肩だ! 腰だ! 足首だ!

 
 トミージョン手術を受けにアメリカ行きたい気分です。
 蓄積疲労で関節がいろいろやばいです。アンメルツヨコヨコかかせねえ。
 
 それは置いておいて、まどマギss二話でございます。
 少しずつ、話が動き出す感じです。
 
 続きを読むからどうぞ。
 
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 ひとつ。ふたつ。みっつ──よっつ。もっと、いる。
 魔獣の数は多い。さながら壁のように、群がるその最前列だけで、数えることを無為に思わせるほどに。
 
「──?」
 
 だから。数えるかわりに、暁美ほむらは視界の隅にふたつ、影を捉える。
 紅と、橙。遅れ駆けつけた、ともに戦う魔法少女たちの姿を。
 だけれど、彼女たちに出る幕はない。もう、これで終わる。終わらせる。
 少女たちの姿に動作を止めることなく、弓に番えていた無数の矢を引き絞るその手を、ほむらは開放する。
 この、弓で。この力で、魔獣は倒す。
 そしてほむらのその意図の通りに、放たれた矢は一矢たりとて照準を外すことおなく、古びた襤褸に包まれた魔獣たちの肉体を、その中心を射抜いていく。
「お前、早すぎ。ちっとは合わせろっつーの」
 すぐ背後に追いついた佐倉杏子が呆れたように言う中、三人の佇む周囲にはそのとき既に無数のグリーフシード、その結晶体が散らばっていたのである。
 軽い音を立てて、それらはばらばらに、地面へと落下し転がっていく。
「それが私の使命だから」
魔法少女としての──……ってか?」
 杏子の言葉に、手近にあったグリーフシードを摘み拾い上げながらほむらは返す。
 そう。これは自分が遣らなくてはならないこと。
 この、暁美ほむらが、「あの子」のために。
魔法少女は、私ひとりだっていいのだから。あなたたちも無理に戦う必要はないのよ、佐倉杏子巴マミ……さん。グリーフシードが必要なときは言ってくれれば──……」
「ハッ、ジョーダン」
 ほむらの言にしかし、杏子は首を左右に振る。どこから取り出したのか、棒つきのキャンディを口許に持っていきながら。
 
「誰かのためにやってんじゃねーよ。あたしがやりたいから。こうやるんだって決めたから、魔法少女続けてんだ。余計な気、回すんじゃねーよ」
 
 魔法は、人のためにならない。自分のためにしか使わない──それがポリシーであったはずの少女は、その主義に一見沿っているように思える、そんな言葉をほむらに投げかける。
「佐倉さ──杏子ちゃん」
 微笑をする、巴マミも。そしてほむらもそのロジックが実際のところ、従来彼女の従っていた主義とは乖離をしていることをわかっている。
 わかっているから、なにも言わない。
 彼女が、彼女のためだけに戦い続けているのではないと二人、ともに理解しているから。
 この世界、この時間において彼女をそのように変えたのが今はなき蒼の魔法少女だということを、程度の差こそあれ二人知っているからこそ。
 杏子にとって。たったひとり「友達」になれた魔法少女がかつて、いたのだから。
「そう──そうね」
 
 美樹さやかが、彼女を変えた。
 変えることのできた世界を、杏子は、マミは、ほむらは今生きている。
 
 そして。
 さやかが彼女を変えることが出来た、その結果を得ることを可能にしたのは──「あの子」のおかげ以外のなにものでも、ない。
 
「お、おい?」
 大丈夫だ。まだ。まだ……私は。彼女のことを覚えている。
 彼女がいてくれたから、マミも、杏子も。ほむらだって今、ここにいるのだ。さやかだって、杏子の運命を、心を変えられた。
 ふっと心に浮かべた「あの子」の姿は、ほのかにぼやけつつもまだ鮮明で。
 ほむらはそのことそれ自体に安堵する。安堵した瞬間──地面が、世界がぐにゃりと覚束なくなって、身体が支えきれず揺らぐ。
「大丈夫かよ、おい?」
「──なんでもないわ。ちょっと、疲れてるだけよ」
 そうだ。ほんのちょっと、疲れているだけ。
 視線を感じ見返すと、巴マミからの、いぶかしむような目線がこちらへと向いていた。
 気にすることなんてない。
 なにも、あなたたちは知らない。知る必要なんて、ないのだから。
 だって、「あの子」のことを憶えているのは私だけ。背負うのも、抱えるのも。私ひとりでいい。
 こうやって、少しだけ疲れたりもするけれど。
 どれだけ走っても、どれだけ追いかけても。
 見えないどころか影すら次第に消えようとしていく、彼女のこと。
 鹿目、まどか。彼女のことを。思い続け、引き止め続けている限りはほむらには、歩みを止めることなんて、許されないのだから。

