勝つぞ!!

 
作品として仕上げた以上、結果は委ねるだけではあるんですが。
これから出勤の途中でhj文庫への投稿作品を投函してきます。
 
なりたい、なれたらいいなーではなく「なる」。「勝つ」。
気持ちは強く持っていかないと、ね。


続きを読むからカーテンコール最新話更新ですー。
 
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「後ろだ!! ヴィータ!!」
 無数の、ガジェット。シグナムよりの声に振り返る。──ただでさえ、ヴォルテールの相手だけでもこちらは手一杯だというのに。
「うざったいんだよ!! お前らっ!!」
 ヴィータはそれを巨大なハンマーのフルスイングで出迎える。一度に、薙ぎ払う。まともに相手など、していられない。
 黒竜はそれこそ、ユニゾン状態の夜天の守護騎士二人がかり。それでようやくに押しとどめられるレベルの敵なのだから。最低限のその動きでさえ、正直なところ大きすぎる隙となりかねない。
 いちいち振り向いて体勢を立て直す時間も惜しい。振り切った身体の回転に、術式をあわせる。コメートフリーゲン。特大の鉄球を、スイングのままに竜の巨体へと打ち出していく。
「どーせ、利きゃあしないんだろうけどなぁっ!!」
 無造作に、その球形の弾丸が竜の指先より砕かれようとも。それは見越している。
「煌牙──……烈斬!!」
 それでも。攻撃は続けなくてはならない。
 竜を止めていられるのは今、自分たちの波状攻撃以外に、ないのだから。
 一体、どこにいる? 融合騎により力を高めた純正ベルカの騎士の、渾身の斬撃を。即頭部の角で防ぐでもなくただ、弾く。
 そんな生物が、どこに。そしてそんな生物を止められる存在が他に、どこに。
「ったく、よお……っ!!」
 いや。いないわけではない。
 だから──こうして、食い止めている。ヴィータが。シグナムが。リインと、アギトとともに。
「まだかよ……はやてっ!!」
 黒竜に対するこの上ない対抗策を。それを成し得る存在を、己が主が連れてくるまで。
 倒すことも不許可の、ただ持ちこたえるだけのこの戦いを、続けていく。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第三十九話 向かい風の中で 2
 
 
 それはまさに、双子であるかのごとく。機体色のみを違えた、黒いレイジングハートといって差し支えのない外見をしていた。──少なくとも、相対するスバルの目には、そのように映っている。
 ただ色だけが、違う。あとはなにからなにまで、瓜二つ。
 その宝石が、聖王の命令に従うように浮遊を始める。
 ──『ダイム』。『エバー・カレイジアス』。王は、そう呼んだ。それが、あの宝石の名前だというのか。あの、漆黒の機体が。
「く……!! マッハキャリバー!! レイジングハート!!」
 戦闘形態への変形。させるわけには。起動させてしまったら──なにか、まずい。本能的に感じたその感覚に、スバルは行動を起こす。
 待機形態なら、まだ。破壊は不可能でも、弾き聖王の手から引き離すくらいは。
 リボルバーシュート。撃ち落として──……、
「言っておきますが、無駄ですよ」
「!?」
 魔力を帯びた風圧の弾丸が、撃ち放たれる。瞬間、ぽつりと向かい合う黒髪の聖王は口を開く。
「この子は、いわば増幅器。聖王教会の中継施設が面を覆うためのものならばまさしく、聖王が膝元、その一点を磐石なるものとするための」
 そして結果は、言のとおりとなる。
「月の力得ずとも、少なくとも聖王単騎においての必勝をなすためのものなのだから」
 魔力弾は、届かない。風が。聖王の鎧が、一瞬の暴風となり渦を巻き、宝石を覆い隠す。到達するよりはやくリボルバーシュートの弾丸は、風の中に散り消えていった。
「そんな……っ!?」
 虹色の魔力が、宝石を包み込んでいく。光が、黒い輝きと混じりあう。
『Drive』
 聞こえたのは、どこかレイジングハートにも似通った声。それもまた──当然というように、王の口は言葉を紡ぐ。
「もうひとつ、忠告です」
「っ……!?」
「聖王の力なしに扱えるよう製作されたのが、あなたなのですよ。レイジングハート。下々でも、使用が可能であるように。王よりの、褒美として」
 つまり。──王は、宣告する。
「つまり──あなたを使っている限り。その魔導師は、私には勝てない。たとえそれが戦闘機人、タイプゼロセカンドであろうと。……エースオブエースであろうとも」
「そんなこと!!」
 光は一つの柱となってなお、渦を巻いていた。
 その中へと聖王・ノアは黒衣に包まれた右腕を差し出し、突き入れる。
 黒き太古のデバイスを、取り出すため。己が得物として、この戦場へと用いるために。
『Mode of Extinct.』
 風が。魔力が。渦を巻いていたそれらが散り、そしてその機体は白日の下へと現れた。
 スバルと。マッハキャリバーと。それを元に生み出されたという、レイジングハートの見守る中。
「降伏を、お勧めします。王としての、慈悲ゆえに」
 漆黒の、双刃槍。上下に大きく刃を伸ばしたその禍々しいフォルムをさらけ出す。
上下に、ふたつ。刃が付け根に目のように鈍く輝くひと際深い暗黒色の本体が、強い光を放ち、起動の完了を告げた。
「願わくば、聡明なる判断を。タイプゼロ・セカンド」
 ごくり、と。自分が唾液を飲み込むのにも必死になるほど、その機体に魅入られていることにその瞬間、スバルは気付いた。
 いつの間にか。
 背中を一筋の冷たい汗が、伝っていったから。
レイジングハート。ブラスター、3に」
 本能が、告げている。己が金色の瞳、その中心に捉えたあの黒い双頭の槍は。それを手にした、聖王を相手とするには。
「とてもじゃないけど、出し惜しみなんて、してられない」
 
