかったとしても。
「──スバル。ノーヴェ」
 背中から聞こえてきた声の主もまた、姉妹だった。
「ディエ、チ」
 振り返る。そこにいる、栗毛の彼女も、また。
 今度は、三人をそれぞれに連れてきた面々が──天上人を名乗る者たちが、困惑をする番だった。
 しかし、なによりやはり。
 それすら覆い、包み込んでしまうほどにあくまでも、最も大きなものは、姉妹たちの心に共通した、予期せぬ再会に対しての、戸惑いであるのに、違いなかった。
 
 
(つづく)
 
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