 いつかを、信じ続けているから。
 
 
 
 魔法少女まどか☆マギカ 〜everyman,everywhere〜
 
 第二話 あなたには、聞こえますか?

 
 
 
「ったく。あんなヘロヘロ、戦わせられるかよ」
 愛用の長刀──グレイブの刃が、奔る。
 ぼやきを呟く口許には、一本のパラソルチョコレート。
 その全てが体温に溶けきってしまうまでも、戦闘は続かない。杏子の振るう一刃、一閃がその軌道を描くごとに、彼女の周囲を囲む魔獣たちは結晶体へと姿を変えていく。
 
「てめーらが一体なんなのか、こちとら生憎知らねーけどさぁっ!」
 
 四方から、飛びかかる魔獣。杏子は動揺も、たじろぎもせず動きも流麗なままに、先端へと刃を頂く長い棍の得物を頭上へと掲げ、回転させる。
 
「おらああああぁっっ!」
 一本であった長刀が複数の節に分かれ、曲線を描き。回転によって竜巻と化す。
 変幻自在のそれは、まさに刃の暴風雨。
「ちっとは考えて動いてるみたいだけどな」
 無数、切り裂かれていく魔獣たち。しかし中には、安全圏ともいうべきその台風の目、中心を狙い討つべく天高く舞い上がり、降下による攻撃へと移らんとするものもいて。
 なるほど、一直線。その爪の先はたしかに、刃の嵐の中心部であった場所を貫いた。
 穿ったそこに、もう杏子は残ってはいないけれど。
 
 スピード、ではない。
 
 時間操作なんて大それたものでもない。
 
「こちとら、フルに能力、使えるようになってンだよォっ!」
 中心に降り立った魔獣を、その周囲の同類ごと「刈り取る」。
 横薙ぎ一閃。彼らの背後より──多節棍となったグレイブが、ひと振りによって、薙ぎ払う。
「……ホンとに、いつのまにかだったんだけど、な」
 散らばり、降り注ぐグリーフシードの粒が織り成すシャワーの中、振り切った姿勢を戻すより先、ぽつりと杏子は言った。
 言って、得物を下ろして。自らの掌を見つめる。
 ……失ったはずの、力だった。
 それは、魔法少女として欲し、そしてはじめて得た力だ。……幻惑。人の感覚を、あるいは人でなくともその認識を「誤魔化す」力。
 
「なんでだろうな、……さやか」
 
 お前と、出会うまで。お前がいなくなってしまうまでは確かに、失っていたはずなのに。
「あたしは、あたしのためにこの力、使うから」
 そう。誰のためでも、誰のせいでもない。
 杏子自身がこうしたいと、思うこと。杏子自身のこうすべきだと信じることのために、取り戻したこの力を使う。
 
「あたしはなんにも変わってない。そうだろ? さやか」
 

 
「ただいまー!」
 
 帰ってくるなり、つんつんした、短い二つ結びの頭がそう元気よく声を上げた。
「おー、おかえり。……って、なんだ。マミも一緒か」
 漫画雑誌をめくっていた手を止めて、座椅子越しに玄関を振り返る。
 家主とともに靴を脱いでいるのは、まだ杏子やマミの背丈の半分ほどしかない、幼い少女──ゆま。千歳、ゆま。
「シスターの言うこと、ちゃんと聞いてたか?」
「もちろんだよぉ。ゆま、いい子だねーって。何回も言われたもん」
 この幼い少女を杏子が魔獣の手から救ったのは、マミとの同居をはじめたばかりの頃だった。
 母親とともに襲われて。──残念ながら、母親は救えなくて。
 
