明後日ですね。

 
てわけで当日の販売物についてなど。
 
スペースはC−08、サークル名R−640となっています。
販売物は一種類orz、the lost encyclopediaの第二巻となっています。
第一巻の再販も考えたんですが、予算の都合上断念。ほしいという方が多ければ都合がつき次第印刷所のほうに頼んで刷ってもらいますが、今回は見送り。
表紙は桃桜様、挿絵はいつく様にお願いしました。
 
 
で、突発的に書いたss投下。
リリカルハート前は多分今日が最後の更新になると思うので。
拍手レスはリリカルハート後に。
stsのメインキャラズひとりも出てないあたり珍しいっちゃ珍しいかも。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
薄々、そんな予感はしていたのだ。もちろん根拠なんてない、いわゆる女の勘、虫の報せといった程度の類のものではあるのだけれど。
 
「……はぁ」
 
休講、か。
小雨のしとしとと降りしきる中、わざわざ大学まで出てきた自分が、少々間抜けだ。
周囲の学生達の喧騒の中、講義に関する情報が張り出された掲示板をすずかはぼんやりと、見上げていた。
今日の講義はこの1コマだけ。一日の予定が丸まる空いてしまったことになる。翠屋でのバイトも夕方からだし、手持ち無沙汰だ。アリサや他の友人達も、今は授業中のはず。
はて、どうしたものだろうか。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers
 
−君が思い出になる前に−
 
 
大学生というものは分類上では一応忙しい学生という身分である。……が、基本的には暇な人間でもある。
無論試験やプレゼン、提出レポートの追い込みの時期などはこの限りではないが、さしあたって中途半端な今の時期、授業に出てノートをとる以外、すずかに課せられた課題は特にはない。
そしてその最低限の作業も今日は、休講という形で消滅している。ともなれば、用のない大学にいる必要性もない。サークルの部室のほうに顔を出そうかとも思ったが、この時間では誰もいないだろう。
 
故に、すずかは一人雨音の中帰路につく。
 
正門を出たところのパン屋から、雨の匂いに混じって香ばしい香りが漂ってくる。
水色の雨傘の下で一足を踏み出すごとに、遠ざかる門の向こうのざわついた人々の声が小さくなっていく。
これから明確になにをしよう、あれをしようというビジョンはすずかにはなかった。
家に帰ってぼうっと何するでもなくファリンと過ごす。あてどもなく、ちょっとその辺をぶらついてみる。
いくつかの案を頭に浮かべてみるもののどれも陳腐で日常的にやっていることで、今更これだ、と思えるようなものはなかった。
曖昧に行動の行く末を決めかねながら、信号待ちの横断歩道に立つ。
濡れた地面とタイヤとの間に軽い飛沫を跳ねさせて、車が前を横切っていく。
 
「すずか?」
 
そして、声をかけられた。
随分しばらくぶりに聞く、ある意味ではいつまで経っても聞きなれぬ声に。
 
「……え?」
 
色素の薄いブラウンの長髪が、雨に濡れていた。
小奇麗な格好も肩の上が水滴に少々湿っていた。
傘もささず、次第に濡れ鼠になりつつありながら、眼鏡の青年が、隣に立っていた。
 
*   *   *
 
親友からの返事は、程なく返ってきた。
 
──『ごめん、抜けらんない。でも絶対、あたしが行くまでつかまえときなさい』
 
アリサからの返事に任せて、とだけ打ち返し、すずかは携帯を閉じた。
連れ立って入った喫茶店の、その向かい側の席には青年が一人。
今はハンカチでこまめに服についた雨の雫を拭っている。
 
「びっくりした。ユーノ君がこっちに来てるなんて」
「ああ、うん。ちょっと急な依頼で、今朝ね」
 
はやてからの、頼まれごとでね。
 
……ユーノ・スクライア。すずかの古い友人たる彼は、乱れた髪を直しながら、簡単に説明していく。
 
ロストロギアの出現が、管理外世界になにか影響を与えていないかどうか調べる必要があって、と。
魔法の存在は知っていても深く関わっているわけではないすずかには、漠然としたイメージしかつかめなくはあるが。
少なくとも仕事でこちらの世界までやってきたのだということだけは理解出来た。
 
「この間、こっちにみんなが戻ってきてたのと関係あるの?」
「ま、そんなとこ。といっても発動もしてない状態で抑えられたし、全く異常なし」
 
十年前の二件に続いて、三件目だからね。これだけ短期間に密集していれば、無駄足であっても調べないわけにもいかない。
彼が軽く笑ってみせたところで、注文していた紅茶とコーヒーが、それぞれ運ばれてくる。
十年前の、事件。それはつまり、なのはが魔法と出会い、そしてフェイトと友情を結ぶに至ったという一件と。
すずかがはやてと出会い、アリサとともに彼女たちの秘密を知ったあの「闇の書事件」のこと。
 
「事件のこと知ってるってことは、こっちにみんなが来たときに会ったんだ?」
「うん。なのはちゃんもフェイトちゃんも。もちろんはやてちゃんや守護騎士の皆さんにも、ね。あ、そうそう。なのはちゃんの生徒の子達にも会ったよ」
 
──もう、十年も前になるんだ。
 
気がつけば過ぎ去っていたようなその時間に、すずかは奇妙な気分を覚える。
いつの間に、そんなに経っていたのだろうか。
 
「ユーノくんは?なのはちゃんたちと最近会ってる?」
「ついこの間に。仕事先の警備任務に、なのは達の部隊がきてたんだ」
 
湯気の立つコーヒーを、彼は口に運ぶ。つられてカップに口をつけ、砂糖もミルクも入れていなかったことに味で気付かされるすずか。
 
そう。あの幼い日々は、もう返ってはこない。
なのはとすずかとアリサ、三人の間にちょっとした諍いから生まれた関係は、フェイトが加わり、はやてが加わって。
ずっとそのまま、一緒にいられるものだと思っていた。大きくなっても、大人になっても五人、変わることなく。
それぞれの家族や大切な人たちとともに同じ道を歩んでいけるものだとばかり。
 
