テンポあがってきたか俺?

てなわけでカーテンコール40話ー。あとたぶん十話くらい。
続きを読むからどぞー。
 
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 目の前にいる、敵。その相手について、ひとつひとつ与えられた情報を思い出していく。
 戦闘機人。タイプゼロ・セカンド。機械の身体、ノアとは異なる形とはいえその人ならぬ強靭な肉体にて生きる存在。
 スバル・ナカジマという名を持ち、明確な目的を持って聖王たるこの身に戦いを挑んできた。
 多くの、血も繋がらぬ者たちを。姉妹と呼び、家族として迎え入れ接している。そんな、人物。
 対照的だな、と思う。
「……ほんとうに」
 彼女のようには、兄弟姉妹たりえなかった。
 血を分けながらも、兄妹たりえ続けることのかなわなかった自分と、兄との関係とはまるで──正反対。
 兄の居場所を奪うことでしか自身であれなかった、自分とは、違う。
 王であるがゆえ。それだけに責任を求めるべきなのかどうかは、わからないけれど。
 ──『ありがとう』、か。自分は己が身についてそのように感謝したことはあったろうか? 出来たことは、あったか?
「残念です。もしあなたが側にいてくれたならと、思わずにいられない」
 違う出会い方をしていたなら、と。陳腐な言い回しをするならば、心からそう思う。
 彼女が臣下のままであってくれていたなら。自分は王としての振る舞いの中に幾分かの安らぎを見出せたのかもしれない。
 兄が、自身を怪物と認識するよりはやく。兄のためになにかできたのではないか。思わずにおれようか。
「でも、私は。──私は、『聖王だから』」
 たとえ分家筋とはいえ、自分はひとりの『王』として、独りになってしまった。
 だから。
「だから、勝ちます」
 エクセリオンバスター、だったか。破壊力、反動の点から推察するにあと撃てて一撃、二撃──おそらくは、渾身。その威力秘めたるスフィアを手に迫る敵対者に、聖王ノアは言葉を独り言のように投げる。
 自分は、兄が兄であるために。自分が聖王であるがゆえに。
 勝たなければならない。負けることは許されない。それが王の座から兄を蹴落としたノアにある、責任であり義務だから。
 兄から全てを、奪った以上は。
エクセリオンッ……!!」
エクセリオン
 彼女にとって渾身の技。そしてそれは、ノアにも可能な技だった。
「バスター」
 起動までのスタイルや威力の、大小はあれ。ノアはその技を見、聴き。学習している。
 大きいのがどちらであるかは、言うまでもない。
 飲み込まれたのがどちらであるかも、また。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第四十話 向かい風の中で 3 〜黄金の輝き〜
 
 
「……あった。これね」
 ひょっとしなくとも、自分は指揮官としては失格の行動をとろうとしているのかもしれない、という認識はある。
 また、それと同時に。
 外との交信が不可能──ゆえに、外の状況を確認し各所へと新たな指示を出すのもまた、指揮を執る者として必要なことだと、強引に納得したくなる自分もいる。
 それらをともに生み出す原因となっているもの。それは胸騒ぎに、他ならない。
 ギンガは今それを、抑えがたく思っている。
 贋物のみで構成された敵。そのリーダーとして現れた、やはり贋物。そして、本物の所在。妹たちの対しているはずの、相手。それらすべてが、ギンガを衝き動かす。また──他に動ける者も、ない。
「よかった。ここがゆりかごの表層部からさほど離れていなくて」
 もとより、ゆりかごを阻止限界ラインまでに止める方法はふたつ。いや、正確には、みっつ。
 ひとつは、ギンガが本来担うべき仕事。動力炉を、破壊すること。現有戦力でブラスターを搭載したスバルを除けば自分が一番、それに向いているということも承知している。
「ごめんなさい、スバル。やっぱりもう少し──遅くなりそう」
 ふたつめは、スバルが今挑んでいる。ゆりかごの起動キーたる聖王を、打ち倒すこと。そしてみっつめは、その両方。
 本来同時進行で進むはずだった二面の作戦を、遅らせることにやましさを、たしかにギンガは感じている。けれど同時に、スバルならばきっと、という信頼もまた、存在している。
「すぐ、戻るわ。だから、それまでは」
 だから見上げた先には、様々な注意書きと思しき表示とともに縁取られた、その一角がある。
 スバルに。ティアナに。エリオに、キャロに。彼女ら、彼らに、ここを預けて。元機動六課のストライカーたちを、信じて。後顧の憂いを、自分は断つ。……断って、みせる。ギンガは目を伏せ、静かに呼吸を整える。
「頼んだわよ──……『ストライカーズ』っ!!」
 そして、解き放つ。
 大きく見開いた切れ長の瞳の、ブルーでない『黄金色をした』、その輝きとともに。
 その力を。動力炉破壊に向いている、その“能力を”。リボルバーナックルを外したその左腕から、ギンガは頭上へと解き放った。
 艦の上部エア・ロック。そのハッチを、突き破るために。
 
