東京より更新。

 
今回はとある作品となのはのクロスオーバーでございます。
 
続きを読むから読んでみてくだされ。
脳内で小山力也ボイスを再生しながら読むと余計ネタなお話になるかもしれない。
 
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 どうして毎度毎度、こうなのだろう。
 腹が。そうだ、腹が減っている。猛烈に。急激に、だ。
「三時……おやつだな、こりゃあ」
 個人でやっている商人としてはそりゃあ、顧客同士の繋がりで新しい得意先が出来るというのはありがたいことこの上ないことなのだが。
 なにぶん、はじめての土地だから用心としてはやめの行動を心がけざるをえない。商談一発目から遅刻だ道に迷って辿り着けないだではお話にもならないのだから。
 結果、食いそびれる。昼飯にちょうどいい時間なんてとうに過ぎ去っているから胃の中がそれはもうすっからかんだ。
 ようやくそれなりに交渉がまとまって、もときた道を引き返して。
 ──やたらめったらにたくさんの犬がいる、不思議な家だったな。
 そんな風に思いながら朝降り立った海鳴駅の建物が見えてきて、もう一度腹の虫がなにかを食わせろとせっついてくる。
 海鳴市。のどかでいいところだなァ、とは思うが。とにかく今は腹ごしらえが先決だ。
 
 
『海鳴市駅前パティシエ自慢の喫茶店のハンバーグランチ』
 
 
 に、しても。
「以外にこれといってないモンだな」
 駅前だからなにかあるだろうと少し歩いてみたが、これだというものが見つからない。
 ハンバーガー──学生か。
 ラーメン屋──昨夜も中華だったし、な。
 駅構内なら立ち食い蕎麦屋くらいあるだろうが、それもちょっと、という気分であり。
 なにか。なにかないか。探しながら、戻る。ちょうど学校帰りなのだろう、随分と小洒落たデザインであるように見える制服を着た、女子高生と思しき一団が擦れ違っていく。
 きんきんと、甲高い声。──着衣は違っていても、中身はそんなものか。
「と……イカンな、戻ってきてしまった」
 ロータリーが、目の前に広がる。
 駅前のバス停では、白い制服の小学生たちを到着したバスが吐き出していく。
 と。その向こう側にあった。
「あれは、喫茶店、か?」
 疑問を抱くまでもなく、それに間違いなかった。
 まさしく、絵に描いたような外見の喫茶店。『翠屋』ね。探せば日本全国にまだ十軒くらいはありそうな名前にも思えてくる。
 自然、足が向いた。だからといって、喫茶店に入って俺はケーキやらクレープやらが食いたいわけじゃない。腹が減っている。めしが食いたいんだ。
「食事はやってるのか?」
 店の前には、椅子に立てかけられた小さな黒板。喫茶店によくありがちな日替わりメニューのアピールというわけだ。
 赤と、白と黄色とで彩られているその絵は、きっとハンバーグなのだろう。隣にしっかりと『今月のランチ 手ごねハンバーグきのこソース ライスor自家製パン ドリンクつき』なんて書いてあるのだ、間違いない。
「ハンバーグか」
 手ごね。悪くない。ここにするか。
 指先が、扉の引き手に伸びていた。
 扉を引き寄せたときのその重さも、揺れにあわせて鳴るドアベルの音も、いかにもな喫茶店、という感じを醸し出していた。
 

