いや、精神的に。
ちと落ちる日々が続いております。
おかげで創作の筆が一次二次ともに進む進む(逃避行動)。
てなわけでダブルオー更新ー。
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やれる、と思った。少なくとも、その瞬間までは。
未熟を承知の、自分の操縦の腕であっても。そう快哉を上げられるくらいに、敵艦の弾幕はどこか散発的で、機能不全なものであったから。
だからルイスは、突き進んだ。躊躇など、まったくなしに。僚機からの制止など、歯牙にもかけず。
『──大丈夫ね? ハレヴィ准尉』
瞬間、急に弾幕がその濃密さを増した。精度を遥かに、向上させてきた。
『スミルノフ少尉も、ご苦労様。ハレヴィ機を連れて一旦、距離を』
結果として、守られた。愛機の片腕を破壊され、無防備となった矢先に──ガンダムに。
たとえ乗っているのが誰であろうと。それが僚機であろうとも。最も、手助けをされたくない、その相手に、だ。
羽根つきの、暗色をしたガンダム。それが同小隊に所属するアンドレイ・スミルノフ少尉のジンクスとともに片腕のシールドを掲げ、ルイスの機体へと集中するミサイルを防いでいた。
それどころか、返す刀で射撃を敵艦へと浴びせてすらいく。対空機銃を、的確に撃ち抜いて。
「あ……」
『聴こえている? ハレヴィ准尉』
女の声。それが前方のガンダムより発せられるものだと、ワンテンポ遅れルイスは理解する。でも、だからといって。
「しかし!! もう少しで……っ!!」
『もう少しで、落とされていたわ。──上官命令です、離脱します』
「……了解……っ」
素直にその言には頷けなかった。
承服には、歯噛みを伴って。それは相手が顔すら見せていない所為なのか、はたまたその乗機が『ガンダム』ゆえか。
不承不承に、ルイスは羽根つきガンダム──キュリオスより発せられる命に従った。
コンソール脇のキーを、操作して。
自機の後背部に搭載した黒のコンテナを、敵艦の装甲へと穿たれた損傷部へと向け、パージしながら。
Strikers −the number of OO−
Act.4 beyond the time (下)
その引き金を引いたのはけっして、沙慈ではない。
「──撃てないなら、かわって。あたしが、やる」
最後まで沙慈は撃てなかった。
自分から、やらせてくれと頼み込んでおきながら。その事実が彼自身を、茫然自失とさせる。
なにか、やらなくちゃ。やらないといけない。傷つけてしまった人たちのために。そう、心から思い衝き動かされたはずなのに。
「いいのか。……ええと」
「ディエチです。ディエチ・ナカジマ」
覚悟はできてます。イアン・ヴァスティへと告げる少女の掌が、震える沙慈の手を包み込んでいる。
そして、白い指先が沙慈の指と指の間から力を込めて、引き金を押し込んだ。
どうあろうと沙慈には撃てなかったそれをまた、二度、三度と。
愕然と。崩れるように沙慈は砲手席のシートからよろけ滑り落ち、空いたそこに少女の身体が入り込む。
脇の、コンソールにもたれて。沙慈はただ、脱力し放心するより他になく。
「姉として。妹たちの乗っているこの船を、落とさせるわけにはいかない。これでも砲撃は専門分野ですから」
「──そうか」
頼む、とだけ言って。本来は整備士である男は隣に陣取った少女にそれ以上の追及や確認をすることはなかった。
しかしただ、ひと言。ぽつりと。
「……撃てなかったか」
一瞬、沙慈へと目を向け、小さく呟く。いたわるように。それでいて撃てなかった沙慈へと、どこか安堵しているかのように。
少女もまた、同意するかのように、複雑そうな視線をひととき、沙慈へと移していた。
「それでいいさ。そのままで、いいんだ」
沙慈の耳をそうやって、声が抜けていく。
* * *
戦っている。『ガンダム』が。
それらは刹那でも、他のマイスターたちの駆る僚機でもない。見たこともない、機体たち。だがそれでも、わかる。
刹那には認識できる。それが──『ガンダム』であると。
「これでっ!!」
