カーテンコール50話。
わりとさくさく書けたので久々にさくっと更新です。
なのは以外にも色々書きたいのがたまってるけどもまずはこの完結を優先せんと。
web拍手レスー
>なのはさんの活躍を是非…
もう少しお待ちをー。今回ちらっと伏線張ってますから。
>「これまで、です」か・・・それは聖王自身にも言えることなんじゃないかとこれを読んでいる時点で思った。
まあ、あと数話ですしね(メタ発言を書いてる本人が言うなよ
さて、では第五十話。つづきを読むからどうぞー。
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「砕け、ろおおオオォォッ!!」
すべてを、絞りきる。だからそれまで保ってくれ。
ノーヴェは、願う。自分自身に。ジェットエッジの機体に。それを制御する、サイクロンキャリバーのAI回路に。蹴り足の先で楔となり破壊力に耐えそれを伝え続ける、ストラーダに、だ。
もう少しでいい。あと少しだけ。この動力炉に、ヒビが入るまで。道を拓き──こいつを、壊すまでは!!
割れろ。
割れろ──割れろ!!
「踏ん張れ、サイクロンっ!!」
破壊のエネルギーを、紅蓮の炎として。ノーヴェは身に纏い、遮二無二念じ、それを防壁へと放ち続ける。
焼けつくような熱さの中に、ノーヴェはいる。
頑張っているのは、自分たちだけじゃない。自分たちも、他の皆も。すべての頑張りを無駄にせぬため、ノーヴェはひたすらに、咆哮する。力を、放ち続ける。
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
第五十話 開門
光が途切れ、去った場所に、両腕を失った戦闘機人が取り残されていた。
物、言うこともなく。膝を折り頭を深く垂れて。まるでそれは、立ち往生をしているかのように。
彼女は、構えない。構えるべき両腕は既に、その肩から先にない。
ただただ、ずたずたの身体で擱座し、貫くのは短くも長い、沈黙。
「──スバルっ!! あんた……ねえっ!! スバル!!」
友の呼び声が、空しく響く中。事切れたかのようにじっとそこに、彼女は佇んでいた。
そしてそれを見下ろす、王もまた。そこに、佇んでいる。
千切れた着衣より露出した右肩を押さえ、その傷をつけた魔導師同様、まんじりともせず。
聖王の戦装束。その引き裂かれた右半身、それだけが唯一──スバルの対抗できた証。スバルの報いた、一矢。
「ここまでやられるとは、思いませんでした。タイプゼロ・セカンド」
「スバルッ!!」
ほんとうに、これだけだったのだろうか。
ここまで。これまでだ──王は、思っていた。
まだだ。こんなところで、終わりじゃない。そう思ったからこそ、その相棒は声を張り上げていた。
その意味では、敵対する者。轡を並べる者。両者はまるきりの好対照に違いなく。
「スバル!! あんたまだ、やれるでしょうがっ!! なのはさん、助けるんでしょう!! レイジングハートに、助けてくれって!! なのはさんを、託されたんでしょう!! なに、ぼうっとしてんのよ!!」
「──無駄です。彼女にもう、戦闘力はない」
厳然と言い放つ聖王に、捕らえられたままもがき、叫び続けるティアナ。
「起きなさいよ!! まだ、あんた……なのはさん、助けてない!! 今あたしもそっちに行く!! こんなの振りほどいて、行ってたたき起こす!! だから……っ!!」
*
それを、彼女は瞳に映していた。
見るという、行為によってではない。その瞳の、内側に。己が機体のセンサーに捉えたその映像を、エースオブエースと相対するそのうちにあって同時に、知り続けている。
「私、は。どう、したら」
思考と映像とに、ダイムは埋没する。
こんなにも立ち向かい続けている、魔導師たちの姿に目を奪われて。
王が、王としてあることは果たして、王自身の意志のためなのか? それとも。──わからない。わからない。
自分は、ダイム。王のために生み出され、王のために動くデバイス。すべては、王のため。その意をなすために。
どうすればいい、なにができる。
王に仕えるための自分は、王のために、一体。
思い、ダイムの視点はその間もめまぐるしく移りいくつもの光景を交互に映す。
膝を折った戦闘機人──タイプゼロ・セカンド。
