メガミ買ってきました

読みました
 
もう色々燃えシュチュエーションが妄想されすぎて困る。
てかストライカーズの意味がなんとなくわかってきた感じ。
今回のフェイトと学長さんの話から推測するに。
 
んー、ウルトラマン超闘士激伝のエンぺラ星人編を思い浮かべてしまった。
 
さてさて、she&me加筆版、第十二話ですよー。
いや1日ヒマだと筆が進む進む。スレに投下したものの二十五話、二十六話にあたります。
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第12話 ずっと、そばにいるから
 
 
よく考えて。そして、なのはのことを、お願い。
本来ならフェイトのことを責めて当然なのに、美由希は最後にそれだけ言い残すと部屋から出て行った。
 
──気持ち、次第。
 
美由希の言葉がフェイトの心に投げかけた波紋は大きかった。
高町家の事情。美由希の事情。
それらは、深く受け止め、考えるべきことだと思う。
 
けれど。
 
(それでも、私は)
 
人間であって、人間じゃない。
 
似た境遇ではあっても、美由希とは根本が違う。
自分は世界から祝福されることなく生まれてきた存在なのだから。
このあたたかな人達のもとで一緒に過ごしたくないわけがないではないか。
それでもやっぱり自分は、いるべきではない、ここにいてはいけないのではないかと思う。
 
この背反な二つの感情は、共に今のフェイトの偽らざる気持ちだった。
 
(私の……気持ちは……)
 
天秤は、傾かない。
自分はいったい、どうすればいいのだろう。
どちらの気持ちに従うのが、正しいのだろうか。
 
彼女は、やはり答えを出せずにいた。
 
*   *   *
 
そんなフェイトを、すずかは静かに見つめていて。
 
「フェイトちゃん」
「すずか……?」
 
膝の上に揃えた拳を、ぎゅっ、と握り。
何かを決意したような目で、改めてフェイトを見る。
 
───きっとフェイトちゃん、まだ悩んでる。フェイトちゃん、すごくやさしくて、繊細な子だから。
 
だから、今フェイトの背中を押してあげることができるのは、自分だけ。
美由希が出て行ったのは、あとのことをすずかとフェイト自身に託したから。
 
今、ここにいるのは自分だけなのだから。
 
「私も、フェイトちゃんに聞いて欲しいことがあるの」
 
美由希が、同じ「立場」からフェイトへと想いを語ったように。
すずかもまた、フェイトと同じ「存在」として、聞かせたいことがあった。
少しでも彼女の助けになるように。
 
同じ、存在。
 
同じ、人にあって人ならざる、異端の者として。
 
*   *   *
 
どれほど、その陰惨な光景が続いていただろうか。
 
鎖が外されると同時に、少女はゆっくりと床に崩れ落ちる。
意識などとっくに無く、白いバリアジャケットはボロ布同然に裂けきっていた。
 
彼女を鞭打っていた黒衣の魔女は、黒光りするそれを元の杖へと戻し、
無惨に石床へと転がる少女に目もくれず踵を返す。
 
「リニス。手当てをしておきなさい。死なない程度に、でいいわ」
「……はっ」
 
────およそ一時間、か。
 
ぴくりともうごかない少女の体を抱え起こしながら、リニスは改めて時間を確認していた。
 
いたって、冷静に。
 
そう、約一時間。プレシアは虜囚となった少女へと鞭を振るい続けていたのである。
少女が気を失っても、休むことなく、怨嗟の声と共に。
 
その苛烈さは、少女の全身をくまなく赤く、ミミズ腫れに染めている鞭の傷が物語っていた。
 
────いくら敵とはいえ、これではあまりにも。
 
治癒魔法のためになのはの服を脱がせながら、思わず眉をしかめるリニス。
こんな幼い少女の受ける傷とは、到底思えない。服も脱がすと言うよりは引き剥がすと言ったほうが近い。
 
わずかながら、不憫に思う。けれどしかし、それ以上の感傷は抱かない。
あくまでこの子は、敵なのだ。
 
「……ト……ちゃ……」
「!!」
 
服を脱がせ、治癒魔法の準備をはじめたそのとき、微かになのはの唇が動く。
意識を取り戻したわけではない。無意識のうちに少女の口から出た、友の名前を呼ぶ声だった。
 
フェイトちゃん。
 
少女の唇は、ほとんど掠れた音でそう発音していた。
常人より優れた聴覚を持つリニスですらやっと聞き取れるほどか弱く、
たった一度そう動いただけでしかない、弱々しいものでしかなかったけれど。
リニスは少女の唇の動き、その意味を即座に理解していた。
 