とある宇宙には、黒き羽根のMSと、緋色をしたMSとが剣を交え。
また異なる世界にては、蒼の機体と白き機体が瓜二つのその鋼の肉体を激突させる。
一方では大剣と無数の刃とが戦火の宇宙に斬り結び。
もう一方においてはメインカメラを深紅に染めて、ビームサーベル同士が鍔迫り合いを演じる。
ガンダムとガンダムの戦い、ふたつの異なる死闘はどちらもその間に、女の声をかき混ぜて。
たしかに、見えている。それぞれの戦場で。刹那への、イメージとなって。
いずれもの『ガンダム』たちの戦いが。脳裏に、呼び寄せられていく。刹那の中にイメージが、入り込んでくる。
「……!?」
それらが一瞬にして。ぶつりと音を立てるように、途切れる。
ダブルオーのコックピット内部、刹那の座るその狭い場所に鳴り響くのは耳障りな警告音、そして表示される機体異常の報告。
直後、衝撃。相手からの攻撃によるものではない──あとには、ゆらめく浮揚感が続く。
「ツインドライブが……っ? トランザムのオーバーロードか……!?」
それは着水。トランザムも限界時間を待たずその機能を停止し、機体の駆動系が完全に──落ちてしまっている。
操縦桿を押しても、ツインドライブの太陽炉それ自体がエラーを起こしているのではどうしようもない。反応は、なく。
「!!」
立場はあっという間に逆転していた。
押す刹那と、耐える敵機。その構図はあっさりと、いとも簡単に。
二本角の赤い機体が、波間に浮かぶばかりのダブルオーへと抜いたビームサーベルの切っ先を、突きつける。
刹那には、知る由もない。そのとき。その機体のコックピット内にて。自分が『斬る価値もない』と断じられたことなど。
「──退く、だと?」
トラブルに乗じる。動けぬ敵へと止めをさす。そんな戦場におけるセオリーが守られなかったことについてばかり、ゆえにただ刹那は呆然とする。
無論、敵機は退いた一機だけではない。そちらが見逃したとしても当然、他までがそうだということはさにあらず。
ジンクスが。アヘッドが、入れ替わりに迫る。しかし──それらもまた散っていく。
『刹那!!』
「ティエリア!! ロックオン!!」
後方より飛来する、仲間たちの支援射撃が、そう敵機を動かしてくれた。
そしてその、直後。
『スモークを!! 後退します!!』
またひとつ、声。
「スメラギ・李・ノリエガ!? 目覚めたのか!!」
倒れていた戦術予報士よりの、福音に等しいそれが届く。
そして彼らの母艦は艦長ともいうべき人物よりの指示に従い、煙幕弾を搭載した魚雷を即座、発射し。
両脇を抱えた白とグリーンの僚機、二機に支えられ。刹那たちもまた後退を開始した。
* * *
MS同士の戦いは、それで終わりだった。だが。
「……なにっ!?」
戦闘は。そこまでで終結ではない。
砲火はもう、過ぎ去っている。間もなくMSたちが帰ってくる旨も、女性オペレーターの声で艦内に流れた。
しかし、それとはまったく別の問題として。
揺れる。揺れている。自分たちの足場でもある、この艦そのものが、だ。
『『Master』』
そんなとき。妹と、自分と。互いの胸の、六角形の宝石が声と光を発し、告げる。
異状を。──彼女らの感知した、危機を。
「サイクロン?」
「どうしたの、マッハキャリバー」
ノーヴェとともに、問い返す。一体どうしたのか、と。それぞれの愛機に。
そして対する応えは、簡潔。
『Enemy(艦内に、敵です)』
──曰く、マッハキャリバー。
『(反応、多数。例の質量兵器──及び理由は不明ですが、ガジェットの混成)』
「ガジェット……だって?」
サイクロンキャリバーも、また。
彼女らの言葉に、声を上げたノーヴェと同じくスバルも目を見開く。
敵。侵入をゆるしたというのか。スバルは実際に見てはいないにせよ、聞かされ存在は承知しているその質量兵器、『オートマトン』とやらを。
いや、それ以上に──そう、ガジェット。胸に光る愛機は本当に今、そう言ったのか?
なぜ。魔法やそれに類する技術のないこの世界にどうして、あんなものが。
……本当に?