 結果、杏子が引き取って暮らしている。マミも、それを了承していた。
「すぐそこまで、送ってきてくれていたのよ。……いい人ね、さすが聖職者というか」
「ふうん」
 その、ゆまを救った場所。一体なんの因果だろうか、そこはかつて、杏子の住んでいた家。教会の、その敷地内であり。
 それゆえ、知った。父に代わる新しい担当者がそこに赴任してきていたことを。
 変身を解き、ゆまを連れて戻ろうとしていた杏子を、その女性が見つけ声をかけたのだ。
「あんな小汚いとこに好き好んで来るなんてなァ。物好きもいたもんだって、思ったもんだけど」
「そういうこと、言わないの」
 修道服に身を包んだその女性は、前任者とその家族に起こったことを知っていて、杏子のこともまた知っていた。
 教会を孤児院とすること、その理想を語って。杏子にも来ないかと、誘ってくれた。……それは大丈夫だからと、断ったのだけれど。
「にしても、二泊三日の遠足旅行か。あいかわらず金持ってんなー、あの修道会」
 形式上、ゆまの身柄の引き受け先はその教会となっている。マミとも相談して、それがいいと決めた。だから時折こうやって、行事に呼ばれるたびにゆまは出かけていく。あちらでももう何人か友だちも、できたようだ。
「あ、そーそー! 新しいお友だちね、遠足に来てたんだよ」
「ふーん。チビっ子か?」
 テーブル上の煎餅に手を伸ばす。だーめ。ひょいと器ごと持ち上げて、マミが没収していく。
「何すんだよ」
「もうお夕飯なんだから。お菓子はおしまい」
「いーじゃん、あと一枚くらい」
「いけません」
 杏子が口を尖らせても、マミは譲らない。そのままキッチンへと持って行ってしまう。
「歳はうーんと、キョーコと同じくらいかなぁ?」
「あたしと?」
 恨めし気に、杏子はマミを睨む。あちらは杏子の視線などどこ吹く風、さっさとエプロンをしめて料理にとりかかろうとしている。
 パスタに、オリーブに、エビ、魚、貝。イタリアンか。
「どんなやつ?」
「えっとね」
 読書に、漫画に戻ろうとした。料理が出来上がるまでに読み終えてしまえると思った。
 その態勢のまま、考え込んでいるゆまの応えを待つ。正直、どんなやつだって別に杏子には関係のないことだけれど。
 
「なんだか、ほむらおねーちゃんみたいな人だったよ」
 

 
 ここにも、魔法少女がいる。
 ──天高い鉄塔の上。見下ろしながら、ほむらは安堵するような、けれどこうあるべきではないと思うような、そんな複雑な想いに息を吐く。
「しかしキミは本当に熱心だね、ほむら」
キュウべえ……いたの」
 というより、常にいる、というべきか。奴らは……いや、もう敵対しているわけでもないのだから、彼ら、か。個々の生物という概念から彼らは、かけ離れた存在なのだから。
「なあに? 心配でもしてくれてるのかしら? あなたたちにしては、らしくないわね」
「別にそうではないけれど。ただ、きみたち三人が組み上げた見滝原町の魔獣狩りのローテーション制度は実に効率がいいからね。アレが崩れるような状況は避けてほしいというのが正直なところだよ」
「そんなことだろうとは思ったわ」
 言葉を交わしながら、魔法少女たちの戦いを見る。
 見滝原から、ひと駅、ふた駅離れた隣町。
 白と黒、ふたりの魔法少女がペアとなって、魔獣たちと戦っている。
 
「キミをそうさせるのは、例の「まどか」かい?」
 
 見たところ、二人組の魔法少女たちに苦戦する様子はない。前衛と後衛でうまく連携がとれている。魔獣たちの数も、さほどではないようだった。
 手にしていた弓を下ろし、ほむらは肩にかかった黒髪を払う。
「他に、ありえないわ」
 そして静かに目を閉じる。
 
 もはやそれは、鮮明には映し出されない記憶。
 とても緩やかに、けれどたしかに少しずつ、脳裏に描く『彼女』にはノイズが混じっていく。
 忘れない。……絶対に、忘れない。
 