助けを求めて、でもない。
単なるうわ言、と断じることもできない。
この子はおそらく、自身がこのような目にあっているにもかかわらず、
無意識下で友のことを心配している。
 
(フェイト……フェイト・テスタロッサのことか)
 
自分と敵対した、捕獲対象の少女。それがフェイトだ。
 
あちらはリニスのことを何か知っていたようだが、自分にとって彼女は単なる標的に過ぎない。
それ以上のものなど何もない。ただそれだけの関係。そのつもりだった。
 
「フェイト、ですか」
 
だが不思議と、その名前の響きはリニスにとってやさしく、懐かしく感じられる。
穏やかで安らぎに満ちた、奇妙な既視感だった。それはまるで、今手の中にある治癒魔法の光のように暖かい。
 
(この子は何か……彼女のことを、知っているのでしょうか)
 
プレシアが、あの少女を欲する理由を。
 
だったら、聞いてみたい。
自分にとってフェイトとは何なのか。
フェイトと自分との間に一体、何があったのかを。
 
*   *   *
 
一方、高町家のリビングにおいて。
 <<アルフ、良かったの?フェイトとの精神リンク切っちゃって>>
 
美由希、すずかと入れ替わる形で密かに部屋を出たユーノは、共にフェイトの元を後にしたアルフを気遣っていた。
 <<なにも、あんたが気にしなくても……>><<いや、だってさ>><<いいんだよ。これはきっと、あの三人だけの話だから>>
 
ユーノが言うとおり、アルフは一時的にではあるが、主であるフェイトとの心の繋がり───精神リンクを切っていた。
アルフとフェイトの絆の強さを知るユーノだからこそ、そのことを心配するのだろう。
 
使い魔と主の繋がりは、深い。
それこそ、赤の他人であるユーノが、知識や友人として認識している以上に、はるかに。
平静を装っていても、フェイトのことが心配でないはずがない。
 <<そう思ったからこそユーノ、あんたも部屋を出たんだろ?>><<……ん、まぁ>><<あたしもそれとおんなじだよ。それに、盗み聞きってのはあんまり気分のいいもんじゃないし>>
 
精神リンクを繋げたままでは、フェイトの見聞きしたことはすべてダイレクトにアルフの感覚にも認識されてしまう。
学校に行っている間などアルフが聞いても興味のなさそうな時間はフェイトのほうから切っていることもあったが、
アルフのほうから自発的に切るのははじめてだった。
 <<あの二人もフェイト以外に聞いて欲しくない話みたいだったし、それをあたしが盗み聞きするのは良くないよ>><<アルフ……>>
  
子犬姿のアルフが、ちらと視線を移す。
その先には、桃子とリンディの二人に慰められながらしゃくりあげるアリサの姿があった。
  
友達の辛い過去を知って。
力になれる人がいるのに。
自分はその力にはなれなくて、どうすればいいかわからない。
それがただ、悔しくて、悔しくて。
 
彼女は、泣いているのだ。
 
そうやってアリサがフェイトのために悔し涙を流してくれていることが、
アルフにはとても済まなく、また有難いことのように思えた。
 
*   *   *
 
「夜の、一族……?」
「うん。それが、月村家……私と、忍お姉ちゃんの一族の、本当の名前……」
 
首を傾げながら恐る恐る聞き返したフェイトに、
すずかはゆっくりとした口調で頷き返した。
 
夜の一族。
 
それは忌まわしき力を持った、人非人たる一族。
 
その一族は、人であって人にあらず。
はるか遠い昔から、その人外といえるほどの強大な力をもって、人々から恐れられていたという。
 
「いつ、なぜ。どうやってその力が私たちの一族に備わったのかはわからない。
 でも確かに、その力は……私の中にも眠ってる。人とは到底呼べない、他の人たちとは違う力が」
「すずか……」
 
眉根を寄せるフェイトに対し、どこかすずかの語り口は淡々としていた。
 
「だから……ね?私も、普通の人間とは違うの」
「っ……」
 
そのことを知った、最初の頃は辛かった。
自分の中にそんな力があるのが、怖くて。自分だけがみんなと違って。
いつか自分の存在が誰かを傷つけてしまうんじゃないか。
そうなれば、皆から仲間はずれにされてしまうんじゃないか。想像に、酷く怯えていた。
 