*   *   *
 
 いつも、いつも。
 いつも、いつも、いつも、いつもいつも。
 自分の周りには、向かい風ばかりが吹く。うまくいっっている。そう、安心した矢先にばかり。
 なぜだ。なぜなんだ。いつも、そうだ。いつも『化け物』どもが邪魔をする。
 追放された血筋。消えたはずの端流。たとえそうであっても、自分は聖王家の血を引く嫡男であった、はずなのに。
 本来なら、誰よりも尊ばれ、誰よりも上に置かれるべき存在。
 カイゼルファルベも、聖王の鎧も持たずとも。自分が君臨するはずだった。
 その血ゆえ。自分が統べるはずだったのだ。祖父よりの力受け継ぐことのなかった父がそうであったように。同じく、聖王は自分となり、崇められるべきだったのに。
 なのに。なのに、──あの化け物が、生まれた。
 左右異なる瞳持つ、人外の力手にした、異物。『妹』として。それが生まれたときから、周囲の状況は一変した。
 世継ぎたる嫡子から、あっという間に自分は不足の力しか持ちえぬ出来そこないに成り下がり。すべては聖王たる娘の後塵を拝してしか与えられず。
 滑稽にも当初自分が就く筈であったその地位を──ゆくゆく、護衛補佐するためだけの存在として育てられたのだ。
 屈辱以外の、なにものでもない。自分こそが、王であったというのに。
 一介の魔導師としての教育。求められたのは陸士訓練校に入っての、管理局員としての宮仕え。
 二度目の挫折は、まさしくその訓練校において。
 後に言う、空の二大エース。かの場所においてそれら化け物たちがまたしても、我が道を砕き散らしていく。
 だから、認識したのだ。一度ならず二度までも。
 やつらは、ヒトにあらず。化け物に他ならない。
 化け物と競ってどうする。自分は人間として、極上。最良。化け物の手綱を握る側にまわればよい、と。
 そうすることで、納得したのだ。そしてその結果、ここまでうまくいっていた。
いっていたのだ。なのに──……。
 
*   *   *
 
「ったく。大した天才さんもいたもんね、ほんと」
 星砕く輝きは、そのまま数多の星となって霧散する。
 もともと、こんな状況で、こんな相手程度に使うような技ではないと、自覚している。それに──もう、使う必要性もない。
「見苦しいったらありゃしない」
 ブレイズモードから、通常のガンズモードへ。発射されることなく再び大気中へと排出されていく魔力の靄に包まれながら、ティアナは溜息をつく。
 足元には、男の身体ひとつ。
 ぱくぱくと、なにかを呟きながら酸欠の魚のように口を開閉させるそれは、先ほどまで戦っていた相手。ティアナ自身が圧倒していた相手。マイア・セドリック准空尉。
 その意識は既に、ない。ティアナがスターライトブレイカーの発射体勢に入った直後だった、恐怖ゆえだろう、失神してしまったのだから。
 口元から垂れ流しの涎と。その着衣の下半身を濡らす失禁というおまけまでつけて。
「ほんと、胸糞悪くなる。……クロスミラージュ」
 やはり、撃ってしまったほうがすっきりしただろうか? 思いつつティアナは愛機へと、横たわる男へのバインドを命じる。二重。三重。こうしておけばもう、たとえ目覚めたとしても、余計なことは出来はすまい。
「じゃあね、凡人にお漏らしさせられた天才さん」
 あとは。先を急がねば。
「あんたにかまってられるほど、暇じゃなくってね」
 そしてティアナは駆け出す。こんなところで、ぐずぐずはしていられない。
 はやく、スバルに追いつかねば。
 彼女の相手は聖王──こんな三下とは、わけが違う。
 
