更新します。

 
現在実家なので手短で申し訳。
カーテンコール更新。
 
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閃光が、交差するところ。そこに激突が、生まれている。
 刃と、刃。戦闘機人と、魔導師と。あまりの疾さゆえそれらは見る者たちに対し人としての、モノとしての形を捨て、ただ光の筋となってその瞳へと投射されていく。
 二人だからこそ、ほんの二条ばかり。しかしその実、双方の間には数え切れぬ応酬が行き交うのも至極当然でもあり。
「はあああぁっ!!」
 ハーケンでは、間合いが長すぎる。巨大で取り回しのモーションひとつひとつが広がるザンバーなら、なおさら。
 ライオットは。……リミットブレイクの負担は、今の自分の身体状況ではおそらく──……。
「て、ええええぇぇっ!!」
 ゆえの、アサルト。漆黒のその機体で、光刃の翼を防ぎ、さばき。弾き。そして、打ち返す。斬撃を、見舞っていく。
 見えなくたって、それはフェイトにとって『可能』な戦い。
 無茶は多少あっても。けっして、無理ではない。なのはのため。ヴィヴィオのため。ユーノのため。そして教え子たちのためにこれは必要であり、可能とすべき無茶だ。
 互いを弾きあい、降り立ったゆりかごを踏みしめる。再び、天に舞い躍る。
バルディッシュ!!」
 刃と刃の打ち合いは、どちらにとっても有効ではなく、均衡する。それが戦斧ひとつであれ、両手足の四つであれ。
 六つの光を従え、フェイトは利き足の筋肉を、強く踏み切った。プラズマランサーが、トーレを襲う。自らの放ったその速度すら抜き去らんと、更にフェイトは命じる。
 対し、同じく神速持つ戦闘機人もまた。叫ぶ。
『Sonic move』
「ライドインパルスッ!!」
 そして幾度目であろう、また両者は、ぶつかりあうのだ。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第四十三話 力の使い道
 
  
 まるで、過去の記憶がフラッシュバックしてきたかのようだった。
 自分とティアナの同時攻撃。あのときもこんな風に防がれて。実力差を嫌というほど、思い知らされて。
「あ……っ?」
 自分たちだって、そのときのままじゃないはずだった。
 どちらが囮ということもない。どちらを危険に晒すでもない。全力を載せた同時の二点攻撃に、その意味合いは進化して。
 六課の頃なのはさんに叱咤されたそれでは、ない。
 上空よりの完全な奇襲であるティアナの砲撃が、スバルの振動拳のための隙を狙い。
 スバルの真正面からの攻撃が、破壊力に劣る彼女の一撃を通さんと注意を向けさせる。
 相互に補いあって、相互に必倒を狙う。そんなコンビネーションだった。
「ティ……あ……?」
 爆風に舞い上がった土煙の中からしかし、それは現れた。
 現れてしまったから。スバルは、失敗を悟る。
 双頭剣が、二振りの大型剣へと分割している。それぞれそうすることで、聖王が左右の手に握られている。
「聖王の戦闘技……聖王の力、使いこなすとはこういうことなのですよ、タイプゼロ・セカンド」
 左は、その刀身を盾がわりに。スバルの拳へ立ち塞がり、そこにこめられていた破壊力を殺し。スバル自身の姿と、驚愕に見開いた瞳とを、磨き上げられた表面に映し出している。
「カイゼル・ファルベ……エース級、高出力の戦闘機人レベルであればともかく、単なる射撃型、一介のAランク魔導師の砲撃など」
 一方で、右手の片割れは、天高く。
「防ぐまでもない」
 彼女を、貫いている。貫き通し頭上を指し示している。
 スバルの相棒。ティアナ・ランスターの身を包むスターズスタイルのバリアジャケット、その黒いワンピースの、脇腹から背中を。
 溢れ出す液体にて深紅に染まってしまった白いベストの中心から、その先端を刃が覗かせている。
 聖王に対し献上された供物とでもいうかのように刺し貫き、ぴくりともせぬ赤毛の魔導師を高く掲げている。
 滴る血は、聖王が着衣を濡らし。それに受け止められぬものは床を打ち。
 それらに続くように、はらりと。ツーテールにまとめられていた頭髪から、ひとつリボンが抜け落ちる。
 一瞬遅れて、塊が。彼女の喉より溢れた、固形にすら見えかねない紅の体積が、微かな濁った声とともに吐き出され──その黒リボンを赤に塗り替える。
 やはり、ぬらりとした液体として。
「ティ……」
 そしてほどなく、彼女の肉体も血と、リボンと。それらを追う。
「ティアアァァッ!!」
 刃が切っ先から、強く振り払われて。
 風に揺れ落ちた自身のリボンのごとく、剣引き抜かれた身体は無造作に虚空へと躍り、床面に落ち転がり。
 そこを、舐める。全身を抵抗なく、投げ出していく。
 小さな、呻き声とともに。描いた軌跡を床に描く、血の絵の具を残して。
「さて」
 それらすべての行動を。聖王・ノアは──ティアナを、一瞥だにせず、まったくの他愛もないことであるかのように、行いきった。そしてその目は今度は、スバルを向いていた。
「状況が、戻りましたね」
「……っく……!!」
 親友への心配など、させてもらえる状況ではない。
 とっさにスバルは、身を引いた。右腕と左腕、両腕を重ねて、ガードを固めながら。
 それでも王は、より強く踏み込んでくるでもない。
『Saber』
 ただ、規定された動きのごとく静かに、左右の掌中にある剣を上下、連結させる。──両刃の付け根にある宝玉が発した声が、そこに重なる。
「戦意を失わぬなら、戦闘不能にするまで──急所は、外してあります」
 直後、刃が閃いた。
「王として。無闇な殺生は好みません」
 光が、迸った。
 左半身が急激に軽くなったのを、スバルは閃光の眩さの中、感じた。
 左の、肩から先が。
 ──前は、右腕だった。そして、今度は。
 そのときそこにあった一瞬の痛みを、スバルは知っていた。
 目の前で、師を。なのはを奪われたあの瞬間に感じたものと同じそれは、既視感を呼び起こす。
 ゆりかご甲板上での、右腕の喪失という、かの記憶を。
 右か、左かだけ。それだけの小さな違いが、思考を戸惑わせながら。
『Buster』
 それすら消し去らんというほどに直後、光の噴流がスバルを、無慈悲に飲み込んでいく。
 遅れやってきた痛みすら、彼女とともに。
 捥がれ落ちた左腕だけを、僅か後方に残して。
 スバルの姿をほんのひとときであれ、この世界から、覆い隠していく。
 