自身が捕らえ、拘束する、手負いの魔導師。その、必死に呼びかけ続ける様相と。
あちこちが砕け破損した玉座の間に転がる、二本の腕。
王の、見下ろすそれら。そして眼前のエースオブエースが、微笑んでいる表情もまたそこにサブリミナルを刻んでいく。
「どうしたら、じゃないよ。……言ったじゃない」
「っ」
けっして自ら望んだわけでもなく、そうせざるを得ないと、納得せざるを得なかった。──それを受け容れてしまった、聖王。
他の誰でもなく、その王のためにダイムができること。
王に。いや、王だからではなく。主だから。その、仕える存在として。
「どうしたいか。あなたの大切な人に、自分がなにをしたいか。あなたの、意志で」
ただ、まっすぐに。
自分が思う、願うこと。
こうでなければならない、ああでなくてはいけないという不確かなルールに縋ることなく、それらよりも、なによりも。
今此処にいる自分がしたい、真実は。
大切な存在は──王。何代、どころでなく。紡がれてきた血筋の現段階での終着である王になってしまった少女を、自分は──……、
「私のこの想いは、ただ王のデバイスとして生まれた、そのためだけの単なる機能、本能にすぎないのかもしれない」
けれど、たとえそうだとしても。
「私は、王を、いや、『ノア』を。主を──主自身のために、生かしたいと、思う」
それが天上の星の下、いくつもの王に仕え、けれどただ今はノアへと仕えるためここにいるダイムにとっての、願いという真実だから。
『──……っ』
『な……?』
そう、辿り着いた。──瞬間、その聖王が目を見開いたのを、知った。同時にまた、ダイムの前に立つエースオブエースも、何かに気付いたように、自身の周囲を見回す。
「……これ、は?」
王の前では、微かに敗者が動き出そうとしていた。
持ち上がらず。持ち上げられず。けれどそれでも、蒼い髪の魔導師は自身の首から上を己の意に従わせんと、細かに痙攣をさせ、呻き声を漏らして。
「私の願いを。王のためにできることを、します」
エースの前には、光が瞬いていた。次第にそれは集まり、彼女の全身をくまなく発光させ、包み込んで。比例してダイムの前で彼女はその輪郭を徐々に、薄めさせていく。
『そんな。もう、動けるはずが』
今此処で起きていること。それはダイムによって。けれど王の前に顕現している出来事。それは、自然発生的に。──機械の身体持つ、一度は沈黙した魔導師自身がこじあけた、意志。
王が半歩、たじろいだのがわかった。烈しさを宿した、ふたつの瞳からの眼力がノアをそうさせたのを、ダイムもまた見ていた。
「『ヴィヴィオ』……王が記号としての王でなく、その名で意志を持つことができる。そうさせてくれたあなたたちにならば、ノアを任せられる」
だから、ダイムもそこへ行く。エースの前から、遊離する。
戸惑いの表情を浮かべる高町なのはへと、言葉を残して。
本来、存在する自分の身体へと、ダイムは戻る。
そして、彼女はデバイスとして。己の『腕』を、伸ばした。王では、ない者へと。けれどそれは、王のために。
*
「──っ?」
王の船が、ゆく。それを見るのはなにも、中にいる者たちだけではない。
「聖王の、ゆりかご」
左右異なる色をした瞳もまた、それを見つめている。紺と、蒼と。その双眸に深い、複雑な色の光を湛えながら少女は、ニュース映像の中の巨大な船を、見やる。
それまで握っていたダンベルに代え、側に置いていたタオルを、手にとって。日課となっている鍛錬の、最中に。
彼女自身にとっては見たことのないもの。けれど記憶が、深く知っているそれに、沈黙する。
そして──もうひとり。
見ているのはもはや、映像ですらなく。
かつてそれが群れを成し空を舞っていた時代を、直接に体験し知るからだろうか。夢に描く者が、眠っている。
まだ。そう──『まだ』、その眠りは、安らかではない。あと、もう少しだけは。
しかし、その両者はともに。
聖王の戦いを、聖王の船を。じっと、見守っていた。
──『覇王』。そして、『冥王』。彼女らはいつか先、そこに戦う者たちと出会うことをまだ知らない。
*
スバルが、自分の声に応えた。そのことに──ティアナとて、一瞬安堵しなかったわけではない。