*   *   *
 
 息が、つまる。つまって──ただ、苦しい。その困難さと痛みとが、身体を支配している。
「ノーヴェっ!!」
「くるな……ウェンディ……っ」
 あと少しだったのに。
 自分たちは、勝っていた。
 ひとりひとりでは不可能であっても、それぞれの役割を、互いの能力の限りを駆使して。強大な力持つ姉を上回ったのだ。
 なのに、最後の最後で思い至れなかった。
 自分たちが複数で挑んだのならば、相手の側にもまた同じく独りではないという可能性が所在しえることを、見逃していた。
 この激痛は。背中を斬り裂かれ倒れたディードは。ウェンディの前での失敗は──年長者にして司令塔であった自分のミスがために他ならない。
「惜しかったわねぇ。もうちょっとだったのに」
「ドゥーエ。すまんな」
 立ち並ぶ、姉二人。射撃型のウェンディがこの状況でつっこんできたところで、多勢に無勢でしかない。
「さすがは、妹たち。……ってところね?」
「ぐ……っ!!」
 だから、止めた。地を舐め、殆ど接したことのない姉よりの爪先を鳩尾へと叩き込まれ、悶え転がりながら。
「ノーヴェ……姉、さま……っ」
 自らも呻きそして、妹の呻くような声を聴く。聴いて、その上でどうすることもできない。
 形勢は逆転どころか、決してしまっている。
「ただ、やりすぎたわね。妹といえど敵対した以上は」
 足音と。見下したドゥーエのその声が続き耳を打つ。
 こつこつと鳴るそれは、トーレの靴底から発せられ。遠ざかっていく。
 この子には私がお仕置きを。あなたはあっちを──ドゥーエの言葉からその向かう先は明白、傷つき倒れたディードへと進む歩みに相違なく。
「逃げろ……ディード、ウェンディ……っ!! ここは──……」
「あら、ここはあなたたちが任された戦場なんじゃなかったかしら?」
「うあっ」
 この場を抑えるべきは自分たち。その任すらかなぐり捨てて、ノーヴェは残る二人の妹たちへ言を投げた。
 直後、浮揚感が全身に満ちる。そして苦痛も、また。
 今度は浴びせるでなく、跳ね上げるように──ドゥーエが蹴りを、くの字に曲がった体躯の中心へ叩き込まれる。
 転がって。のたうって。倒れ臥していた身体が、天を向いた。
 直撃を受けた鉄骨はいずれも、正確にノーヴェの生身である部分──即ち急所を狙い撃っていて。内部フレームをその圧力だけでおそらくはいくつか、破損させている。
 そのダメージもまだ、到底抜けていない。起き上がることなんて、程遠い。
 ただ、飛んできただけの運動エネルギーではないのだ。戦闘機人の筋力と、精密照準とによって的確に身体を撃ち抜いていったそれらは、ハンマーの破壊力持つ極太の矢というにふさわしい。
 もう、少し。せめてもう少し、休むことが出来れば。
「く、そぉ……っ」
 情けないったらない。
 自分は、ギンガやスバルに助けられてばかりで。
 そのくせ、任された仕事ひとつ、満足にやれやしない。妹たちを助ける事だって、姉たちのようにはいかない。
「ふうん、悔しいのね?」
 目尻に、熱いものが浮かんでいるのがわかる。
 嘲笑じみたドゥーエの物言いが、歯痒さに拍車をかけていく。
「だったら、それこそ敗因ね。自分の仕事に感情を持ち込む辺り、やはりあなたたちはまだまだ未完成品」
 両肘で、無理矢理上半身を持ち上げる。それだけで、小刻みに筋肉が痙攣してしまう。
「……っ」
 起こした瞬間に、複数のガジェットがノーヴェを取り囲んだ。
 ノーヴェを蹴り飛ばしゆりかご上へと転がした張本人、ドゥーエはその中を悠然と、静かに歩み接近をしてくる。
 ディードと。彼女を抱き起こしたウェンディも然り。同じく片手では足りぬ数のガジェットに囲まれ、近寄るトーレへと視線を注いでいる。
「局につかなければ、姉妹でいられたのに」
 状況は、『詰み』。これ以上、盤上にては返りようもない。
「残念ね」
 すっと、ドゥーエが右手を上げた。
 ガジェットたちがその目に当たるメインカメラ部を発光させ、その指令に従い蠢き始める。
 エネルギーがその機体たちそれぞれの中心部に、収束をはじめていた。
 そしてそれは、ウェンディたちを取り囲む機体群もまた、同じだった。
 