*   *   *
 
「──スバルっ?」
 感じた。思った瞬間の隙に、敵は離れていく。
 あちらとて、ナンバーズのNo.2。こちらへの警戒に、抜かってはいない。
「……タイプ・ゼロファースト」
「ギンガです。ギンガ──ナカジマ」
 黄金の眼差しで、ギンガはそれを睨みつける。
 大丈夫だ。今のところは、まだ。まだうまく、“制御できている”。
「あなたのIS──データにはない。一体、何?」
「さあ……ねっ!!」
 一気に距離を詰める。叩き込むそれはかつての自分には、過ぎたものだった力。
 少なくとも。ナンバーズが父たる、ジェイル・スカリエッティが手に、落ちるまでは。ギンガには、制御し得なかった。
 避けられる、その拳に纏った力。代わりに穿ったゆりかごの表面装甲を腕力以上に、“押し潰す”、その力。
 放たれた方向、一直線にではなく。螺旋を巻いて、捻じり上げるように。
「あなたたちの生みの親──ジェイル・スカリエッティのおかげ」
 彼の改造を、一度は受けたからこそ。今、自分は制御できる。
「実体のないもの。魔力弾や砲撃には無防備なこの力を、彼が不要と切り捨てたからっ!!」
 代わりに与えた、高速回転による打突の一撃。そう──すべて押し潰すこの力は、『回転』、肉体に覚え込まされたその二文字によって安定した。
「IS──『圧搾破砕』ッ!!」
 ドゥーエの後退に、追いすがる。
 リボルバーナックルを外したのは、制御してなお、愛機を砕かんがばかりのその破壊力のために。
 ただ、押し潰すその力を発散させるだけではない。かつて左腕自体がそうであったように、今彼女の腕に纏いつくその破壊的な脈動は、螺旋に渦を描いている。
 だから。穿たれたその場所は、独特の傷を刻む。
 圧力が、砕きちらし。そして捻じっていった固有の文様を、そこに。
 物理的な障害はすべて圧力の下吹き飛ばす。けれど魔導師相手には、実体を持たない光の粒子としての魔力には無防備の、まさしく対物・対戦闘機人に特化されたスバル以上に極端なそれが、ギンガの本来与えられた力であった。
「っ!!」
 頭上より振り下ろされる、鉤爪がある。
「──あなたの」
 ギンガの放つ圧縮の力場はそれすら巻き込み、縮れた破片に変えていく。
「あなたの刃は、私には届かないっ!!」
 ナンバーズの次女が、その光景に目を見開く。
 もう、擬態し姿かたちを眩ます以外の手段を──あくまで諜報・隠密を主体とする彼女は術として、持ちえていない。
 一方たたみかけるそのために、ギンガが振るうのはただ力だけではない。たゆまぬ努力と研鑽とによって積み上げられた体術のもと、繰り出される水面蹴りと、そして──……、
「この……!!」
「は、あああああっ!!」
 妹たちの借りを返すべく、想いをこめ的確に鳩尾を打つ、彼女にしか放てぬ一撃と。
 ゆりかごに、女戦闘機人を縫い付けるように、振り下ろす。
「螺旋……圧搾拳っ!!」
 めきめきと、骨格を砕いていく感触がわかる。手ごたえは、確かだった。
 甲板を構成する装甲材が、ドゥーエもろとも周囲に凹み罅割れる。
 煙が、吹き上がる。反動で、敵として向き合った女性の四肢が跳ね上がった。
「……ギン姉……っ!!」
 遠くで、ノーヴェの声が聞こえた。瞳に差していた金色が、色を失い元の虹彩へと、戻っていく。
 ようやくそこで、ギンガは息をついた。足元でもう、ドゥーエは動かない。
 生命活動を示す胸の上下運動だけで、あとは微かな痙攣ばかり。能動としては、なにも。
 ナンバーズと、ナカジマ家と。
 戦闘機人と、あるいは人間として。
 この場においては少なくとも、その姉として勝利を得たのはドゥーエではなく、ギンガであった。
 
(つづく)
 
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