明確にこちらを見ずとも、返事はなくとも。スバルが、顔をあげた。聖王が、たじろいだ。それだけでティアナは、まだスバルが戦おうとしている、そのくらいはわかる。
「スバ……ル……?」
でも、なにかが違う。それだけじゃ、ない。
スバルの身体が──光って、いる? ……いや。
「光り、はじめて、る」
言った瞬間、輝く。
スバルが、ではない。それは、彼女の胸元で。
「──!?」
ティアナを捕縛している聖王のデバイスが、輝く。その中心。その核であろう、宝玉が。次第に、そして強く、光を放つ。
その光は、ひとつの方向へとベクトルをやがて固定し。スバルの胸を、撃ち貫く。
しかしそれはスバルへとダメージを与えるわけでも、止めを刺すでも、吹き飛ばすわけでもなく。
スバルをそこに、固定する。まるで何者かの見えざる手が、彼女をその場へ立たせるかのように。両腕なき彼女の背筋に、ぴんとひとつの正中を、張り詰めさせる。
「これ、は」
王が、戸惑っていた。けれどそれは、ティアナとても同じこと。
これは、なんだ。一体何が、起こっている。──次の瞬間、声を聞く。
──王を止めるため。そして解放する、力を。
ティアナには、そう聞こえた。
直後、デバイスの噛んだ、突き刺さった背後の壁面に光が走る。
原子のひとつひとつ、すべてに浸透するがごとく。
まるでそれは、血液の脈流が、ゆりかごという全身をくまなく、駆け巡っていくかのように。
──『ヴィヴィオ』。あの聖王と、同じように。
「っ!?」
そしてティアナは、解放された。
四方に開く牙を形成し、拘束をしていたデバイスが、その顎を開き、噛み付いていた壁面から離れたがため。
突然のことに、思わず前に倒れかかり、片膝をつく。だがそんなティアナをおかまいなしに──漆黒のデバイスは離れてゆく。
まっすぐに、伸びて、伸びて──三方向にわかれ、その三点を、結ぶ。
「一体っ」
つまり。
スバルと。彼女の肉体より離れし、左右の腕とを、繋ぐ。
その変形と、動きとはまるで無茶苦茶。一体、どんな構造をしているのだ、これは。
ティアナが知る由もないそれは、レイジングハートの姉妹機ゆえ、むしろレイジングハートにも『受け継がれた』、使用者の意志を実現するための可変。
高町なのはのイメージを受け、彼女の力を発揮するため顕現したレイジングハートが、『杖』の姿かたちをしていたように。
ダイムもまた今、力を発揮させようとしている。
スバル・ナカジマの残された、その身体のうちにある戦闘力を引き出すための、それが動きだった。
「ダイム。あなたは」
「スバル……スバルッ!!」
もうひとりを、『助けながら』でも、ダイムはそれをやろうとしていた。
どちらか一方ではないぶん──そちらはまだ、少しかかる。
ティアナたちの頭上で。ティアナたちに気付かせることもなく。エースオブエースの、囚われた指先にひとつ、その証左がぴしりと、微かに壁面に浮かび上がって。
まだ、こちらは動くには、到らなかった。
けれど、もう──スバルとダイムは、『動けた』。
噴流。
強く眩い光に、ティアナは思わず目を覆った。僅かに細めた瞳が、それをガードする聖王を、見た。
まさか──……ディバイン、いや。エクセリオンバスター、なのか?
「スバル、なの?」
スバルのバスターが、あの強大な聖王を一方的に、押し込んだ。
ティアナの理解は、同時に正解でもあった。
「──これは」
聖王の、呟き。その投げられた先に、バスターを発射した態勢のまま、スバルが佇んでいる。
インナーは、相変わらずぼろぼろ。
だけれど彼女には今、両腕があった。
「ダイム。これは、どういうことですか」
バスターの残滓を、蒸気として拳より立ち上らせて。
黒い、金縁の上着と外套とを身にまとって、スバルは再びそこに立っていたのだ。
膝を折ることもなく。力尽くこともなく。
右腕に、レイジングハートを。それを内包した愛機・リボルバーナックルを。
左には、まったく相似な形状に変化した、リボルバーナックルそっくりの、──それは色のみが漆黒に染まった鉄拳である──ダイムを装着して。
左右の拳と、その左右のデバイスを、彼女は構えた。
蒼い炎となった魔力が、その両の拳を、焦がしていた。
(つづく)
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