*   *   *
 
「ノーヴェ!! ウェンディ!! ディード!!」
 もう、見てはいられなかった。
 これまでは制空部隊の支援砲撃に徹してきたけれど、このままでは妹たちの身が危ない。
 指をくわえてなんて見てられない。こうなったら。
「ブリッジ!! こちら支援砲撃班、ディエチ・ナカジマ!! 航空隊から目標変更、ゆりかご艦上への支援砲撃を──……」
 妹たちへと向かい合う三番目の姉・トーレを照準のスコープ内に収める。
 この距離だ、超高速機動を可能とするトーレに当たるとは思わない。けれど、気を逸らして振り向かせることくらいはできる。
 一瞬の隙くらいしか、つくれないかもしれない。それでも、ないよりはいい。
「!?」
 ロックオン。あと、少し。引き金にかけた指に力がこもる。だが──瞬間、カノンへと搭載されたセンサーが警告音を鳴り響かせる。
 急速なる接近。捉えたのはその、一瞬の反応。
「なにっ!?」
 増援──新しい、敵!? とっさにトリガーから指を離し、振り返る。
 反応はより強く、そしてより大きく。速度をなおも増して。
 迫り来る。あまりにも疾く。ディエチの対応などそれこそ、その時点でもはや遅く。カノンを構えなおす暇なんて、ありはしない。
「うっ!!」
 見上げたその先を、閃光が駆け抜ける。
 一直線に。黄金の色をしたその光は貫いていく。止めるものなど、なにもない。その光量は、ディエチが思わず目を眇めるほどに、眩く。
 しかしそこに、敵意はなく。
 ただ。ただ──『任せて』。すれ違いざまその輝きが静かに、自分に向かいたったひと言、そう言ったようにディエチには聞こえた。
 思えた、ではなく。たしかに、『聴こえた』のだ。そこから発せられた、鼓膜ではなく感覚へと向けられた、聞き覚えのある思念の声が。
「あれ、は」
 飛び去る先は遥か遠く、姉妹らの戦うゆりかご、その戦場へ。
 閃光が、空を斬り裂き星船に進む。そこにあった光景はどこまでも、何度見直し言い直したところで──精密射撃に特化されたはずのディエチの目にすら──やはりそのようにしか、見えなかった。
 そして。
 そしてその神速は、わずかな刹那の後に。
「あれは……まさか」
 ゆりかごへと、到達する。同時に手元のセンサーは新たなる反応をもうひとつ、急激にゆりかご内部より浮上するエネルギーの変化を数値として捉えていた。
 噴流が、ゆりかご上部より湧き上がる。
 直後、ゆりかごへと一筋の雷光が落ちた。
 吹き荒れ唸りをあげる雷雲のもと、まさしく黄金の閃光が、ゆりかごに降ったのだ。
 星を、開放するために。
 雷鳴は、鳴った。轟いた。戦場の、空へ。
 
(つづく)
 
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