「スバル」
「……っ」
本当に、来ているのだとしたら。
その製造目的・利用方法──ならびに、ノーヴェから伝えられたオートマトンの非道からいって、ひとつしか考えられない。
「ガジェットや質量兵器ぶっ壊すのまで、止めたりしないよな」
「ノーヴェ……っ」
そして、考えこむスバルより。行動は妹のほうがずっと早く。
「あたしは、行くぜ」
「ノーヴェっ!!」
背を向け、駆け出していく。
伸ばした掌に、振り返るということもなく。
妹が。戦場へと走り去る。
『Master』
とっさにも追いかけきれず、スバルは俯いた。その耳に、愛機の問うような声が入ってくる。
どうする。この、テロリストたちの艦の中にあって、自分は。
ディエチも。そしてノーヴェまでもが戦うことを選んだ今、どうするのか。
なにを、すべきなのか。
「……マッハキャリバー!!」
答えは、まだわからなかった。でも身体は、動いていた。
相手がガジェットならば、という思いはけっしてゼロではなかっただろう。しかし考えるより、動くことをスバルの肉体は選んでいた。
いや。選んだのではない。本能と衝動に、従ったのだ。
「敵機の数の探知、急いで……。行くよ、いいね」
『all right』
姉として。妹だけを戦わせるなんてできないから。
自分は、特別救助隊員であり、その銀服を身につけているのだから。
誰がどうとか、その立場がなんだとかは、関係なく。
たとえそれが、テロリストの艦であったとしても。ただ、目の前で危機迫ろうとしている人々がいる。危機に対し有効な対策を得られるかどうかもわからない相手がいる。
目の前に、だ。ならば。
ならばその危機を打ち払う。危機から、救う。それが、自分の仕事であり役目に、他ならないのだから。
ゆえに──スバルは。ノーヴェを、追った。
* * *
「あっ」
声に、マリナ・イスマイールは振り返る。
破壊された基地より移送された、カタロン支部のひとつ。
輸送機によって運ばれてきたトラックよりの降りしな、せめてこのくらいはと資材の箱をひとつ、両腕に抱えたまま。
同じく難を逃れてきた、幼子たちのひとり。その少年がでこぼこだらけの不整地の地面に足を取られ、荷台からの着地に失敗し膝をしたたかに打ち付けている。
「あ──……」
駆け寄って、助け起こすべきだと思った。
相手は年端もいかない小さな子供。擦り剥いた膝の痛みに、両脚を投げ出して今にも泣きそうになっている。
「あーりゃりゃ。こけちゃったか、ほら。しっかりしなー」
しかし、投げ出すわけにもいかず、両腕の荷物が邪魔をした。
その隙に、すっとひとつの影が少年へと歩み寄る。
両脇を抱えて、彼を立たせて。一方で自身はしゃがみこみ、ぱんぱん、と両脚から土埃を掃ってやるその体躯はけっして大柄なものではない。
そして、なにより。その髪の色は独特だった。
「ほーら。あっちでバンソーコー貼ったげるからさ。男の子だから、泣くなー」
汚れを掃い落とすと、少年を抱え上げ振り返る──それはマリナにとって旧知であるシーリン・バフティヤールの服装に近いだろうか、タートルネックにパンツルックの、ただしかし軍用ベストを軽く羽織った、翡翠色の髪の毛の少女で。
歩みの向きがマリナと同調し、横に並ぶ。やがて、マリナからの視線に彼女も気付く。
「すいません。わざわざ」
「あー、いや。別に、こういうの慣れてるからさ」
こういった人も、この組織──カタロンにはいるのかと思う。頭に浮かぶのはソレスタルビーイングの艦で色々と世話になった二人の若い女性オペレーターの顔。フェルト・グレイスとミレイナ・ヴァスティ……どこも、こんなものなのだろうか?
「商売柄、ね。アタシ、もともと本職、シスターだからさ。これでもちびっ子の扱いには慣れてるつもり」
「シスター? あなたが?」
からからと、軽やかに少女は笑った。
シスター。聖職者がよりにもよって、どうして反連邦組織なんかに。つい、マリナは思わずにはいられない。
「ちょっとワケありでね。アタシも居候の身だけど、歓迎するよ。ええっと」
「ああ、はい。マリナです。マリナ・イスマイール」
「はい、はい。マリナさんね。あたしはセイン。よろしくね」
言ってやっぱり、少女はもう一度笑顔を見せた。
(つづく)
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