*   *   *
 
 やっぱり、竜という種族の名は伊達ではないということか。
 改めて再認識させられる。自分たちの相棒は……すごく強い。
「フリー、ドぉぉっ!!」
 こんなにも。これほどに強い力で、ともにあってくれていた。自分や、キャロの傍に付き従ってくれていたのだ。
 アルケミックチェーンを引きちぎり、暴れる竜を眠らせる。そのことで、報いる。
 いや。報いなければならない。
 幾多の場面において彼の力を借りてきた、白竜の竜騎士。巫女のパートナーである、その名にかけて。
「エリオくんっ!! ブースト……アップ!! アクセラレイションッ!!」
 キャロの魔法が、導いてくれる。その道筋を。それを一直線に、駆け抜ける力を。だからエリオは、臆せずに突き進むことが出来る。
 フリードへ。白き、竜へと向かって。
 跳躍力と、加速力。スピードと機動性。自身持つ特性を、竜の巫女が極限まで一層に引き上げてくれるから。
 ブラストレイをかわし──エリオは跳び立つことができる。
 竜の舞う、更に、更に頭上へと。天翔る者ゆえに、そここそが竜にとっての死角だからこそ。その位置への到達を目指して。
 辿り着けば。あとは降下するのみ。ストラーダを。一度は大破しながらも応急修理のみで付き従ってくれている愛機を、力の限りに振りかぶって。
 技なんかじゃ、ない。
 ただ、ぶつける。振りぬいて、昏倒させる。そのためだけに集約された、魔力に満ちた一撃だ。
「だ、ああああああぁぁぁっ!!」
 落下の運動エネルギーとともに、狙い定めたその場所へと叩きつける。
 竜は空中よりの奇襲に反応しきれず、しかしそれを浴びせかけたこちらもまた、完全ではないストラーダの穂先が無数の亀裂を刻んでいく。
「キャロぉっ!!」
 一瞬の隙にたたきこんだ一撃。しかし竜はまだ、ぐらりとその身をふらつかせただけ。激突から来る反発に、エリオの肉体を跳ね上げて、なお。
 だが──一撃でダメなら!!
「もう、一度だああっ!!」
 遠隔召喚──空中より、鋼の鎖がエリオへと伸びる。
 エリオは、傷ついた愛機が柄でそれを受け、巻き取られるがままに身を任せる。
 もう一度だ。もう一度、けれどもっともっと、高く。
 広間の高い高い天井、その空間へと投げ出される。
 今度は、身一つ。ストラーダさえ、鎖のもとに残す。渾身より搾り出した力を満たすのは、愛機同様やはり完治には程遠い、己が右拳。
紫電──……っ!!」
 これで、眠らせて。そして、目を覚まさせるんだ。フリードを、取り戻すために。
「一閃っ!!」
 あまり多用するなと師より忠告された一撃。だがこれも、大切なものを取り戻すためであれば惜しくはない。
 竜の頭部へと、拳が吸い込まれていく。
 竜族と人間とでは、骨格からして違いすぎる。だが、いい。砕けたって、この拳が二度と使いものにならなくったって、かまわない。まだ、左手がある。
 フリードを取り戻し、キャロとともに先を急いだ仲間たちのあとを追う。それを完遂するためにこれは必要なこと。
「う……あああああああああっ!! フリードおおぉぉっ!!」
 その覚悟ゆえ。確実にエリオの拳は白竜の脳天を捉えた。
 時が止まったのは、一瞬。ゆっくりと下降を、落下を始めたのがエリオだけでないということが、何よりのその結果たる証。
 ちらと、エリオはともに落ちゆくフリードの瞳を見た。
 昏倒、している。光はそこには、もうない。
 安堵が心に芽生え、広がっていく。やった。取り戻せた。その想いが。
 ゆえに彼は竜から目を放した。パートナーへと、その瞳の先を移したのだった。
「キャ……」
 結果──そこに。危機と呼ぶべきものが存在していた。
 彼に、ではない。桜色の髪艶やかな、兄妹同然の巫女の身に迫るそれを、彼は見た。
 当のキャロ自身は、気付いていない。本来探知して然るべきケリュケイオンもまた、結界維持、ブースト多用。遠隔召喚に援護射撃のといった性能のフル回転状態ゆえ、責めることなどできはしない。
 ただ確かに、彼は見えていた。
 うら若き召喚魔導師の背後より徐々に姿を透過から可視のものへと顕現させ迫り行く、多足にして凶刃持つ戦斗機械──ガジェット四型の、その無数の姿が。
「キャロっ!!」
 跳ぼうにも、その推力となり得る愛機は我が手にはない。手も足もでず、エリオは落下していく。
 キャロは、気付かない。そして。
 迫る多脚機械の白刃が、煌いた。
 そして彼の直下において、白き竜が瞳へと、禍々しき輝きが再度、点灯した。
 パートナーがそうであったように、彼もまた同様に、その事実に気付くことはなかった。
 
  
(つづく)
 
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