「そっか」
 
だが、現実はそのようにはいかない。
 
最初に道が分かれたのは、高校進学のときだった。
アリサと共に世の一般的な中学生同様進学を選んだすずかに対し、残る三人は告げた。
 
進学はしない、と。遠い世界での、自分達の仕事に専念すると。
 
止められるわけもなかった。はじめにはやてが家族と共に海鳴を去り、ほどなくしてフェイトが、なのはが続くようにしてこの世界から身を引いていった。
 
「……ねえ、すずか。ひとつ聞いてもいいかな」
「ん?」
 
けっして絆が消えてしまったわけではない。けれど物理的な距離は余りにも遠く。
残された二人の周囲には、ぽっかりと大きな空洞が三人分、できてしまったかのようだった。
 
不意に浮かんだ回想と半分ずつ意識を使いながら、すずかは青年へと頷き返す。
 
「僕を……恨んでないかい?」
 
そして、思考が中断される。彼は真剣な表情で、不意にすずかに問うた。
 
「なのはに僕が魔法を教えなければ、なのはは元いたこの世界を離れることはなかったはずだ。はやても、フェイトも。出会えなかったかもしれないけど、出会わなければ別れる必要もなかったんだし」
 
だがしかし、それはいつか訊かれるのではないかと想像しなかったことではなかった。
故に答えは決まっている。
言葉を使うまでもなかった。すずかは首を横に振る。
 
「そんなこと、ないよ」
「すずか」
 
なのは達がいなくなったとしても、残った二人の道もひとつのままあるわけがなかった。
工学を志した自分と、生物学を志したアリサ。同じ大学に通いながらも二人、違う道を歩み続けている。
 
今が永遠のように思えるのは結局、子供の幻想に過ぎないのだ。幻は、いつか消える。
人は子供のままではいられない。人と人とが離れていくのは、それはつまり己の道をいっただけのこと。
道は他でもない、その人本人が作り、選んでいく。ただそれだけのことなのだ。
 
「ユーノくんのおかげで、なのはちゃんとフェイトちゃんが出会えた。二人のおかげではやてちゃんの病気は治った。だから私もアリサちゃんも、三人とずっと親友でいることができてるんじゃない」
 
別れは、互いが選んだ道の結果。他人に責任を求める類のものではない。
 
「そりゃ、時々は寂しいと思うこともあるよ。けど」
 
その寂しさが生まれるのはきっと、大切な友人たちと離れているからではない。
もちろんその要素も少しくらいはあるかもしれない。
けれどその中にある一番大きなもの、それは──……。
 
「友達だってことに、変わりはないから。全く会えなくなったわけじゃないし、忘れちゃったわけでもない」
 
それは、思い出がいつまでも変わらないから。
変化し続ける己に比べてあまりにも綺麗に保存されすぎていて、遠ざかっていくこの手にはもう掴めないことがわかっているから。
会えない相手は、友ではなく過去。足を踏み出すたびに、それはよりいっそうの輝きを増していく。
届かないが故の羨望が与える、不可視の煌びやかさに彩られていくのだ。
だから寂しさは、空しさでもある。
道の向こうにおいてきたかつての自分と、その思い出に、後ろ髪を引かれながら振り向き伸ばす手が空を切り続けることに対する空しさ。
もう取りに戻ることのできないそれらの、なんと憧憬をそそることだろうか。
 
「もちろんユーノ君だってそうだよ。アリサちゃんにも私にも、大切な友達」
「大切なフェレット、の間違いじゃなくて?」
「ふふっ、どうだろうね」
 
いつしかレースのカーテンの窓から、太陽の光が射し込んでいた。
どんよりと暗かった空は水色に晴れ渡り、窓枠を水滴が滴り、ガラス越しにも雨の残り香を漂わせてくる。
 
「いらっしゃいませ」
 
店員の反応も、ドアのベルが鳴って開かれたのも、すずかの携帯が軽く二度だけ震えたのも同時。
一瞬遅れて、親友の甲高い声が耳に届く。
 
「あ、連れがいますから」
 
こちらを見つけた友は店員の案内を断り、軽く手を上げて挨拶して見せた。
予想通り、振り向いた青年の顔に少し驚いている。
 
「おー、ほんとにユーノだ。ひさしぶりー」
「やあ、アリサ」
 
──そうだ、思い出に届かないなら、目の前に作っていけばいい。
 
「どうしたのよ、今日は。てゆーか、なのはは一緒じゃないの?」
「いやー……ん?すずか、どうかした?」
 
輝く過去の思い出たちに、負けないように。
 
「ううん。内緒」
「「?」」
 
ひみつ、と人差し指を立てたすずかの中ではもう、今日すべきことは決まっていた。
 
(……帰ったらみんなに、メールしよう)
 
遠く次元を隔てた先に暮らす、大切な友人たちに。
そのときまではアリサにも、秘密だ。みんなに等しく、同時に伝えよう。
 
どんな内容かは、決まっている。
休暇のとれそうな日と、行き先のリクエストと。誘いたい人たちの規模を尋ねて。
みんなが揃って、出かけられるように。新しい思い出を、作れるように。
 
この一回だけでなく、これから先も、何度だって。
 
−end−
 
 
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