姉の忍が何度説明しようと、他の人間と違うということが、どうしようもなく怖かった。
自然と人との関わりを避けるようになり、あまり自分の意思を押し出すことができない、臆病な性格になっていった。
 
「少なくとも、あの日までは」
 
あの日なのはやアリサと会うまでは、そうだった。
 
アリサに、いじめられて。
彼女となのはが喧嘩して。
二人の喧嘩を止めに入って。
 
彼女達との絆が生まれた、その日までは。
 
二人がいてくれたから、すずかは変わることができた。
だから少しはフェイトの気持ちがわかるつもりだ。
 
「そんな……ことが」
「フェイトちゃんはもっと、頼っていいと思う」
 
フェイトをすずかは、まっすぐに見据える。
二人は言わば同じ存在。人であって人ではない。普通の人間とは違う。
その過酷な運命を、その小さな体に受けている。
 
だからフェイトは、もっと頼るべきだ。一人で抱え込むのは、もうおしまいにして。
すずかも姉の忍も、全てを受け入れてくれる、めいっぱい頼ることのできる人ができたおかげで変われたから。
 
忍にとっての恭也。すずかにとっての二人のように。
みんなにもっと、頼って欲しい。
 
「……ううん。普通かどうかなんて、関係ないよ。もっと私達を頼って欲しい。
 魔法のことじゃ役に立てなくても、話くらいは聞けるから。分け合うことくらいはできるから」
「……すず、か」
「そんなに、抱え込まないで。なのはちゃんだけじゃない。私もアリサちゃんも。
 クロノさんやリンディさんだって。フェイトちゃんがまた笑ってくれるのを待ってるんだよ」
 
楽しいことも、悲しいことも分かち合って。
フェイトが笑顔を取り戻すのを皆、待っている。
 
そしてすずかは、そっと立ち上がり、やさしくフェイトを抱きしめる。
 
「す……?」
「私は、ここにいるよ。みんなそばにいる。なのはちゃんもきっと戻ってくる。フェイトちゃんのそばに。
 みんなフェイトちゃんが必要で、大切で。ずっとずっと、いっしょにいたいと思ってるんだよ」
 
すずかの感触は、すごく柔らかくて。
まるで日の光を浴びているように暖かかった。
 
抱きしめられた心が、安らいでいく。
 
「フェイトちゃんだから」
「……っう……」
 
気がつけば、視界が涙でぼやけていた。
すずかの顔も、ろくにみえないほどに。
少しずつ、心が溶け出していく。
けれどこれは先程までの後悔の涙じゃない。
 
「みんな、フェイトちゃんっていう存在が大好きだから」
 
その身が人外のモノであろうと、構わない。
 
ただ、「フェイト」という存在だから皆、フェイトのことを好きになってくれた。
 
だから、そばにいたいと、失いたくないと思ってくれた。
 
すずかのその言葉が、心の中のいろんなものを溶かしていって。
そうやって溶けていった氷から生まれた、すごく暖かな涙。
うれし涙の一言で片付けられるものとは、ちょっと違う。
 
「なのは、は……ッ許し、て……くれ、るかな……っ?」
 
事件の原因となった、私のことを。
彼女を傷つけてしまった、罪深い私を。
 
胸が、色々な思いでこらえきれないほど詰まって。
嗚咽をこらえながら、とぎれとぎれに言うのが精一杯だった。
 
「そんなの、フェイトちゃんが一番よく知ってるはずだよ?」
「……ッ……ん……うん……」
「なのはちゃんはきっと、フェイトちゃんを待ってるよ。フェイトちゃんがきてくれるのを」
「……ッ……うん、うん……!!」
 
もう、止まらなかった。
人の体にすがって声をあげて泣くなんて、いつ以来だろう。
フェイトを抱くすずかも、少し泣いていた。
 
「……たし、私……ここに居たい……みんなといっしょに居たい!!なのはを、助けたい……!!!」
 
フェイトを信じて待つ友がいる。
フェイトのために泣いてくれる友がいる。
そして、フェイトが泣くのを、抱きしめてくれる友がいる。
 
それが、どうしようもないほどに嬉しくて。
涙が、声が止まらない。
またすずかも止めようとはしなかった。
 
「いいよ……フェイトちゃん……大丈夫。みんな……いっしょだから……」
 
嗚咽が、まともな言葉にならない。
それでも、やさしい抱擁がフェイトを受け止めてくれる。
 
全てを洗い流すまで。剥き出しの心で、フェイトは赤子のように泣き続けた。