 彼女を。彼女の起こしてくれた奇跡を、忘れたくないし、忘れてはならない。覚えているのがこの世でたとえ、自分だけであったとしても。
 
「あの子が、絶望を取り払ってくれたのだから。あとは私が──守らなくてはならないの」
 マミも。杏子も。他の魔法少女たちも。
 やれることを、どこまでも。あの子が希望を与え続けたいと願った、世界であり皆だから。
「私が、守り続ける」
 まどかの、望んだ世界を。
 自分自身を失い、概念となってまで彼女が皆にそうあってほしいと、求めたこの理を誰からも、失わせたりはしない。
「──っ」
 くらりと、一瞬視界が歪む。そして、軽い頭痛。
 疲労か。魔法少女としての力の使い過ぎだろうか。
 こまめに回復し穢れを溜め込まぬよう気をつけてはいるから、そうではないとは思う。
 あるいは、キュウべえたちやマミたち、ほむら自身気付かぬところでどこか、かつての『魔法少女』と現在とではまだ何か異なっているのだろうか?
 ……なんにせよ。
「私はまだ、『円環の理』とやらに……いいえ。まどかのところに逝くわけには、いかない」
 待っていてくれる彼女に、いつか胸を張って会えるよう。そのためにも、まだ。
 
「──『まどか』」
「言ったでしょう? この世界そのものを変えた……私の友だち」
 
 かけがえのない、一番の。誰より大切な、友だち。
 今更でしょう? あなたたちのその性質からして忘れたわけではないでしょうに、と。聞こえてきた呟きに応じるように、ほむらはキュウべえのほうを流し見る。
 
「何を言ってるんだい? ほむら。今のはボクではないよ」
「……え?」
 キュウべえじゃない? でも今、たしかにまどかの名を呟く声が──……、
「『まどか』。それが、『円環の理』の中にいる方の名前なのですか?」
「!?」
 違う。たしかに、キュウべえじゃない。
 再び聞こえた、今度ははっきりと違いの分かる声に、ほむらは振り返る。
 
「今。……今、なんて」
 
 そこでは、「喰われていた」。
 いつの間に忍び寄ったのか、今まさにほむらの不意を襲わんとしていたであろう、複数体の魔獣が。
 その上半身を、食いちぎられ絶命していた。
 
「あなたには、聞こえますか」
 
 大型の、犬ほどはあろうかという──潰れた蟾蜍のような生き物によって。
「聞こえているなら、教えてください」
 食いちぎった魔獣たちを呑み込んだ生物は、のそのそと地面を四つ足に這っていく。その先に、少女がいる。
 
 ──魔法少女。ほむらは即座、そう認識する。
 
 琥珀色の衣装に身を包んだその頬に、ソウルジェムが光り輝いている。そしてその肩に、するすると件の生物が登っていく。
「──キミは」
 キュウべえの呟きには、軽い驚きの色が含まれていた。
 大型犬ほどあった生物の大きさはいつしか、既にキュウべえと比べてもなお劣るほどに、縮んでいる。
「あなたは、誰」
 ようやく、ほむらはそう声を絞り出した。
 琥珀色の魔法少女は細いその双眸をじっと向けて、やがて問いには答えぬまま、静かに言う。
「彼女が、なにを願っているのか。なにを、恐れているのか。あなたには──わかっていますか」
 言った彼女の肩の生物が、大きく口を開く。
 その、咢の内側をほむらは見る。
 
 ──見たからには、眼を見開かずにはおれようか。
 
 なぜならば、その内側には。
 かつてほむらの左腕に存在していたモノがたしかに、覗いていたのだから。
 鋼の蝶番も、歯車も。そして、左右に煌めくふたつの宝石も。なにもかもが、同じだった。
 泥色に脈打つ肉の中に埋まったそれは、見間違えようはずもなく、かつてほむらの手にしていた力。
 自ら望み、自ら進んだ円環へ。行くことを可能にしたもの。彼女を繰り返す刻の牢獄へと、いざなったものに相違なかったのだ。
 
(つづく)
 
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 出てきた新キャラの連れてる生き物はこいつを想像してください