 
「いらっしゃいませ」
 店内は広すぎず、狭すぎず。客の数もそこそこといったところか。
「あ……」
 一瞬、奥の席に座る一行を先ほどすれ違った女子高生たちと見間違える。 
 よくよく考えれば、そんなはずはない。単に制服が同じであったというだけだ、見れば髪型なんかもそれぞれ違っている。違っているはずだ。
「はーい。ご注文はー?」
「あ。表にあったハンバーグ、きのこソースてのを。まだいけます?」
「ええ、大丈夫ですよー。ライスにしますか? パンになさいますか?」
「ライス、食後にコーヒー」
「はい、少々お待ちくださいねー」
 眼鏡の女店員に注文を伝え、店内をあらためて見回すゆとりに従う。
 レジのところに、ショーウインドウ。並んでいるケーキ類はどれもこれも、一般的な喫茶店にしては手が込んでいるように思える。自家製なのだろうか?
 和風でなくとも人並み以上に甘いものは好きだが──手ごねハンバーグのやつのボリューム次第だ、な。
 マスターらしい男がコーヒーを立てているのは、ここからでも見える。
「こんにちはー、桃子さん、士郎さん。出勤でーす」
「おお、アリサちゃん、すずかちゃん。待ってたよ」
「お昼、忙しかったですか?」
 まずまずといったところかな、という店主の声が耳に届くころ、先ほどの店員が食事の準備をしに戻ってくる。
 それとお盆の上で湯気を立てているのは──スープか!
「はい、どうぞー」
 ミネストローネスープ。カップは小さいが具の野菜はたっぷり。玉ねぎと、ニンジンと。もっと欲を言えばハムなんか入っていてほしかったかもしれない。
 贅沢か?
「おー、二人ともおはよー。今日も大学、楽しかった?」
 だが、なんというかこう、前菜的な役割としてはほどよい。もっと外が寒ければきっと、ありがたいことこの上ない存在になってくれただろう。
 喫茶店にしては、なかなか悪くないじゃないか。
 次第に、肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。もうすぐだ。
「お待たせいたしましたー」
 きた、きた。
「うん、いいじゃないか」
 ──手ごねハンバーグ。
 大きさからいって、なかなかのボリューム。きのこソースはデミグラスでたっぷりと。しめじとマッシュルームが数切れずつ。ミネストローネとかぶらないようにかトマト味は控えめ。
 付け合わせはニンジングラッセにポテトフライ。ミニサラダには既にドレッシングがかかっている。
 ライス。おかわり自由というのが気が利いている。
 ケーキまで注文する必要は、なさそうだ。
「えー、どれにするー?」
「ん?」
 女子高生たち……いつの間にショーウインドウに。ケーキを選んでいるのか、張り付いている。見ているこっちはまあ、これで十分なのだが。やはりまあ、女の子というか、なんというか。
グラッセ……まずいとこのは硬かったり、薬みたいな味だからなぁ」
 ここのはうん、うまい、うまい。鉄板の上に置いていたからというより、つくりたてなのかまだシンからほんのりあたたかい。
 フライドポテトは少しこの全体量からは、くどいか──な。
「ま、上等」
 

 
 コーヒーも空。うん、人心地ついた。いい店じゃないか。
「830円になります」
 安い。煙草に火をつけて──この町、歩き煙草は禁止だったか? ──入ったときと同じくドアベルを鳴らし店を出る。
 ライスも二杯もおかわりしてしまった。少々腹が苦しい、食べ過ぎた。
「──フゥ」
 紫煙を吐き出す。
 ふとその向こうに、手をつないだ親子連れが歩いてくるのが見えた。
 いや。親子連れだろうか? まるきり似ていない、髪も顔立ちも。子供のほうはまるで外人、ハーフかもしれない。
 あちらさんは気付かず、すれ違う。
 背中のむこうでやがて、「ただいま」という声が聞こえた。
 振り返るとそこに、先ほどの親子の姿はなく。微かにあの喫茶店の扉が揺れている。
 常連か、従業員か。もしくはあの店の家族といったところだろう。
 なんとなく、自分の手にした煙草が、ちょうどすれ違った子供のほうの頭くらいの高さにあることが気になった。
 目とか。そのあたり。──左手だったら、当たってたかも、な。
「転ばぬ先の杖、ってやつか」
 一息に大きく、吸い込んで。それから靴底で、点けたばかりだった煙草を揉み消した。
「たまにはいいか」
 
                                     End.

 
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はい、というわけで正解は孤独のグルメとのクロスオーバーでしたー(ぉ